【完結】IS 復讐者の死に方探し   作:ZE

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 栞IS披露に初戦闘。ただし機体は描写ゼロで戦闘は舐めプ。機体の描写はセシリア戦までお待ちください。ガチ戦闘が見れるのは最悪、福音が初かも。
 本気を出すだけならともかく、『まともに戦いになる相手』だと教員か楯無を連れてこないといけないんですよねぇ。

 そして、タグに腹黒を足した方がいいだろうか。

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 8/18再改稿


3.栞流、ISの極意

 どうやら好感度を稼ぎ過ぎたようだ。

 

 明日から織斑一夏にISの訓練を付ける事を約束し、伝手で先輩に訓練機の予約を譲ってもらった私は、部屋のベッドで今日を回想した。

 織斑一夏が千冬先輩に憧れている、より正確には、かつて姉が自分を守ってくれたように、自分が姉を守りたいと思っている、という事は、織斑先生の弟自慢やその他もろもろのPDなどで分かっていた。

 だから、その辺を刺激するように話を持っていったのだけれど…………

 

「効果がありすぎたわねぇ……というか、最悪惚れられてない? あれ」

 

 一人部屋で誰もいないのをいいことに、無口無表情の仮面を脱ぎ捨てる。勿論部屋の防音性も、盗聴器その他のチェックも完璧だ。これを抜けてくるのは篠ノ之束ぐらいだろう。アレのスペックの上限は分からないので、防諜の専門家でない私には考えるだけ無駄だ

 

 流石にあの短期間で惚れられたとまで思うのは、少し自惚れが過ぎると自分でも思う。でも、なんというか、あの微笑みを見せてあげた後の彼が私を見る目には、それぐらいの熱量が宿っていた気がする。

 今の時点ではともかく、このまま好感度を稼ぎ過ぎると本当になるのはほぼ確実だろう。恋人という関係は重過ぎるし、それに実を言うと両親が死んだ時のトラウマで私は男性恐怖症だから、そこまで深い関係になりたくはないのだけれど。

 

 しかし、問題はそっちではないのだ。別に惚れられたとしても少し心労が増える以外の害は多分ない。

 いや、正確にはそれが原因なのだけれど、要するに、織斑一夏の好感度を稼ぎ過ぎて篠ノ之箒に敵(恋敵?)認定されてしまっているのだ。

 千冬先輩の方に取り入る事さえできれば、二人の好感度はそこまで重要ではないのだけれど、やはり実行段階での成功率は高ければ高いほどいい。まぁ、亡国ルートの場合は役に立ってくれるかどうか微妙なところだけれど。

 

「千冬先輩に相談してみようかしらねぇ……」

 

 呟きながら――私は、他人に見られる/聞かれる可能性のある場所では常に別人格を演じているので、そのストレスからか演技をやめると独り言が多い――相談することのリスクを計算する。

 

 ――名目は、ある。

 

 何せ私は彼らの護衛なのだ。

 実戦で後ろから刺されるというのは幾らなんでもないにせよ、指示に従ってくれない可能性や、連携の足を引っ張る可能性は高い。そうなれば最悪、私は自分の職務に従って彼らの為に我が身を盾にしないといけないだろう。

 それを防ぐ為に仲良くなっておきたい、というのは十分な理由だ。

 

 ――問題は、それが私のキャラ設定的におかしな行動である、という事にある。

 

 確かに私は職務に忠実だと思われてはいるだろう。

 しかし、感情的な調整が苦手で、効率重視の方針に逃げるのが“司栞”のやり方だ。

 キャラに合わない事をして、千冬先輩に怪しまれた結果選択肢が狭まる事に比べればまだ、篠ノ之箒の好感度が低い状態で成し遂げる事の方が簡単だろう。篠ノ之箒の私に対する悪感情は、あくまで想い人を奪いかねない恋敵という百八十度的外れなものなのだから。今ここでここまで懸念するのは聊か考えすぎな気もするけれど、事前に想定する範囲は広い方がいいのが当たり前だ。

 

「問題は、千冬先輩に怪しまれる可能性、及びその度合い、か。それ以外は……まぁ、些細な事ね」

 

 向こうから相談して来てくれれば楽なのだけれどね。と声に出さずに呟く。

 実際、当時の私の年齢や私に両親がいない事もあって、結構千冬先輩には可愛がられていたから、私と篠ノ之箒にいがみ合って欲しくないと千冬先輩が考える可能性は低くな――

 

 っ! 気配!?

