作者:「簪ちゃんの無双タイム、はっじま~るよ~」
楯無:「いえーい」
8/18改稿
ビーーーーーー!! と、唐突に鳴り響いた警告音に、
周囲には何も異常がない事に一安心し、大きく深呼吸を一つ。完全に心を落ち着かせて、何があっても動じない覚悟を決めて、彼女自身が設定した、重要度最高レベルの警告音を鳴らしたメッセージを確認する。
そして、その文面を見た少女の表情は凍り付いた。
「栞……さん…………」
本文に記載されていたのはたった一言。
『主様を助けてください』
――ただし、差出人は、“雛菊”。“司栞”では、ない。
ISには意思があるというのは、多少高度な教科書なら普通に載っているレベルの常識だが、言語での意思疎通が可能なレベルのそれがあるというのは、少女にとって予想外すぎる情報だった。
が、今の彼女にはそんなことは気にならない。そこに添付されていた幾つかのデータを醒めた目で――これは逆に、極限の集中状態を示す――流し見ながら、少女はその言葉を口にした。
「《思兼》リミットブレイク。稼働率95%承認」
[特殊兵装《思兼》、開発者権限並びに操縦者権限による
重篤な後遺症を残す恐れがある。開発者である彼女自身が記述した警告メッセージは伊達ではない。脳が沸騰していく錯覚を覚え、慌てて少女は次のコマンドを口にした。
「知覚系遮断」
[ハイパーセンサーによる知覚系統機能遮断します。情報負荷、許容レベルまで低下。ただし、長時間の運用は推奨できません]
脳が加熱されるような錯覚が消えたことに満足し、少女は二度、三度と深呼吸をして精神を落ち着ける。そして、右、左と視線を投げ、ほぼ真後ろにあった携帯端末を見つけると、何故かそれを凝視した。
瞬間、携帯端末は勝手に稼働し、一秒未満のタイムラグでメールとその文面を作成、送信を開始する。
それきり少女は端末に興味を失い、もう一度大きく深呼吸をして、椅子から体を下ろし、冷たい床に横たわった。
「――――結局、あなたは自分が一番かわいいんだね。篠ノ之箒」
――誰もいないはずの作業場で呟いたその言葉は、余りにも冷たい色でその場に響き渡った。
◆◇◆
『――――結局、あなたは自分が一番かわいいんだね。篠ノ之箒』
負傷した一夏を連れ帰り、さらにその直後に突然謎の機能停止を起こした雛菊が撃墜され、司が行方不明となったという知らせを受けて意気消沈していた箒は、唐突に耳に届いたその言葉に、深く深く心を抉られた。
「っ!! 誰だ!!」
反射的に周囲を見渡すがそこには誰もおらず、直後、プライベートチャンネルからの通信だと理解する。
が、即座に他の事にも気付く。
――――私は、回線を開いてない。
プライベートチャンネルとはいわば電話のようなものだから、受信側が回線を開かないと通常その音声が届く事はない。
が、そんな理屈を完全に無視し、送信者である水色の髪の少女の姿が箒の視界に強制的に投影される。
「簪さん……??」
その疑問符は、何故知っている? と聞きたかったのだろうか。それは箒自身にすらわからなかった。
しかし、その問いの意味如何に関係なく、簪は元々、箒の話を聞く気など微塵もない。彼女の大切なもう一人の姉を、結果的に傷つけた彼女を、簪は許す気がまるでなかった。
『…………殺人事件の被害者遺族が、加害者に対して一番何を望むと思う?』
唐突過ぎる問い。しかし、答えなければならないのだと何となく感じて、箒は混乱しながらも、何とか言葉を絞り出した。
「死ぬこと……か?」
その答えに、簪は「全然わかってない」とでも言いたげに首を振った。
『その命を代償に、被害者を生き返らせること、だよ。あなたに本当に償う気があるなら、その命を懸けて栞さんを探し出して、助けるべき』
返された
だが、と箒は言い訳のように口を開く。
――私はもう、剣を握れない、と。
箒にとって剣とは力の象徴であり、同時に、暴力に酔いやすい自分の業の、罪の象徴だった。自分が力に酔って浮かれていたがゆえに一夏と栞を撃墜させてしまった箒にとって、刀それ自体が最早トラウマになっているのだ。
『ふぅん。結局あなたは、自分が可愛いんだ』
――――罰を受ける事で、救われたいんでしょう?
