TS逆行したら才能に満ち溢れてた   作:黒髪赤眼すこすこ侍

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レコーディング

 5月の終わりについにポケモン実況者としてまいこう先生が動画を投稿した。初々しさが感じられる内容にニヨニヨしてしまう。今世でも無事にフレンドパスの交換を断られてしまっていた。可哀想は可愛い。広告もしっかり出しておいた。

 この時はまだ大学1年生か……実年齢、と言うより精神年齢を越してしまった不思議な感覚もある。

 

「葵ちゃん、準備出来た?」

「もうちょっと待って!」

 

 お母さんに声をかけられたため一旦MMD作りを中断する。逆行前にちょっとだけUnityに触った事もあったのでMMDもいけるだろと手を出してしまったが、これがなかなか面白くて作業の手が止まらない。

 Unityとは全然違う操作感だったけど自由にミクちゃんを動かせるのが良いね。1年前から作品を幾つか出してきて最近のは結構自然な動きになって来たと思う。

 残りの作業はまた後で行うためパソコンをスリープモードにして部屋を出た。

 

「お待たせ」

「きゃー!葵ちゃんかわいすぎ!ちょっとポーズ取って!」

「買う時も写真撮ったじゃん……」

 

 今日のファッションは紺碧色のワンピースにウエストマークベルトを装着している。この時代ではまだ流行りではないけれど似合っているのでベルトは好きな方だ。というか何着ても様になるので女の子のオシャレを案外楽しんでいたりする。やはり美少女…!!美少女は全てを解決する…!!

 

「スマートフォンに変えた一番の利点は葵ちゃんを直ぐに撮れる事ね。開発者の方には感謝しなくちゃ」

「株でも追加で買う?」

「株主優待も無いし、それはいいかな〜」

 

 競馬で一山当てた際にアップル株は5000株ほど買ってあるのでわざわざ追加で購入する必要もないか。

 資産集めとしては数ヶ月前に始めたソロマイニングも順調で、今まで800BTCを得ている。例のピザデーまでに数千BTCを獲得する事を目標としていたがそれも問題なさそうだ。

 しかし今の日本では仮想通貨の税制が定められていないため将来でどのような取り扱いになるか疑問である。遡ってこのマイニングも課税されるのだろうか。

 

「それじゃ初めてのレコーディングへ、ゴーゴー!」

「おー!」

 

 まあ、その時はそのときでまた考えればいいか。今の価値が低いので課税も微々たるものだろうし。

 今日は人生初のレコーディングがある。ファーストシングルが転けてしまわないよう気合いを入れ直して家を出た。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

「ふぁー!葵ちゃん可愛いっ!写真撮っていい!?」

「どうぞー」

 

 既視感を覚えるやり取りを由希さんと交わす。

 この様に許可を取ってくれるなら問題はないのだが、最近は電車に乗るとスマホを向けられる事が増えてきた。まだまだスマホの普及率が低いのであまり気にしてないけど中学生くらいになったら外出方法も考えなくてはいけないかも。

 

「よしっ。じゃあ早速スタジオに行こうか」

「はい!」

 

 満足した由希さんにレコーディングスタジオまで案内してもらう。道中では大まかな流れを説明してもらった。1曲録るのに2時間というのが一般的かは分からないが随分と余裕のあるスケジュールだ。

 到着したスタジオはテレビで見た事が機材が並んでいる。スタッフの方々も待機されていたので挨拶は忘れない。

 

「これを耳につけてガラスの奥の部屋に入ってね。あ、1回目は音がちゃんと聞こえてるかどうかのチェックもするから焦らなくていいからね」

「分かりました」

 

 渡されたヘッドフォンを耳に当てマイクがある別室へ向かった。

 今まではピアノのある部屋で適当なマイクで録音していたため本格的な機材にワクワクしてきた。

 

「ヘッドフォンのコード繋ぎますね」

「あっ、ありがとうございます!」

 

 この時代はまだ有線が一般的であった事を失念していた。スタッフの方に部屋の隅にあるよく分からない機器に繋いでもらった。そこに刺すんだ。

 

