それにしても、戦闘パートは筆の進みが速い速い。
8/18改稿
「懺悔の用意はできてるかしら……一夏ぁ!」
クラス対抗戦当日。甲龍を纏い
勿論、訳の解らないことで一方的に謝罪を迫ってくる鈴の理不尽に思う事はあるんだが、なんというか、司の訓練が過酷すぎて日常の怒りが萎えていた。
「何が悪かったのか、そもそも俺が悪いのかも判断つかない事で謝る気はねぇよ。前にも言ったけどな」
――鈴の怒りの原因は一年前、あいつが中国に帰国するときにした一つの約束。
正確には、鈴が一方的に言い放っただけで俺が了承した覚えはないから約束でもないんだけど、“約束”。鈴の料理が上達したら、毎日酢豚を奢ってくれるとかいう、たぶん“私が店を継いだら、オマケしてあげるから通いなさいよ”という意味のソレ。
俺はその通り覚えていたつもりなんだが、一年ぶりに再会した鈴に言わせれば全く違うらしく。「女の子との約束忘れたんだから謝るのが当然でしょ」などと一方的に言われて謝罪を求められた。
でも、忘れていたんならともかく、俺としては覚えているつもりなのに、答え合わせもなしに一方的に間違っていると言われて謝らされるのは納得がいかない。なので、謝れというなら説明しろ、納得がいったらその分も合わせて謝ってやる。という旨の事を言ったら、
「っ、だから説明したくないって言ってるでしょうが! こういうのはいつもほぼ確実にあんたが悪いんだから、あんたはとりあえず謝っときゃいいのよ!!」
というとんでもない理不尽なキレられ方をしたのだ。これはさすがに俺も怒る。
しかもこれが、ちょっとした行き違いから鈴の友達の女の子を泣かせてしまった時、何が悪いかよくわからなかったけど鈴や周囲の圧力と、目の前で女の子が泣いてる状況への謎の罪悪感に負けてとりあえず謝ったら「誠意がこもってない!」とブチギレた鈴の言い分なのだから、俺も怒る。しかも、その時別に俺何も悪くなかったし。あえて言うなら俺の運が悪かっただけだったし。
そんなわけで、「謝れ!」「説明しろ!」との押し問答の挙句、クラス対抗戦で負けた方が相手の要求を呑む、という話になった。
「お前、前それで謝ったら誠意がこもってないとかブチギレただろうが!」
冷静に思い返したらふつふつと怒りが湧き上がってきた。うん、いい感じだ。怒り過ぎて冷静さを失うのは逆効果だけど、気の抜けた状態じゃ戦えないからな。俺がいつも練習試合で負けるのは、気合の入りようで実力にブレがあるのに、普段気合が足りないからだって司も言ってたし。
「当たり前でしょ!? 誠意がこもってないんじゃ――――」
[管制室より、カウントダウン開始確認。5、4、3]
鈴の言葉を遮るように互いの機体からアナウンスが入る。
ただそれだけで、激昂していた鈴の表情は怒気を隠さないまま鋭く研ぎ澄まされた。感情的になって少なからず動きの乱れていたセシリアとは逆、感情的になればなるほど冷静に思考を働かせるタイプのようだ。
「後悔しても遅いわよ」
「後悔? 何のことやら」
[2、1]
鈴が纏う甲龍の手に現れる、巨大な一対の青竜刀。俺の雪片より遥かに大型で、間合いも長いが、生身とは次元違いの機動力を持つISでの戦闘において、剣の長さの多少の差などほとんど意味がない、とは司の談だ。軽ければ小回りが利き剣速が速いが威力に劣り、重ければ大ぶりで剣速も遅いが威力は重いほど次元違いに上がる。
そして俺の雪片は、基本的には前者。ただし、零落白夜を使えば威力はIS装備最強のレベルになる代わりに、刀身の部分がPICによる慣性制御を無力化してしまうので剣速が落ちる。ついでに言うと、エネルギー消失の時に発生させる特殊なノイズがPICに干渉するらしく、ミスると機体に流れ込んだノイズで斬撃だけじゃなく機体の速度まで鈍りかねないなど、欠点も少なくない。
(
司やセシリアとも相談してみたが、この戦いに際して、おそらく鈴は全く知ら調べをしていない。つまり零落白夜の事を知らないので、上手くいけば不意打ちに一撃必殺できる。
「叩き潰す」
「やってみやがれ!」
[0。試合開始]
開始と同時、司に執拗に仕込まれた
これは、PIC操作で作った空気の薄い(=空気抵抗の弱い)空間を移動することで推力は変わらないまま大きな速度を出す技法で、もう一つ仕込まれた機動技術である瞬時加速と違い、推力が上がっていないので途中で軌道を変更するのが容易いという利点がある。その代り、移動しながらでも準備できる瞬時加速に対し、瞬動術は発動直前に一定時間同じ場所に留まる必要があるなど欠点も多いが、試合開始時なら瞬時加速よりも幾らか速度が劣る以外およそ欠点のない優れた技術だ。
