【完結】IS 復讐者の死に方探し   作:ZE

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 今回は短めです。次回、バトル回。

 7/16改稿
 8/18再改稿


4.頂は見えず

「何度見てもすげぇ……」

 

 司の初めての特訓を終え、寮の部屋に戻っていた俺と箒は備え付けの端末で先ほどの試合の映像を再確認していた。

 ほとんどISの戦闘というのを知らない俺には正確な評価ができないが、実際に見た三人、箒と、あの先輩と、司の格の違いははっきりと分かる。

 その差は、まるで大人と子供だ。勿論、箒とあの先輩の差が、であり、あの先輩と司(※スラスター禁止)の差が、である。というか、そんなハンデを付けてあれだけ一方的に叩きのめされても、あの先輩は負けて当たり前みたいな顔をしていた。

 つまり、それだけ司が強いという事だ。

 

「なぁ箒」

 

 映像を見ながら、何やら難しい顔で考え込んでいる幼馴染に話しかける。

 

「なんだ」

 

「代表候補生って、みんなあれぐらい強いのか?」

 

 だとしたら、俺がオルコットと戦うというのはどれほど無謀な事なのだろうか。というか俺を鍛えてくれている司は俺の勝率をどう思っているのか。

 

「私もそこまでISの実戦を見ているわけではないから正確にはわからないが、栞はオルコットをまるで歯牙に欠けていない。今日だってお前と私の練習に付き合っただけで、自分の練習は全くしていなかっただろう?」

 

「あ、確かに」

 

 なら少なくともあのレベルって事はない、という訳だ。どうも、いきなりレベルの高い物ばかり見せつけられて弱気になっていたらしい。

 箒も全中優勝だから剣道はかなり強いはずなのに、簡単にあしらわれてたしなぁ。

 

「千冬さんの事だから何か考えがあるんだろう。専用機も届くというし、きちんと練習すれば、少なくとも善戦ぐらいはできるのではないか?」

 

 そう答える箒の様子はどこか上の空だ。一体何を考えているのだろう。

 

「善戦、かぁ……」

 

 ――経験の差があるとはいえ、栞よりも圧倒的に弱いオルコットに、善戦。

 ――根は悪い奴じゃなさそうだが、プライドばっかり高くて、場の勢いで人の国を侮辱するような奴に。

 

「勝ちたい、な」

 

 意図せず、声が漏れたことに気付いて慌てて口を閉じる。

 そんな俺の様子を見て、箒はクスリと笑った。どうも聞かれていたらしい。

 

「勝てるさ。一夏なら、きっと」

 

 信じているというより、願っているかのような、根拠のない断言。それが何故か、とてつもなく頼もしく感じた。

 

「そうだな。自分で自分を信じないで誰が信じてくれるんだ、って話だよな」

 

 ありがとう。正面からしっかりと顔を合わせて箒に感謝を述べると、何故かその顔が真っ赤になって、途端に慌てだす。

 

「わ、私は信――」

 

「織斑、篠ノ之、私だ」

 

 そして、何かを言おうとした瞬間、ドアの向こうから聞こえてきた千冬ね……織斑先生の声に遮られた。

 まるで絶望したような顔で入口の方を見る箒。

 一体何だったんだ。そう思いつつも、織斑先生を待たせるわけにもいかないので応対に出る。

 

「ご苦労。篠ノ之はいるな? 少し話がある。用があるなら後でも構わんが、」

 

 要件というのは箒に対してだけだったようだ。覗き込んてきた織斑先生に合わせ、俺も箒の方を振り向く。

 

「は、はい! 大丈夫です」

 

「む? 顔が赤――」

 

 何故か慌てた様子の箒に何か言いかけて、織斑先生はニヤリと笑った。箒はますます慌てだし、俺はそのやり取りの意味が全く分からない。

 

「どうやら邪魔してしまったらしいな。仕切り直すか?」

 

「大丈夫です。話があるんですよね? 行きましょう。早く行きましょう、織斑先生」

 

「まぁ、それでいいならいいがな」

 

 俺を突き飛ばしかねない勢いで、慌てて飛び出してくる箒。やっぱり訳が分からない俺を置き去りにしたまま、二人はさっさとドアの向こうに消えていった。

 

「……何だったんだ? 箒のやつ」

 

 わからない事を考えていても仕方ない。もっと有意義な事を考えよう。

 

「司のところ、行ってみるか?」

 

 有意義な事と考えて、最初に思いついたのは司の事だ。そう悪くない選択だろう、と自分の提案を支持する。

 ――この時は別に特別な意味があってそれを選んだわけではないが、後になって思えば、本当にそうだったと断言はできなかっただろう。

 

 

◆◇◆

 

 

「さぁ?」

 

 いつも通りの無口無表情で歓迎――少なくとも不満な様子は見えなかった――してくれた司に早速、俺がオルコットに勝てる可能性はどれぐらいか聞いてみた。

 

 が、回答はこれだ。

 勝てると言ってもらえると思っていたわけではないし、期待していたわけでもないが、それでもこの反応はがっくりくる。これじゃあまるで、鍛えてはいるけど結果はどうでもいいみたいじゃないか。

 

「2%~70%? 専用機次第」

 

 そう思っていると、俺の不満を読み取ったのかそんなセリフが続いた。

 素人が一週間で最低2%は高いのか? いや、そもそも機体性能だけで最大70%っておかしくないか?

