TS逆行したら才能に満ち溢れてた   作:黒髪赤眼すこすこ侍

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たまには幼馴染組の日常をひとつまみ


レコード会社

「ほら、ここ通っていったら早いでしょ?」

「これ私の知ってるゲームじゃないんだけど……」

 

 そりゃこのソフト、バグっぽいニスクが山ほどある事で有名だったし。

 春休み真っ只中の3月最終週の昼下がり、自室で理華ちゃんとレースゲームを遊びついでに未だ世間では知られていないショートカット(ニスク)を教えていた。

 

『なにその動き!?え、本当に何!?ズルじゃん!』

『理華ちゃんもやってみる?』

『やる!』

 

 最初は普通に遊んでいたのだが途中で私が変態挙動を取り始めたため理華ちゃんも真似したいと言い始めたので始まった教習所。

 何だかんだ言って理華ちゃんも技術を直ぐに飲み込んでいくのでこの世に未だ存在しない変態走行をする人が一人増えそうだ。今度2人でネット対戦を荒らしてみようかしら。

 

「それにしてもよくこんなの思い付いたね」

「ゲームの動画とか投稿してるからね」

「ゲーム動画?」

 

 そういえば理華ちゃんに話した事なかったな。パソコンで動画を見せながら簡単に説明したら「ふーん」という簡素な返事が返ってきた。興味ない人はとことん興味が湧かないコンテンツなのでこの反応も致し方ない。

 

「でも知らない人に顔を知られちゃって大丈夫?」

「その意識100点満点だね。真似しちゃダメだよ?」

「真似はしないけど……」

 

 私も顔バレについて思うところはあるけど芸能人や前世の動画配信者なども大丈夫だったから考えすぎない事にした。別に一人暮らしという訳でもないしね。

 その後も色んなコースのニスクを教え込んでいると階下から慌ただしい足音が聞こえてきた。

 

「ん、誰か上がって来るね」

「おばさん?」

「お母さんはもっと静かな足音だ——」

「葵ー!遊ぶぞ!」

「——涼くん、ノックをしなきゃダメだからね……」

「げっ、涼馬じゃん」

「なんだ理華も居たのか。ほらほら部屋でゲームなんかしないで外行くぞ!」

 

 扉を開けて入ってきたのはお隣の幼馴染であった。どうやら今日はクラブの練習もお休みだったらしく元気いっぱいな様子だ。

 

「私は別にいいけど…」

「えー、外〜?見てるだけでいいなら…ちなみに何するの?」

「サッカー!」

「はい私は見学します」

「とりあえず着替えるから涼くんはリビングで待ってて」

「おう!」

 

 最近はすっかりサッカー小僧になってる様で、同学年の子達と校庭でサッカーをしている光景をよく見かける。私も暇な時間に付き合わされる事もあるので我が家には必要ないサッカーボールがあったりする。

 外に行くという事で部屋着を脱いでクローゼットから動きやすい服を取り出す。

 

「葵ちゃんの服、また増えたね」

「お母さんが新作が出る度に買って来るからね……」

 

 たまに2人でショッピングに行くと必ずと言っていいほど着せ替え人形にされるので服は増えるばかりだ。小さくなったものは近所の子やセカンドハンドショップに売りに行ったりするのだが、何だか勿体ない様な気がしてならない。

 確か服飾関係も地球温暖化に影響を及ぼしていたはずだ。なるべく捨てたりする事の無いようにしていきたい。

 

 着替え終わりリビングへ向かうとソファーに座った涼くんがお菓子を食べていた。

 

「あっオヤツ!涼馬だけズルい!」

「理華ちゃんのも今出すよ。お母さんは?」

「公園行くって言ったら着いていくから待っててって言われた」

「なるほど…はい、理華ちゃん」

 

 どうやらお母さんも一緒に行くようで今は準備中らしい。私と理華ちゃんも涼くんの対面のソファーに座って待つことにした。

 

「てかサッカーくらい友達誘えばいいじゃん」

「あいつらみんな春休みの宿題中で遊べなかったんだよ」

「それはもうすぐ4年生としてどうなの……」

「涼くんも私とやらなかったらそうなってそうだね」

「そんな事ねーし!」

 

