司VS楯無は司視点と楯無視点をめまぐるしく変更して高度な心理戦を描写しないとあんまりおもしろくならないと思うので書きません。
次は一話丸々一シャルVSセシ鈴の予定。
7/25:司が防いだのに一夏がラウラに殴られたことになっていたのを修正。
8/18改稿
「一夏、相談があるんだ」
そう、居住まいを正してシャルが持ち掛けてきたのは、何故かとんでもなく思いつめた顔で帰ってきて心配した日の三日後の事だった。
あれから、ずっと何か悩んでいるようだったシャル。ここIS学園でたった二人の男同士として心配して事情を聴いても一言も漏らさず、それどころか普段から何となく避けられている始末。心配であるのと同時にいい加減寂しくなってきたころだった。
ようやく話してくれる気になったか、と内心小躍りしてその続きの言葉を待つ。
何やら決心した様子がありありと伝わってくるシャルの口から発せられたのはとても意外な言葉だった。
「ラウラとの戦い、僕にやらせてほしい」
その、シャルの言葉に首を傾げる。
この間、ボーデヴィッヒとシャルが戦った日、学年別トーナメントがタッグマッチになり、二人で組むことを決めた後にラウラ対策は一度話し合っていた。
その時の結論としては、一対一では限りなく勝ち目が薄いという事。なので、できれば俺があいつを引き付けてひたすら逃げに徹している間にシャルが最速でもう一人を落とす。それが無理なら、あいつを激昂させるよう心理戦を展開して相手側の連携を乱すというのが有力な候補だった。が、シャルはそれを一人でやろう、というのだ。
「勝てるのか?」
「勝ってみせる」
勝てる、ではなく、勝ってみせる。そう言ったシャルの目にはわずかな不安が宿っていたが、俺はそれを指摘しなかった。
「一度限りの奇策になるだろうね。成功すれば勝てるけど、確実に成功するというにはラウラについての情報が足りな過ぎるよ」
それでも、確率は高いと思うんだけどね。シャルは笑って言う。
勿論どうせ戦うなら勝ちたい。でもそれは、納得できない勝ち方なら全力を尽くした気持ちのいい負けの方が納得できるという程度の弱い感情だ。これでシャルに任せて負けても納得できるだろう、という妙な確信で俺は頷いた。
「分かった、その
提案、つまりこれはシャルのワガママなんかじゃなく、あくまで作戦の一つだ。そんな言い方をした俺を見て、シャルはクスリと笑った。俺が気の利いた事を言うのはそんなに変だっただろうか。
――そもそも俺自身は別にあいつを俺の手で倒すことに拘っていない。
確かに俺もあいつについては思うところはある。初対面ではいきなり殺意込みで殴られかけたし、この間も思いっきり図星を突かれて古傷を抉られた。ついでに言えば、今に至るまでそれに関する弁解や謝罪も皆無だ。
けど、初対面はその後のお姉さま発言で完全に毒気が抜かれてしまったし、その後もシャルの行動が意外だったこととか、完全に精神的に負けていた様子とかを見て、あいつ自身の事も何となく迷子の子供のように見えて、怒りの感情が萎えてしまった。
しかも
「だから、一夏にやって欲しい事は一つ――いや、二つかな」
「二つ?」
あいつとの戦いに邪魔が入らないように、俺にはもう一人の相手をしておいてほしい。そう言われると思っていた俺は首を傾げる。
「うん、二つ。一つは勿論僕がラウラと戦っている間もう一人の相手をしてほしいって事。そしてもう一つは――――」
にっこりと笑って、シャルはその
言われたその内容に俺はしばし呆気にとられ、
「シャル」
「なに?」
「お前、素であざとくないか?」
「?」
やっぱりなんだかんだ正々堂々とはいいがたいというか、そのだまし討ち的な手段に軽く引いた。
