異星の少女は未来(いま)を生きる   作:矢田悠進

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『生を讃える歌』

 コンサートから二日経った月曜日の朝。柔らかい日差しを浴びて二人は歩く。

「ねー心、ちょっと考えたんだけどさ。グレートマザー教会は実際は宗教っていうより、ヘレネとクラウスとか、その御先祖様がやってきたコードの研究チームだったよね」

「そんな感じだったね。二人だけで色々やってるみたいだったし」

「じゃあ……錦戸のやつはなんだったんだああ!! アイツ全然教会と関係ないじゃん!」

「たしかに! ヘレネさん達は急に襲いかかってくる団体には見えなかったし、何者だったわけ!?」

「二人とも朝から元気だね……」

 数メートル先から、晴海が苦笑いしながら二人を見ていた。騒ぐ声を聞いて玄関から出てきたようだ。

「おはよ〜」

「また晴海ん家の前でおっきな声出しちゃった。ごめんね〜」

「平気だよ。公園の前だから賑やかなのは慣れてるし」

 晴海は公園に目をやる。この時間には基本的に誰もいないが、学校終わりの時間には小学生たちが元気な声で遊んでいることが多い。今は、掲示板の前に一人立っているだけで、園内には人はいない。

「あれ、あの人……」

 晴海は掲示板前の人影に目を凝らす。晴海に合わせて心と叶恵もその人物の方を向く。相手も視線に気づいたようで、振り向いてこちらを見てくる。その人物は……

「あら。心さん達じゃない。また会えるなんて運命感じちゃうわね」

「ヘレネさん!? なんでこんな所にいるの?」

「私はこれ、ポスターを回収しに来た……」

 ヘレネは掲示板のポスターをピンピン引っ張る。心が見つけた例のコンサートの宣伝だ。

「……のだけれども、画鋲が深く刺さってて抜けないのよね。えい、えい」

 ビリッ。強く引っ張られたポスターは掲示板から離れた。画鋲と、千切れた四つの端を寂しく残して。

「あー! 叶恵チャンが取ってあげようじゃないか」

 叶恵は掲示板に近づき、器用に画鋲を外して、切れ端を取っていく。

「まあすごい。固くない?」

「んー、ちょっと固いけど、画鋲外し検定一級のワタシにかかれば余裕だね」

「日本にはそんな検定があるの……! クールジャパンね」

「叶恵ってば、ヘレネさん信じちゃってるじゃない」

「そんなのないですから……」

 叶恵の冗談を鵜呑みにするヘレネに心と晴海がフォローを入れる。

「そ、そうよね。私もわかってたわ」

「ヘレネさん……」

「なによ! とにかく、これでポスター5枚とも回収できたわ。ありがとう」

「それは良かった。でも、朝早くからやってるんですね。そんなに急がなくても良さそうなのに……」

「これはついでよ。この時間にやりたいことがあって外に出る必要があったから。もっとも、その本当の用事をするには少し遅いくらいなのだけれど……これ持っててくれるかしら」

 ヘレネは心に剥がしたポスターを渡す。

「え、でも私たち学校行かなきゃいけなくて……」

「大丈夫、すぐ終わるから。それに、今すぐ学校に行くより私の用事が済むのを待った方が、早く学校に着くと思うわ」

 そう言ってヘレネは公園の真ん中まで駆けていく。そこで立ち止まると、ヘレネはズボンのポケットから一枚の紙を取り出す。宣伝ポスターとは別物のようだ。三人は後を追って公園に入った。

「ヘレネ〜それなに〜?」

「楽譜よ。『生を讃える歌』のね」

 ヘレネは三人に楽譜を見せつける。一見したところ特に変わった様子はない。

「それって……この前最後に歌ってくれた歌ですか?」

「晴海さん大正解! あそこで歌うにはつまらない歌だったなって反省しているのだけれど、今ここで歌えば最高のものになるのよ?」

 ヘレネは前置をそこで切り上げて歌い始めた……。

 

 相変わらずその歌は、ヘレネの洗練された歌声に乗せるにしては面白みのない歌だった。力強さも繊細さもなく、無機質な音の羅列は、聴く者のこころを素通りしていく。

 だがヘレネが明かすこの歌の真価が、一同を驚かせることになる。

「これで、今日の分のあなた達の街のトラップは全部取り去ったわ!」

「ええっ!?」

「これで5分は早く学校に着けるはずよ〜!」

「ど、どういうことですか!? 今ので街中のトラップが消えたんですか!」

「そうよ。『生を讃える歌』はグレートマザー教会が代々受け継いできた研究成果の結晶で、今の段階では一定範囲のトラップを一日消せる効果があるの」

「すご〜い!」

「本当は『星の力』の根源に到達することを目指して作っている歌なんだけど……今のところそこまでは出来てないのよね。歌の形をしたコードとも言えるから、強力なトラップのある地点に行けば真の機能を発揮するかしら……ぶつぶつ」

「ヘレネさーん? 自分の世界に入らないで……!」

 心は預かったポスターをヘレネの眼前でペラペラする。

「おっと。ポスターはもらうわね。それとも一枚いる? いらないわね。引き止めてごめんなさい、気を付けて学校行くのよ!」

 ヘレネはポスターを引き取ると、三人に手を振りながら公園を去って行った。

「……じゃあ、ワタシ達も行こっか」

「そうだね。遅刻しちゃう」

 心達も、学校に向かおうとヘレネの通った道を急ぎ足で歩く。

「あれ? ヘレネさんってば、ポスター、一枚落としてる……せっかくだしもらっちゃおうかな」

 心はポスターを拾ってカバンに詰めた。

 

 その日の学校では、登校の時に一つもトラップに遭遇しなかったという声が多くあり、そのことで話題は持ちきりだった。

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