 個人的には長期休暇の宿題は最初に終わらせてしまう派だが、最後まで残してしまう気持ちも分からなくはない。小中学生の長期休暇の課題はとにかく量が多いからね。学習習慣を身につけさせるためには仕方ないのだろうけど。

 

「お待たせー!ママも準備出来ました!」

「ん、じゃあ行こうか」

 

 お母さんが来たことでボールを持ちみんなで公園へ出発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2010年代から20年代にかけて、公園の遊具の撤去やボール遊び禁止の所が増えて来ていた。世論の流れもあったのだろうけどやはり少し寂しい気持ちにはなった。

 この時代はまだその煽りを受けていないため公園では多くの子ども達が遊んでいた。

 

「葵!ほら!リフティング上手くなっただろ!?」

「片足でチョンチョンするのは安定してきたね。じゃあ次は両足でやってみよう。こんな感じで1、2、1、2ってリズミカルに蹴ってみて」

「すげー!」

「最初は膝より高く上げないように心掛けてね。片足でやってきた事の延長線上にあるから気張らなくて大丈夫だよ」

「なんで涼馬より葵ちゃんの方が上手いの…」

 

 中学生や高校生の頃はよくみんなで遊んでたから自然と上達したんだよね。それに1度身についた技術は忘れにくいし。

 涼くんにリフティングを教えた理由は特に無い。強いて言えば、前世でのサッカー部の友人が「リフティングが上手い奴がサッカーが上手い訳ではないが、サッカーが上手い奴はリフティングも上手い」なんて言っていた事を思い出したので教えてるだけだ。

 多分足先のコントロールとかにも繋がってくるだろうし涼くんの力にもなってくれるだろう。

 

「葵ちゃん、他になんか凄いこと出来る?」

「任せて」

 

 理華ちゃんからリクエストを貰ったので前世で見ていたサッカー番組にて身につけた技を見せることにした。世界の有名選手から出される課題を全てクリアした私に死角は無いのだよ。

 

 先ずは普通にリフティングを始めて右足の甲の外側で擦りあげるようにボールを上に蹴りあげた、と同時に上に飛んできたボールを触らないように右足でぐるりと1周跨ぐ。その勢いを利用してボールが落ち切る前に左足でも同じように1周回し、落ちてきたボールを地面に落とさないようにリフティングを再開させた*1

 

「すげー!!」

「すごっ!」

 

 わはは、もっと褒めるがよい。無邪気な賞賛が心地いいぞ。

 その後理華ちゃんもやってみたいと言い出したのでボールを貸してあげた。ただボールを上手く蹴れないみたいであっちへこっちへとボールを転がしていく。それでも楽しそうにしてるしたまには外で遊ぶのも良いね。

 

 その様子を眺めながらお母さんの近くへ行くと誰かと電話をしてるようだった。

 

「あっ、葵ちゃんいい所に」

「どうしたの?」

 

 私に用事と言うとIMO関係の人しか心当たりがない。けど今さら連絡してくる事も無いはずなんだけどな。

 

 

 

「レコード会社の方からよ」

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 寒さも和らいできた4月。私は東京某所にあるビルの前に立っていた。

 

「でっかあ……」

「ほら葵ちゃん、中に入りましょ」

「うん」

 

 お母さんが受付を済ませているのを横目に豪華なエントランスホールを見回す。こんな立派な会社とこれから打ち合わせをする実感が湧かない。

 Lioさん方が橋渡し役を務めてくれたのでてっきり同じレコード会社だと思ってたんだけど、蓋を開けてみたら誰でも1回は聞いたことのある会社であった。レコード会社同士の横の繋がりもあるのだろうけど私をなんて説明したらこうなるんだろうか。

 

「はい、これを首から提げてね」

「ありがとうございます」

「では今から案内を致しますので私に続いてください」

 

 係の人から貰った来賓者用の身分証を首から提げ、案内の人に着いていく。私たちを乗せたエレベーターは15階に到着した。

「こちらでお待ちください」と言われた場所はミーティング室みたいなものではなく窓辺にある仕切りのついた小さな空間だった。カフェっぽい場所だなという感想が思い浮かぶ。

 

