次の日の朝。どっちつかずな曇り空は、まるで雨雲と太陽が睨めっこしているかのようだ。叶恵は折り畳み傘を振り回しながら歩いていた。
「ふんふんふん、心ってばすぐ危ないとこに突っ込んでいくんだから」
「う、ごめんって。でも叶恵が水筒パスしてくれて助かったよ」
「結果的にはね〜。まさかコードが発動するなんてビックリだよ! しばらくはウワサになっちゃうと思うよ〜?」
「やっぱりそうかな。あと、傘は危ないからちゃんと持って」
叶恵は自分が振り回していた傘をチラッと見て、鞄にしまう。
「無意識に回してた。あは」
「えぇ……」
「ま、昨日の話はこの辺でおしまい! 大事件みたいになっちゃったけど、いつまでも引っ張ってもしょうがないしね〜。心はサンドウィッチ好きー?」
「サンドウィッチ? 美味しいよね」
相変わらずの会話の急カーブである。
「ワタシの今日の朝ごはん聞いてよ! 六枚切りの食パンを半分に切ってね、そこにスクランブルエッグを挟む。ケチャップかけて。これがめっちゃ美味いんだ〜!」
「それは美味しそうだね。叶恵が作るの?」
「今日はワタシだった。だいたいパンと卵焼くだけだし、ママかワタシ先に起きた方が作ってるんだー。心は?」
「私は……」
と、心が朝食事情を話そうとした時、
「あっ……!」
と心でも叶恵でもない少女の声が聞こえる。
二人が声のした方向に振り向くと、そこにいたのは。
「あ、晴海!!」
「あ、心ちゃんと、それから叶恵さん……おはよう……!」
「晴海の家ここだったんだね!」
二人の近所にある公園の前、道路を挟んで立つ新築の一軒家。そこが晴海の家だった。
「あー南条さんだ! 心と仲良くなったの? ワタシも晴海って呼んで良い?」
「え、ええと、良いよ……」
「あ、こんなに一気に喋ったらビックリするよね! ごめんねー」
「ううん……平気だよ」
「晴海、今家から出てきたとこ?」
「ううん……ちょっと前からここにいたかな」
「えーなんで? 立ち止まって何してたのー?」
「道を考えてたの」
「「道??」」
「昨日心ちゃんには話したけど、わたしのコード、透視なの。だから、これでトラップの位置を先に確認して、避けて通るんだ」
晴海は大きく目を開いて、行く先の道路を眺める。
「例えば、ここを真っ直ぐ行って左に曲がるとトラップがあるから、先に左折する方で行けば、そのトラップは避けられるよ……」
説明と共に晴海は力の一端を見せた。
「すごーい! でもでも、心と一緒に行けば、回避しなくて済むよ!」
「そうだ! これから3人で登校しない?」
「おー! 2人も能力者がいたら楽チンですなー」
「いいの?」
「うん! あ、じゃあ晴海にトラップの場所を教えてもらって、私は効率よく水を飲めば、我慢する時間も短縮できるかも!」
「我慢? なにを我慢するの?」
「……」
「……くふっ」
心は頬を赤く染め、叶恵は笑いをこらえる。
「?」
「……おしっこ」
「……え」
「むぅ。やっぱりこれ教えるの恥ずかしいなあ!」
心はズカズカと進んでいく。
「あ、だからそっちはトラップが……」
「いえ、わかってます。見せてやりますよ私のコードも」
「ムキになってるなこりゃ」
三人はトラップの前に辿り着く。晴海が言った通りの場所に出現していた。
「はぁ……」
心は水筒に手をかけ、中身を幾らか飲む。
「よしっ!」
「この『よしっ!』って時に、『でそう』って感じてんだよ」
「いちいち教えなくていいからっ! すぅぅ……『行かせてくださぁぁぁあい』!!」
トラップはいつも通りきれいに消滅する。
「お、おお……! かっこいい……!」
「そ、そう? なんか嬉しいな」
晴海に褒められ、心はケロッと機嫌を直す。
「よーしっ! 進も〜!」
「じゃ、行こっか晴海!」
「……うん!!」
こうして、新しい友達との、新しい毎日が始まりを告げたのだった。