異星の少女は未来(いま)を生きる   作:矢田悠進

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第二地球 その3

 しかし、第二地球はとある奇妙な現象が発生する、謎の星だった。

「さ、行こっか」

 心は水筒の蓋をカチリと閉めて、歩き出す。

「うん、さんきゅーね」

 叶恵も後に続き、針山がすっかり無くなって平たんになった道路を進む。

 この針山は奇妙な現象の一つだ。移住後、ある時から、子供たちの通学路に不気味な何かが出現するようになった。それは後に、『トラップ』と呼ばれるようになる、謎多き現象だった。道路を塞ぐようにして様々な障害物が出現する。いま心たちが遭遇したのは針山だったが、他にも数えきれない種類のトラップがある。

 トラップには二つの大きな特徴がある。一つは10歳から15歳までの子供たちにしか認識できないこと。もう一つは朝の7時から9時にしか出現しないことだ。年齢の方は数ヶ月から一年、時間の方は数分から三十分程度の誤差があるが、大抵はこの原則に当てはまる。

 さて、先へ進んだ心と叶恵は、今日二つ目のトラップに遭遇する。なんでもないアスファルトの道路上に、いくつかの竜巻が発生している。屋根を破り車を飛ばすような災害級の力はない小さなものだが、それが余計に不気味である。飲み込まれたら怪我をする可能性も十分あるだろう。心のスカートや叶恵の髪が風に揺らされる。

「うひゃー、こーゆー罠は髪がぐちゃぐちゃになるから嫌なんだよなー」

「いや叶恵、あなたスカートがめくれる方を気にしなさい」

「短パン履いてるし平気だよー?」

「そういう問題じゃないの!」

 しかし、そんな二人の横を、サラリーマンはそそくさと、小学生は無邪気に友達とおしゃべりしながら、通り過ぎていく。彼らはトラップの影響を受けないし、見えてもいない。今これに対処する必要があるのは、12歳である心と叶恵だけだ。ではどうするのか?

 この問題の最も有効な対処法は、トラップそのものの出現に伴って発見された。トラップが認識できる子供たちの多くは、それを消滅させる超能力があることが分かったのだ。その力は、『コード』と名付けられた。この超能力、コードの使用には全員に共通の条件がある。「トラップが発生している時のみ使える」というものだ。つまり、10歳から15歳が、朝7時から9時まで使えるということだ。これは別に人間が定めた法律なんかではない。ただ事実として、トラップ発生に対応してコードが発動するという法則があるだけだ。また、コードは一種類の決まった能力ではなく、人それぞれに固有な効果や条件があるというのも重要な特徴の一つだ。

 先ほど針山のトラップを崩したのは、心のコードである。目の前の竜巻にも、同じように力を行使すれば消滅させることができる。

「まったく、迷惑しちゃうな」

 心はスカートのシワを伸ばしながら、また水筒の水を一口飲む。

「よし。すぅぅ……『行かせてくださぁぁぁい!!!』」

 そして、大きく息を吸ってから、叫んだ。竜巻は心に近いものから一つずつ消滅していき、やがて全て無くなり、空間は春らしい落ち着きを取り戻す。

「叶恵、ちょっと急ご」

「ん、ヤバい? お水飲みすぎた?」

「どうかな、全然ガマンできないほどじゃないけどね」

「本当かな〜?」

「ホントホント。でもちょっと速く歩こう」

「ヤバそうじゃん!」

「うるさいなあ!」

 二人は小走りで学校へ向かう。時間の余裕はあるが、心の「あることに関するメーター」の余裕があまりない。あくまで心の主観的なものではあるが、このメーターの値はコードを使う度に増加し、心を追い詰める。これは心の持つコードの固有な性質上、避けられない問題だ。

「ねー心」

「なに?」

 スタスタと歩きながら、心は叶恵の方を見る。

「心ってさ、健康診断とかで書かなきゃいけない「コード詳細」のところなんて書いてるの?」

「ああ、あの自分で能力の説明する欄?」

 コードは人により千差万別なので、決まった分類や名称があるわけではない。自分の能力は、自分で好きに説明できるし、しなければいけない。

「えっとね、『一定の条件下でトラップに向かって叫ぶことで、トラップを消滅させるコード』って書いてるよ……」

「え、一定の条件下で? ふふっ、濁してるんだ!」

「わ、笑わないでよ! 書けるわけないでしょ! その……『おトイレ我慢してる時に叫ぶと』なんて……」

 だんだんとか細い声になりながら、心はそう呟く。

「そう恥ずかしがることないぞ。トラップを完全に消せるなんてすごいんだから」

「恥ずかしいのはおトイレの方!!」

 心は小走りで学校を目指す。より具体的には、トイレを目指しているのだった。

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