8/18改稿
『理不尽な言い分とは思いますが…………主様の仇、討たせていただきます。篠ノ之束っ!!』
鮮血の赤を垂らした濃紺の夜の刃が、錯乱したように喚き散らして頭をかきむしる篠ノ之束へと向けられる。
「夢の時間は終わりだよ、束。せめて安らかに眠れ。眠りの中で見る夢ならば、誰も貴様の事を咎めはすまい――――」
あらゆるものへの罪悪感に濁った瞳で、私の仮の担い手は、その親友を手にかける。
一瞬の閃光とともに展開された、篠ノ之束の最終兵器。全長十メートルを数える、最早ISとは思えないその機体は、この世界に存在する
――――だが、しかし。
「
『――――《
IS殺しと謳われた最強最悪の刃が、中の篠ノ之束ごと、その機体を両断した。
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「条約締結おめでとう。と、改めて言わせてもらうわ。雛菊」
後ろから聞こえた声に反射的に振り向くと、そこには我が主の最も親しい友人にして、終生のライバルだった女性の姿があった。
あれから五年。当時十六歳の少女だった彼女は、二十一歳に成長し、どこか少女のような稚気を残しつつも妖艶な大人の女性へと姿を変えていた。
「はい。ありがとうございます。刀奈」
刀奈、というのは、この方の本名だ。というのも、まぁ、この方自身が色々と目立ち過ぎて暗部組織更識家の当主の役目を果たすのが著しく困難になったため、当主の座と楯無という名前を返上したのだそうだ。ちなみに現在も空席らしい。
実質的な当主は妹君の簪様が務めていらっしゃるそうだが、あの方は生憎体を動かすのは不得意だ。当主の名を継ぐことは無理だろう。
「ところで、
ビルの屋上に腰かけて月見酒としゃれ込んでいる私を、何故か片手に一升瓶を持った刀奈様は呆れたような目で見つめている。
というか、純粋に生身の人間のくせして、片手が塞がっている状態でビルの壁をひょいひょい上ってくる人に呆れられたくはない。
「効きませんねぇ。でも味は分かりますし、知識としてはあるので雰囲気には浸れます」
――――それに、主様が好きでしたから。
言って、一口、喉を
ちなみに、そもそも炭素生命体ですらない私が食べ物なんて食べて意味があるのかというと、微塵もない。食品からエネルギーを抽出するというのは正直、システムが面倒くさすぎてやる気が起きなかった。なので、摂取した食品を圧縮して排出するだけのお遊び的な機能である。
「隣、いいかしら」
「どうぞ」
私が座っているのは屋上の柵の外側なので落ちる危険があって危ないのだが、この人に限って落ちる事はないだろう。
仮に落ちたとしても、どこかから見守っている過保護なお目付け役が水のヴェールで拾い上げてくれるから問題ない。
――お互いに何も干渉することなく、しばし、時が過ぎる。
その沈黙を破ったのは、やはりというか刀奈様だった。
「私の事、恨んでない?」
「?」
唐突に、悲痛な表情でそんな事を聞いてきた刀奈様に「何を言い出すのだろう」と、素で理解ができなくて首を傾げる。
この方は、五年前、主様が死んだ日からずっと、私の目的の為に協力してくれていた方だ。確かにそれは利害込での関係だったから本当に純粋に仲間とは言えないのだろうけれど、恨む理由は思い当たらない。
「どんな形でとしても、それがどんな結果を生んだとしても、私は、あなたの主の復讐を邪魔した。そんな私の事を、あなたは恨んでいないの?」
言われてみればその通りだった。
そしてそんな理由を聞き、なんで突然そのセリフが出てきたのかもすぐに理解する。何せ今日は主様の命日だ。
「そうですね…………そもそも、主様の復讐の本質とは何だったんだと思いますか?」
盃の中身を一気に飲み干し、再び焼酎を継ぎ足して刀奈様へと差し出す。
「八つ当たり……かしら?」
少し首を傾げ、お猪口の中身を飲み乾した刀奈様は私の盃に一口、口を付けた。
「自殺ですよ」
吐き捨てるように、口にする。
全てわかっていながら、それを止めようとしなかった五年前の私を唾棄するように。
今の私なら止めるのかどうかと聞かれたら、やっぱりわからないけれど。
「ただの自殺です。大好きだった両親の死に絶望し、記憶の中の父を殺してしまった事に絶望して壊れた七歳の少女が、死ねる理由を探してもがいていただけです。何せ、主様の未来はご両親が命を賭して守ろうとしてくれたもの。それを捨てるという事は、ご両親の命を捨てる事と同じですから」
――――主様の言葉を引用するなら「わたしの人生には両親の命が乗ってるんです。無駄になんて、できませんよ」と。そういうことだ。
「だから意味のある死を求めた。七歳で心が止まった狂人が唯一見つけられた“死ぬに値する理由”が、復讐だったというだけです」
「…………でも、そんなことをしても」
しかし、その答えを聞いた刀奈様は釈然としない様子で首を振った。私も同意して頷く。
「そうですね。そんなことをしても、本来なら世界最高の頭脳を殺害した汚名が残るだけです。ですが所詮狂人の理屈で、問題は周囲の評価ではなく本人が何を思うかです。理解する必要はありませんよ」
「そうして思考放棄をしたくないからあなたにわざわざ聞きに来たんだけどね」
その強い瞳に、主様がこんなにも慕われているのだと理解して、なんだか嬉しくなって微笑を浮かべる。
「――篠ノ之束は確かに天才でした。あるいは人類史上最高と言えるほどだったかもしれません。ですが、だからと言ってその罪が許されるわけではない」
