異星の少女は未来(いま)を生きる   作:矢田悠進

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第二章 再会の夜空の日
夏休み開幕!


「なっつやっすみー!」

 鳴り響くセミの鳴き声に負けない声量で、叶恵はそう口ずさみながら歩く。今は7月下旬で、明日から夏休みなのだ。叶恵ほどではないが、心と晴海も浮き足立って帰り道を歩いている。

「心もワクワクしてるでしょー?」

「まあ、そうだね。長いお休みは好きだなあ。トラップの出る時間に歩かなくても良いから」

「いつもお疲れ様〜。ちなみにワタシはお休み中、トラップ出現時間に散歩するのが好き」

「コード無いのになぜ!?」

「コード無しでどこまで進めるかチャレンジするの〜! けっこう面白いよ?」

「えぇ……」

「宇宙人を見るような目!!」

「晴海は夏休みどう? 何か予定とかある?」

 叶恵は二人の後ろを黙々と付いて歩く晴海に話を振る。

「わたし? わたしは……特に無いかなぁ。でも夏休みは嬉しい……」

 晴海はどこかほっとしたような顔で、夏休みの到来を喜ぶ。

「まだ学校行くの……疲れちゃうから。正直長期休みはありがたいなって」

「そうかー」

 叶恵が微妙な声色で相槌を打つと、とっさに晴海は付け足す。

「でもでも! 二人のおかげで、楽しかったよ。二学期もよろしくね……!」

「うん! よろしく〜!」

「よろしくね」

「うん! 心もよろしく〜!」

「叶恵に言ってないから」

「ふふっ」

 叶恵と心の愉快なやり取りに、晴海も頬を緩める。こんな風に友達と笑いながら歩いたのは、久しぶりだ。六年生の丸一年引きこもっていたのだから当然だが。そんなことを考えていると、晴海はある事を思い出す。

「あっ。夏休みにやりたいこと、一つ思い出した」

「なになにー?」

「教えて教えて?」

 二人は晴海の左右にまわりこんで耳を傾ける。

「えっと、星空を見ようと思って」

「星……」

「どっか山とか行くのー?」

「そういうわけじゃないんだけど、あはは、やりたいことって言うのは大袈裟だったかな、家で見るだけだし……」

 晴海はしゅんと縮こまる。

「そ、そんな気にしなくても良いんだよ? 良いじゃん星空。普段ゆっくり観察できる時間ないしね」

「そーそー。ワタシのやりたいことなんてコンビニアイス食べ比べだよー? 近所に売ってるやつ一通り食べるんだ〜」

「それ地味にすごくない?」

「なかなか大変そう……」

「太るかもな。そん時はよろしく」

「なにが?」

 ぬるっとアイスの話に変わってしまったが、心は晴海が何か言いたげなことに気付く。

「そうだ晴海、星の話はアレで終わり? わざわざ見たいってことは、何かあるんじゃない?」

「! そうなの。実は一週間後の7月31日は『再会の夜空の日』って、一部の人には呼ばれてる特別な日なの……!」

 心の予感は的中したようで、晴海は星空を見ることについて続きを語りだす。

「『再会の夜空の日』? なにそれー!」

「私も知らないな……」

「『再会の夜空の日』は、離れ離れになってしまった人と再会できることを願う日なの。一応ルーツは、地球からこの星に移住する時に、バラバラになった人達との再開を祈って始まったとされてるけど、まあ後付けかな? 全然浸透してないし、七夕の方がよっぽど有名だし、一部の人たちが勝手に作った行事みたい」

「ふ、不思議な日だね……ルーツはそれっぽいけど、確かに無名だよね」

「心ちゃんもそう思う? わたしもこの前ネットでたまたま知って、最初は何それって思ったけど……なんか素敵な日だなと思って。今年はわたしも7月31日は夜空を見上げてみることにしたの」

「なるほど。良いと思う!」

 晴海はこことは別の街から転校してきた身だ。離別してしまったが再会したい相手もいるのだろうと心は思う。特に保健室で話していた「秋穂ちゃん」とは、また会いたいと思っているのではないだろうか。

「心ちゃんは、再会したい人、いる?」

「私? ううん……特にはいないかな? でも、この先家族とか叶恵とかと離れ離れになったら、『再会の夜空』に願うかも」

「不吉なこと言うなーーっ! ワタシと心はずっと一緒なんだっ!」

「わわっ、ちょっとくっつかないでよお! 暑い、暑くて死んじゃ……」

 ジジジジジッ!

「「「わあああ!?」」」

 三人は地面から鳴る迫力ある鳴き声に驚き、数歩後ろに飛び退く。

「セミかー。びっくりするなー」

 叶恵は視線を落とし、道路に転がるセミを観察する。

「良いかい二人とも。足を開いてるセミはまだ生きてて、閉じてるのはもう死んでるんだよ?」

「そうなんだ。知らなかったなあ。心ちゃんは知ってた?」

「えっと、逆だと思ってた」

「「!?」」

 

 それ以降はセミ爆弾に遭遇する事なく、それぞれが自宅に到着する。晴海と別れた後、叶恵の家の前で心と叶恵は立ち話をしていた。

「え〜、プールか海どっちか行こうよ〜。保護者同伴で良いから〜」

「やだよ。恥ずかしいじゃん……」

「ぶーぶー」

 水着を見せたがらない心に対して叶恵は口を尖らせる。

「ところで、なんかあった?」

「へ?」

 急に真剣な顔に変わって問いかけてくる叶恵に、心は思わず素っ頓狂な声を出してしまう。

「わかりやすすぎるぞ〜」

 叶恵は心の頬を優しくつつく。

「あっはは。私ってそんなに顔に出る?」

「うん。なんかどよ〜んてしてるよ?」

「ちょっと考え事しててさ。さっきのセミの話で思い出したことがあって。叶恵は、詩真さんに会ったことあるっけ?」

「えっと……心のママの、裏の人格みたいな人だよね?あるよ」

 気まぐれで表に出てくる詩真の人格。2年ほど前に叶恵が心の家に遊びに来ている時に現れて、叶恵を脅かしたことがある。

「三ヶ月くらい前かな。詩真さんに『お母さんの病気を治すことはウチを殺すこと。お前が夢見ているのはそういうことだ』って言われたの。ずっと頭の片隅にあったんだけど、さっきセミが生きてる死んでるって話の時にはっきり思い出しちゃって」

「なるほど……」

「別に今すぐ治療が出来るわけじゃないし……現実的には、私が自分で治すことなんて出来っこないのかもしれないから考えるだけ無駄かもしれないけど……」

「いやあ、心がママの病気を治したい気持ちは本物でしょー? だからこそ、詩真さんの言葉も気になるんだと思うし……でもワタシなら」

叶恵は一息置いて、言う。

「病気は病気。躊躇なく、治す……!」

「叶恵は…………そういう考えなのね」

「…………うん。おや、スッキリしてないね。きっと心は詩真さんにも生きてて欲しいんでしょ。それでも良いんじゃない?」

「あ……」

「じゃ! プール行こうね〜」

「って! 水着は嫌だってば!!」

叶恵はへらへらしながら玄関の扉の奥へ消えて行った。

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