生まれた家の事情ゆえに非常に鋭い観察眼を持つ簪は、箒がその身の内に秘めた、本人すら気づいていない願望を無遠慮に引きずり出して、傷口を抉る。
その心底から見下した目線が、今まで箒が加害者になった全ての事件の被害者の像に重なって、そこから流れ出す幻聴が口々に箒を咎める。
『他の
箒の視界の端に、臨海学校に参加している他の専用機持ち四人の顔が連続して浮かぶ。
『――――私が、きっちり使い潰してあげるから』
◆◇◆
「ふぅ」
中枢に比べれば非常にセキュリティの甘い表層部分だけではあるものの、
メールで自分の従者に頼んでおいた通り、いつの間にか簪の体はマットレスの上に横たえられていて、ついでに毛布やスポーツドリンク、糖分補給用の大量のチョコレートまで用意されていた(なお、箒の視界に映っていた姿は簪が脳内で構成したイメージ映像であって、実際の簪の姿ではない)。
その後は迅速に姿を消している事を含め、本当に気が効く従者だ、と簪は微かに微笑む。
だがその右目には無数の数字列が超高速で流れており、もし今の彼女の思考を誰かが覗いたとすれば、二十本の腕を自由自在に動かして文字通り人間の限界を超えたタイピングをしている人物の主観視点を見る事が出来ただろう。
――打鉄弐式専用・準第三世代特殊兵装《
それはそもそも、「ハイパーセンサーの思考加速を利用して高速でプログラミングができないものか」と考えた簪が組み上げた、ISコアを利用した一種の開発補助ツールだった。
そこからさらに、ハイパーセンサーの機能を一時的にカットすることでさらに思考速度を上げたり、初歩的なイメージインターフェースを使って、思考による文字入力(簪命名:思考キーボード)ができるようになるなど様々な改良を施され、この間などは実際の戦闘時に使用するための機能特化版や、それを訓練機の打鉄で使用できるようにダウングレードしたものなども作成されている。
しかし、結局のところその機能は至ってシンプルだ。
“ISコアの思考補助により使用者の思考を加速させ、思考キーボードによって物理的な入力速度限界を突破する”
事実、思兼の機能とはただそれだけである。だがしかし、自身も準人外級に列せられるIS操縦者としての才を持つ栞が、人外級一歩手前と称するほどの圧倒的な思考演算能力を持つ簪が扱えば話は別だ。
それこそ、瞬く間に多数の軍事衛星を掌握してその映像をかすめ取ったり、低深度ならISコアへのハッキングすら可能とするほどに。
「…………
コアネットワークを通じて受信した専用機持ち達の視界に映る福音。栞に翼を落とされ、己が主を守るために強制二次移行をはたして四枚のエネルギー翼を生やしたその機体を睨み、簪はその端正な顔を歪めた。
「暴走していようが何だろうが所詮は機械。その動きは
――であるなら、その行動から逆に、元となるロジックの逆算も可能ッ!!
「思考を暴かれる恐怖を知りなさい、
◆◇◆
『オルコットさん、予備のビット全部出して。あと使用者権限アンロック』
意気消沈というレベルではなかった箒を全員で徹底的に言葉攻めにしてどうにか一時的にでも立ち直らせ、簪から送信されてきた座標へと向かっていたセシリアは、唐突にそんな事を言いだした簪に首を傾げた。
「構いませんが、イメージインターフェースなしでは動きませんわよ?」
分かってる、と頷く簪に首を傾げながら、セシリアはストライク・ガンナーの追加スラスターと化している四基とは別に存在する予備のビット八基を展開した。
当然、ビットと機体の同時制御の出来ないセシリアにそれらを制御する余裕などないが、そのまま落下していくようなら再度格納すればいい、と簡単に考えて使用者権限をアンロックし、
『…………案外簡単』
――なんてことをほざきながら余裕で八基個別制御をやってのける簪に絶句した。
理屈は、分からないでもない。所詮イメージインターフェースは人間の思考を機械に分かる言葉に翻訳するためのモノであり、自前の頭でその翻訳過程を代用できる頭脳の持ち主ならそんなものは不要。むしろ翻訳時の様々な齟齬がない分より細やかな制御が可能だ。
が、
「あなた本当に人間ですの!?」
その、どう考えても人間技とは思えない所業にセシリアは絶叫する。
何せ、それが人間には不可能だからイメージインターフェースは開発されたのだ。これは言うなれば、「パンが無ければ土から栄養を吸収すればいいじゃない」ぐらいの滅茶苦茶である。