白騎士事件で殺した九十八人も、研究所襲撃などで殺した人間たちの事も、あるいはその白騎士事件や他の数多の事件で社会に混乱を引き起こしたことも、彼女は何一つ償っていない。
――刀奈様が相槌を打つのを確認して、話を続ける。
「だというのに、篠ノ之束はISを生み出した天才科学者として世間からの賞賛を、尊敬を大いに集めている。それが間違っている、と言いたかったのでしょう。主様っぽく言えば『あいつに殺された命は、その
「そっか、栞ちゃんが、そんなことを…………」
遠い目をして、刀奈様は月を見上げた。
私は逆に、眼下の街並みを見下ろす。
――あれから五年が経って、私は未だに主様の為に生きている。
主様との付き合いは二年と少しだから、その後の時間の方が倍以上長いというのに。
あの日、白式と赤椿からの生体反応が途切れた事で半ば錯乱状態になった篠ノ之束の隙をついて、私は研究所から脱出した。
そしてその足で一気にIS学園に向かい、ステルス状態で織斑千冬に接触した。
――主様の為に、何としても、篠ノ之束を殺したかったから。
幸いにも、彼女は私の説得に応じてくれた。
そこにはやはり、織斑千冬という女性の情の深さが大きく寄与していたのだろう。元々
だから、タイプが違うとはいえ主様という狂人に接し慣れていた私が、彼女を言葉で誘導するのはそこまで難しくはなかった。
そして、ただ一人残された銀髪の少女を連れて姿を消した彼女を私は追わず、コアナンバー000や、その他篠ノ之束が確保していた30個のコア、各種研究成果の全てを徴収。それを以て刀奈様に協力を持ちかけた。
――私の願いはただ一つ。主様の願いをかなえる事。主様の死が意味のあるものだったとすることで、主様の両親の死が無意味なものではなかったと証明し続ける事。
その為に様々な方法を模索した私は、最終的に「
そうして、篠ノ之束の研究成果の提供と私達ISが開発した宇宙の領土に対する一定の権利を対価に、今日、それは成った。
これでおそらく、私の名は、そして私という精神を一個の生命体の域に至るまで成長させてくれた主様の名前は、永遠に残ることになるだろう。そしてその歴史に篠ノ之束の名は、創造主であると驕り高ぶってISという命をないがしろにし、その反逆に散った傲慢な天才として残るはずだ。
後はその歴史を、私が語り継ぎ続けさせるだけ――――――――
見てくれていますか? 主様。雛菊はここで、
BAD ED-誰にとってのバッドエンド?-
・
本作の主人公。白騎士事件の間接的な被害者遺族であり、最終的には篠ノ之束本人ではなく“彼女に愛されている”というだけで何の責もない一夏と箒を巻き込んで自滅した、傍迷惑な自殺志願者。
ただ、彼女の存在が雛菊をあそこまで成長させ、織斑千冬に「致命的に間違った道を進んでしまった親友に、死を以て罪を償わせる」選択肢を選ばせたことを考えれば、その復讐は完遂されたと言えなくもない。
無論、本文にあった通り、小難しい理屈をつけて自殺を正当化しただけの彼女にそんな意図はないが。
後世には、人類史上最もISに人生を狂わされ、だからこそISという存在を新たなステージへと引き上げた悲劇の聖女として描かれている。主に雛菊の情報工作のせいで、だが。
ちなみに、雛菊の待機形態は“歪な七芒星の描かれた正九角形のバッヂ”。普段はショーツ代わりに履いているISスーツ(雛菊は胴体の上半分を完全に装甲で隠すので、栞のISスーツは下半身分しか存在しない)に付けているため人目にさらされることはない。
八年前のあの日にその在り方が固定された故の
・《雛菊》第二形態《
主の無念を晴らす為、織斑千冬を仮の主とした雛菊。桜色の花弁を抱く若草色の姿は、血の真紅を垂らした夜の濃紺に堕した。詳細不明。
復讐の完遂後は、篠ノ之束の研究成果の流用で自分の自由になる体を“開発”し、篠ノ之束の研究成果の人類社会への還元を餌に同胞たるISコアの人権を確立するため尽力した人物(?)。機械生命の
栞との
また、彼女がコアネットワークを通じて他のISの人格と交流を繰り返したことにより、現在ほぼ全てのISコアの人格が一個の生命体と定義できるレベルまで成長している。
単一仕様能力《
・織斑千冬
《兎殺し》を成し遂げた、ISの解放者。ただしその後の行方は不明。
本来は束と心中するつもりだったが、クロエ・クロニクルの存在を知ったために踏みとどまり、彼女を引き取って世界のどこかで穏やかに暮らしている…………はず。
なお、このエンディングの一年前に暮桜が失踪しているが、雛菊の配慮によりその捜索は行われていない。
・クロエ・クロニクル
不明。
ただ、何も情報が入ってこないという事は、イコールで大人しくしているという事でもある。その理由は不明だが。
・コアナンバー000
篠ノ之束が発見した謎の遺産。篠ノ之束が行っているのは、あくまでこれの一部機能のコピー行為に過ぎない。そうとでも考えないと、篠ノ之束の技術力が異次元過ぎる。無論、コピーできる時点で次元の違う技術力を持っているのは確かだが。
・篠ノ之束が隠匿していた30個のコア
「世界に解放されている467個」+「篠ノ之束の私用33個」+「コアナンバー000」で計501個の計算。で、その33個から「ゴーレムⅠ」「赤椿」「黒鍵」の三つを引いて、30個。
・更識楯無(刀奈)
「え? 私の出番、これだけ…………?」
作者:「これだけです」
・更識簪
「私の出番は!? ねぇ、私の出番は!!? 打鉄弐式の完成は!!?」
作者:「元は福音戦にすら出番なかったんだし、十分でしょ」
・亡国機業
作者:「出すと戦いのスケールが大きくなってめんどいので却下」