【完結】IS 復讐者の死に方探し   作:ZE

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 栞視点。ここから三話かけて栞の過去を明かしていきます。
 同時に今回はセシリア編でもありますが、栞が非常に黒いです。
 7と8は実質ワンセットの話でそれぞれも短めなので、本日(15日)の18時と24時に同日投稿します。

 7/16改稿
 8/18再改稿


6.父を想う

「な~んか、微妙に笑えない結果になったわねぇ…………」

 

 というのは別に、対織斑一夏や対セシリア・オルコットの結果に文句があるのではなく、今私用の端末で再生しているこの映像、

 

『零落ぅ――白夜ぁぁぁぁぁぁぁっ!!!』

 

 この、織斑一夏対セシリア・オルコットの試合の事だ。

 

 結果は、引き分け。ブルー・ティアーズのシールドエネルギーが零落白夜に消し飛ばされるのと、零落白夜の消費で織斑一夏が自滅するのが十万分の一秒単位で同時だった。

 あれだけ一方的に有利なメタ機に乗って敗北したなら爆笑できる。

 引き分けでもまぁ、それだけなら十分笑えるだろう。

 なのに何が笑えないかというと。

 

「織斑一夏の瞬動術(サイレント・ブースト)爆風蹴り(ボムジャンプ)、セシリア・オルコットのビット制御と七連装同期砲撃に遠隔無反動旋回。テンション上がりすぎて()()()()()()()()()()()()()()()()()()とかいうギャグな結末なのに地味に高度な戦いを繰り広げてるのが、使われている技術が馬鹿にされてるみたいで逆にムカつく――!! 勝ちなさいよそこでーーーー!!」

 

 しかも、技術は高度なのに戦術が残念なのが更に、だ。これでは高度な技術の無駄遣いに、一介のIS操縦者として怒りが湧いて笑うに笑えない。今すぐにでも吶喊して各々小一時間説教した後再教育しに行きたい。行かないけど。

 特に瞬動術なんて、教本にだって載ってないし概念を教えすらしていないのに(……まぁ、私は目の前で使いまくってるけど、そういう技術があると解って観察していても観測が困難だからこそ《サイレント・ブースト》なのだ)。

 

 非常にむしゃくしゃするので、ティータイムにでもしようか、と買い置きのお菓子類を物色する。

 私がIS操縦者としての訓練を頑張っているのは復讐の為の力、公権力とかコネとか人気とかを手に入れるためだが、それとは別に、私のこれまで十五年の半生の大半はISに費やされてきているので、それなり以上の思い入れはあるのだ。篠ノ之束の縁者であり、場合によっては復讐対象になりえる千冬先輩を尊敬し、憧れているのと同様に。

 

 ――まぁ、どんなに尊敬したって憧れたって、私の復讐の邪魔をするなら殺すのだけれど

 

「っと、いけない。またダークサイドに落ちそうになってたわね」

 

 ぶんぶん、と頭を振って、負の想念を強引に振り払う。下手にそっち側に落ちると、思考が負のスパイラルに陥ってストレスが溜まるので、周囲に破壊衝動を発散させたくなって大変なのだ。

 なので、いっそ今日は、ティータイムだけじゃなくかなり本格的にリラックスモードに入ろうと決意した。

 

 

◆◇◆

 

 

 と言って、一日が終われればよかったのだけれど。

 

「セシリア・オルコット?」

 

 部屋に置いてあったお菓子のラインナップがどうも気に入らなくて、ちょっと買い出しに行こうとしたら、昼間ボッコボコにしてやった金髪縦ロールと遭遇した。

 しかも、何やら私に用があるらしく、こちらの姿を見かけた途端足早に歩み寄ってきた。

 

「少しお話、よろしいかしら?」

 

 何やら深刻そうな表情。互いに健闘を讃え合うとかそんな感じではなさそうだった。

 …………今はあまり機嫌が良くないので、うだうだと人の悩みは聞きたくないのだけれど。

 

「今日、勝ったら食べようと思いまして、美味しい紅茶と茶菓子を取り寄せていたのですが……」

 

「行く」

 

