はやくバトルパートに入りたい。
7/25:冒頭部を僅かに加筆
8/18改稿
学年別トーナメントで優勝すると、織斑一夏と付き合えるらしい。
何を言っているかわからないと思うけれど、安心してほしい。私も、何を言っているかわからない。
「どうしてこうなった…………」
夕食の後、突然私の部屋に相談に来た篠ノ之箒は、何故か頭を抱えてうんうん唸りだした。
ちなみに、恋敵的な感じに敵視されていた以前と違って私と篠ノ之箒の仲はそう悪くはない。織斑一夏が私の事をどう見ているかはともかく、私の側には織斑一夏に特別な感情はないと理解してくれたようだ。
しかし、だからといって私に相談されても困る。というか、相談するならきちんとその経緯を話しなさい。
「実はだな……」
そうして語り出した
――数日前、篠ノ之箒は織斑一夏に「学年別トーナメントで
しかし、学年別トーナメントでの優勝とその先の織斑一夏との男女交際を
非常に心当たりがある。けど私が言ったのはそういう事ではなかったはずだ。どうしてこうなった?
(なるほど。よくわかった)
たったこれだけの事を話すのに時間かけ過ぎだと呆れつつ、頷く。
単純に、人の耳があるところで篠ノ之箒がその話をしてしまったせいでその事が噂になり、なぜかやたらと女にモテる織斑一夏の事、彼に惚れている女子たちの願望もあって噂に尾ひれがつきまくり、多分、中国かイギリスの友好国の工作員が現在の形に定着するよう全体を誘導したのだろう。
凰鈴音やセシリアが優勝すれば、元々織斑一夏と仲のいい彼女が織斑一夏の恋人なのだという噂に高い信憑性を与える事ができる。まぁ、篠ノ之箒の話を聞く限り、織斑一夏はただ篠ノ之箒の宣言を聞いただけで、その事に微塵も同意していないと思うけれど。
正直そこまで効果が期待できるものか? とは思うけれど、それは費用対効果という奴だ。少なくともコストは低い。リスクは……微妙。他国の人間に優勝されたらそれをそのまま利用されるから、どちらかと言えばありそうなのは凰鈴音の方だろうか。セシリアはタイマン向きじゃないから模擬戦の勝率が悪いし。
(まぁ、編入生の存在で完全に当てが外れたでしょうけど)
私は元々参加しない。ワンサイドゲーム過ぎて余りに意味がないから、エキシビジョンマッチで楯無と殴り合うだけだ。
だからこそ、それなら凰鈴音やセシリアの勝率も低くないと考えたのだろうけれど、ラウラ・ボーデヴィッヒはあの二人とは強さが最低でも一回り違う。専用機の性能次第では二回り。相性も特別良くも悪くもないし、順当にラウラ・ボーデヴィッヒが勝つはずだ。
中国かイギリスの
という背景の事情はさておき。
「どうして、こうなった……」
――はて、何を言ってやるべきだろう。
一応、言いたいこととしては主に四つ。
『相手は世界でただ一人の男性IS操縦者。親が不明なせいで遺伝性の有無すら確認されて無いのに自由恋愛なんてできる訳ないでしょ』
まぁ、遺伝性だけならどうにかならないでもない。クローンが無理だったとしても精子提供とかいろいろ方法がある。しかし、相手は織斑千冬の弟だ。宣伝効果から何から、彼一人確保するだけでその国が得られる利益は計り知れない。
『そもそもそれ絶対、
凰鈴音と同じパターンである。それは約束ではなく強要だ。他の問題を考慮しないとしても、せめて相手の同意を得てから“約束”という言葉を使いなさい。
『あの鈍感馬鹿に“付き合ってもらう!”で意味通じるわけないでしょ。バカなの? 絶対向こう買い物とかだと思ってるわよ?』
僅か二ヶ月ほどの付き合いの私で分かるのに、日ごろから幼馴染とか言って周囲を牽制している篠ノ之箒に理解できないとは思えない。恋する乙女だから、何だろうけれど、視野狭窄にもほどがある。それとも、あの鈍感馬鹿でも自分の言葉だけは必ず理解してくれるとかいう謎の確信があったりするのだろうか。
『そういうのは人に聞かれないところでやりなさい!!』
これは言うまでもない。まぁ、どこぞの諜報員が仕掛けた盗聴器に引っかかったとか、遠距離から唇を読まれたとかそういうパターンもあり得るので、これを責めるのは酷なのかもしれないけれど。
「…………」
