主人公解説その他のあった原作セシリア編と違い、おそらく導入、修行、戦闘、戦闘後編~後始末、後始末の五話、たぶん三万字ちょっとぐらいで終わります。
まぁ、原作でも一巻の半分、四万字とかそんなところのはずなので、描写の多くをカットしてるこの話でそれなら上等でしょう。
8/18改稿
「勝負!!」
「両断……する?」
やけに気合の入った掛け声とやたら気の抜けた決め台詞で二機のISが交差し、一瞬で勝負が決した。
その二機の一方、一年前に中国へと帰って行って、今日IS学園に編入してきた二人目の幼馴染
セシリア戦での俺の爆風踏みと違い、司のそれは完全に自機のダメージゼロで推進力だけを得ているし、完全に一方的な勝負だった。あまりに一方的過ぎて
そして、何故かその場で打ちひしがれる
改めて思う。
――どうしてこうなった?
◆◇◆
――事は……まぁどれが原因かよくわからないので、鈴の初登場まで遡ろう。
いよいよ間近に迫ったクラス
が、うちのクラスに限らずクラスメイト達は本気である。
何故かと言えば、各学年それぞれ、優勝クラスの全員に学食のデザート半年間無料パスがプレゼントされるというのだ。ここ、IS学園の学食と言えば、食にこだわりの強い日本人が主に運営している事もあってか、各国の高級ホテルの料理を集めたような恐るべき質を誇っている。そしてIS学園は華の女子高生たちの学校なので、中でも特にデザートの質は一回りレベルが高いらしい。
彼女たちがそこまでデザートに対して情熱を注ぐ気持ちは男の俺にはいまいちよくわからないが、まぁ、水を差す物でもない。
そうそう、ちなみにそのクラス代表だが、俺になった。クラス代表決定戦の戦績は司:二勝、俺:一敗一分け、セシリア:一敗一分けなので俺とセシリアが同列だが、「ど素人と引き分けておいて『これは負けじゃない』などと恥を上塗りする気はない」との事らしい。良くも悪くも誇り高い、セシリアらしい言い分だ。
そして、今日も今日とてデザート半年無料券の為に燃えに燃えるクラスメイト達の激励を受けていると、そこに突然の闖入者が現れるのだ。
「その情報、古――」
うちのクラス以外では四組の代表が専用機持ちだから、クラス対抗戦の一番の山場はそこだろうね~、などと、有益な情報をくれるクラスメイトの言葉を遮って、聞き覚えのある声が横から飛び込んできて、
「邪魔」
更に、もっと聞き覚えのある声に台詞をぶった切られた。
「何よあんた」
折角の登場シーンを邪魔してくれた司を、ギロリ、と睨み付ける、司よりもさらに一回り小柄な少女。
去年の三月で中国に帰国して離れ離れになった、一年ぶりに見るその顔。一年しかたっていないんだから当たり前とはいえ、パッと見る限り全然変わっていないセカンド幼馴染の姿に、懐かしさから思わす笑みがこみあげてくる。
「司栞」
――いや、そういう事を聞いているんじゃないと思うぞ。
思わずツッコミを入れたくなった俺の気をよそに、司は「さっさとどいて」とでも言いたげな気怠い様子で、目の前の少女を凝視する。
「…………凰鈴音よ」
その、何か不思議な威圧感を感じさせる姿に鈴が折れ、大股で一歩横に退く。
よろしい、と頷いて司は空いた入口の中央を通過し、
「後ろ」
と、鈴に対し、謎の一言を残していった。
反射的に鈴の後ろを見る。特に何もない。もしかして鈴に言ったわけじゃないのか? と思って後ろを振り向くが、特に気になるものはない。一体何なんだ?