 

「だれ」

 

 ドアの前に止まった足音に呼びかける。少し思考に熱中していたとはいえ、周辺警戒を甘くし過ぎていた、と反省。年季の入った演技の仮面を被り直す。

 

「私だ」

 

「開けます」

 

 果たして、ドアの向こうから聞こえてきた声はたった今思考に乗せていた千冬先輩のそれだった。

 慌ててドアを開けて千冬先輩を迎え入れる。

 

「お久しぶりです、というべきですか?」

 

 朝から授業で顔を合わせていたけれど、それはあくまで教師と生徒という公的な物。私的な会話は、千冬先輩がドイツから帰ってきた直後に食事に行った時が最後だったはずだ。

 

「そうだな。まともに会うのは三……二年ぶりか。久しぶりだ。随分と見違えたな。中身はともかく」

 

 中身についてはまぁ、演じているのだから当たり前だ。足かけ八年、すでに人生の半分を超えて継続中な、私のIS操縦に次ぐ特技である。

 

「それで、何か?」

 

 私はここで無駄話をするタイプでもないし、千冬先輩も何の用もなく訪ねてくる人ではないので、早々に用件をせかす。

 相変わらずだな、と千冬先輩は苦笑した。

 

「篠ノ之と少し、いがみ合っているようだと聞いてな」

 

 いがみ合っている、というのは心外だ。打算の上とは言え私は彼女と仲良くしたいのだし、演技の上でもマイナスの反応はした覚えがない。プラスの反応もした覚えはないが、積極的に交友関係を広めるキャラではないので仕方ない。

 

(ゆう)さんですか」

 

 しかし、私が答えるのは別の事。夕さん、旭野(あさひの)(ゆう)、という、私の後見人の人の事だ。

 夕さんに言われてきたんですね。という私の指摘は図星だったらしく、千冬先輩は目を丸くして、やがて、肩をすくめて苦笑した。

 

「やはり、分かるか」

 

 当たり前である。私に学生らしい生活を、もっと露骨に言えば「私に青春を生きてほしい」などという理由で、方々に土下座して私をここにねじ込んだのが誰なのか、私は知っているのだから。

 そこでいきなり、私が昔から孤独を好むたちだと知っているはずの千冬先輩が、私の交友関係を心配してきたのだからその背景は容易にうかがい知れる。

 

(パパとママの死の真相と言い、私をここにねじ込んだことと言い。本当、何もわかってないくせに、肝心な時だけは役に立つわね、あの人)

 

 ――そして、私はこの都合のいい流れに、内心でほくそ笑んだ。

 何もかも中途半端で空回りしてばかりのくせに、何故か肝心な時だけ、本人の意図とは全く別の方向に素晴らしいアシストをしてくれる、頼りになるのかならないのかわからない後見人に。

 

「それで、篠ノ之とのことだが、」

 

 どこか、申し訳なさそうな雰囲気。たぶん、千冬先輩のメインは篠ノ之箒の事なのだろう。私も友達は少ないが、篠ノ之箒はもっと少ない。夕さんからの相談にかこつけて私と彼女をくっつける(友達という意味で)つもりなのだ。

 

「先輩の頼みなら。でも」

 

 私はそういうのは苦手です。先輩も知ってるでしょう? と、瞳に載せると、むぅ、と千冬先輩は唸った。

 私の設定もそうだが、千冬先輩もそういうのは苦手だ。織斑一夏とは逆で、気の合わない奴と仲良くする気なんてまるでないタイプである。

 やれやれ、と内心で溜め息、適当に情報を洗ってキーワードを引きずり出す。

 

「剣は?」

 

 確か、千冬先輩の剣術は篠ノ之流古武術とか言ったはずだ。そして、篠ノ之箒は剣道の全中優勝者。今日一日で確認した身のこなしも含め、おそらく結構本格的に剣術を収めた武術家だろう。