それに何より、瞬時加速は奇襲にこそ最大の効力を発揮するので、本当に重要な時、できれば勝負を決めるとき以外使うな、と司に念を押されている事が大きい。
「教えてやるよ鈴! この剣は雪片二型、千冬姉の暮桜の、零落白夜を受け継いだ、俺の最強の剣だ!!」
想像以上の加速に若干驚いている様子の鈴に、威嚇の意味を込めて大声で叫ぶ。
IS界における一撃必殺の象徴、零落白夜の名を耳にして、鈴の顔にわずかな脅えが走る。実際使っている俺からすると色々と欠点が見えるが、千冬姉が使っているのを見ていただけの大多数の人間には、零落白夜はさぞかし無敵最強の能力であるかのように映っているだろう。
――故に、このように見せ札にすることで威圧も可能だ。
白式には武装が一つしかない以上――あるいはその事が知られていなくても、俺がブレードだけを使っている以上、そのブレードには菊一文字のように絶大な威力を発揮できる何かがあると警戒するのは当たり前。零落白夜を知られていなくとも、向こうが肉を切らせて骨を断つを選択してくる可能性は低い。
これはセシリアや他のクラスメイトの意見だ。どうせあまり意味がないなら、“強力”ではなく“一撃必殺”と教えてやれば相手は接近戦において必ず脅えが生じる。司のスパルタ訓練で衝撃砲ならほぼ確実に回避できるお墨付きを得ている以上、遠距離に徹される事はさほど脅威ではないのだし。
剣士の端くれとしては複雑な気分だが、IS操縦者において剣士は少数派なので、俺が学んだのはほとんどが銃に対処する方法。よって、今の俺は剣と戦うより銃と戦う方が得意なのだ。対する箒がひたすら剣を仕込まれている事を思うと非常に複雑な気分だが。なんでも、箒は俺より遥かに直感が鋭いので、千冬姉ほどではなくとも銃が効かないタイプらしい。
「っ、だから、どうしたってのよ!! 専用機持ちが、んなことでビビるかぁぁーーーー!!」
びりびりと肌が震えるような、小さな体に似合わず、あるいは甲龍の名に相応しい咆哮、もとい、怒号。わずか一年で専用機持ちに上り詰めた者の気迫は、司の剣気に慣れている俺の体をすら一瞬鈍らせるほどのものがあった。
肩の上に浮かぶ二つの球体が開き、そこにエネルギーが集束。空中に形成された砲身の方向を何となく感じ取って、回避の為の思考を頭の隅に置いておく。
一拍置いて、発射。不可視の砲身から発射される不可視の砲弾は、押し固めていた圧力を失って膨張しながら迫りくる。
以前と比べて随分鋭敏になったエネルギー系への感知能力に感謝しながら、少しだけ大きめに回避して更に突撃。回避先を予測したであろう偏差射撃は大きく横にずれ、鈴よりも遥かに射撃において巧者であるセシリアに日頃から滅多打ちにされている俺の回避機動が、鈴の想定よりも遥かに鋭敏であったことがわかる。
その事に少し眉を上げて驚きつつも、元々接近戦をするつもりだったらしい鈴はまるで動じず更に近づいてくる。
「はっ!」
そうして、手にした青龍刀の刃を振りかぶったのを見てとった俺は、景気付けに声を出しながら、射程ギリギリの位置でコンパクトに雪片を一閃。重量負けをものともせず一方の刃を弾き、直後追撃してきたもう一方よりも早く、刃を弾きながら一歩分踏み込んだ俺の切り返しの刃が鈴の胴体を襲う。
鈴がスラスターの噴射方向を変えて退避し始めると同時に、追撃の青竜刀の速度が急激に加速し、先ほどの一撃の数分の一以下の軽い斬撃が、鈴を斬撃の殺傷圏内に納めていた雪片の刃を弾く。
そして、一度考えをまとめ直すために、俺もスラスターを反転させて大きく後ろに飛び下がった。
――剣術においては俺の方が大きく上回り、PIC操作とスラスター制御は鈴が遥かに上。ただしその出力は白式が圧倒。マニピュレーターの運用は、たぶん鈴が上だけど、出力の問題で俺の方が膂力はある。結果、斬撃の重さは片手と両手にもかかわらずほぼ互角(一撃を放ってからもう一方へとPIC干渉強度を流動させるのが鈴は上手い、という事だ)で、手数は互角か向こうの方が上だろうか。
難しいな。俺が勝ってるのは剣術と出力で、IS自体の運用は鈴の方がずっと上。パワーゲームに持ち込めば俺の剣術の利を生かしにくく密着距離での技巧戦に持ち込めば出力の高さが生かせない。鈴はどっちでも十分持ち味を生かせる。
そして、向こうには射撃武器があるがこっちにはなく、でも今の俺は剣相手に戦うより銃相手に戦う方が得意。
(や、やりにくい! クラス対抗戦に確実に勝つための訓練じゃなかったのかよ!)