しかも、心なしか彼女が動かしている時より動作が鋭敏ですらある気がして、彼女は戦慄を隠せなかった。
『思兼のおかげ、私はそんなにすごくない』
淡々と語られたいつも通りの謙遜に、それなら、まぁ……と辛うじてセシリアは納得し、その会話を聞いていた他の四人も非常に微妙な気持ちになりながら一応は頷いた。
ただ、そんな説明で彼女たちが納得できたのは、思兼という装備の事を“ISコアの機能を利用した思考支援装備”としか聞いていなかったからであり、それが純粋に思考加速と入力補助ぐらいの機能しかないのだと知ったら再び簪を人外呼ばわりしていたことは間違いない。
蛙の子は蛙。ならば更識楯無と親を同じくする簪もまた、姉と同様の準バグキャラだ。
『最初はとにかく時間を稼いで。私が相手の戦闘ロジックを解析してからが本番』
コクリ、とセシリアたちは次々に頷いて、すでに距離が一キロを切った福音を睨み付ける。
『思兼、稼動率100%承認。全アラート解除。モデリング、開始』
そして、戦いが始まった。
先陣を切ったのはやはり、この五機の武装の中で最長の射程を誇る、セシリアの解放空間戦闘用大口径BTライフル《スターダスト・シューター》。
とはいえ、本来のIS戦闘において、大口径スナイパーライフルですらその有効射程は400mほど。ただでさえ実弾銃に比べて弾速の劣るレーザー兵器がそれ以上の距離で命中するはずもない。
あくまでこれは宣戦布告の合図、とセシリアは笑い、本来の役目に従って先頭を他の四人に譲る。一方、簪の
続いて火を噴いたのはシャルの重機関銃とラウラのレールカノンだ。この五機の中では機動力でワーストに並ぶ二人は、近接戦闘では足手まといになりかねないと一歩置いた位置からの支援に専念し、二人に付き従うビットはその弾道の横を奔って更に距離を詰める。
そして最後に、箒の二刀と鈴の衝撃砲がショートレンジからの射撃を加え、そのすぐ外側を八基のビットが周遊して福音をその場に縫いとめる。
五方向から襲来する様々な種類の砲撃と、それを支援する八基の独立稼働砲台。IS操縦者としてではなく、その卓越した思考能力にこそ最大の特徴を持つ簪に管制された五機は、完全に福音を封殺していた。
◆◇◆
「…………やっぱり、近接戦闘に対する対処に栞さんの影響が色濃い」
意図せず、簪は声を漏らしていた。
今のところ、作戦は成功していると言っていいだろう。いや、成功しすぎている、と言ってもいいかもしれない。
何せ、戦闘開始から五分以上が経過して、全員合計しても未だにたったの四回しか被弾しておらず、ビットも一基も堕ちていない。
その事から、簪は相手の行動ロジックについてすでにいくつかの推測を立てていた。
まず一つ。被弾を極端に嫌う。軍用ISの最大の特色はエネルギーの多さ、シールドエネルギー換算六桁に及ぶその圧倒的耐久力だというのに、あの機体はそれを全く有効活用していない。
二つ目。エネルギー量の多さを有効活用していないといったが、それはシールドエネルギーに限っての事であり、基本的な思考は軍用ISとしてのエネルギーの多さを利用して、相手のブーストエネルギー等のガス欠を狙う戦術。その証拠に、単体に対して高密度な弾幕を張って確実に削るのではなく、常に全員に対してほとんど均等な頻度で攻撃して回避行動を強いている。
ただ、此方は一夏との戦いでは見られない傾向だったというのが少々簪には気になった。白式相手ならそれこそ、今やっているように持久戦に持ち込むのがベストな選択のはずなのだ。あの機体は零落白夜によるシールドエネルギー消費もさることながら、ブーストエネルギーもあっという間に空になる燃費最悪の機体なのだから。
何となく、前提が間違っているような気がする。ここまでのデータ収集で、簪はそんな結論を出した。
「少なくとも、ただの暴走ではない。指向性がある」
そう考えて、閃いた。何のことはない。この事件の主犯の思惑を加味すれば簡単だった。
極大加速された簪の思考の中で、瞬く間に福音の行動ロジックが構築されていく。
そして、暗い情念に瞳を濁らせながら、彼女はニッコリと笑う。
「勝った」
早すぎる勝利宣言を、訂正する者はいない
◆◇◆
『ロジック構築完了。敵機行動予告反映』
その言葉と共に、今まさに福音と交戦中の五人の視界に福音の行動予測が表示される。
現実の光景と被るように投影される数秒先までの未来の光景。何重にもダブった視界に一瞬動きが混乱するも、ある程度常人にもわかりやすいフォーマットで反映されているその映像に比較的短いタイムラグで彼女たちは適合した。