 

「あいつの剣には技があっても道がない。叩き潰したらどっちに転ぶかわからんぞ」

 

 そう言って首を横に振った千冬先輩に、でしょうね。と面に出さずに相槌。元々精神鍛錬を目的としているはずの剣()を収めているにしては、どう考えても精神面が未熟すぎる。

 これまで生きてきた環境を思えば、積もり積もったストレスで性格が捻じ曲がっているのは同情の余地があるけれど、同情以上の事をする気にはなれない。恩がある千冬先輩ならともかく、何が悲しくて篠ノ之束の溺愛する妹を助けなければならないのか。

 どっちがメインにせよ、篠ノ之束が仇の一端になるのは間違いないというのに。

 

「……とりあえず、恩を」

 

 売ってみます。と無難な答えを挙げた私に、千冬先輩は少し考えてから頷いた。

 

「そうだな。あいつもISに関してはほぼ素人だ。私と同門だけに特性も似ているし、お前の教えはさぞ馴染むだろう」

 

 まぁ、彼女のIS適性はCだったはずなので、IS適性Sの私の戦い方を真似出来るとは正直思えないけれど。

 それともIS適性Cというのは、書類改竄の結果なのだろうか。篠ノ之束の妹なのだからS+でも違和感はない。

 

「で、もう一つの用件だが、」

 

「彼次第です」

 

 一週間後の織斑一夏の決闘(?)の事だろう。と先読みしてバッサリと切り捨てる。

 セシリア・オルコットとその専用機は、ムラが多く能力の尖ったタイプのプレイヤーなので、正反対に尖っている織斑一夏の特性を発揮できればラッキーパンチもあるだろう。

 私が教える事で確率を上げてやる事は出来るけれど、結局は彼が“勝つべき時に勝てる”存在かどうかだ。そこについて、私には手の出しようがない。

 

「まぁ、あいつの事だ、おそらく勝つだろうがな」

 

 ……千冬先輩の言葉なら、信じておきましょう。

 

 

◆◇◆

 

 

 という訳で、時間を跳躍させ翌日の放課後。

 

 今日は織斑一夏に専用機が与えられることになったという話を千冬先輩がしたり、篠ノ之箒が篠ノ之束の妹だという事が知れて、“篠ノ之束の妹”として扱われた篠ノ之箒がキレたりといったイベントがあったが、どうでもいいので割愛する。

 他人に基本無関心な無口キャラでなければこういう所でもさりげなく好感度を稼げたと思うと少し惜しいけど、このキャラは全く別の方向の必然性で決まった物なので仕方がない。

 

 

 そして、織斑一夏をアリーナに引っ張ってきて、訓練機を使える事を告げると、無駄についてきた篠ノ之箒が

 

「入学二日目に訓練機の使用許可を確保した、だと……」

 

 などと、唖然としていたりしたのも気にしない。

 まぁ、篠ノ之箒が驚いている通り、入学式前に申請書類を出しても受理されないのでどう頑張っても頭の二、三週間程度は一年生が訓練機を借り入れる事は出来ないのだ。本来は。

 その問題に対し、私がやったことは単純。いくつかの交換条件を出して二年の先輩に訓練機の使用枠を譲ってもらい、千冬先輩に掛け合ってその限りなく黒に近いグレーな行為を黙認してもらったという、至って正攻法なやり方である。

 

「それで、ISの訓練って何やるんだ? 飛ぶのか?」

 

「違う」

 

 やっぱり人が空を飛ぶというのは浪漫らしく、抑え気味ながらもどこかウキウキわくわくした様子の織斑一夏を、冷や水を浴びせるようにバッサリと切り捨てる。

 そして、多少のエネルギー消費とかどうでもいいのでスーツごとIS、雛菊を展開し、地面に座る。

 

「栞?」

 

 初めて見たであろう私のISについて感想をどうこうの前に、いきなり座り込んだ私に篠ノ之箒が首を傾げた。

 

「期間が短い。直感型は下手に癖をつけると逆効果。基本を鍛える」

 

