異星の少女は未来(いま)を生きる   作:矢田悠進

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 翌日。昼下がりに晴海とススキはいつもの公園で落ち合った。

「あっつ。はるちゃん、鉄棒触らない方がいいよ、熱いから」

「触らないよ〜。立ってるだけで暑いもん〜」

 二人の側では、フデコがふわふわ浮いている。

「よし、あっついから向こうの木の下行こ。日陰」

 二人と一体はのろのろと移動する。

「あんまり涼しくないね」

「熱中症に気をつけてね?」

「うん。この妖怪のこと聞きにきただけだから、すぐ帰る。教えて?」

「わかった。昨日お家に帰ったあとね……」

 

 晴海はまず、ススキが一番気になっていそうなフデコがなんの妖怪かということを話した。そのまま、妖怪がそもそも思念体ということを話そうとしたが、「難しいの嫌い」と言われてしまったので、ススキの前では『妖怪』という呼称を引き続き使うことにした。

「よろしくフデコ。すすきの名前はすすき」

「よろしくじゃススキ殿。ふぅむ……ススキ殿は……いや、なんでもない」

「んん」

 フデコは何か言いたそうだったが、ススキの顔を見てその言葉を飲み込んだようだった。

「二人ともお友達になれましたかー?」

「なれたー!」

「なれたじゃー」

「よろしいー」

「ぶっ殺すぞ!」

「「「!?」」」

 突如公園の別の箇所から飛んできた怒声に、三人の体は思わず硬直する。そして恐る恐る声のした方向に目をやる。公園の真ん中には、小学生男子四人組がいた。先ほどから四人はドッジボールをしていたが、そのうちの一人が突然暴れ出したようだ。「殺す、殺す」と連呼しながらある友達に掴みかかり、別の友達が必死に抑えている。

「け、喧嘩かな?」

 引き気味にそう言う晴海に対して、ススキとフデコは集団をじっと睨んでいる。

「確かに喧嘩に見えるが、ただの喧嘩ではなく……」

「妖怪の仕業」

「えっ、そうなの? 妖怪見えないけど……」

「頭の中にガッツリ取り憑いておるからのう……」

「どうするの?」

「どうもしない。危ないから、逃げる」

「じゃな。しかしまた凶暴なのが来たのう。怒りと暴言と暴力をほどよく混ぜた思念体って感じじゃ……」

 ススキは俯きながら公園のふちに沿って歩き、出口を目指す。フデコもその後ろをスイスイついていったので、晴海も後に続くことにした。しかしどうしても心配で、ススキのように下は向かず、乱闘している子たちのほうをちらちら見ながら行ってしまった。これが失敗だった。

「あれ? 喧嘩止まったみたいだよ?」

「ほんと? あっ」

「まずい! ご主人!」

「な、なに?」

「あいつと目を合わせちゃ、駄目……!」

「目、ふごっ!?」

 晴海の頭に何かがぶつかる。そして、晴海は膝をついてしばらく沈黙した後、再び立ち上がる……。

「なんだぁチビ。殺すぞ」

「わぁ! 取り憑かれてしもうた!」

「はるちゃんはころすとか言わない。取り消せよう!」

 例の妖怪が、晴海に乗り移ったのだ。

「まずいねフデコ。なんとか引き剥がさないと」

「わっしが行こう」

 袖先のチャックが開き、例のハサミ刀が中から出てくる。

「でた、でかハサミ」

「これはハサミに宿った思念を借りて形作ったオリジナル武器じゃ。切れ味は最高じゃよ」

 フデコは晴海の頭に向かって突っ込んでいく。

「あんだぁ? こっち来んな殺すぞ!」

「全然怖くないの、ご主人……ほれ、今その思念体を切って……」

 スパッと妖怪を断ち切って解決かと思われたが、フデコはギリギリで手を止める。

「なんだぁ?」

 晴海がフデコにパンチを喰らわす。

「痛っ、いや、痛くはない!」

 と、言いながらフデコは後退し、ススキの隣に戻ってくる。

「なんで切らなかったの?」

「切れすぎるからじゃ。わっしの武器じゃから直感でわかる。このハサミではご主人本来の感情とか記憶みたいなものも巻き込んで切ってしまうんじゃ。先に剥がしてから妖怪だけを切らないといけない……」

「剥がせば切ってくれる?」

「な、まあそれは任せてほしいのじゃが、おぬし剥がせるのか!?」

「んん……人がちょっといるのは気になるけど、はるちゃんのためなら喜んで」

 ススキは腰を落として晴海の頭部を睨む。

「じゃ、ちゃんと切ってね。『裂』」

 瞬間、ススキは二人に分裂した。片方は直立不動で目をつぶってフデコの隣に留まっている。そしてもう片方は勢いよく跳び上がり、晴海の頭部に一直線で飛び込んだ。

「やりおったッ」

 頭に到達するなりススキの半分はモヤとなって晴海の内部へと入り込んでいく。そして数秒後、ススキは頭から勢いよく飛び出し、地面に着地する。ビチビチと跳ねる黒い魚を、小さな両手で押さえている。

「ほらフデコ、切って」

「お、おう。こやつは魚の見た目をしておったのか?」

「すすきが魚にしたの。はやくはやくー」

「よしきた。離れておれ」

 フデコはハサミ刀を構え、ススキは後ろに飛び退く。すかさずフデコはスッパリ妖怪を切って完全に分解した。

「やるね」

 ススキは眠っていた自分の片割れに触れ、一つに戻る。

「おいススキ殿! 今のはなんじゃ。おぬしがどういう」

「ちょっと待って。はるちゃんが帰ってから話すから。はるちゃんに聞かれるわけにはいかないんだ」

「……なるほどの」

 

「う、う〜ん」

「おおご主人! 無事じゃったか!」

「はるちゃん平気?」

「あれ、二人とも。わたし一体……」

「さっきの暴れん坊妖怪に、取り憑かれてたんだよ」

「わっしと、わっしがやっつけたから安心せい!」

「そうなんだ、ありがとう。ごめんね迷惑かけて」

「大丈夫だよ」

「しかし具合が心配じゃのう……ご主人、今日は帰ろう。妖怪まわりのことはわっしが注意深く見ておくじゃ」

「それがいい。今日はもうすすきも帰る」

「わかった。ごめんね本当に」

「謝ることない」

「……」

「どうかしたかご主人。空なんか見て。やはり体調が悪い?」

「あ、ううん。明日も晴れるかなって」

「明日? 今日はこんなに晴れておるし、明日も良い天気になるんじゃないかのう。何かあるのか?」

「星を見たいなと思ってて。明日は、『再会の夜空の日』だから」

「そっか。すすきも見たい。晴れろー」

「ススキちゃん知ってるの?」

「知ってる。会いたい人に会える日」

「そう! ススキちゃんは会いたい人いるの?」

「えっ、えっとねー、サンタさん」

「あっはは! それはぁ……会えるといいね」

「へへ」

 笑い話をしながらも、やはり頭がすっきりしないので晴海はここで帰宅した。

 

「さて、ご主人は帰ったぞ。そろそろ話してもらおうかの。ススキ殿、おぬし一体何者じゃ?」

「フデコ。あなたが知りたいこと話した後、すすきのお願い聞いてくれない?」

「交換条件というわけか?」

「ううん、違うよ。すすきのことがそんなすごいとは思ってないし。ただ、お願いしたいことがあるの」

「なるほどのう。わっしは良いヤツじゃから聞いてやろう!」

「ありがと。あなたがはるちゃんの隣に来てくれてよかった……」——

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