どけ!わたしはおねえちゃんだぞ!! 作:シヌメユ
性癖に従って書いていきます
ケチつけるまえにおまえも性癖晒さないか??
目が覚めたら幻想郷だった。
ああいや、目が覚めたらっていうのはおかしいかもしれない。正確には物心がついたら。気が付いたらともいう。
わたしがわたしであることを自覚したそのとき、真正面には一人の女の子がいた。
すらっとした眉。おっきな瞳。ぷにっとした唇。子供らしい丸い顔。めっちゃ艶やかな黒髪。そして何より――特徴的なおっきい赤リボン。
どうみても霊夢! 幼少期の!!
え、やばい。どうしよう。めちゃんこかわいい。これ抱きしめていい!? お持ち帰りしちゃっていい!!?
荒ぶる心が外に出ないように唇を噛んで耐えていると、霊夢らしき女の子が心配そうに、
「ねえ、だいじょうぶ? なんかようすおかしいよ――おねえちゃん」
おねっっっ―――おね?
さっきまでの騒がしさは嘘のように、わたしの思考は停止した。
おねえちゃん……おねえちゃん? おねえちゃんとは? あの? あねといもうとでいったらあねのほう??
声をかけた矢先に固まったわたしに危機感を覚えたのか、霊夢(仮称)はわたしの肩をつかんでぐらぐら揺らす。
「おねえちゃん! おねえちゃん!?」
「――かふっ」
「わっ、血! けが、けがしたの!? おねえちゃん!!?」
「ま、まって、ゆらさないで……。大丈夫、大丈夫だから」
ついに涙目になってしまった霊夢(暫定)を宥めながらいったん離れる。
いや、正直、まったくもって大丈夫じゃない。
今だって肩から手が離れたとたん、まるで大切なものをなくしたかのような喪失感におそわれた。病気か??
でも考えてみてほしい。
自分にとっての生涯の推しキャラだよ。手が届くはずのない存在がすぐそこにいて、しかも子供時代で、しかもおねえちゃんって呼ばれる。
――無理! 幸せすぎて吐きそう!! 吐け!!!
おっといけない。またあらぶってしまった。こんなんじゃまた霊夢(決めつけ)に泣かれてしまう。
おろおろと困惑した様子の女の子にそっと近寄り、まだ乾いていない涙を服の裾で拭ってやる。
「ごめんね。ちょっと混乱しちゃって」
「こんらん?」
「うん」
おまえがかわいすぎてな! と言い出しそうになるのを唇を噛んで抑え込んで、女の子の頭をなでる。
たちまち笑顔になった女の子。うんうんかわいいね。死んでも守るね。
さて、まずは状況の整理だ。
わたしは――何してたんだっけ。仕事から帰って缶ビール開けたのを最後に記憶がない。寝たのか? え、じゃあこれ夢? いやでも唇めっちゃ痛いしちがうか。ちがうな。ちがうだろ!!
で、この子はたぶん霊夢、わたしの見立てによるとまず間違いなく霊夢で、つまり今いる場所は幻想郷。順当に考えるなら博麗神社かな? 巫女装束じゃないあたり、完全なプライベート霊夢。神。なるほど博麗神社の謎の祭神とはつまり霊夢のことだったのだ。証明完了。
そんでわたしは霊夢のおねえちゃん。は?
「頭痛くなってきた……」
「あたまいたいの? だいじょうぶ?」
「あ、うん。大丈夫大丈夫。だっておねえちゃんだからね!」
しまった油断した。妹に心配させるなんて姉として失格すぎる。
大丈夫アピールでVサインを作りながらめいっぱいの笑顔を作る。にこにこ。
が、その様子を霊夢はどう思ったか。おそるおそる手がわたしのほうへ延ばされて、そっと、頭の上にのせられた。
「いたいの、いたいの、飛んでけ!」
――。
「ふふーん! おねえちゃんどう? いたいのなくなった?」
――。
「おねえちゃん?」
――?
「おねえちゃん!!?」
がふ――っっっ!???
なんだ、いま、なんだ? なにがおきた??
ん???
あたま、なでられた?? え? とんでけされた??
あ、やばい。もたない。
意識が、とおく――。
「――! ――」
ああ。とおくでれいむのこえがする。
わたしはどうなるんだろう。
つぎ目覚めたら、自分の部屋にいて、缶ビール片手に寝っ転がってるんだろうか。
まあ、しかたない。ゆめだったんだ。
束の間のことだったけど。しあわせだった。
ああ、でも、そういえば。名前を呼んであげられなかったな。心残りがあるとしたらそれだけかな。
いや、嘘。心残りはめっちゃある。
いっしょにご飯食べたかったし、いっしょにお風呂に入りたかった。
いっしょの布団で眠りたかったし、いっしょに縁側でお煎餅食べたかった。
考えれば考えるほどやりたいことが出てくる。
ああくそ。起きてもすぐ寝たらまた見れるかな。見たいな。そしたら、今度こそ。
「おねえちゃんに、わたしはなる」