 必要な事だけ告げ、織斑一夏にも座るように手振りで指示する。

 ISは思考操作兵器なので、機体が変わるというのは文字通り自分の肉体のスペックが極端に変化するのに近い感覚がある。そして織斑一夏は千冬先輩に聞いておいた情報からしても完全に直感型。剣術の才能はそこそこ有るらしいし、生身の感覚のそのまま延長で伸ばした方が、下手にISという型にはめるよりも多分強いだろう。

 となれば、鍛えるのは機体のスペックが変わってもあまり関係のない項目だ。

 目の前の地面に意識を集中し、PICをマニュアル制御。表面の砂を移動して――――

 

「これをやる。PICの訓練」

 

 何とも言えないとても微妙な表情をして、私が地面に描いたそれを見る織斑一夏と篠ノ之箒。

 PICによって制御された砂が描いているのはグー、チョキ、パーの手の形。PICの精密制御訓練というか、“何となくふんわりとしたよくわからない力場”なPICを操作する感覚を脳みそに刷り込む訓練だ。

 下手に機体を操作するよりも、こうやって形あるやり方で磨いた方が、PICのマニュアル制御の初歩は修得しやすい。

 

「トップクラスの操縦者の戦闘能力は七割方PIC。千冬先輩なら、PICとパワーアシストだけで並の国家代表は落とせる」

 

 ちなみに私も、たぶんセシリア・オルコットぐらいはPICだけで落とせる。と言ってもそこまで彼女の機体の詳細を知っているわけではないから、相手の機動力次第では攻撃自体が当たらないけど。

 

「え~と、マジ?」

 

 しかし、そんな私の有難ーいお言葉を聞いていなかったのか、あるいは理解する気がなかったのか。「俺はこんな地味な訓練を一週間続けるのか?」と、おそらくISを動かすのを楽しみにしていたであろう織斑一夏が愕然とした表情をする。

 

 コクリ、と頷き、早くしろ、と目で急かした

 

 

◆◇◆

 

 

「あ、あんな地味な訓練がこんなに難しいなんて……」

 

 結局、貸出時間一杯まで精神力を持たせることすらできずに織斑一夏はぶっ倒れた。これ以上は逆に自分には出来ない事であるというイメージが強固になってしまうリスクの方が大きいので、今日は中断する。

 なので今は、急遽予備のISスーツを借りてきた篠ノ之箒が先ほどまで織斑一夏が乗っていたラファール・リヴァイブを纏っていて、ぶっ倒れている織斑一夏は羨ましそうに空を眺めている。

 ぶっちゃけ、あの訓練を卒業できる程度のレベルの習熟度ではちゃんと手の形を作る事は難しいのだけれど、それは言わなくてもいいだろう。見ていたところ、織斑一夏は、やると決めれば努力を苦にしない性質で、目標が高い方が燃えるタイプだ。

 

「舐めすぎ」

 

 ISをきちんと動かすのがそんなに簡単だとでも思っていたの? とジト目を向ける。

 

「くっ! その余裕が憎い!」

 

 向けながらも、ハイパーセンサーの全方位視野は、苦悶の声を時々洩らしつつブレードをこちらに打ち込んできている篠ノ之箒を視認していて、私の体はほとんど反射的にそれを受け流し、ラファールのスラスターや装甲部分に雛菊のブレード、特殊実体ブレード《菊一文字(きくいちもんじ)》を叩き込んでいる。

 

 篠ノ之箒に行っている訓練は、剣術の訓練でしみついている“自分の体の大きさ”の感覚を矯正する訓練だ。

 篠ノ之箒に限らず、生身で戦える人間ほど生身の体の大きさで回避を行ってしまうので、装甲で肥大化した腕部や脚部、スラスターなどの部分への被弾が多い。彼女レベルの熟練者なら、その辺を仕込めば即興でもそこそこ戦えるようになるだろう。突きにも結構反応できている辺り感覚は鋭いので、弾幕を張られなければ銃弾も避けられるはずだ。

 

 ちなみに、彼女がメインで使う機体は、私の雛菊と同じタイプの下位互換(汎用化?)機である打鉄になるはずなのでラファールは使わない方がいいのだが、今日の所は別にかまわない。こちらはどうせ、織斑一夏よりもさらに時間が短すぎてきちんとした感覚なんて身に着かないんだから、今日の所は生身の感覚とは違うという事を体に教え込むのが目的である。

