・白騎士事件以前に司一家と織斑一家、及び千冬と旭野夕が出会っている
・白騎士事件後半年以内に千冬が旭野夕と再会する
8/18改稿
――カランカラン、と、ドアベルが音を立てて来客を告げる。
一人の客もいない、ガランとした夕刻の喫茶店に来店したのは、スマートなパンツスーツを着こなしたサングラスの女性。
ドアベルの音に反射的に入口に目を向けていた、この店唯一の従業員にして店主でもある女性が嬉しそうに微笑んでその人物を出迎えた。
「あ、千冬さん、いらっしゃいませ。いつものでいいですか?」
「あぁ、頼む。それにしても――――」
――いつ来てもここは客がいないな、つい言いかけて、千冬は口をつぐむ。
それを言う事が躊躇われた、という訳ではない。なぜだかわからないが彼女の来店を事前に察知しているこの店の店主によって、千冬が落ち着いて食事ができるように人払いがされているせいだ、と思い出したからだ。
まぁ実際、彼女の弟の幼馴染でもある彼女、栞が経営しているこの店は多分に趣味的な物であってほとんど利益を求めてはいないので、本当に客が少なくてもさほど問題はなかっただろうが。
突然言葉を切った千冬に、どうしましたか? と栞が首を傾げ、何でもない、と千冬は首を振る。
半ば指定席になっているカウンターの一角に陣取ると、随分前から用意していたのだろう水出しコーヒーが即座に出され、一口それを口に含んでから千冬は席に腰を落ち着けた。
「そういえば、今日は娘さんたちはどうしたんですか?」
そんな事を栞がふいに聞いてきたのは、グラスのコーヒーが半分ほど消えた頃の事だ。
「ラウラなら今頃、楯無に振り回されているだろうよ。クロエは相変わらず引きこもりだ」
発明家という名の引きこもり生活を謳歌している姉と、何故か最近、楯無の従者の彼女と気が合うぐらいに苦労性が染みついてきている妹の姿を思い出し、苦笑する。
――五年前、亡国機業との決戦が終わり、束が寿命に没した後、千冬はラウラとクロエを養女にとった。
そして本格的に教員免許も取り直し、現在もIS学園で教鞭を振るっている。
弟の方が散々有名になってしまったし、束という最強の後ろ盾が消えたためにかつて世界最強と呼ばれた千冬の威光は随分と弱まっているが、元々、所詮戦うしか能のない自分には分不相応な名前だったのだから、と本人は特に気にしてもいない。
「じゃあ、何かお土産用意しておきますね?」
「あぁ、頼む。っと、そうだ。明日の午前中一夏が顔を出すから、そっちにも何か作ってやってくれ」
一夏、と聞いて瞳を輝かせる栞の姿に、再度苦笑。
相思相愛だという事は本人たち含めて全員が解っている事だというのに四年以上も待たせ続けている自分の弟には、事情を知っていてもなお、やはり溜め息を吐きたくなる。
――一夏は、白式に選ばれたIS達の王として、毎日のように世界中を飛び回る忙しい日々を送っている。
それこそ、実質的な恋人である栞の所にも、年十数回顔を出すのが精々なぐらいに。しかもその大半は一時間やそこら、それこそ一緒に食事をするぐらいの時間しかない短すぎる逢瀬だ。
千冬もできるだけ弟の負担を減らしてやりたいとは思っているのだが、皮肉なことに千冬が手伝えば手伝うほど一夏の仕事は増える。
と言っても悪い意味ではなく、一夏にしかできない仕事が片付く事で今現在の超多忙なスケジュールから解放されるまでの期間が短縮されるであろうことを考えれば大いに貢献しているとも言えるが……。
「全く、あの愚弟め」
思いっきり恋する乙女の表情をしている栞に、心の中に染み出てくる陰鬱な感情を誤魔化すように溜め息を吐く。
一夏が栞に未だに告白しない理由を、千冬は本人の口からすでに聞いている。
栞には聞かされていない、栞の両親の死の真相。
千冬が十五年前に旭野夕から伝えられたそれを、一夏は五年前に知った。そして、IS達の未来を託された者として、その責任を取るべく、栞に告白するときはその真実を打ち明けるのだと、彼はその時に決めている。
だからこそ、真実を知る事で、封印した両親の記憶とともに蘇るだろう栞の心の傷を癒すためにずっと寄り添っていてやりたい一夏は、仕事が一段落するまで栞を迎えに来てやることができないのだ。
そんな事情を全く知らないにもかかわらず、
ただ、それでも――――
――――かつて、それができる場所にありながら篠ノ之束の凶行を阻止出来なかった不甲斐ない彼女は、自分と違い人を救う事が出来る自分の弟が、栞を幸せにしてくれるであろうことを、願わずにはいられない。
PARALLEL ED-世界が望んだハッピーエンド-
