TS逆行したら才能に満ち溢れてた   作:黒髪赤眼すこすこ侍

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2章開始です


2.生主兼動画投稿者兼イラストレーター兼歌手兼予言(ry 編
夢と目標


 2008年になり、ニコ動では東方に紛れながらもボカロ曲の勢いが止まらない。この世界でもメルトショックは無事に起こされ「歌い手」の存在も次第に大きくなっていった。

 私の方も3曲ほど出し全てミリオン達成。私の曲は、なんと言うかボカロ曲っぽくないように感じるのだが、それでも人気が出ている様なので気にしないことにした。前世よりも同時期のユーザー数が多い影響もあるのだろうがとんでもない速さでVOCALOIDというジャンルが大きくなっていっているのを感じる。

 

 予想外だったのは海外人気の高さだった。YouTubeの方で自分の曲を英語版で投稿しところ今までにない速さで再生回数が伸び、1週間でミリオン達成してしまった。日本向けのヨナ抜き音階で作曲したためとりあえず「こんなモノがあるよー」という軽い気持ちで投稿したのでこれにはビックリだ。流石は世界一話者の多い言語。

 また過去の動画から多言語を扱えることを知ったからかコメントでは自分の国の言語でも歌ってほしいと要望が多く出た。流石に全ての言語に調声し直すのは面倒であったため私が歌ったものを投稿して我慢してもらった。そっちも伸びてるのでみんなの期待には応えられたようである。

 

 個人的な活動では、なんとなんと初コラボ動画を撮らせてもらった。お相手は鍵っ子なら誰もが知るLioさん、というよりメーカーが全面バックアップしてくれた。なんでも、以前投稿させてもらった弾き語り動画を見てLioさんの方から「会ってみたい」と言って頂いたらしい。これを聞いた時は飛び跳ねて喜んじゃったよ。

 

 コラボの内容は対談から始まり生演奏でのデュエットまでさせてもらえた。更にこれからは許可なくカバーしても良いとの許しを頂いてしまった。至れり尽くせりでこちらからは何もお返し出来ないことに歯がゆい思いもしたが、Lioさん方は笑顔を見せてくれていたので気持ちは楽になる。

 話によると私の動画投稿後から原作ゲームの販売数が増えたらしい。ただの弾き語り動画が、原作を知らない少なくない人に影響を与えられたのであれば嬉しい限りだ。

 最後にYouTubeとニッコニコ動画にメーカー公式のアカウントを作ることを告知してコラボは終了した。私の公開タイミングはどうすればいいのか尋ねれば「直ぐにあげてもらって構わない」との事で、公式アカウントの準備が出来次第そちらでも動画が投稿されるらしい。

 動きが早いなと感じるが、2つの動画投稿サイトの爆発的成長具合を鑑みればその流れに乗った方がいい事がわかる。もしかしたら前世よりも多くの人に知ってもらえるかもしれないね。

 

 収録後——後で聞かされたがまだカメラは回していて、この映像も時期が来たら公開された——「内緒だよ」と次のアニメのOPを聞かせてもらった。それは「時を刻む唄」で、この世界でも2008年の秋放送予定である。

 Keyの曲では私の一番好きな歌でもあり、聞いているうちに私は自然と涙を流していた。スタッフの方には心配もされたが平気だと答えた。

 ただ、CLANNADという作品は、亡き父を想わずにはいられないだけなんだ。

 家族の大切さ、それを改めて心に刻んだ。

 

 帰り際には「メジャーデビューしたかったらこちらに連絡してくれれば顔繋ぎをする」とも言ってもらった。まだ時期尚早な気がするが母とじっくり考えてからお願いすることにする。

 

「お母さん。私を産んでくれてありがとう」

「ママの方こそだよ。パパとママの子として生まれて来てくれて、本当にありがとうね」

 

 コラボの帰りには普段言わない事も口に出した。癌の脅威が無くなったとは言え事故による突然の別れが訪れるかもしれない。当たり前の平穏と考えずに一日いちにちを大切にしようと思った。