『?』
俺と、鈴と、ついでに最初に話していたもう一人のクラスメイトで顔を見合わせ、首を傾げて、
「HRだ。とっとと戻れ、二組生」
バシィン! と出席簿が手加減気味に脳天に叩きつけられる効果音と共に現れた織斑先生の姿に、その意味を悟るのだった。
一呼吸遅れて、特に何もないと判断した直後の登場とか、不意打ちにもほどがある。
◆◇◆
で、第二幕は昼休みの事だ。
俺は、ここしばらくで定番になった箒とセシリアと、その日によって変わる何人かのクラスメイトと一緒に食堂に向かっていた。ちなみに司は「モノを食べるときは、誰にも邪魔されず、自由で、なんというか、救われてなきゃダメ(以下略」とかいうよくわからない理由で他人と一緒に食事を取らないので、ここにはいない。ただし食事は駄目だけどお茶するのは良いらしい。よくわからん。
閑話休題。何が気になるのか、やたらと授業中上の空になって織斑先生の出席簿を喰らっていた箒に「お前のせいだ」などと言われ、セシリアにとりなされながら歩いていると、何故か券売機の前に鈴がトレーにラーメンを持って仁王立ちしていた。
「遅いじゃない。待ってたわよ、一夏」
小柄な体だからか、自分を精一杯大きく見せようとしているかのように胸を張る鈴。
――だが、その直前まで周囲の迷惑を考えて横に退いていて、俺達を見つけた瞬間そこに陣取ったのが見えたので何となく締まらない。
「あんまり遅いからラーメン伸びるかと思ったわ。あんたもさっさとなんかとってきなさいよね。休み時間なんてそんなに長いものじゃないんだから!」
相変らず我が道を行く鈴は、そう言い放つと「一緒に食べよう」などとすら言わずに足早に歩き去っていく。相変わらずのゴーイングマイウェイ。なんだかんだ面倒見がいいし、基本的には体育会系っぽいさっぱりとした気の良い奴なんだけど、ああいう態度で敵を作りやすいのが鈴の欠点の一つだ。
なお、それを自覚していながら直す気がないのが二つ目の欠点である。
「一夏! なんなのだあの無礼な女は!」
「あ~、うん。態度はちょっと擁護できないけど、悪い奴じゃないんだ。基本的には」
ただ、とりあえず初対面の相手には喧嘩を売る。そうして意見をぶつけ合う事で分かり合える相手かどうか理解しようとし、同時に自分の事も理解してもらおうとするという少年誌的な展開を地で行く奴なだけで。
「そうですわね。邪気は感じませんでしたし、真っ直ぐな気性の気持ちのいい方だと思います。多少態度が悪くても、本音で話し、腹芸を好まない真っ正直な性格はとても好ましいですわね」
ただ少し真っ直ぐすぎて敵も多そうですが、と最後に苦言を呈したものの、非常に微妙な擁護しかできなかった俺を結構的確にフォローしてくれるセシリア。流石は英国貴族というか、一目で鈴の気性を見抜いたらしい。
よし、じゃあここで俺が最後の一押しだ
「なんだかんだ男っぽいところも強いし、その辺似てる箒とも気が合うんじゃないか?」
殴られた。今度はセシリアも擁護してくれなかった。理由を聞いても乙女心の一言で、箒は愚かセシリアや他のクラスメイトにもぶった切られる。
なぜだ。鈴は男っぽいせいで女友達が少なかったし、箒も昔は女男と言われて男からも女からもちょっと距離を置かれていたのだから、男っぽい部分を持つ者同士、その苦労を共感しあえるはずだと思ったのに。
そんなこんなで、主に箒と鈴の間に幾らか衝突があったものの、それなりに和やかに会話が進んでいた、その空気がぶっ壊れたのは鈴のこの一言が切欠だった。
「ねぇ一夏、私が、ISの操縦、教えてあげてもいいわよ?」
何でも、鈴は中国に帰国してからの一年間、猛勉強に地獄の特訓を経て中国の代表候補生、の中でも屈指のエリートである専用機持ちにまで至っていたらしい。
それなりに長い時間をかけてようやく専用機持ちにたどり着いたらしいセシリアがかなり驚愕していた。
後に聞いたところ、中国は安保理の常任理事国という事もあってコア保有数は多いのに、IS関係の政策でコケ、しかも近くにはIS先進国でありコア保有数もアメリカに次ぐ第二位の日本がある為に人材の流出が激しく、操縦者の質が低い事で有名らしい。しかしそれでも、専用機持ちの高みはわずか一年で到達できるようなものではないそうだ。