エンディング四つ目。
・司栞
両親の死の真相を知る事がなかった場合の栞、というIF。ぶっちゃけ別人。両親の死に壊れかけた少女は、己の記憶の全てを封じる事で自分の心を守った。
そして、その類い稀なIS適性を見込まれてIS操縦者になり、対亡国機業の為の補充戦力の一人としてIS学園に入学。原作の物語に巻き込まれていく。
しかし、一夏に想いを寄せられたことで箒の恋敵として束に敵視された彼女は、福音戦において機体の異常動作により撃墜。決死の治療もむなしく一度は死亡診断がなされるものの、雛菊が同化してその生体機能を補助したことにより蘇生。
以後半年間眠り続け、目覚めた時にはなぜかISを動かせなくなっていた彼女は操縦者を引退、今までの貯金で小さな喫茶店をIS学園の近くで営んでいる。
なお、千冬がやってくることを事前に察知している理由は、暮桜による千冬の行動予測の結果である。
・篠ノ之箒
IS操縦者としては引退済み。篠ノ之神社にある束の墓の墓守をしながら、近くで孤児院を経営している。なお、赤椿はIS学園地下に暮桜とともに封印された。
一夏への想いは吹っ切れているが、魅力的な男が見つからない(探す気もない)ので独り身。このままでは生涯独身どころか生涯純潔で過ごすのではと周囲に心配されている。「余計なお世話だ」
・セシリア・オルコット
《ブルー・ティアーズ》第二形態《ノブリス・オブリージュ》を発現、原作終了後イギリスに帰還し、亡国機業との戦いにおける多大なる貢献により、《
その後数ヶ月で現代表を打倒して国家代表に就任、五年後の現在ではEU最強の一角として名を馳せている。
後期一夏のヒーローっぷりを間近で見過ぎたせいで、「貴族の義務(子孫を残す事)のためにまぁ妥協してもいいかな」ぐらいの相手すらなかなか見つからないのが最近の悩み。
・凰鈴音
中国国家代表。セシリアの良きライバルだが、最近恋人ができて色ボケ始めている。その事についてセシリアは「長年競ってきたライバルがいなくなるのは残念ではありますが、女としての幸せを掴もうとしているかつての級友を心から応援していますわ」と棘のあるコメントを残し、「ナメんじゃないわよ」と鈴をキレさせている。
当然だが、一夏への想いは吹っ切れた。
・シャルロット・デュノア
一夏の秘書、兼愛人。
栞の死を嘆き悲しむ一夏を純粋な善意で慰めていたらなんだかそのままの流れで体を重ねることになり、結局栞は生還したのだが「責任はきちんと取る」と言った一夏の想いに応え、栞や千冬その他と相談して愛人のポジションに落ち着いた。
一夏と一緒にいる時間が長いのもさることながら、抱かれる頻度でも実は栞を圧倒していて、役得と思いつつもかなり気に病んでいるようだ。
・ラウラ・ボーデヴィッヒ(ラウラ・B・織斑)
千冬の養女になったことでドイツ国籍を外れ、IS委員会所属の操縦者としてIS学園の警備員のアルバイトをしつつ教師目指して猛勉強中。
虚と共に楯無に振り回される苦労人。
・更識簪
一夏の愛人その2にして、世界最高のIS技術者。
人格的にもっとも信頼できる技術者として一夏から束の遺産の解析を任されているので、その隔絶した技術力は世界を圧倒する。
そして、仕事にかこつけて一夏と会うたびに酔わせたり薬を盛ったりして正常な判断力を奪ったうえで栞のふりをして一夏をベッドに連れ込む策士。一夏側も、いけない事とは分かりつつ、一度関係を結んでしまった負い目や、代償行為の欲求に逆らえずになぁなぁで関係を続けている。
なんと、抱かれている回数はシャルより多い。が、簪はあくまで“栞の代用品”として抱かれているだけなので、きちんと“シャルロット”として抱かれているシャルとは、優越感と劣等感の両方を相互に向け合って対立する関係にある。
・更識楯無
更識家当主。一夏にとっては簪の事で事あるごとに嫌味をぶつけてくる姑。
ISをはじめとする実行戦力のほぼ全てを失ってなお社会に深く食い込んだ亡国機業と、今も日夜熾烈な争いを繰り広げている。
いい加減このままだと確実に嫁き遅れるであろうことを自覚しており、最近の口癖は「素敵な恋がしたい」
・クロエ・クロニクル(クロエ・C・織斑)
千冬の養女。発明家という名のニート。ただし収入は千冬より上。
箒の孤児院に頻繁に手伝いにきたり、栞の喫茶店に顔を出しては黒鍵を通じて得た色々な“噂”を教えたりしている。
実は箒の護衛も兼ねていたり。
ちなみに、発明において束の所で手伝いをしていた時代の経験を元にはしているが、その研究成果は一切受け継いでいない。