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 4月になりTwitterの日本語版がリリースされた。日本人ユーザーが増えてくる筈なのでこのタイミングで私も日本語のツイートを解禁。フォロワー数がいつの間にか80万人まで伸び、それも海外のユーザーが半数以上を占めている様なので英語も交えながら呟いていくことにする。

 

「葵ちゃんお待たせ」

「おせーよ理華」

「はい涼くん減点。女の子には優しくしなきゃだよ?」

「ぐっ……」

「べーっだ」

「理華ちゃんもそんな事したらダメだよ」

 

 小学校生活2年目になり理華ちゃんも登校班に慣れてきた。初めの頃は人見知りしていたが上級生の子が優しく接してくれたので今では元気よく集合場所に来てくれる。

 涼くんは最近お口が悪くなって来たので矯正中だ。男友達の間では全くの無問題だが女の子に対してはもうちょっと考えなくてはいけない。将来モテなくなっても知らないぞ。

 ただこの2人、幼稚園の頃から面識がある筈なのだが仲があまりよろしくない。性格も真反対に近いので馬が合わないのかな。

 

 班員が揃ったところで見送りに来ていた親御さん達に挨拶をして学校へ出発した。

 登校班と言えば全国の小学校がやっている訳ではないらしい。大学で出会った友人には「地元にそんなものはない」と言われカルチャーショックを受けた覚えがある。登校班が無かったら低学年の子は危なくないのかな?

 今も後ろでは3、4年生の子らが広がって歩くのを副班長が注意している。こんな感じで道の歩き方を教えてもらえるから良い文化だと思うんだけどなあ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はーい。今日はみんなが考えて来てくれた『将来の夢』、順番に発表してもらいます!」

 

 事故もなく学校に着き淡々と授業をこなしていったお昼前。給食まで残り1つとなった4限目は「学活」の時間だ。再来週に控えた学校公開日に向けて「夢」を題材にした原稿作りをしている。内容はと言うと、夢は何か、それを叶える為にはどうしたら良いか。これを先生が添削しながら纏めてきた。今日は出来ているところまでのものを名前順に発表していく。

 男子人気が高いのはやはりスポーツ選手で、特にサッカー選手が人気だ。逆に女子はお花屋さんやパティシエ、バレリーナなど様々な意見が出た。今年も同じクラスになった理華ちゃんは図書館の先生、司書さんになりたいらしい。

 中にはまだ思いつかない子もいて、その子は順番を飛ばしていった。

 

「次は八色さん。出来そう?」

「私もまだ出来ていないので次回に発表します」

「八色さんはあまり考えすぎないでね…じゃあ最後は——」

 

 かくいう私も原稿は出来ていない。

 これが2010年代後半くらいであれば「配信者です」や「YouTuberです」なんて言えたんだろうけど、それらの存在はまだ市民権を得てないため今の所は難しい。そもそも、「夢」と「目標」の区別が分からなくなっている。

 私の夢。出来たらいいなと思う事は山ほどあれど、それが全て夢なのかというと違うだろう。それらは順を追って到達する目標だと思っている。

 逆行前はどんな夢だったか。小さい頃は教師を目指していたっけ。それが成長するに連れ薄れていき、やりたい事が見つかってからはそれをずっと追いかけていた。

 

「八色さん、大丈夫そう?」

「まだ考え中です」

 

 全員の発表が終わってからは原稿の詰めに取り掛かっており、先生が巡回しながらそれを確認していた。

 

「うーん……八色さんは考えすぎなんだと思うよ?」

「考えすぎ、ですか」

「ほら、数学者になるでもいいし」

「実は数学より物理が好きなんですよね」

「じゃあ物理学者だ!」

 

 それも1回考えた。この世界でも以前と同じように研究者の道を歩む。飽きる事なんて無いと思うし、配信者等とも共存出来るかもしれない。ただ夢と言うには簡単に叶えられそうな点が気になる。かと言ってノーベル賞受賞なんて不可能に近いし。いや、逆に夢っぽいなこれ。でもなんかもにょる。