 そう聞いてみると、コクリと司は頷いて、今までにない長台詞で回答してくれた。

 

「セシリア・オルコットとブルーティアーズは中長距離射撃特化で、並列思考タイプの理論型。織斑一夏の特性は近接格闘特化で、高速思考タイプの直感型。加えてセシリア・オルコットの実力にはムラがある。特性がほぼ正反対に尖っている以上、高性能のメタ機なら七割獲れる」

 

「メタ?」

 

「特定の性質の相手、ないし完全に特定の相手をだというすることだけを考えた特性、という意味」

 

 なるほど。でも、

 

「そんな機体で七割しか勝てないのって、むしろ駄目なんじゃ?」

 

 いや、オルコットに勝つのが人生の目的ってわけじゃないんだし、そういう機体が来て欲しいわけではないんだけど。

 そう自分に言い訳をしながら聞き返すと、司は容赦なく頷いた。やっぱりそうらしい。

 

「操縦者特性的に、機体相性は五分。性能次第で10%~45%」

 

 間を取って三割弱。そこまで分が悪いって程でもない、のか? 四回に一回ちょっとなら十分一発目で引き当てられる確率だ。

 

「勝ち目は十分、ってことか…………」

 

 司は何も答えない。五割に届かないのに十分というのはおかしい、とかそんなところだろうか。

 そのまま数秒見つめ合う形になって、話は終わった、と判断したのか、司は持っていた本に視線を落とした。

 何故だか、部屋に戻るという選択肢が浮かばなくて。追い出されない、不快そうな様子もないのをいいことに、俺はそのまま、何とはなしに司の姿を見つめていた。

 

 無口無表情無感情。

 顔の造形は整っているけれど、際立った特徴はなく、背丈も日本人女性としても小さめで、多国籍なIS学園ではかなり小さい方。髪型だってシンプルな黒のショートヘアで、無機質で静かな仕草も相俟って、何ら目立つ要素はない。

 

 ――だが、そうでありながら圧倒的な存在感で「私はここにいる」と顕示しているような、正しく孤高という言葉が相応しい少女。

 

 体は、体操選手か何かのようによく引き締まっていて、身体能力ではたぶん箒と同格かそれ以上。

 そのIS操縦者としての圧倒的能力と併せて、窓際で一人本を読んでいるのが似合う物静かな文学少女的な外見を全力で裏切っている。

 

(意外に、スタイル良いんだな……)

 

 だんだん、ぼんやりとし始めた思考に浮かんだのはそんな事。

 この場合の“スタイルがいい”というのは、胸とか、腰とか、そういう女性的な部分、という意味だ。

 制服の上からではわからなかったが、こうして薄着でいる様子を見るとよくわかる。

 胸も身長に比べてかなり大きいし、ウエストは、鍛えられているからかさほど細くはないが、そこから腰にかけての曲線はとても美しい。襟ぐりの広いタンクトップからさらけ出された、首元や鎖骨のラインも――――

 

「眼、一つ?」

 

 ――と、不埒な思いを抱きかけた瞬間、どこからか取り出されたナイフが眼球の数センチ先まで迫っていた。

 

 呆然としていたとはいえ、突きつけられた後まで全く反応できなかったことに戦慄する。千冬姉がらみの話で生身の戦闘は素人と聞いてたけど、これで素人だなんて謙遜どころじゃ……

 

「……」

 

 と、俺が何の反応も返せないでいると、何故か司はナイフを下ろし、伸ばしてきていた左手を右手で掴んで、

 

「っ!」

 

 一瞬歯を食いしばりながら、ガッ、と二の腕を勢いよく肩の方に引いた。

 

「え?」

 

 と間抜けな声が漏れる。なまじ、昔剣術をやっていて知識があるからこその驚きだ。

 

 ――――脱臼してた? いつの間に?