 今日の感覚次第で判断することにして明日以降どっちにするかは保留にしていたけれど、ラファールより少し劣る打鉄の操作性でも織斑一夏は行けそうだし、篠ノ之箒の訓練も目途に入れて打鉄にしてもいいかもしれない。

 

「今度、剣も仕込みなおす」

 

 一旦思考を区切り、わざと唐突に、篠ノ之箒に向き直ってそう告げると、彼女の額に青筋が立った。

 IS操縦の腕ならともかく、剣術の腕を軽く見られるのは我慢ならなかったのだろう。そんな誤解をされているのは分かるけれど、最初から丁寧な説明をするタイプではないので仕方ない。

 

「銃よりも槍よりも弱い生身の剣と、世界の頂点に立てるISの剣は違う」

 

 あなたのは生身の剣。私が教えるのはISの剣。そう告げると、いまいち釈然としない表情ながらもとりあえず納得はしてくれた。

 

 ――そもそも、ISの剣術においてより重要なのは、生身の剣術のような対剣戦術ではなく対銃戦術だ。彼女や私をはじめとする剣を主力武器にするような酔狂者達は、銃をメインにする大多数の操縦者など懐に入れば一蹴できるのだから。銃にも近接型はいるけれど、ショットガンの間合いよりブレードの間合いはもっと狭く、その内側ではブレードの方が遥かに強い。

 

 事実、剣だけで戦えば私は、千冬先輩以外誰にも負ける気がしない。練習でなら現代表より強いやまや先生だって秒殺できる。

 同タイプとの戦い方を学ぶのは、まず射撃型にある程度勝てるようになってからだ。順番的には、“中長距離射撃型相手に懐に入る”“近接射撃型相手に殴り勝つ”の二つがより優先される。その次になると張り付きか瞬殺か、機体特性次第では対剣戦術かといった所か。

 というか、先に当てた方が勝ちみたいな生身の剣と一緒の論理で戦うのは馬鹿にし過ぎている。私の菊一文字だって二撃確殺が限度なのだ。それが許されるのは零落白夜の使い手だけである。

 

「そろそろ、時間」

 

「っ!?」

 

 言って、スラスターもパワーアシストもカットした、PICのみの神速の踏み込みで篠ノ之箒の懐に入り、斬り飛ばす。ただし菊一文字の機能は使わない。

 突然苛烈な攻撃を打ち込んできた私に、目を白黒させながら篠ノ之箒は吹き飛んだ。PIC制御自体は結構本気でやったので、たぶん三割は削れただろう。

 

「最後にちょっと、勉強会」

 

 倒れている織斑一夏をPICを念力のように扱って強引に座らせ、篠ノ之箒を手招きしながら周囲を観察。

 そろそろ訓練を終えそうな人を捜し、プライベートチャンネルでコール。

 

「何か用なの?」

 

 相手は、顔も名前も知らない上級生。突然繋がれたプライベートチャンネルに驚いた様子ではあったものの、用件には興味があるようだ。織斑一夏にPIC指導をしてる時なんて、ただでさえ目立つ専用機が訳の解らないことをしている、と滅茶苦茶注目を集めていたのだから無理はない。

 

「日本代表候補生司栞。専用機雛菊。一手、付き合ってくれませんか」

 

「三年、都築(つづき)美樹(みき)よ。ハンデは?」

 

 私の名前を聞いた瞬間、先輩の表情が引きつる。どうも向こうは私を知っているようだ。明らかに勝ち目がないと判断して、早速ハンデを要求してきた。

 

「スラスターカット」

 

「凄いハンデのはずなのに、まるで勝てる気がしないわねぇ……」

 

 よく実力差がわかっているらしい。先輩は即答で額に手を当てて空を仰ぐ。生徒会長が楯無だから、その()()として私の事も知られているのだろうか。

 

「まぁいいわ。勝てないにしても勉強にはなりそうだし。『みんなー!』」

 

