【完結】IS 復讐者の死に方探し   作:ZE

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 栞過去編終了。
 執筆も結構順調ですし、7,8話は実質ワンセットな短めの話なので、二話同日(?)投稿です。

 (正)は正式の正、(真)は真実の真。

 8/18改稿


8.彼女の事情(真)

 かぷ、と香ばしく焼けた薫り高いクッキーにかぶりつき、ミルクも砂糖も茶葉の持ち味を活かせるレベルでたっぷりと入れたミルクティーを一口。

 

 いつもの無口無表情や悪巧みしてる時の悪女の笑みなど存在しなかったかのような、だらしなく緩んだ表情で思わず声を漏らす。

 

「はふぅ……幸せ…………」

 

 セシリアにもらった、実家から送られてきた本職シェフの手作りクッキーと英国貴族御用達の高級茶葉の上品な味や香りは、何というかもう、復讐以外の人生の全てがどうでもよくなるほどの多幸感だ。実はこれ、禁止薬物でも入ってるんじゃなかろうか。

 これは本当にヤバい。あんまり美味しすぎて、自然な感じで他人が寄ってきて話しかけられても、気付かず素のまま接してしまいそうだ。

 

「これはやっぱり、セシリアには今度また、何か埋め合わせしないといけないわねぇ……」

 

 セシリアとの二人きりのお茶会を終えて、幾らかのおすそわけ(また借りが増えた)をもらった私は、部屋に戻ると早速それらを開封、アロマを焚いて音楽をかけて、照明も私物で持ち込んだリラックス効果のある暖色系のものに変えて。100%完全に気を抜いた全力リラックスモードでくつろいでいた。

 ちなみに服装は下着一枚だったりする。普段から常に演技をして自分を押し隠しているからか、さりげなくとは言えないレベルで私は露出願望持ちだったりするのだ。願望があるだけでやらないけど。キャラ設定以前に体面がある。露出願望がある事と、自分が露出願望持ちであると露呈したくなるのは、少なくとも私の場合は全く話が別なのだ。

 

 閑話休題。

 

「織斑一夏たちは、今頃どうしているかしらねぇ…………」

 

 クスリ、と、思わず笑いがこみあげる。たまたま目についた鏡に映った自分の顔は、いつもの腹黒な悪女の笑みではなく、無邪気に残酷な童女の笑みだった。こうして見ても、どうも随分リラックスしているらしい。

 恐らく、あの後織斑一夏と篠ノ之箒は千冬先輩に私の事を聞いただろう。千冬先輩は確か、公表されているのより少しだけ深いレベルまでは少なくとも知っていたはずだ。具体的にどの程度なのか私は正確には把握していないし、それをどこまで彼らに話すのかもわからない。

 

 ――けれど一つ、いや、二つ確実に言える事がある。

 彼らの持つ情報には、私を理解するうえで致命的な間違いが最低でも二つある。

 

 ――本当は、私の父はスケープゴートにされて職を追われた()()()()()()し、無理心中しようとも、私を殺そうとも()()()()()のだ。

 

 それが、八年前、悲しみに暮れる私に夕さんが見せてくれた、夕さん宛ての父の遺書から私が知った、あの一連の事件の真実。

 

 ――――全ては、父と母の描いた台本の上だった。父は()()()()()()()()()()()()()()()()()()のであり、両親は、互いの()()()()()()()()()のだ。

 

 全ては、愛する祖国(にほん)の為に、愛する(わたし)の為に。

 

 

 もう少し詳しく語ろう。

 

 具体的に父がやった、やろうとしたことは、私の知る限りでは以下の通りだ。

 

 ――一つ目、白騎士事件において多国軍の侵入を許したことの責任を取る事。

 

 ――二つ目、白騎士事件の犠牲者、()()()()()()()()()()()()()()()が救えなかった、()()()()()にいた彼らの存在を、今後のIS政策の為、遺族を行方不明にしてでもなかったことにする事、及び、それら全ての罪を自分一人で背負う事。

 

 ――三つ目、来る女尊男卑の世界の為に、軍事・防衛系の重要ポストを、自分が辞職することで空けておく事。

 

 ――四つ目、おそらく今後発言力が大きく拡大する女性たちの非難の的を()()()手段で自分に集める事で、政府の求心力低下を抑える事。

 

 ――五つ目、亡国機業の手先をはじめとする、国内の不穏分子を巻き込んで盛大に自滅し、地下組織殲滅の足掛かりとすること。

 

 ――六つ目、大事な愛娘である(わたし)を、父の娘ではなく、その()()()()()()()()()()()()()()()()事。

 

 うち、四つ目と六つ目の実現のための手段が、「職を追われて精神を病んだ軟弱な男が妻と娘を道連れに無理心中しようとし、勇敢な妻は夫と刺し違えてでも娘の命を守り抜いた」という、あの無理心中未遂事件の真相だ。

 そんなヘヴィな私の過去が普通に公開されているのも、“私が父と親子関係である事”、“父が職を追われた経緯”のそれぞれは調べれば結構簡単にわかってしまうので、きちんと私に同情してもらえるように、だそうだ。

 

 

 ――そんなに私が大切なら、そんな事しなければよかったじゃない、という思いは確かにある。国よりも私を優先してほしかったという、当時五歳、あるいは七歳の私の幼い感情も、この心には残っている。

 でも、そんなことは言っても詮無きことだ。だって既に“パパ”も“ママ”も死んでいる。

 

 だから、私は、何よりも私の感情を納得させるために、(わたし)に幸せに生きてほしいと願った“パパ”と“ママ”の想いを振り切ってでも、白騎士事件の元凶に復讐する。

 