『八色さん、聞こえますか?』

「おー、はい大丈夫です!」

『こちらにもしっかり音が届いているのでマイクも問題なしです。早速レコーディングを始めますか?』

「よろしくお願いします!」

 

 時間は貴重なので直ぐにレコーディングへ移った。合図を出されると耳から私の曲のメロディが流れてくる。

 今日録音するファーストシングルは「新世界へ」という題で、これからの社会が急速に変化していく様を描いた曲だ。テンポの速さとリズム感に全振りしたので何かのきっかけで知ってもらえばみんなに広がってくれるのではと期待している。

 

 初めての場所だけど歌い出しもバッチリ、声も出てる。これこのままファーストテイクでOK出せるんじゃないかと調子に乗っていたらサビで音を外してしまった。

 

「あっ……」

『——途中だけど1回目はこれで終わりにしましょう。こっちの部屋に来て音を確認してみてください』

「はーい…」

 

 ヘッドフォンをマイクスタンドの隣にかけ部屋を出た。

 スタッフさんには褒めてもらったけど真剣味が足りなかった事は反省点だ。

 何かの作業をして聞かせてもらった私の声は今までのものとは段違いの音質だった。

 

「おー!すっごいクリアに聞こえます!」

「初めてとは思えないほど完成度が高いね。欲を言えばちょっとミスしても完走して欲しかったくらいかな」

「すみません…」

 

 由希さんに苦言を呈されてしまったが概ね満足できる出来だ。音の聞こえ方も確認出来たし次で決めてやる。

 

「1回目なんだし想定内だよ!休憩してから2回目に行く?それとも直ぐに録る?」

「直ぐに入りたいです」

「ではみなさんお願いします!」

「お願いします!」

 

 休憩なしで始めた2回目は最後まで通して歌うことが出来た。マイクを通した音の聞こえ方も考えて歌ったので自分の中では会心の出来だと思う。

 

「どうでした?」

「バッチリ!」

 

 スタッフさんはさっきよりも盛り上がっていたしこれは来たのでは?そう思って録音した曲を聞いてみると1回目よりも良くなっているのが分かる。しっかりと修正点も改善出来たみたいだ。

 

「この後も続けるんですか?」

「正直に言っちゃうとどっちでもいいよ。これだけ完成度が高ければNGなんて出せないし」

「じゃあ時間ギリギリまで録ってみたいです」

「ストイックだね〜。でもそこがイイ!」

 

 これで終わらせる事も出来るらしいが折角2時間も頂いたので目いっぱい収録に費やすことにした。英語版もついでに録る事に成功したのでアメリカでも無事に販売されそうだ。

 

 スタッフさんは忙しかったかもしれないのでしっかりお礼を言う。その際に「サインが欲しい」なんて言われたのでちょっと困った。

 涼くんや理華ちゃんに遊びで書いたこともあったけどそれで良いものなのか。慣れてない動きで書かれたサインは何処と無く歪で不格好なものだった。それでも相手方は嬉しそうにしていたので良かったかな。帰ったらサインも練習しておこうと心のノートに書き記しておく。

 

「ファーストシングルは何時頃発売予定なんですか?」

「今のところは7月の中旬くらいを目処にしてるよ」

「7月か…」

「なんかダメだった?」

「いえ、そんな事はないです」

 

 ただ6月に世界のキング・オブ・ポップが死去するかもしれない。彼ほど偉大な人物の出来事に被さってしまうのは、個人的な心情もそうだし、メディアに取り上げられにくくなるという2点で拙い。

 7月中旬なら問題ないか……?余波が少し残ってそうだけども大丈夫かな。

 

「本日はありがとうございました!」

「サンプルが出来たら連絡するからね!」

 

 出口まで見送りに来てくれた由希さんに挨拶をして帰路につく。お母さんは先程スマホに取り込んだ私の曲を聞いている。隣で聞かれると羞恥心の様な感情が湧いてくるので家に帰るまで待ってほしいのだけれど。

 