 アドバイスを貰っても悩んでいる私を見かねたのか、先生が私の耳に口を寄せて来た。

 

「八色さんだから言っちゃうけど、本当は何でも良いんだよ。それこそ、その場しのぎの嘘でも構わないの」

「……いざとなったらそうなりますね」

「何度も言うけど、かるーい気持ちでやればいいよ」

 

 随分とぶっちゃけてくれた先生だが確かにこんなモノは適当で問題ない。それが真実なのか嘘なのかは当人以外知る由もないんだから。でもそれは最終手段で、これを機にしっかりと夢と目標を決めた方が行動指針がブレないはずだ。残り2週間の内に決着をつけなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 放課後。自宅に帰りランドセルを机に置いてベッドに寝転んだ。未だに思考は纏まらない。ここまで来たらただ悩むだけでは解決しないな。

 

「…こうなったら全部の感覚を総動員しよう」

 

 そう口に出してベッドから起き上がり紙とペンを取りだした。

 

「最大の目標はウコンちゃん…に限らず憧れだった人たちと知り合う事。いや仲良くなる事」

 

 思考を書き連ねながら口にも出す。目で見て、耳で聞いて。違和感があればそれが引っかかってる事だ。

 

「その為にはニコ動かYouTubeである程度の知名度がいる。これは今やっている事の延長線」

 

 思考がどんどんクリアになっていく。

 

「知名度と言っても悪い方向じゃなく良い方面。有名でも著名でもどちらでもいいが出来るなら著名で」

 

 書いた事をそれぞれ線で結び関係性を生み出していく。

 

「ある程度のプライベートの切り売りは必要。だけど『お金たくさんゲットした』なんて事は要らなかったかも。これは反省点。ただし人気は得た」

 

 最初からこうやってれば悩まずに済んだかもしれない。時間の無駄だったなと頭の片隅で考えながら作業を続ける。

 

「今やっている事は動画配信の前座。リアル、ゲーム、音楽、お絵描きも加えて良いかも」

 

 そうやって出来上がったものはA4用紙一面にビッシリと書き込んだチャート表。互いに線で結ばれ辿り着く先はやはり最初に書いた事だ。

 

「これが目標ではなく、私の夢」

 

 憧れた人たちと仲良くなる。それが夢。ただ未だに納得していない部分がある。これじゃないはずだ。

 ふと、逆行前の最後の記憶が頭をよぎった。

 

「——10億」

 

 口に出して即座に否定する。いやいや、自分の夢なのにそんな他人任せな事のはずがない。それが夢だと言うならば、それを自分が達成させる事が出来ると考えている事にもなる。些か傲慢過ぎやしないだろうか。

 そんな気持ちとは裏腹に胸につっかえていた様な感覚は消え去っていた。

 

「えー……これが私の夢なの……」

 

 脱力して背もたれに体を預けた。

 これまで知識チートでキャッキャしてたのに何を今更、と言ったところだが実際に「私は傲慢で自分本位な人間です」と突きつけられるとちょっと堪える。

 

 散々悩んだ挙句、辿り着いたのは、ただ好きな人が伝説になるところを見たいという事だった。

 

「まあ、いっか」

 

 そう、今更だ。改めて考えれば夢なんてものは自己本位の塊だし。○○になりたいとなんら違いはない。多分。

 

 こうなったら開き直ってこの夢を絶対に叶えてみせる。そのための妥協は一切しない。

 

 世界を巻き込んで、圧倒的な伝説を作り出してやる。

 

 とりあえず自分の夢というものを確認出来たがそれを発表するのは流石に拙い。なので適当にでっちあげる事にした。最終手段と考えていたけどバレないのでヨシ!