 席に着き待つこと数分、男性と女性が1人ずつやって来たのが見えたので起立する。

 

「お待たせしました。ようこそソニック・ワーニングユニバースミュージックへ」

「本日はよろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします。どうぞおかけください」

 

 着席すると同時に違うスタッフの方が人数分の飲み物を運んで来てくれた。大人組はコーヒーで私にはココアが配れられる。私もコーヒーが良いんだけど。

 

「先ずは自己紹介をしましょうか。私は音楽部門部長の峯岸です。こちらはメディア部門の佐藤になります」

「佐藤由希です!葵ちゃん、よろしくね」

「よろしくお願いします」

 

 佐藤さんから手を差し出されたので握手を交わす。しかし音楽部門は分かるけどメディア部門とは何だ?あと峯岸さんの態度がすっごい堅苦しい。こっちなんて子どもなんだからもっと柔らかい対応でいいのに。

 

「この度は我々のスカウトを受けて頂いたことに感謝します」

「いえいえ!というより敬語じゃなくて良いので!」

「…じゃあ普通に話させてもらおうかな。葵さん、ありがとう」

 

 雰囲気を和らげた峯岸さんにほっと一息つく。あんな堅苦しい対応されるとこっちが萎縮しちゃうよ。

 

「質問なんですけど、メディア部門って何ですか?」

「佐藤は葵さん専用のコーディネーターと考えてくれて構わないよ。所謂マネージャーみたいなものなんだ」

「葵ちゃんの予定なんかも私がしっかり調整するから一緒に頑張ろうね!」

「なるほど」

 

 レコード会社なのにそんな事もしてくれるのか。何だか意外な業務だ。

 

「電話でも話したけど、今日は契約から今後の流れまで決めるつもりだよ。八色さんもそれで大丈夫ですか?」

「はい。基本的には葵の意見を尊重しますので」

「ありがとうございます。じゃあこれを見てもらってもいいかな?」

 

 渡されたのはお堅い契約書ではなく、図表がふんだんに使用されたプレゼン資料の様なものだった。ご丁寧に漢字にルビまで振ってあるしこれ作るの大変だったのではなかろうか。

 

 その資料を見ながら説明が開始された。契約内容から始まりレコーディングの流れ、広告代理業務、海外での販売や音楽配信サービスの展開など多岐にわたる。

 

「ここまでで質問はあるかな?」

「大丈夫です。何だか至れり尽くせりで、逆にこれで良いんですかって疑問も生じますが」

「そこは問題ないよ。ただお願いしたい事もあってね。次のページを捲ってもらっていいかな」

 

 言われた通りに捲ったページには楽曲提供や音楽番組への出演などの事が書かれていた。

 

「葵さんの人気が出てきたら恐らくなんだけど『この曲を歌ってほしい』っていう依頼も来ると思うんだ。葵さんが自分で作曲出来るのも承知しているんだけど、どうかな?」

「問題ないです。他の人が作曲したものを歌うのも好きなので」

「ありがとう!それでテレビ出演の方も同じように依頼が絶対来るはずなんだ。ただ葵さんも学校とかがあるだろうし、これは無理強いはしないよ」

「それも休日や長期休暇の間であれば問題ないと思います」

 

 地上波に出るのはそれだけ知名度アップにも繋がるし私の夢を叶える為には是非と言ったところだ。ただそれも私の曲の人気が出ないことには始まらない事なんだけど。

 

「ちなみにYouTubeなどでの動画投稿は続けても良いんですよね?」

「新曲を出す時は1度こちらに連絡してほしいんだけど、それ以外は今までと同じようにしてもらって構わないよ」

「ありがとうございます!」

 

 懸念点であった動画投稿サイトでの活動も制限はかからないみたいなのでホッとする。無いとは思ってたがもしも「活動ダメ!」なんて言われたらお断りしていただろう。

 

「実は我が社の、と言うより邦楽部門のチャンネルも開設しようって話が出てるんだよね」

「そうなんですか?」

「日本のアクセス数も増加しているし、何より葵さんの成功モデルの影響が大きかったんだ」

 

 私の成功モデルと言っても、やった事は原初の時期から物珍しそうな動画を投稿していただけなんだよね。視聴者というパイを分割する数が少ない時期だったからこそ上手くいったに過ぎない。