そんな風に色々考えて、全部やめた。よく考えれば言うべき事なんて最初から一つしかなかったのだ。
「勝てばいい」
元々の“約束”の“篠ノ之箒が優勝したら”の部分が“優勝した誰かが”になったところで、その“優勝した誰か”が篠ノ之箒であるなら何も変わらない。後は篠ノ之箒と織斑一夏の問題なので勝手に喧嘩してほしい。
そんな想いをこめて一言でその悩みをぶった切ると、篠ノ之箒は、はっ、と目を見張った。なお、私は篠ノ之箒が優勝できるなんて全く思っていないけれど、彼女相手にきちんと世話を焼く気は全くないのでその場しのぎで問題ない。篠ノ之箒の好感度も稼いでおきたくはあるけれど、色恋に関してははっきり言って労力に見合わないのだ。
「そうだな。その通りだ。何を弱気になっている篠ノ之箒! 私が優勝すれば何も問題はない! 栞に散々修行を付けてもらって、こうして激励までしてもらって、負けるわけにはいかないだろう!」
(いや、激励してないから。というか猛るなやかましい)
そして、何やらハイになって大声で宣言し始めた。たぶん、織斑一夏に約束を宣言した時も、人の少ない場所を選ぶまでは考えたんだけど、言う時になって勇気を振り絞る為についつい大声になったから誰かに聞かれたんだろうなぁ。とどうでもいい感想を覚える。
まぁ、クジ運次第ではあるけれど、どうせ勝つのは織斑一夏、ラウラ・ボーデヴィッヒ、シャルル・デュノア、更識簪の四択だ。
更識簪のクラス対抗戦の時に作った装備を見せてもらったけど、あれを使われると飛び道具が使い勝手の微妙な衝撃砲しかない鈴では遠距離から一方的に嬲られる。雛菊のデータを渡してるおかげで、武装面以外ではあの子の専用機も最終調整まで進んでるから、訓練機用の装備を載せればどうにかなるはず。
「待っていろよ一夏――――」
「はぁ……」
部屋に他人の匂い、あんまりつけたくないんだけどなぁ。独り言とは思えない大きな声で独り言らしきことを垂れ流している篠ノ之箒を現実逃避気味に見ながら、そんなことを思っていた。
◆◇◆
そして、翌日。
今度行われる学年別トーナメントが2on2のルールになって織斑一夏とデュノアに大量の女子が群がったり、織斑一夏のパートナーの座を求めて篠ノ之箒と凰鈴音がしのぎを削っていたら織斑一夏とデュノアがすでにタッグを組んでいて両方ご破算になったりと、朝からやかましい一日だった。
ただでさえ昨日、篠ノ之箒が大声でわめいて唾を飛ばしてくれたせいで、匂いが消し切れなくてよく眠れなかったというのに本当に勘弁してほしい。眠るとき、もしくは眠っている時に他人の存在を感じる何かが周囲にあるというのが私は本当にダメなのだ。
というわけで、今日は働きたくないので織斑一夏のコーチを二日連続でさぼって部屋で惰眠をむさぼろうとすると、ラウラ・ボーデヴィッヒに捕まった。しかも、デュノアの調査報告を聞いたことでさらに精神疲労が増大している状態で、だ。
「なぜですかお姉さま、なぜあんな奴に――――!!」
なんでも、私が織斑一夏にISを教えている事が納得いかないらしい。
適当にそれっぽい事を言って追い払おうか、と一瞬考え、つい、躊躇いを覚えてしまう。それはやはり、なんだかんだ私が誰かの面倒を見る事が好きで、千冬先輩の昨日の言葉も、千冬先輩が一方的に語っていた、
「千冬先輩が大切にしている家族。私には、それ以上の理由はいらない」
まぁ、本当はあんなよわっちい奴が零落白夜を使っているのが納得いかないからというのもあるのだけれど、今はこの子のタメになる事を言うべきなので割愛する。
「し、しかし――!!」
「
何か感情的に反論しようとする
「あなたのそれは、何のための力?」
何を聞かれているかわからないのか、ラウラは訝しげに首を傾げた。
「あなたは求道者? 強くなって強くなって強くなって誰よりも強くなって、誰よりも強くなっても強くなり続けて、そのまま前のめり倒れて死ねば、あなたは満足?」
フルフルと首を振るラウラ。
「なら知らないといけない。力とは、選択肢を増やすための物。手段であって、目的ではない。その選択肢を、自分の未来を選ぶのは自分の“意思”。少なくとも、私はその為に力を求めている。必要になった時に、己の意思を貫く為、選びたい選択肢を選び取る為に」