「いらん。一夏は一組の代表だ。二組の貴様が一組の事に口を出すな」
ふん、と、俺に答える暇も与えず箒がバッサリと一刀両断し、鈴が箒を睨み付ける。男っぽい女同士気が合うかと思ったがそんなことはなかったらしく、さっきからずっとこの二人はこの調子だ。
それをとりなすように、セシリアが隣から冷静に口を挟む。
「そうですわね。普段ならいざ知らず、クラス対抗戦を控えたこの時期に他のクラス、しかも、直接のライバルであるクラス代表相手に手の内をさらすなど論外ですわ」
全くその通りだ。ついに俺の意見が問われることはなかったが、異論はない。
というか、俺には司という非常に頼もしく優秀な指南役がついてくれているので、クラス対抗戦前の時期でなかったとしても鈴の助力はいらない。射撃特化のセシリアもいるし、必要ならその場で適当な人に声をかけて一緒に練習する(司は国家代表に匹敵するU-18の世界最強クラスなので、司に教えてもらえると聞くとむしろ希望者が多すぎる)から、練習相手にも困っていない。
「あたしは一夏に聞いてんのよ。外野は黙ってなさい」
が、なぜか納得いかないらしい鈴はセシリアの事も睨み付ける。
「一夏を鍛えるのは一組の問題だ。外野は黙っていろ」
その言葉の何が癇に障ったのか、箒の表情が更に険悪になって鋭い雰囲気でそう断じた。
ますます悪化していく場の空気に、セシリアは大きく溜め息を吐いて肩をすくめた。いい加減俺ものんきに傍観していられなくなったので口を挟もうとするが、セシリアに「余計な事を言うな」とばかりに目で制された。
本来なら反発するところだけど、相手は誇り云々が関わって感情が昂らなければ人格者のセシリアで、俺はさっきの希望的観測が大外れしたばかりだ。大人しく口をつぐむ。
「クラスの違いの事をさておいても、一夏さんは今、同系統上位の操縦者である栞さん、司栞という方に師事していますわ。鈴さんが一夏さんの訓練に参加するかは、栞さんに意見を窺って見るべきだと思いますわよ?」
「司栞ぃ? 朝のあいつよね? 何、あいつ代表候補生かなんか?」
正しく俺の言いたいことを代弁してくれるセシリアに、鈴は訝しげな目を向けた。あれは俺でもわかる「そいつ、あたしより優秀なの?(反語」って言ってる目だ。だが生憎、たぶん司は鈴とは強さのケタが違う。それはもう、司がセシリアを一方的に熨したみたいに…………?
あれ? なんかその流れ、覚えがある気がするぞ?
「あ、貴女ねぇ……。確かにわたくしも半分は他人の事を言えませんが、現IS学園一年最強の専用機持ちである栞さんの、名前すら知らないのはどうかと思いますわよ?」
まさか知らないとは思わなかった、とセシリアが表情をひきつらせる。
ちなみに、セシリアは“司栞”が“日本の代表候補生”で“専用機・雛菊の操縦者”である事は知っていた。ただそれが、本国で現代表に聞いていたU-18最強の一角“
しかし、そんなセシリアの反応にもまるで興味なさそうな鈴は、その高慢な態度を隠すことなく言い放った。
「ふぅん、じゃあ、私が来たからその人は二番目ね」
――カチンときた。止めるなセシリア。
「おい、鈴。今ここにいないとはいえ、その一方的な決めつけはさすがに司に失礼だろ」
俺としても師匠っぽい相手を侮辱されるのは気分が良くない。その不満を込めて睨み付けると、先ほどまでの数段増しで鈴の機嫌が急勾配を描いて傾き始めた。
「ん? なに、一夏もそいつの肩持つの? そりゃ、教えてもらってるってんなら恩があるのは分かるけど、一夏に教えるなら幼馴染で気心の知れてるあたしの方がずっとうまく教えられると思うけど? 一夏の機体がどんなのかは知らないけど、たぶん格闘タイプでしょ? あたしだって近接格闘得意だし」
「いや、司の方がたぶん鈴より遥かに強いからな。何せ――」
司の強さは国家代表クラス、と言おうとした俺を、何故かセシリアが手で制した