半ば反射的にその予測に従って戦闘を再開した途端、攻撃の命中率が跳ね上がる。
『作戦指示を送る。その通りに行動するように。FCS系はこっちで支援するから全部カットして』
暗い情念に瞳を輝かせた簪のその姿と、余りにも高すぎる予測の精度に五人は戦慄を覚える。
が、心強い味方であることは間違いない。実際、これまでの戦闘経過における指示も、彼女が掌握しているビットの運用も実に的確だった。
とはいえ、あくまでも論理的な思考の極地であるから、例えばこの場の人間の中でも、作戦構築すら直感で行えるだけの鋭い第六感を持つ箒なら逆に一方的に叩き潰せる。しかし現在のこの状況、相手が暴走する機械――つまり論理で動くAIであり、簪自身が安全な場所から指揮のみを行える環境下において、彼女はほとんど無敵に近い。
――そこから先は、完全に一方的な展開だった。
セシリアのBTライフルとラウラのレールカノン、シャルのスナイパーカノンが僅かな時間差で三連続発射される。
回避しようとした福音の左右を挟んだ箒と鈴が、二刀による濃密な弾幕と、威力は低いが被弾が硬直につながる為に是が非でも回避しなければならない衝撃砲の十字砲火で更に回避方向を制限。
それすらも回避した福音の足を撃ち抜いたのは八基のビットだ。
ISにおいてPIC展開機構の大部分が内蔵され、バランサーとしても重要な部位である脚に連続攻撃を浴びて福音の動きが乱れる。
直後、着弾するロケットランチャー。
射撃とほぼ同時に高速切替で武器を変更したシャルが、簪の誘導に身を任せてノーロック射撃で遠隔誘導式のロケットを発射していたのだ。
そして、PICの内蔵により自在な運動を可能とするロケットは、即座に動作を掌握した簪に操られて福音の軌道に先回り。衝撃砲に推進部分を撃ち抜かれる事で吹き飛んできたソレが、その計算通りに見事命中した、というのが本来容易く回避できるはずのロケット弾を容易く命中させたその手品の経緯である。
一度衝撃で硬直すれば最早鴨打ち。絶大なエネルギー出力によってPICが強化されていても、魔法的な神秘でも何でもない純科学の代物であるPICは必ずしも使用者を手助けしない。衝撃に耐えるために慣性を増大すれば加減速ができなくなり、迅速に退避するために慣性を軽減すれば受ける衝撃もダメージも大きくなって一方的に嬲られる。この僅かな攻防でさらにその完成度を上げた簪のトレースにより戦術ロジックを完全に読み取られている福音に、最早抗う術は存在しない。
――思考を暴かれる恐怖を知れ。
それは戦闘開始前の簪の独り言だが、奇しくも本当に、全ての行動を読まれ、利用され、叩き潰されている福音は半ば以上恐慌状態に陥っていた。
――自分の中にある主と共に戦った戦闘論理の何もかもが微塵も通用しない。
――栞に指摘された通り、自分のそれは、主に対する侮辱になりかねないほどに質の低いものだとは分かっている。
――しかしそうであってもなお、敵は全員自分より遥かに弱いはずなのに、一方的になぶられているのは自分。ISの操縦者保護機能を以てしても完全には遮断しきれない絶対防御の反動が愛しき主の体を蝕む。
だがそれでも、所詮機械でしかない福音に、恐慌からくる論理的でない行動などという選択肢は存在しない。その選択肢を選ぶことさえできればこの状況を打破できる可能性が高いとすらわかっているのに、選べない。機械は論理でしか動かないのだ。
奇襲の為にあえて短期的な最善を外すことはあっても、長期的な最善を裏切る事はその原理として不可能。
主を守るためには戦わないといけないのに、その戦いこそが主を蝕む事。そして何より、勝機が微塵も見えてこない事に、
◆◇◆
とはいえ、実を言えば簪にも想定外は存在していた。
「相手が、硬すぎるっ――――!!」
試合の基準で測るなら六桁に及ぶそのシールドエネルギーのせいで、戦闘が長期化しすぎているのだ。
勿論、それを想定していない簪ではない。五人のエネルギー管理も弾薬管理も完璧だ。多少予定が外れて必要量が多くなっても削り切れるだけの余裕は残している。技能を超えて異能に半歩踏み込んでいる簪の思考能力にそのような想定外などありえない。
では何が問題なのか。
その答えは、至極簡単だった。
(なんで!? なんでなんでなんで!? 全員が全員動作精度の低下が激しすぎる! ちゃんと戦闘の疲労も考慮に入れて余裕を持った計算にしたはずなのに――――!!)
