家庭教師ヒットマンREBORN!~守護する者~(仮題) 作:寺桜
第9話
優奈の意識が戻ると、そこは消毒臭い部屋だった。もしや自分はエストラーネオの残党、もしくは他の組織に捕まったのかと恐怖した。そしてもはや癖になってしまった眼を閉じたままの不自然でない程度に状況確認を行う。
体は清潔なベットに寝かされており、拘束はされていない。火傷や他の傷も治療されている。腕に一本点滴で何かしらの液体を注射されているが、体に大した異変は無い事からおそらく毒ではないだろう。少し離れた場所に人の気配を感じるが優奈が意識を取り戻した事に気がついた様子は無い。
そこまで考えた後、優奈は意識を失う前の事を思い出した。そうだ、自分は最後にボンゴレを見てやろうと本部の近くにまで行ったのだ。そこで力尽き、男と少しだけ話した後は覚えていない。死んだと思っていたが、今は治療を受けている。たぶん男が優奈を拾ったのだろう。そんな男に見えなかっただけに意外過ぎて驚きだ。
とりあえず起きてみる事にした。治療されているのだし、いきなり殺される事は無いだろう。眼を開け、ゆっくりと体を起こした。その際にあまり音がしなかったのは訓練された結果なのかもしれない。
そこは治療室の様だった。手術するために必要な物は置いていないが、簡単な医療行為ぐらいはできるだけの設備だった。少し離れた場所にはこちらに背を向ける形で机で書類を書いている白衣姿の女の人がいた。優奈は先ほどからベットの上でちょこちょこ動いているのだが、気付かない所をみると非戦闘員なのだろう。仮に気付いて無視しているのならば性格が悪いし医者に向いていない。どうやら本当に気付いて無い様で、こちらから声をかける事にした。
「すみません、ここは何処ですか?」
「あら~、眼が覚めたのぉ。ここはね~、ボンゴレ・ファミリー医療部隊、ヴァリアー担当6A室よぉ。なんでここに居るかは分かってるかしらぁ?
私ってばすっごくビックリしたの~。だってだってザンザス様が今にも死にそうな子供を一人拾ってきて、どうにかしろって私に押し付けて来たんだもの~。あ、ザンザス様ってあなたをここへ運んできた方の事ねぇ。
でも良かったわぁ、眼が覚めて。あのまま死んでいたら私の首が物理的に無くなる所だったのよ。運ばれてきた時なんてもう息が止まっていたから、どうやって誤魔化そうかと思ったわぁ。」
現状を説明してくれながらそのゆったりとした口調とは裏腹に、テキパキと女医は優奈の診察をした。
「うんうん、微熱はあるけれど大丈夫そうね~。他に異常がある所があれば、教えてくれないかしらぁ。」
「大丈夫。火傷が痛むけれど、そのうち治るのでしょう?倒れるまでの記憶ははっきりしてるし、手足は少し力が弱くなったみたい。私が倒れてから何日か経ってるの?」
「まぁ、すごいわ~。あなたその歳でとてもしっかりした話し方をするのねぇ。火傷はねぇ、残念だけど痕になっちゃうのぉ。今は若いし、大人になる頃には目立たなくなっているとは思うのだけど断言はできないわ~。
それからぁ、あなたがここに運ばれてきて今日で5日目よ~。ザンザス様ったらあなたの事は極秘にしろって言うものですからぁ、わたしぃ、5日連続でここでお泊りなのぉ。嫌になっちゃうでしょう~。
あなたの目が覚めた事、ザンザス様にお伝えしてくるわねぇ。一応医師として短めの面会にするように言っておくけどぉ、聞き届けて下さるかはあの方しだいねぇ~。じゃあ、大人しくしてるのよ~。」
どうやら優奈の事は極秘扱いになり、一部の人間以外には知らされていないようだ。しかし、その一部がどれだけの人数なのか、またどの地位の人間が知っているのかが問題だった。
しばらくすると、部屋の外から足音がしてきた。
「ザンザス様、先ほども申し上げた通り少女は目覚めたばかりなので、面会時間は30分ほどでお願いしますぅ。30分間はわたしぃ、こちらには戻ってきませんが、何かあったら呼びだししていただいて結構ですぅ。」
「う゛お゛ぉい!ボスさんいい加減にこれから何をするのか教えてくれねぇかぁああ!」
「黙れ、カス鮫。」
ドカッ!