 先輩が人払いの役を買って出て、オープンチャンネルで周囲に呼びかけをしてくれている間に、篠ノ之箒に織斑一夏を運ばせる。単純な機動訓練ならどうにでもなるが、流石に簡易とはいえ模擬戦で生身の人間がアリーナにいるのは危険すぎる。

 そして、流石にIS学園の生徒、こういうのは慣れた物なのか、一分もかからず周囲の生徒は壁際に避難して模擬戦の準備が整った。訓練の邪魔をしてしまっている分、タメになる動きを見せるよう心がけると意識。

 

「さて、やりましょうか」

 

「両断します」

 

「なにそれこわい」

 

 ――決め台詞なんだから気にしないでほしい。ちなみに考案者は千冬先輩。世界最強とか言われて浮かれていたのか、黒歴史になりそうな名言を度々放っていた時代の。

 

 怖いというのはどうも冗談ではないらしく、素で顔をひきつらせながら先輩はアサルトライフルを展開し、撃ちかかってくる。

 それに対し、私は菊一文字で弾道を薙ぎ払い、銃弾を()()()()()

 

「キャ、白羽取り(キャッチング)……!?」

 

 射撃の手は緩めないまま、表情を戦慄に引きつらせる先輩。

 SランクのIS適性と併せ、世界トップクラスのPIC制御技術を持つ私が現行IS最強のPIC出力を持つ雛菊を使えば、これぐらいは容易だ。戦闘機動中は無理でも静止状態でなら欠伸が出る。

 そのままリロードまで全ての弾丸を防ぎきり、弾幕が途切れた一瞬に地面を蹴る。

 

「速っ!?」

 

 スラスター禁止なのだからさほどの速度は出ないと高をくくっていたのだろう。上空で射撃戦に徹していた先輩へと高速で跳びかかり、手にした刀を最速で振り抜く。

 と、同時にからめとった弾丸を放出。簡易的な散弾として近距離広範囲を薙ぎ払った。

 もちろんそこで攻撃の手を緩めるようなことはしない。PICで体の一部を固定することで、空間を()()()旋回。辛うじて避け切り、スラスターの差があってもなお機動力負けしている事を理解したのか、ショットガンに持ち替えた先輩の方へと更に速度を上げて斬りかかる。

 

「だから速いってば!!」

 

 何やら絶叫しているのを無視し、バレルロールで三射を回避。至近距離でのもう一射を、背中を向けるように回転しながら軌道を横にずらして回避し、その勢いのままに斬りつける。

 私と先輩の実力差では、この距離に入った時点でもう終わりだ。斬られた衝撃で吹き飛ぶなんて、対近接の常套手段は使わせてあげない。

 雛菊のPIC出力を、斬撃の慣性増加に使用するのではなく、剣を通してシールドバリアの向こう側へと侵食したPICが、()()()()()()()穿()()

 当然、パワーアシストだけで振り抜かれた斬撃に、ISを吹き飛ばす威力はない。

 そして、斬撃の慣性を増大させなかった事のもう一つの利点である神速の二連斬で、そのシールドエネルギーを完全に削り落とした。

 

「PICだけで、ISはここまで戦える。世界を目指すなら、覚えておくべき」

 

 織斑一夏と模擬戦に付き合ってくれた先輩に、そんな言葉を向けておいた。




白羽取り(キャッチング)
 ()()取りではなく()()取り。ブレードに纏わせた渦状のPIC力場で弾丸をからめとる技術。
 作中で栞が語った通り、織斑千冬級でも戦闘機動と併用はできないので、背後の民間人を庇うとかそういう用途はあるにせよ、IS対ISの戦闘ではただの猫騙し。この技術を知らず、理解できる洞察力もない人間になら、銃弾が一切効かないと錯覚させることも可能ではある。
 ここから派生して栞が使っていた雷迅(インパクト・ボルト)という技術があるが、知識があれば白羽取りから派生してくるのは分かるし、ほぼ斬撃の延長線上にしか飛ばないので回避は難しくなく、弾速に劣るので威力も低い。同じく猫騙しである。技名が中二だが、命名当時リアルでその辺の年齢なので許してあげてほしい。
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