これなら剣相手の戦い方を学んだ方が絶対戦いやすかったぞ! と内心で叫ぶ。
――なお、司の目で見て鈴相手には元々結構勝算があったから、相性の悪い四組のクラス代表と戦う事に特化したメニューを組んでいたのだと俺が知ったのはこの試合後の事だ。そうならそうと事前に教えてほしかった。
「それで、私に勝つ方法は見つかった?」
声をかけられて、はっとする。思ったよりも長い時間考えていた、というのはまだいいが、声をかけられてはっとしてしまうほど鈴への注意が薄くなっていたというのは問題だ。
「余裕だなぁ、鈴」
「当然でしょ? ちょっといい武器、良い機体もらったからって、ISに触って一ヶ月のど素人が粋がってんじゃないわよ。素人の拳銃より達人の木刀の方が強い。零落白夜は千冬さんの象徴だけど、あの人の強さの理由はそんなもんじゃないでしょうが」
当然だ。千冬姉なら零落白夜なしでも世界の頂点ぐらい余裕でとれる。
現に司は、菊一文字という、出力が大きいだけで機構自体は珍しくもない剣で一撃必殺の剣技を編み出している。しかもその完成度は、千冬姉をして「消費を別にしても(自分のPICを無効化するため柔軟な運用が難しい)零落白夜より有効」と言わしめる代物だ。千冬姉が暮桜で重宝したのは、最強の剣・零落白夜よりも、千冬姉の動きについてこられるその追従性の方だろう。
そこまで考えて、ハッ、と短く息を吐いた。
「全くだ。けどなぁ――――!!」
鈴にそういう意図があったのかはわからないが、「俺が零落白夜を振るう事は、最強の象徴をただの強い剣に貶める行為、千冬姉の象徴を貶める行為だ」と言われた気がして、
「
――――千冬姉の、弟だ!
そう全力で宣言し、打算の一切を投げ捨てて瞬動術による超加速。何故か衝撃砲での牽制を行ってこない鈴へと一直線に突っ込み、
「ん、良い眼になった。ごちゃごちゃ考えるよりそっちの方がよっぽど似合ってるし、その方がずっと強いわよ。あんたは」
瞬動術の加速が消えないうちに発動した瞬時加速で更なる速度を得て、傲然と立ちふさがる鈴と甲龍へと肉薄、
「でも――――」
居合抜きのイメージで雪片弐型を高速で振り抜き、命中にぎりぎり間に合うタイミングで零落白夜を発動し、
「――――持ち味を生かせば勝てるだなんて、この私を、この甲龍を、ナメてくれた物よねぇ!!」
――全ての動きを完全に見切られた一閃で、雪片の
千冬姉の象徴たる剣を、その域まで辿り着くという俺の誓いの証でもあるそれを、弾き飛ばされることを何より恐れた俺は、反射的に腕に力を込める。
それが、ただの強力な武器に過ぎない雪片に拘ってしまった事が、動きを読まれていたこと以上の最も致命的な隙となって、
「
射角が完全無制限という特性を生かし、砲身を形成せず、
――――ズガァァァァン!