 のだけれど、即答した。たぶん目も少し輝いている。

 なにせ、英国貴族のいう“美味しい紅茶と茶菓子”だ。

 それ以外全ての食べ物類において信用できない(※偏見)あの国だが、紅茶とそれに合わせるお菓子だけは素晴らしい。女としてというか人として色々――特に未来への希望とか幸福な結末とか――捨てている部分もあるが、やっぱり私も女なので、美味しいお菓子の誘惑には勝てなかった。

 

 

◆◇◆

 

 

「さて、暗い話はメインの前に終わらせておきましょう」

 

 ()()()()の提案に、コクリと頷く。先に暗い話をしてお茶の味が落ちるのも少し残念だけれど、後で暗い話をして最悪な気分でお開きにするよりはるかにましだ。

 ちなみにここは、食堂の一角。セシリアの自室にはルームメイトがいるし、私の自室にはあまり人を、正確には、他人の匂いを入れたくないので、朝昼晩の食事の時間以外にはほぼ人がいない食堂の一角に陣取ることになった。場所が開けているので盗み聞きしようとする相手も見つけやすく、意外に密談には向いているのだ。かなり離れた位置から双眼鏡で唇を読むという手段はあるし、やっぱり隠れる場所もないではないが。

 

「先ほど、本国に問い合わせまして」

 

 …………。

 

「…………」

 

 暗い雰囲気と、その口にした内容に、思わず素で沈黙する。美味しい紅茶というフレーズに惹かれて早まったか、と思い始めた。自分の悩みではなく私の方だったか。

 

 しかし、それが即問題になるわけではない。あくまで問題は、()()()()()()()()()()()、なのだ。

 私の場合、一般に公開されているプロフィールがすでに重い。続きはwebで、なんて言ってもみんな冗談だと思って大半の人は調べようとしないが、実際調べるとかなり重い事情が転がり出てくるのだ。だから、その程度のレベルなら許容範囲。

 

 だが、私の目的を読める範囲で知られていたら…………

 

「あまり怖い顔をなさらないでください。自己紹介でおっしゃっていた通りの、一般に公表されている以上の事を調べてはいませんから」

 

 言って、セシリアはふんわりと笑った。

 

 怖い顔、をしていたのか。私は。この程度で表情の固定が崩れるというのは、意外にストレスが溜まっているのかもしれない。軽度とはいえ男性恐怖症なのに男と接しすぎた?

 

「もしかしたらご存知かもしれませんが、わたくしも、両親がおりません」

 

 知っている。そう示すように、大きく頷く。私は一応織斑一夏の護衛だ。周囲の要人のPDのアウトラインは暗記している。

 

「わたくしの父は、情けない人でした。婿養子だから、という事もあったのでしょうけれど、ISによる女尊男卑の波が広がるよりも前からいつも母にも、母方の親戚にも頭が上がらず、ヘコヘコと簡単に頭を下げて――――」

 

 そして、そんな情けなかったセシリアの父は、数年前、旅行中に列車事故で亡くなった。

 

 ――一緒にいた妻と一緒に。

 ――二人の関係は、娘であるセシリアの目からも、良好な物には見えなかったのに。

 

 普段からあまり仲の良くなかった二人が、どうしてその日に限って娘を置いて二人で旅行に出たのか。

 いや、そもそもなんで、セシリアの母は、情けないばかりの夫と――――

 

「…………私はたぶん、相談相手にふさわしくない」

 

 ポツリポツリと独白するセシリアの様子を眺めながら、私はいくらか逡巡して、結局口を開いた。

 紅茶につられての事ではない。もっとずっと、単純な理由だ。

 

「どうして、そう思うんですの?」

 

 彼女が私の経歴を見て、何を思ったのか、私にそれを察することはできない。

 

 しかし、たぶん彼女が目を付けたのは、()()()()()()()()()()()()()()と、()()()()()()()()()()()という構図に思うところがあったからだろう、と推測することは簡単だ。

 

 だが、そこにはいくつか致命的な情報が抜けている。

 

「私は父の――――“わたし”は、“パパ”の事を、ほとんど覚えていないから」

 

