異星の少女は未来(いま)を生きる   作:矢田悠進

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 早見心の意識は身体を抜け出して、上へ上へと登っていった。地上に出て、上空に向かい、街を飛び出し、第二地球を見下ろした。数多の星を通り過ごし、宇宙の彼方へ旅をした。

 世界が目まぐるしく変わっていく様を、心は鮮明に感じ取ってもいたし、全く感じ取ってもいなかった。本当に星から星へ駆け抜けたし、それは気のせいで、本当は自分の星の地べたに寝そべっていた。

 

 

 遥かな距離でありゼロ距離でもある旅路の末、心はある場所で立ち止まった。

 無限に広がる宇宙に、巨大な人工物が浮かんでいる。ソーラーパネルを身につけた白い浮遊物は、部分だけに注目すれば宇宙船と呼べそうだった。しかし、それは一つで浮いているのではなく、いくつもの塊が連なって、蜘蛛の巣のように張り巡らされていた。ぼんやりと眺めていると、その連なりは地図のように見えてくる。街だ。それはもはや宇宙船ではなく、宇宙に作られた一つの街……いや、国? もっと大きい。これは星だ。地球を捨てた人が住む、新たな生活圏。

 

 心はもう少し進むことにした。と言っても、ここまで自分で進んできたのではない。運命的な力に引かれて、自然とここまで来たのだ。そして今も、巨大な人工生活圏の奥へと引かれていくのだ。

 

 また世界が変わっている。誰か知らない人の家の中だ。目の前の食卓に、四歳くらいの子供と、その隣には母親らしき人物が座っている。彼らの前には、見たことがない食事が並んでいるが、どうやら朝ごはんのようだ。心はその子の向かい側に座っている。身体が無いから座ることはできないが、座っている。

「いただきまあす!」

「はい、いただきます」

 二人は食事を始める。子供は手掴みで、ブロック状の何かを頬張る。パンか?

「ねえママー。昨日ね、朝ね、幼稚園行くときビーサン16でみんなで歌歌ってたんだよー」

「B-36は教会区だからね。それは、宇宙に来られずに死んじゃった人たちのことを思って歌ってるのよ」

「誰が死んじゃったのー?」

「宇宙船に乗れなかった地球の人達よ。いただきますは誰に言うの?」

「えっとねー、ごはん作ってくれたママとー、お野菜とか作ってくれた人とー、あと地球の人!」

「そう。それとおんなじで、B-36区の人達は、お歌を歌って、地球の人達に『今日も朝を迎えられました。あなた達の分まで精一杯生きます』ってお祈りするんだって」

「んー。ね〜トマト食べたくない〜」

「だーめ……」

 子供は母の話に興味を失ったみたいだった。心は玄関に移動する。ドアの外からその家をもう一度眺める。B-35区だ。……いつドアの外に出た? いや、この旅の途中でそんな細かいことはどうでもいい。心はそのまま船内を移動して、隣の区画へと移った。

 

 今日も教会区の人間は歌っていた。広々とした正方形の空間に、人工芝が生い茂っている。そこにいくらかの人が並び、清らかな歌声を響かせている。

 心はグループの端に立つ人の隣にまわって、その人が手に持っていた楽譜を覗き込んだ。『死を悼む歌』と書かれていた。死んだのは誰だ? きっと地球の人。いつ、どれくらい死んだのだろう。

 心はふと上を見上げた。真っ白な天井が何十メートルも上にある。それより、二本の道があることが気になった。この歌の広場から伸びて、高く高くに続いている光の道だ。どちらもどこに続いているのか不明だが、片方はなぜか、帰り道だと確信した。行くべきはもう片方の……。

 

 

 大いなる引力に導かれて、旅を再開することになった。人工生活圏での観光はおしまいのようだ。

 無数の星を通り越して目的地を目指す。

 星を通り越して目的地を目指す無数の。

 通り越して目的地を目指す無数の星を。

 目的地を目指す無数の星を通り越して。

 目指す無数の星を通り越して目的地を。

 …………。なんだ。今度は無限の距離を旅するだけではない。何かがねじれている。なんだ。なんだ。

 時だ。

 時間さえ越えている。過去か。未来か。

 存在は時と空間の中に存在するのだ。両方を超越した旅の間では、意識が上手く存在できない。

 だが、目的地が近づくにつれて、超越の速度は緩やかになり、意識が取り戻されていく。過去だ。過去に向かっているのだ。

 

 

 

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