 

 考えるまでもない。答えは一つ。俺にナイフを突きつけた時だ。

 が、普通なら、幾ら全力でやったってただ振り上げるだけで脱臼なんてそうそうありえない。よほど貧弱ならともかく、司の体は相当高いレベルで鍛えられている。

 

(つまり、体術が素人っていうのは…………)

 

 ――――たぶん、ISで体を動かすことに慣れすぎて、生身の脆さに動きが適応してないってことだ。

 そんな、おそらくそこまで的外れではないだろうその推測に、この小柄な少女がどっぷりとISに浸かり切っている事が理解できて。

 

「ご、ごめん。邪魔したな」

 

 まるで深淵を覗き見てしまったような錯覚に囚われた俺は、逃げるように部屋を後にした。

 

 

◆◇◆

 

 

「そこは、司の部屋だったな。どうかしたのか? 織斑」

 

 部屋から出ると、タイミングが良かったというのか悪かったというのか、織斑先生にいきなり遭遇した。箒の姿は見えないので、もう部屋に戻っているのだろう。

 

「あ~…………司って、織斑先生の弟子、なんですよね」

 

 思えば、司に織斑先生の事を聞いたことはあっても、その逆はなかった。

 周りからは師弟とみられるぐらいだったんだから、それなり以上に仲は良かったはずだ。司の話はその辺断片的過ぎてわかりにくいが。

 そう思って聞いてみると、ふむ、とわずかに思案して、織斑先生は頷いた。

 

「そういえばその話をしてやったことはなかったな。あいつは事情持ちだからあまり詳しい事は話せんが――」

 

 一旦、何かを思いついたかのように視線をさまよわせる。

 そして、これは妙案だ、とばかりにわずかに目を見開いて表情を明るくする。

 

「そうだな、箒も交えてにしよう。部屋に邪魔するぞ? 一夏」

 

「お、おう」

 

 そう、一方的に言い放ち、返答も聞かないまま歩いて行ってしまった千冬姉に、俺は終始困惑していた。

 

 

 

「弟子、というが、どちらかと言えば妹分のような存在だったな」

 

 千冬姉がまず最初に語ったのは、そんな内容だった。ここに来るまでの軽い調子はもうどこにもない。息が詰まるほど深刻な空気だけがそこにあった。切欠が俺の疑問とはいえ、完全に状況は俺の手を離れている。

 

 ――もしかしたら、千冬姉はこういう状況をこそ待っていたのかもしれないと思うほどに。

 

「あいつは幼い頃に親を失っていたし、後見人ともあまりうまくいっていなかったからだろう。私は比較的好んであいつの面倒を見ていた」

 

 同病相憐れむ、という奴だ。と千冬姉は自嘲気味に笑う。

 親の顔も覚えていない俺と、重要人物保護プログラムで離れ離れにされて、もう一生会えないかもしれない箒。相憐れむ、というなら、俺や箒も同じだ。

 

「と言っても、私が見てやれるのはISの訓練ぐらいだ。あいつは元々歳不相応に大人びていたし、家事全般に至っては私の方が下な有様だからな」

 

 言いながら千冬姉は肩を竦め、特に家事の部分で納得して、微妙に深刻な空気が壊れた俺と箒は反応に困る。

 

「だが、それでもわかる事はある」

 

 ――直後、どこか遠い過去を見ていたような目が、はっきりと俺と、箒の事を見据えた。あいつの事を見てやってくれ、とでもいっているかのように。

 

「強くなることに真剣、なんてレベルじゃない。文字通り、それしか考えていない、と思える執着ぶりだったよ。私の事はある程度慕ってくれていたし、憧れてもくれていたようだが、それだって、強さにしか興味がないんじゃないか、と言われれば否定は出来ん」

 

 強くなることしか考えていない。そのフレーズに、先ほどの一幕が蘇る。

 俺にとって、強くなることは手段、あるいは過程だ。問題はその強さで何をするか、あるいは何ができるようになるか、であって、強さそのものを目的とする求道者になる気にはならない。

 

「だがな」

 

 わずかにその表情に影が落ちた。顔に出すほど落ち込んでいる千冬姉を見るのはいつぶりだっただろうか。

 

「あいつは確実に何か目的がある。あくまで何の証拠もない主観的なものだからこういう言い方になるが、あいつの纏う刃のような空気は、斬るべきモノを見定めたそれだ。そして、私の知る限り、あるいはあいつの知り合いに聞く限り、あいつがその刃先を誰かに向けたことは一度もない。公式戦で同格の相手と死闘を繰り広げていてもなおそうだし、あいつの事情から心当たりを仄めかしてみても分からなかったよ」

 

 ――世間からは師弟と呼ばれ、自分では妹と呼んでいるのにな。

 

 言って、千冬姉は乾いた笑みを零した。

 世界最強と呼ばれた女性とはまるで思えない、無力を滲ませる表情。その意外過ぎる姿に、俺も箒も完全に絶句していた。

 

「だからな一夏、箒。余裕があれば、でいい。あいつに、もっと他のものを見せてやってほしい。あいつはずっとIS操縦者の訓練施設で育ったから、あいつの事を心配した後見人にここに放り込まれて来るまで、学校に通った事すらなかったんだ。普通の高校生の、ごく当たり前の楽しみを、あいつに教えてやってほしい」

 

 あいつは、あまりに生き急ぎ過ぎている。

 そう、言い残して部屋を後にする千冬姉の背中に、俺達はかける言葉を持たなかった。

 

 

 ――――だから当然、その時の千冬姉がどんな顔をしていたのかも、俺達が知る事はなかった。

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