現実は理論だけで動いていない。そう理解して
このままでは、削り切る前に連携がほつれて反撃を許してしまう。
簪と違って彼女たちは完全に理論だけで戦ってはいないからそれが即敗北につながるわけではないが、そうなってしまうと簪の能力では勝利を導く事が出来なくなる。確定したはずの勝利が崩れてしまう。
簪が見逃していた事実、あるいは、持っていなかったデータはただ一つ。
――圧倒的格上を相手に、命がけになるかもしれない戦闘をしているという事への緊張と、それによる過度の消耗。
とはいえ、本来ならそれすら問題にならなかったはずなのだ。何せ未だ年若く実戦をろくに知らない彼女たちは、ISの安全性を妄信している。命がけの戦闘などという意識が芽生えるはずもなかったから。
――そう、織斑一夏がISを纏っていながら重傷を負って、生死の境を彷徨った事実を知ってさえいなければ。
たった一つの計算外が全ての前提を崩壊させ、確定した勝利を揺るがせる。
しかし、だからこそ。
――――皆が力を合わせて掴み取ろうとした勝利がその手からすり抜けかけた、その瞬間にこそ、主人公の出番は存在するのだ。
「っ!? IS反応が戦闘区画に侵入!?」
分割した思考の一つが発見した、完全に想定外のイレギュラー。
一瞬、行方知れずになっているもう一人の姉と慕う人の反応かと期待して軍事衛星の映像から対象を割り出した簪は、落胆と同時に驚愕を覚える。
「白式? 織斑一夏?」
形態移行でもしたのかスラスターが増設されて形も変わっているが、基本的な形状も、その純白の機体カラーも、間違いなく白式、織斑一夏の専用機のそれだ。
だが、織斑一夏は福音の攻撃を受けて重症。最低でも全治二週間と診断されていたはずだった。まだ十二時間もたっていないこの時点で意識が回復するなんて、人間かどうか疑わしい回復力だ。奇跡的な回復で済むレベルすら越えている。
そんなありえない事態に数瞬盛大に混乱した簪だったが、そんなありえない事態とか、箒と並んで栞の撃墜の原因を作った憎き相手である事とかを除外して考えれば、むしろこれは好都合だ。そもそも彼が最初の戦闘に参加したのは、
『織斑一夏』
声に出さずに、思考だけで音声を作成し、強制的に開いたプライベートチャンネル回線から白式に通信を送る。
『更識さん……だったか?』
突然の通信にぽかんとした顔をする彼を「間抜け面」と通信に載せずに罵倒して、一方的に通告する。
『これから指示するタイミングで福音を撃墜して』
それだけ言ってデータを送信し、色々と恨みがある嫌いな相手との会話を即座に打ち切る。最後の決め手こそ納得はいかなかったが、当初の目標は達成されたのだ。
これで後は、福音のデータをハッキングして栞の行方を捜すだけ。手元にあったチョコを幾つか口に放り込んで、簪は一時の小休止。
――――直後、傍受している映像の中で零落白夜の輝きが閃いて、銀の福音は撃墜された。
絢爛舞踏は犠牲になったのだ。
実は、司の影響で雪羅も消滅しています。
・打鉄弐式専用・準第三世代特殊兵装《
作中で書かれていた通り、元はただの開発ツールである。が、原作でも四十八基のミサイルを個別手動制御してゴーレムⅢに叩き込むなんてことをやっていた簪に使わせるととんだチート装備に化ける、というお話。
仕様的には純粋にソフトのみの物と勘違いされそうですが、打鉄弐式本体の機能と混ざり合ってしまわないよう外部ハードにインストールされているので、一応きちんと筐体も存在する。