 ――――そこから目を反らしたら、“パパ”と“ママ”を死なせた元凶の生存を許してしまったら、私は多分、壊れてしまうから。

 

 

 

 ――選択肢は二つ。篠ノ之束か、亡国機業か。

 

 あるいは篠ノ之束がISという存在を世界に肯定させるためにやったのかもしれない。

 それ以前のあらゆるスパコンを凌駕する演算能力を持つISコアを生み出した篠ノ之束なら、各国のミサイルへのハッキングは可能だろう。

 そもそも、ISコア467個を一切の資本のバックアップなしに作り上げた篠ノ之束なら自力で二千発のミサイル如き調達できるかもしれない。後はハッキングで数発のミサイルが発射されたという事実があれば、数は自前のそれで水増ししても問題ないだろう。

 

 あるいは、亡国機業が何らかの理由でやったのかもしれない。

 例えば篠ノ之束をあぶりだす為、例えばIS登場後の世界の混乱をコントロールして利益を得るため。こちらもいくつか動機が考えられる。

 そして実現性としても、配下のPMC(民間軍事会社)を使い、幾つかの国をそそのかして、セキュリティの甘いミサイルをハッキングして、便乗してくれそうなところに事前に情報を送って、等々、多方向に様々な影響力を行使すれば、2341発のミサイルを調達するのも不可能ではないだろう。分かっているのは2341発という数だけで、その中身の構成は曖昧なのだから。

 

 

 どちらも犯人候補としては十分だ。

 復讐に己の未来の可能性全てを注ぎ込む覚悟で挑んでいる私としては、両方可能性があるなら両方ぶち殺したいのだけど、生憎どちらにせよ、私の手で断罪するには最低でも命がけか十年がかりになるだろう。両方潰すのは無理だ。

 

 だから、まず私が行うべきことは、このIS学園での三年間でその犯人を確定させること。そうすれば後は自分の命をチップに復讐を完遂すればいい。どちらが犯人にしても、たぶん千冬先輩は、色んな意味で、私の役に立ってくれるだろうから。

 

 

◆◇◆

 

 

 大きく場面は変わって、そんな事を考えながら、リラックスしすぎたあまり寝落ちた、翌、放課後。

 

更識(さらしき)(かんざし)?」

 

 一緒に練習をしないかと誘ってくるセシリアに断りを入れ、私は四組を訪ねていた。

 その目当てはただ一人。根暗そうな「話しかけないで」オーラを纏った、眼鏡をかけた水色の髪の少女だ。

 

「? 私?」

 

 無言で机の前まで歩み寄って声をかけると、びっくりした顔で、更識簪はきょとん、と首を傾げた。

 どうも私の用件を姉に聞いてはいないらしい。私のこと自体は流石に、姉のライバルとして知っているようだけど。

 

「雛菊の整備を手伝ってほしい」

 

 ペコリ、と頭を下げる。あの機体は変態的に整備項目が細かいので、自動修復と私の整備だけでは性能を維持できないのだ。

 しかし整備の為に月に何回も本社を訪ねるのは正直遠慮したいので、学園内でそれを依頼できる技術者はいないかと楯無に相談したところ、妹を紹介された。

 曰く、『少し経験不足なのが難点だけれど、開発者、技術者としてはともかく、整備士としてはすでに超一流に近いわ(意訳)』とのこと。ちなみに、付き人(?)の虚さんの意見を参考に、シスコン補正の分をマイナスした後の評価である。

 尚、その発言には続きがあって、

 

『だからその代り、()()()()()()()、簪ちゃんの専用機、打鉄弐式の完成の為に雛菊のデータを提供してくれないかしら(意訳)』

 

 などともいわれている。同年代の友人が非常に少なく、幼少期から沢山の先輩に可愛がられてきた私は、先輩として、とか後輩の為に、とかそういう言葉に弱いのでついついOKしてしまった。

 

 ……まぁ、実際代表候補生としての先輩後輩であることは確かだし、両製造元の許可も楯無がとってくれたそうなので考え直しても異論はないけれど。

 

 あえて不満を挙げるなら、そんな露骨なおだて戦略を使わないと引き受けてくれない可能性があると思われたことだ。

 いくつか大きな欠点はあるし、なにより実力は同格なのに機体相性で負け越すという苦い思いを毎度のように味あわせてくれる相手だけれど、数少ないほぼ同年代の最も親しい友人の頼みで、特に私が損する話でもないのだから断る理由がないというのに。

 まぁ、そんな背景の事情は置いておいて。

 

「あの人に、言われたの……?」

 

 コクリ、と頷く。楯無の紹介と聞いた瞬間一気に表情が暗くなり、ヤバい、断られる、と思った私は慌てて言葉を付け足す。

 

「整備の腕は、あなたがIS学園(ここ)で一番と聞いた」

 

 姉に言われて温情で来たのではなく、純粋に実力を評価しての事だ、と。

 

「それ、お姉ちゃん(あの人)が……??」

 

「虚さんも」

 

 あのシスコンだけならともかく、虚さんも言っていたなら信用できる。あの人でも多少の身内びいきは入ってしまうかもしれないけれど、基本的に公正な人だから誤差は許容範囲内だろう。

 

「…………わかった。やれるだけやる。それで――」

 

 チラリ、と上目遣いをしてきた更識簪と、初めて目が合った。

 

「データは取っていい。こっちの許可は取った」

 

 謎のシンパシーを感じ、がしっ、と握手を交わした。




・白騎士事件被害者(続き)
 こっちは完全独自設定。前話にちゃんと書きましたよ?「本土には一切の被害を出さず」って。
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