 自分の幼きころを思い、あえて口調を、表情を変える。これもやはりキャラ作りの一つには違いないが、モデルがかつての自分であるだけ、私の本当の顔に近い。そう言う意味では、尊敬する千冬先輩や可愛がってくれたやまや先輩、その他多くの先輩たちにも晒したことのない本心だ。

 

「覚えて、いない……??」

 

 あんなに、劇的な事があったのに? と、セシリアは目を丸くする。

 

「嫌いたく、無かったから。“だいすき”、だったから。ある日突然気が狂ったみたいに人が変わって、“わたし”と“ママ”に暴力を振るうようになって、挙句の果てに、“わたし”の事を殺そうとして、“ママ”を殺して。それでも、“キライ”になりたく、無かったから」

 

 ただし、そう思っていたのは、真実を知る前の、八年前までの私だ、という注釈は必要だが。

 

「だから、覚えてないんだ。“パパ”の、嫌な所は、みーんな」

 

「それ……は…………」

 

 思い出とは、良い思い出も悪い思い出も全部合わせて“思い出”だ。そこに恣意的なフィルターをかけて情報を切り落としてしまったら、最早その思い出の中にいるのは記憶している本人ではない。その一端ですらない。ただの、本人に都合のいいだけの偶像だ。

 

“嫌いたくない”

 

 たったそれだけの想いで、当時五歳の少女の、純粋な、当たり前の思いで、かつての私は、想い出の中の父を殺してしまった。自分に都合がいいだけの自動人形に貶めてしまった。

 そしてそれは、()()()()()()()()への贖罪は、今なお私を縛る呪縛の一つでもある。

 

 ――そんな私の思いをどこまで理解しているのか、セシリアはその事実に、たぶん本人も気づかないまま、涙を流しながら絶句していた。

 

「だから、“わたし”には、セシリアの思いは分からない。だって、“パパ”に殺されかけたことを、暴力を振るわれたことを、“わたし”は、感情の伴わない情報としてしか持ってないから」

 

 私にとってそれは、三重の意味での悲劇だ。

 

 ――記憶の中の父を殺してしまった事。

 

 ――自分の中の思い出に、いつも違和感が付きまとってしまうようになって、その幸せな記憶に浸れなくなった事。

 

 ――どうあっても嫌いになれないが故に、復讐を諦める事が出来ない事。

 

 自分の中の傷口を深く深くえぐりながら、でも必要な事だと言い聞かせて、必死に笑顔を浮かべて、言葉を紡ぐ。

 

「でも、それでも、一つだけ“わたし”がセシリアにあげられる言葉があるわ」

 

 出来るだけ柔らかに、にっこりと微笑みかけると、はっ、となってセシリアの顔に正気が戻った。

 

 

「セシリアはさ、お父さんの事、()()()()()()()()? それとも、()()()()()()()?」

 

 ――お父さんの事、今は、好き?

 

 

 セシリアの語り口は、確かに父を疎むもので、母の判断を疑問に思う物であったけど、その奥底には父への愛があった。

 間違いなく、昔は好きだったんだろう。何かきっかけがあったのか、それともなかったのか、あるいは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のか。

 

 何にせよ。セシリアが願っている事は、私には理解できた。それが、私の境遇のおかげか何なのかは、わからないけれど。

 

 ――――彼女は、父を、愛して()()()のだ、と。

 

「あ、わ、わた、わたくしは――――!!!!」

 

 何かを思い出したのか、あるいは気付いたのか、それともそのどちらでもないのか。

 感極まって泣き出したセシリアを、私は優しく抱きしめた。

 

 

 ――そして、内心でほくそ笑む。

 

(過去ポ、完了ッ――!!)