 でもこれからYouTubeの影響力はどんどん大きくなるし早い動きはそれだけ会社の利益に繋がってくるかな。

 

「あっ。ファーストシングルもCDで販売するんですか?私としては売れるかも分からないので配信サービスだけでお願いしたいんですけど」

「葵ちゃん、それは心配しないでね。売れるようにするのが私の仕事なんだから」

「佐藤の言う通り、そんな心配は必要ないよ」

「そこまで仰るなら…」

 

 でも本当に大丈夫か?売れ残り在庫なんて抱えられたら申し訳なさでいっぱいになるよ?

 

「これは飽くまで個人的な予想なんだけど、葵さんの想像以上に世間の人は騒ぐと思うよ」

「期待が重いです……」

「万が一売れ残っても葵ちゃんに被害が行くわけでもないからドンと構えててね!」

 

 うーん期待が凄い。最初のシングルから売れるに越した事はないけど、今の日本音楽界は女性アイドルグループで盛り上がっているし難しいと思うんだけどな。

 まあやってみないことには始まらないし佐藤さんの言う通り気楽に待ち構えておこう。

 

 その後正式な契約書に目を通し私とお母さんのサインをして打ち合わせは終了になった。これからの連絡は基本的に佐藤さんと行うことになるので連絡先も交換。

 

「葵ちゃんアイフォンじゃん!私も次のモデル買うんだ〜」

「電話番号とかは変えるんですか?」

「それは変えないから大丈夫だよ。よしっ、これで会社用と私用の両方で連絡がつくね。基本的には会社用の方に連絡してくれれば良いから」

「承知しました」

「も〜、堅いなー葵ちゃん。もっと砕けた感じにしようよ。私のことは由希お姉さんって呼んで良いからね?」

「分かったよ由希さん」

「今はそれでよし!」

 

 由希さんはコミュステータスがバグってそうな感じなので上手く付き合っていけると思う。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 その後1階のエントランスまで見送りに来てくれた2人に挨拶をしてビルを出た。固まっていた身体を解しつつ駅へ向かう。

 時刻は13時過ぎ。これが自分1人だったら吾郎ちゃんごっこをして至福の孤独グルメを楽しみところだったがお母さんもいるので自重。

 

「ん〜!はぁ…ちょっと疲れたね」

「そうねぇ。お昼休憩する?」

「する!」

 

 どうやらお母さんもお昼ご飯を所望のようなので孤独のグルメ改め二人のグルメ開始だ。

 スマホで近場の食事処を探しながら散策していると良い感じのイタリアンレストランを発見。行列もなさそうだしここにしようと入る手前で声をかけられた。

 ガーンだな、出鼻をくじかれた。

 

「突然すみません。私、こういう者なのですが」

「んへ?」

 

 私達に差し出されたものは大手芸能プロダクションの名刺だ。ああ、いつものね。

 予想通り要件は芸能界に興味がないかといった話であったので丁寧にお断りしてお店の中へ入った。

 

 最近こういった手の勧誘が増えてきた。読者モデル、タレント、子役。様々な業界の人に声をかけられる。

 レコード会社の人が押せ押せだったのもこれが理由なんだろうな。容姿が優れていれば歌なんて下手でなければ問題ない。でもそれって私の映像があったらの話であって、今回はCDや配信サービスで販売する予定だ。レコード会社の人は多分見誤ってると思うんだけどな。

 

「少々お待ちください」

 

 注文を聞きに来た店員を見送る。彼も私の姿に驚いているようだった。

 うん、難しく考えず今まで通りこの容姿も武器にしよう。しっかりとファーストシングルを作れば曲だけで人気にもなるかもしれないし。

 それにこの年から彼らがニッコニコ界に出てくるんだ。ワクワクする事だらけなんだから前だけを見て歩いていこう。

 

「葵ちゃん、なんだか楽しそうね」

「そう?……そうかもね」

 

 5月になれば「先生」と呼ばれていた彼が一足早くデビューする。ニッコ生はまだだろうけどコミュニティに入って繋がりを持とう。

*1
気になった方は「ネイマール 宿題」と調べてみてください

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