一度言葉を区切り、おそらくはそんなこと考えたこともなかったのだろう。呆然としているラウラを正面から見据える。これは、真実私の本音だ。元々目的が決まっているという一点を隠しているだけで、力を求める理由に嘘はない。
「あなたは、何のために力を求めている?」
意識して、ラウラを威圧する。問いかけながら、その実は「理由なんて持っていないでしょう?」という決めつけだ。彼女の持つ、自分に対する自信を破壊することで新たな自分へと変わるきっかけを作る為の。
その赤い瞳から深層心理をくみ取るかのように、精神の切っ先を向ける。
「あ、わ、私は……」
拙い言葉だけれど、雰囲気とかを工夫すればそれなりに真実味も生まれるし、人の心を動かせる。ラウラにも、それなりの効果があったようだ。まぁ、それにしたところで、尊敬し、心を許している私の言葉だったからこそだと思うけれど。
感情的に反発さえさせなければ、後で冷静に自分の事を見つめ直して私の言葉にもある程度の理がある事を納得してくれるだろう。
「見つからないなら、今は将来の為でいい。いつかそれを見つけないといけないこと、力は手段であって目的ではないこと、それを覚えてさえいれば」
――もう、行きなさい。
最後にそう言って、反論を許さずさっさと追い払う。私が歩き去ってもよかったのだけれど、少し用事が増えたので。
後ろを振り向き、柱の陰を見つめる。
「あなたはどう?
「それを答えて、何か意味があるんですか?」
――ここから先は第二ラウンドだ。正直あまり意味のある行為ではないけれど、薬にも毒にもならないなら、助言ぐらいしてあげてもいいだろう。
――――まぁ、今の不安定な私じゃなかったら、あるいは直前まで似たようなことをしていなかったら、そんなこと考えもしないんだろうけど。
彼女の手助けをしたいと思う私と、そんな自分に呆れている私。二つの感情が別人格ほどに分裂している感覚に不快感と諦観を覚えつつ、それを表に出さずに鋭い眼で相手を見据える。
「さぁ。私はただ、選べる選択肢の存在に気付いていない事に、呆れているだけ」
「?」
選べる選択肢。先ほどまでの会話の流れで言えば、つまり「あなたは無力じゃない」と言っているに等しい言葉に、シャルロットは首を傾げた。
実際、そうなのだ。女尊男卑が非常にいびつな形で世界を席巻している現代、彼女が抱えている(と、本人が思っている)事情は、公表されればシャルロット自身のIS操縦者としての才覚やその容姿の美しさもあって、デュノア社を傾けるどころでは済まない可能性が高い。まして、彼女は社内にすら現場レベルでは味方が多いのだから、その気になれば上層部の首を挿げ替えるところまで行ける可能性も低くない。
もちろん、IS企業というのは半国営のようなものだから、そんなことをしようとすればフランスという国家そのものに排斥されかねないけれど、その国家としての力を振るうのが極めて困難なIS学園という環境内なら、先手を打って処理したり隠蔽しきるのは極めて難しい。精々事後的に事態を収拾することぐらいだろう。
まぁ、彼女が社員の生活まで気にしてその選択肢を取っていないのなら、それはそれで一つの選択だけれど。
などという事を言う訳にもいかない――当たり前だ。彼女の思っているそれのほとんどは誤解なのだから、本当にデュノア社転覆なんてされたら困る――ので、
「あなたの才覚は、デュノア社程度に縋らないといけない物? ここIS学園で、デュノア社が、あるいはフランス政府が、どれだけの力を振るえる?」
フランス以外にだって、あなたの才能を欲しがっているところは幾らでもある、という建前を語る。
まぁ、建前だ。何故かと言えば、国家に十分な信頼を受けた専用機持ちのIS操縦者でありながら他国に身売りした操縦者なんて、危なっかしくてろくに使えはしない。背景にどんな事情があったとしても“己の利益の為に祖国を裏切った”のだから。よっぽど世間から人気を集めて体面的に冷遇できない状態に持っていければ話は別だけれど、そこまでの政治力があれば現状に甘んじてなどいないだろう。
それだけ言って、足早に歩き去る。残った彼女が何を考え、何をするのかはもう、私の管轄ではない。