 ランドセルから原稿用紙を引っ張り出し文を書いていく。一般受けしそうな夢はやっぱり音楽関係かな。

 

「私の夢は世界一の歌手になることです、と」

 

 嘘でもないし。そうなったら確実に人気を得られるから勿論狙っていく所存だ。ミクちゃんのものよりも私が歌った方が伸びてしまった現状を考えれば可能性は十分にある。が、何だかミクちゃん含め全てを踏み台にしている感じがして嫌なんだよなあ……もうちょっとミクちゃんの良さを出せる曲も作ろうか。もしかしたら自然な声色(こわいろ)にし過ぎているのかもしれないし、機械音声感をもう少し残してみよう。

 

 音楽市場の大きさはアメリカが1位で2位に日本が来る。この両取りが目標だ。ウケる音楽性も違うだろうからそこも考えて作曲していかなければ。

 

 まずは今すぐで無いにしろメジャーデビューしたい事をお母さんに相談しよう。そう決心して、書き上がった原稿の上にペンを置いた。

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

 7月になりやっとスマホが日本でも販売が開始されたのでIMOから帰国してすぐに入手。スマホが無かったおかげで勉強には集中出来たので良かったけどやっぱりこれが有るのと無いのとでは全然違うよね。今までスマホ無しでよくここまで耐えれたよ、私。ネットサーフィンが捗る捗る。

 

「葵ちゃん!ご飯なんだから携帯を置いて来なきゃ、メッ!」

「ごめんなさい……」

 

 ただしその反動でスマホ依存症にならない様に気を付けなければいけない。

 席に着いて朝食を食べながらニュースを確認する。四川大地震の復興状況や秋葉原通り魔事件、原油高高騰などの暗い報道ばかりだ。

 

 地震や通り魔の事はボカシながらもネットで警告してみたが被害は変わっていない。こういう悲劇を避ける為にはもっと影響力を大きくしないと意味が無いってことかな。後はやっぱりストレートに伝えるべきか……

 

「ガソリンが値上がりしちゃうのは嫌ねぇ」

「あんまり車使ってないのに?」

「気持ちの問題かしら」

 

 我が家の自家用車は滅多に使用される事がない。お母さんが歩くのが好きということもあるし、2人暮らしの影響で大量の買い物をする機会もないからだ。

 とはいえガソリン代が値上がってしまうと食料品などにも影響してくるので確かに気が滅入ってしまうかもしれない。

 

「そういえばさ、お母さんはバイクとか乗らないの?」

「怪我が怖いのでママは乗らないかな〜。葵ちゃんは興味ある?」

「ちょっとだけね」

 

 乗り物の話になったのでついでにお母さんがバイクに忌避感を持っていないか聞いてみたが、これどっちだろう。私としては逆行前は趣味で乗ってたので反対されなければ免許を取りたいんだけどな。

 それにモータースポーツ層は世界には結構な人数がいる。そこら辺を取り入れられたら大きいし、いつかサーキットで体験動画なんて出してもいいかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 12月。ついに動画配信サービスが始まる。この日のためにカメラを良いものに新調し準備も万端だ。枠を取った時間までパソコンの前で待機する。

 ぶっちゃけると子どもとしての生活に飽き始めて来ていた。中学生くらいになれば周りの子との会話も楽しめるんだろうけど、それまではもう待ちきれない。なのでこの配信が息抜きになっていけば嬉しいな。

 最初の配信は挨拶とコメントとの会話だけで済ますつもりだ。視聴者がどんな層なのかの確認も出来るし次回からはそれを反映させていこう。

 

 時間になりカメラが正常に作動しているのを確認し最後にマイクのミュートを解除する。ここから新しい動画コンテンツが始まるんだなあ、と感慨深く思いながら口を開いた。

 

 

「はい」

 

《コメント》

はい

こいつ、動くぞ!

こんばんは!

実在したとは…

はい

かわいい

はいじゃないが

 

 

 最初の挨拶、考え忘れてた!

 

 




盛大な推し活の始まり

細々とした設定や下積みはこの章で終わらせます
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