――ちなみに「心を弄ぶ、つまりトラウマやらコンプレックスやらを抉ったりするんじゃなければいいんだよ。戦いに心理戦を混ぜるのは当たり前じゃないか」という事らしい。やっぱりシャルはあざとかった。
◆◇◆
そして、やってきた大会当日の日。
この三週間弱、毎日のように連携訓練やらを繰り返してきた俺とシャルの初戦の相手は――――
――1回戦第1試合 1-1.織斑一夏&1-1.シャルル・デュノア VS 1-1.セシリア・オルコット&1-2.凰鈴音
――――あるいは今大会出場ペア中最強かもしれない優勝候補筆頭、俺たち以外たった一つの専用機持ち同士のペアだった。
そして、
「セシリアと鈴、強敵だな」
電光掲示板から視線を外さずにそう呟いて、俺は軽く武者震いをした。はっきり言って、シャル一人ならセシリアや鈴には勝てるだろう。
セシリアも鈴もシャルも、何度も一緒に訓練してその実力は知っている。作戦上の理由から、
だが、今回はタッグ戦。セシリアにも鈴にもシャルにも一回も勝った事のない俺がシャルのパートナーなのだ。俺を先に落として二対一にすれば向こうは優位に戦えるし、俺を囮に序盤の内にシールドエネルギーで優位に立てばこっちの勝率は大きく上がる。責任重大だ。
視界の端で頷いたシャルの横顔を盗み見る。普段浮かべている微笑は消え、怖いほどに真剣な表情。箒や司が刀なら、シャルのそれはまるで拳銃のようなそれだ。
「そうだね。でも一夏、その隣」
あぁ、分かってるさ。そう口の中で呟いて、俺達の隣、一回戦第二試合のカードに目を移す。
――1回戦第2試合 1-1.ラウラ・ボーデヴィッヒ&1-1.篠ノ之箒 VS 1-4.更識簪&1-1.布仏本音
更識さんに、ボーデヴィッヒ。ボーデヴィッヒは今回出場しない司を除けば一年最強で、更識さんの実力は未知数だけれど、ボーデヴィッヒを倒しえるのは俺とシャル、それと更識さんだけだと司が言っていた。相性的な物も強いとも言っていたが、少なくとも鈴やセシリアに匹敵、あるいはそれ以上の実力を持っている事は間違いない。
どっちが勝ちあがってくるにしても強敵だ。できればボーデヴィッヒの方を倒したいけれど。
「それにしても、相方にラウラを選ぶなんて、箒は本気で勝ちに来てるんだね」
「だな」
箒とボーデヴィッヒの相性は、控えめに言っても非常に悪い。単純に両方社交性が低いし、共通の知人は二人に輪をかけて社交性の低い司ただ一人という関係上、接触がないから衝突しないというだけだ。
力を信仰しているような風のある(と、シャルが言っていた)あいつは、強い力を持つ者は相応の精神で己を強く律さなければならないという“道”の考えが強い箒にとって最も嫌いな相手だろう。
「そして、ラウラは、自分一人で勝てると思っている、と」
無言で頷く。俺としてはちょっと不本意な話だが、俺たちの勝率を最も左右するポイントがここだった。
あいつが相方に他の専用機持ち、とは言わないまでも、代表候補生なんかを選んでいたら俺たちの勝率は極端に下がる。シャルがあいつを嵌める前に俺が落ちたり、俺と戦いながらあいつのフォローをするのを許してしまったら、勝機は途端に墜落する。
その点、箒は銃の扱いが苦手(「銃など甘え!」な司の方針で、そもそも練習すら全然していない)なので、その危険性は非常に低い。
まぁ、剣術の腕で単純に箒が上で、しかも俺は対剣戦術をほとんど学んでおらず、剣士としての直感でも箒が大きく上回るため俺が真正面から勝てる可能性も低いのだが。実際、模擬戦で全敗しているし。あれならまだ、近づけばどうにかなりそうだった初戦のセシリアの方が楽だったろう。
「行けるね? 一夏」
「やってやるさ。今日こそ初勝利だ」
俺がそう言い切った直後、画面の表示が変化し、司と生徒会長によるエキシビジョンマッチが始まった。