「そこまでですわ、一夏さん。お互い知らないこと、分かっていないことが多すぎて、このまま議論しても平行線でしょう。きっとこの先は感情論のぶつけ合いになるだけです。わたくしから栞さんに話しておきますから、まず今日の放課後、栞さんと鈴さんで模擬戦を行って、またそれから話をいたしましょう。敗北した場合、今の暴言の全てを謝罪していただきます。それで構いませんわね? 鈴さん、一夏さん、箒さん?」
そして、再びの既視感。なんかこの流れ、知ってる気がする。
「いいわよ、その方がわかりやすいし。そいつだってそこそこは強いんだろうから練習にもなるだろうしね」
「私もそれで構わん。結果など決まり切っているしな」
「あんた、あたしの事ナメてんの?」
「栞の事を舐めているのはお前だ」
「箒さん! 鈴さん! そういう事は勝負の後にしてくださいまし!」
再び衝突し始めた箒と鈴を、セシリアが慌てて声を張り上げて静止する。
そこで、俺は既視感の正体に思い至った
「あ」
『??』
この流れ、一部変わってるけどクラス代表決定戦の時と同じじゃん。
◆◇◆
「ト、《トライ・エッジ》……!! なんでそんな化け物がこんなとこに! 一体何を今更IS学園で学ぶことがあるのよーーーー!!」
開始五秒も持たずに秒殺された鈴は絶叫した。流石に司の二つ名にして固有戦技・
「えっと、青春、とか?」
「休暇、らしいぞ? 本人曰く」
「ですわ。同世代の友人が少ないことを心配した後見人の方の配慮だとか。山田先生など、気心の知れた方もいらっしゃるようですし。それで、鈴さん」
にっこり、と威圧感を感じさせる笑顔をセシリアは鈴に向ける。
流石に、あれだけ大言を吐いた揚句ここまで瞬殺されて強情を張れるわけもなく、鈴は素直に頭を下げた。
「わ、分かってるわよ。悪かったわね、一夏、セシリア、それとそこの……箒? と、知らないでしょうけど栞も」
しゅん、としおらしく体を縮める鈴。負けて悔しいのは分かるけど、なんか落ち込み方が異常な気がする。中国にだって国家代表はいるんだし、司に負けるのは他国の国家代表に負けるのと似たような物なんだからそこまで悔しがるものじゃないと思うんだけどな。
「でもまさか四聖剣の一角がいるなんて思わないじゃない! なんで現在進行形で現代表と国家代表の地位争ってるようなのがこんなところにいるのよ!」
と、思ったのも束の間、やっぱり鈴は鈴で、あっという間に調子を取り戻してガーーっ、と大声でまくしたてた。その様子に、セシリアと一緒に苦笑。
「生憎ですが、ここの生徒会長もその四聖剣の一角ですわ。しかも現役国家代表」
「嘘ぉ!?」
「事実ですわ。見ます? トライ・エッジとアクエリアスの模擬戦」
「け、“剣聖”だけじゃなく“水神”までいるとか、IS学園はあたしの思っていたより遥かに魔窟らしいわね」
挙げられた二つの名前に、鈴は全力で表情をひきつらせる。
俺も一回見たけど、あれは圧倒的を超えて破滅的だった。機体相性の問題だって言ってたけど、あの司が負け越してる相手とか正直今でも信じがたい。菊一文字五十発以上打ち込まれても落ちないとかなんなんだあの先輩。あの水を操る第三世代兵装チートすぎるだろ。防御の上からだって五発打たれたら落ちるぞ大抵の機体は。エネルギー兵器にはそこまで強くなくて零落白夜には障子紙も同然らしいけど、実体武装に対して無敵過ぎる。しかも攻撃転用まで出来るらしいし。あれで国家代表級
「北欧神話のヴァルキリーは半神らしいから強ち間違ってもいないがな」
気持ちはよくわかる、とばかりに、箒がポンと肩を叩いてくれた。どうも途中から口に出ていたらしい。
最後にもう一度鈴に生暖かい目を向け、司に向き直る。
「時間」
時間は限られてるんだ早くしろ、だそうです。
あぁ、また鬼教官の地獄の基礎訓練が始まるぜ…………。
・四聖剣
U-18最強クラスの四人の、中国での呼び名。他にも
対メディア的な問題からそれぞれに固有の二つ名が与えられている。
・中国
幾ら鈴が天才でも、権威に批判的な上に、歴史的に仲の悪い日本に対して愛国心の強そうな操縦者を専用機持ちにするぐらいだから人材は乏しいと思われる。なので別に中国を批判する意図はない。
織斑千冬と交友があるという点に目を付けられたのか、超国家的思惑だったのか等色々理由付けは可能だけど、この話では、こう。