異星の少女は未来(いま)を生きる   作:矢田悠進

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ススキ

 7月26日。夏休み一日目。

 

 晴海は寝起きが良い。日付が変わる前には確実に眠り、東向きの窓から差す日光で目を覚ます。

「おっ」

 シャキッと覚醒する自分に毎朝驚く。

 起きたらすぐにベッドから降りて、着替えをする。パジャマを綺麗に畳んで、そのまま洗面所へ行き顔を洗う。そしてごわごわの髪を整える。ちなみに癖っ毛なので、整えてもごわごわだ。

 その後は、サンダルを履いて外に出る。玄関を出たところの脇には水道が備え付けられていて、その隣には黄緑色のスタイリッシュなジョウロが置いてある。それを手に取って水道で水を汲み、自宅の敷地の外へ向かう。道路に面した壁沿いにアサガオの鉢を置いていて、それに水をやるのが起床後のルーティンなのだ。

 

 その日が特別だったのは、鉢の前に先客がいたことだ。

「ひゃっ!?」

 アサガオの前で誰かがしゃがみ込んでいるのを見て晴海の口から悲鳴が漏れる。

「あ……」

 相手は晴海の存在に気づくと、しゃがんだまま見上げてくる。子供だった。小学校低学年くらいの、女の子だ。さらさらのボブヘアと眠たそうな目つきが印象的だが、一番気になるのは右手でアサガオの葉をもみもみしていることだった。

「お水? これお姉さんのお花?」

「う、うん。そうだよ。えっと……あの、あんまり葉っぱ触られると……」

「あ……。でも葉っぱ破ってないから大丈夫」

「そ、そうだね。優しく触ってくれたのね……」

 晴海はアサガオの葉の様子をザッと確認する。確かに損傷は無さそうだ。アサガオに近づいて、晴海も葉を触ってみる。ザラザラとした特有の触り心地は、例えば家の前の公園に生えている雑草ではなかなか体験できないものだ。

(ふふふ……)

 晴海は初めてアサガオを育てた時のことを思い出す。葉を初めて触った時はこの感覚が面白くて何分も触っていたものだ。そんな気づきも含めて花を育てるのにハマってしまい、こうして何年も続けているのだ。

「葉っぱ、面白いよね」

 晴海は女の子の隣にしゃがみ、話しかける。すると女の子はスッと立ち上がって、

「うん」

 と答える。今度は晴海が見上げる形になってしまった。

「ジョウロやりたい」

「水やり? はい」

 晴海も立ち上がって、女の子にジョウロを渡す。女の子は無言で受け取ったが、すぐ楽しそうにアサガオへ水を与え始める。

「お花も綺麗だね」

「ほんと? アサガオさんもきっと喜んでるね」

 ジョウロが空になると、女の子は晴海にそれを手渡してくる。

「お姉さん名前なんて言うの?」

「えと、晴海だよ。南条晴海」

「じゃあはるちゃんだね」

「え……うん」

 はるちゃん。懐かしい呼び名。ここに越してくる前の親友・秋穂は晴海のことをそう呼んでいたのだ。まさか見知らぬ少女からそう呼ばれるとは思いもしなかった。

「あ、あなたのお名前は?」

「……すすき」

「ススキ?」

「うん。すすきはすすきだよ」

「へえ。良い名前だね」

「え、変な名前だよ。ほんとは変な名前って思ったでしょ。でも良い名前って言ったでしょ」

「えええ〜?」

 急に勢いづいたススキに、晴海はどう答えれば良いか迷ってしまう。

「でも。変な名前って悪い名前じゃないよ。コセイテキ……だよ」

「ススキちゃんオトナだね……」

「ねえはるちゃん…………」

 突然ススキは改まって、晴海の目を覗き込んで来る。

「なあに?」

「はるちゃんって、霊感ある?」

「霊感? お化けとかが見えるやつ?」

「そうそう」

「えぇ……? そういうのは見たことがないから、霊感は無いと思うけど……」

「ホントに? じゃああれ見える?」

ススキが指さした先は、道路を挟んで向かいにある公園の、名前が刻まれた看板。その上。そこには……

 

「なにあれなんか見える!!」

 

毛むくじゃらの生物? が座っていた。

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