――――ISの反応が間に合わないマッハ数十の速度で真横に着弾した、超々高出力レーザー砲によりプラズマ化した空気の衝撃波で、アリーナ外壁へと吹き飛ばされた。
◆◇◆
「逃げなさい、一夏!」
レーザー砲によって作り出されたアリーナ中央の巨大なクレーターに、立っている黒いヒトガタを見て、鈴は即座にそう叫んだ。
「ふざけんな! 状況はよくわかんないけど、女の子一人置いて男が逃げられるかよ!」
――今の俺は、ISを使えないがために女に守られるしかない弱い男ではないのだ。鈴の言葉に、何の抵抗もできずに捕まって、助けられる事しかできなかった三年前の苦い記憶を想起した俺は、反射的にそう叫んでいた。
すると鈴は顔を真っ赤にして数回口をパクパクとさせると、直後、険しい表情で叫んで俺の前に出た。
「わ、私は国のIS操縦者、つまり軍人なの! 男とか女とかの前に、軍人にはあんたら民間人を守る義務が、あんたらの代わりに戦う義務があんのよ! あんたを戦わせた時点で私の負けなんだから、とっとと後ろに下がりなさい!」
――それを聞いて、その意味を理解して、俺は愕然とした。
確かに俺はISを動かすことができて、専用機も与えられた。司や、セシリアや、他のクラスメイト達と、千冬姉と、レベルこそ違えど同じ土俵に立てた気がした。でも、
「“織斑”だろうが何だろうが、あんたは自衛のためにISを貸し出されただけの、一般市民でしょうが!」
俺は未だに、守る存在ではなく、守られる存在なのだと。鈴と違って、司と違って、セシリアと違って。何の義務も課されていない俺は、何かを背負った気になっているだけの小僧だったのだと理解して――――
「危ねぇ! 鈴!!」
――そんな理屈を蹴っ飛ばした。
想定より数段、数桁低い威力のレーザー砲を零落白夜で
「あんっ、たなに聞いてたのよこのアホンダラぁ!!」
乱入してきた黒いISに向ける以上の剣幕を俺に向けて、早口でまくし立ててくる鈴。
民間人を戦わせたら負け。その言葉の通りなら、鈴はすでに負けだ。その事については謝ろう。だが、そんな事より重要なことがある。俺個人の信条とか、そういう物じゃなく。
「そっちこそ何言ってんだ鈴! 軍人だろうが民間人だろうが俺は今ISに乗ってる! だったら、
その事にようやく思い至ったのか、鈴ははっとして、苦虫を噛み潰したような表情になった。
あいつの攻撃はアリーナの遮断シールドを容易く貫いた。ってことはつまり、観客席にいる一般生徒もあいつの攻撃を受ける可能性がある。
あれだけの威力を出すには多分十分なチャージが必要だから、鈴一人でももしかしたら観客を守り切れるかもしれない。だが、もしそれを撃たれたとき、防げるのは俺、もとい零落白夜だけだ。
ならば、それは俺の義務だろう。
零落白夜におんぶにだっこだってかまいやしない。これが千冬姉の象徴だろうが何だろうが、今それを握っているのは白式を纏う俺で、暮桜を持たない千冬姉じゃない。大事なのは守れたという結果で、守り方でも俺の強さでもないのだから。
『私なら五秒。遮断シールドを
そんな俺を後押するかのように、すでに雛菊を纏った司から通信が入る。アリーナの遮断シールドは司の菊一文字ですら破壊できない。それができるのは零落白夜だけ、つまりこれもまた、それを持つ俺だけができる事だ。
「あーもう、この分からず屋がぁぁぁぁ!!」
「それはこっちの台詞だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
黒い機体への対処、もとい時間稼ぎと足止めが鈴の役目。流れ弾への対処と遮断シールドの破壊による司の招き入れが俺の役目。そしてあれを倒すのはこの場の最強戦力たる司の役目。
無言のうちにそう決まって、鈴は、頭が直接胴体についているかのように首がなく、腕部が肥大した、のっぺりとしたフォルムの黒い機体へと瞬時加速で突撃した。
・登録動作復元
事前に登録されている特定動作サポート用のプログラム。普通に似たようなものは元々入っているが、これは完全に一つの動作だけに特化した物であり、全く同じモーションでの復元しかできないので非常に使い勝手が悪い。
例えばこれで個別連続瞬時加速をやろうとした場合、発動時の移動速度を登録動作の誤差範囲内に収める必要があるという使い勝手の悪さ。今回の場合も、停止していなければ使用できなかった。
・
二本の青竜刀を肩越しに背中に構え、腕部と肩部の衝撃砲で作成した空間圧のレールによって加速、加重した極大威力の振り下ろし。
衝撃砲はトリガーにしかイメージインターフェースを使用していないという原作設定があるので、実はこれは甲龍の仕様では登録動作復元でしか発動できない。
後、あれだけかっこつけておいてなんだが白式を一撃で落とせる威力はない。零落白夜をもってすればまだまだ逆転が狙えるレベル。所詮、燃費重視型である。