そうして部屋へ入ってきたのは頭に瘤を作った五月蝿い銀髪の男と、優奈を拾ったザンザスという男だった。
「ガキ、今からお前にいくつか訊く、正直に答えろ。嘘をついたら殺す!」
ザンザスから放たれる威圧はすごかった。だが優奈には何故か恐ろしいとは思えなかった。優奈は殺される気がしない、自分を試していると感じた。実際に戦ったのならば優奈は確実に殺される、だがこの二人は自分が暴れでもしない限り何もするつもりがなさそうだ。嘘をついても殴られるぐらいだろう。だから笑みを浮かべて余裕をもって答えられた。
「はい、分かりました。」
「面白れぇ、この状況で笑いやがるか。」
「ボスに向かって笑うなんて、既に神経が狂ってやがるんじゃねえかぁあああ!?」
ドスッ!
ザンザスは銀髪の五月蝿さにイラついたらしく、無言で鳩尾を殴った。銀髪の意識は落ちたようだが、気絶させるくらいなら何故連れて来たのだろう。
「お前は行方不明になっている沢田優奈か?」
「はい。」
「何故ボンゴレの前で死にそうになっていた。」
「誘拐された場所(とか悪逆非道のマフィア)を潰して逃げていたけど、追撃者たちに見つかり襲撃されたから。返り打ちにはしたけど、限界だった。」
「もう一度聞いてやる。何故、ボンゴレの前で、死にそうになってやがった。」
ボンゴレを知っている事は黙っていようかと思っていたが、気付かれているようだ。ザンザスの眼が誤魔化す事を許さない。
「私が誘拐されたのはボンゴレの血が流れていたからなの。捕らわれていた場所でボンゴレについて様々な情報を教えられて育ったわ。ボンゴレの近くに行ったのは、最後くらい誘拐される原因になったボンゴレを見ておこうと思って。」
「お前はボンゴレに仇なす者か。」
「ボンゴレに対しては特に何も思っていないわ。」
「お前が言っていた、家族とはなんだ。」
「私と一緒に捕らわれていた子供。」
「お前は何故、手に炎を灯せる。」
「…、ごめんなさい。質問の意味がわからないの。」
炎、そう言えば脱出した頃、骸達が言っていた。優奈は手に炎を宿していたと。だがそれを何故ザンザスが知っているのだろう。
「嘘を言ってはないようだな。 沢田家光に会いたいか。」
…? あぁ、「家光」はお父さんの名前だ。そう言えばそんな名前だった…。
しかし何故ここでお父さんの名前が出てくるのだろう。ボンゴレの血が流れているとはいえ、お父さんは普通人の…!?そうか、お父さんは普通の人じゃなかったのだろう。つまりボンゴレに所属していて、会おうと思えば会えるのかもしれない。お父さんに会えればお母さんや綱吉に会う事も出来るかもしれない…!
なんて、なんて残酷なのだろう。
あんなに会いたいと思っていた時には会えなくて、泣いて泣いて泣き果てて、もう会う事が出来ないのならと思い新しい家族を作った。その家族のために優奈の手は血で真っ赤に汚れてしまった。汚した事を後悔はしていない。
でも、沢田の家族が知っている優奈は、真っ白で何も知らなくて、ただの小さな女の子なのだ。ここに居る、汚れて世界の闇を知り、今の家族を守るためなら何でもできる、戦闘技術を身に付けた自分ではない。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い嫌だ怖いよどうすればいいの、どうしたらいいの怖い怖い怖いよ。
ただひたすらに怖かった、恐ろしかった。どうしようもなく不安で、どうすれば良いかなんて分からなかった。もしお父さんに会って自分を覚えていなかったら、もし、お母さんに会って手を振り払われたら、もし綱吉にお前は誰だと聞かれたら、正気でいられる自信が無い。きっと狂ってしまう。それに骸達はどうなるのだ。自分で作った家族でありながら、本物が見つかったからと捨てるのか。そんな事できるはずが無い!家族は優奈が守るのだ、守らなければいけないのだ。今の家族を裏切るなんて事できなかった。
それでも、それでも沢田の家族に会いたい。お父さんに名前を呼ばれたい、お母さんに抱きしめてほしい、綱吉を抱きしめたい。
優奈はたくさん考えた。考えて考えて考えた結果、答えを出した。下唇を噛みしめて、言葉に出す事を何度も迷って、そしてザンザスに答えを言った。
「わ、私は…!」