 

 偶然居合わせてしまったのだろう、柱の陰に隠れている覚えのある二つの気配の存在に、実に自然に“悲劇のヒロイン”になれる都合のいい流れに、私は、信じてすらいない神に感謝した。

 

 ――――当たり前だが、五分前までフルネーム呼びをしていた友情レベル1の友人に、打算無しでここまで内心を明かすわけがないのだ。

 

 

◆◇◆

 

 

「さて…………弁解は? 覗き魔」

 

「は?」

 

 十分後、セシリアがようやく泣き止んだのでキャラを戻し、一本の柱の方をギラリと睨み付ける。

 セシリアが唖然とし、次いで、その二人の人影を、まだ充血したままの真っ赤な目で睨み付けた。

 

「す、すまない。盗み聞きをするつもりはなかったのだが…………」

 

「な、なんか声が聞こえてくるなーと思ったらいきなり深刻になったもんだから…………」

 

 気まずいにもほどがある表情で、柱の陰から現れたのは篠ノ之箒と織斑一夏。

 

 ちなみに、だが、私は最初から気付いていた。ただ、私の気配察知能力とか素の感覚の異様なまでの鋭さとかをあまり知られたくなかったので、指摘するのはやめておいた。結果的にそれで都合のいい方向に進んだのだから万々歳である。これで後は彼女が幾らかの事情を知ってくれれば、篠ノ之箒からの好感度がマイナスになる事はほぼないだろう。

 実に素敵な成果だった。この上相談料としてセシリアから紅茶と茶菓子をもらうのが申し訳ないぐらいだ。もちろん紅茶も茶菓子も欲しいので、貸し借りは別の所で釣り合わせるが。

 

「別にいい。元々隠してない」

 

 父についての記憶の一部がない事以外の私の事情はすべて公表されているし、その事についても隠してるわけじゃないからちょっとネットを深く潜ればわかる程度の情報だ。

 

「そうですわね。わたくしの方も、表沙汰にしてはおりませんがそこまで秘密という物でもありません」

 

 何せ、私達はIS操縦者。IS操縦者とは軍人でありスポーツ選手でもあるが、アイドルでもあるのだ。それも、U-18での専用機持ちという、世界的に見ても指折りのエリートで、所々アンバランスな私はともかくセシリアは“絶世”という言葉を付けてもそこまで過剰ではない美少女だ。

 そのプライベートや、抱える事情などほとんどマスコミ各社にすっぱ抜かれている。まぁ、貴族家の当主であるセシリアや、政治関係に力の働く伝手が多い私は比較的マシな方だが。

 

「ですが、程度はどうあれ淑女の秘密を盗み聞いたのですから、それなりの償いはしてもらいますわよ?」

 

 ウフフフフフ、と恐ろしげな声で笑うセシリアと、その様にくるみ割り人形のように何度も何度も頷きながら、恐れおののく織斑一夏と篠ノ之箒。

 しかし、よく見るとセシリアの口元が別の意味で緩んでいるのが見えて、その先の言葉が何となく予想できて、とても優しい気分になる。

 

「では()()()()()()()、わたくしと――」

 

 そこで一旦言葉を切って、ゴクリと息をのむ二人を楽しげに眺め。

 とてもとても美しい、満開の花のように明るい可憐な笑みで、セシリアは手を伸ばした。

 

「――お友達になってくださいな?」

 

(めでたし、めでたし、って所かしらね。これは)

 

 何というか、先ほどの一幕を全力で打算に利用した自分の汚れ具合に絶望したくなる光景だった。

 まぁ、比喩でなく復讐に人生をかけている私が、その程度で止まれるわけがないのだが。




瞬動術(サイレント・ブースト)
 目の前の空間の慣性質量を増大させ、気圧を擬似的に増大させて空気を膨張させることで気体分子の密度を下げ、直後、慣性質量を低下させ、擬似的な超低気圧状態の空間を作成することで高初速を得る移動法。
 ただし、準備にそこそこ時間がかかる(瞬時加速程ではないが)事、準備中大きな移動ができない事、そもそも速度がそこまででもない事など欠点は多いが、エネルギー変位の観測やスラスターの稼動音で簡単に先読みできる瞬時加速と違い、極めて静かであるという点に最大の特徴を持つ技術。どちらかと言えば緊急回避かカウンター向け。
 司が良くやっている、静止状態からの神速の踏み込みがコレ。瞬時加速と違って推力が増えたわけではないので、柔軟な機動が取りやすい。

爆風蹴り(ボムジャンプ)
 PICで作成した空気の壁を、爆風の盾にすることで、爆発を推進力に代える技術。より上位になると、爆風を集束させることで推力を上昇できる。意外と有効。
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