「葵ちゃんはアメリカ英語で歌うのね」

「うん。欧州出身なら英国版の方が良かった?」

「そんな事ないよ!ママの母国も米国英語が主流だろうし」

「へー」

 

 そういうものなんだ。思えばイギリスの植民地化されたところ意外ではイギリス英語を使っている所が少なかったはずだ。とは言ってもオーストラリアみたいに独特な訛りになっているところは幾つもあるんだろうな。

 

「晩ご飯は何が食べたい?」

「お肉!」

「じゃあ帰りにデパートに寄り道しましょー!今日も手伝ってくれる?」

「もちろん!」

 

 最近になって身長がグングン伸びて来たので台所の手伝いも積極的に行っている。

 毎日牛乳、納豆を食べているおかげか今の身長は135cmになっている。夢の180代が見えてきたかもしれない。このまま高校生までは伸び続けてほしいぞ!

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 6月26日。キング・オブ・ポップの訃報が日本でも伝えられた。

 年代もあるのだろうけど小学校ではみんな普段通りにしていたが、放課後に確認したテレビはその話題1色になっていた。

 由希さんからもファーストシングルの発売を8月にずらす旨の連絡が来ていたので了承を返す。

 

 こういう大きな事件が変わらずに起きてしまうのを目の当たりにすると、2011年に日本が経験してしまう大災害への不安が絶えない。

 2011年3月11日。マグニチュード9.0もの巨大な地震による大津波とそれに伴う原発事故。あれほどまでに衝撃を受けた出来事は逆行前の人生において1つとして無かった。

 

 もしも。もしも私がその被害を少しでも変えられるのだとしたら——。

 タイムリミットは2011年の1月。それ以降になってしまうと準備が不可能になる。

 それまでに世間が無視できない存在になっていれば地上波で注意喚起も行えるかもしれない。ネット上で津波のシミュレーション動画を出し、津波の危険性を訴える事も出来るはずだ。

 

 そのカギを握るのが私の楽曲なのか、それとも今までの積み重ねによる知名度なのか。

 叶えたい夢とは異なるが、それまでの道のりで救える人が居るのならばやってみる価値はあるはずだ。

 

 影響力を上げるためにやれる事はやる。その決意を忘れずに歩んでいこう。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 7月の上旬。ついにウコンちゃんがゲーム実況者としてデビューした。アカウントのフォローもしたし広告も出した。ただしまだ6ポケ動画を出てないため視聴者数はあまり伸びていない。

 まいこうは順調に伸びているようなのでウコンちゃんも動画の伸びを気にせず6ポケまで突き進んでほしい。

 

 その頃私はニッコニコ本社に呼び出されていた。突然メールが来た時は驚いたが、内容は以前から誘われていたあるイベントに関する事だった。今まではお母さんに却下されていたため出演出来なかったが今回は何とか説得してOKを貰えたので速攻で返事を返した。

 

「葵さん、本日はご足労いただきありがとうございます」

「いえ!お招きいただきありがとうございます!」

 

 対応してくれたのは組織のトップである冬野さん。お前が出てくるのかーいなんて驚きもあったがトントン拍子に話は進んでいった。

 

「ではニッコニコ大会議2009では最終日に出演していただけるという事でよろしいですか?」

「はい!それで大丈夫です!……お母さん、良いんだよね?」

「うん、いいよー」

「ありがとうございます!最終日は今のところシークレットになってますのでニッコ生なんかで口走らないようにだけ気をつけてください」

「分かりました!」

 

 ニッコニコ大会議は超会議の前身となるイベントで2009年は全国ツアーみたいな形で行う。年齢のこともあり、私は東京公演の2日目にだけエントリーだ。

 

 話もまとまり適当に雑談をしている中で欲しい機能はないかと聞かれた。

 

「個人的な意見ですが、生放送に入れる人を増やしてほしいなって。又はユーザー生放送にもタイムシフトが出来るようになれば嬉しいんですが…」

「葵さんはトップクラスで人気がありますからね、そういう悩みも出てきますよね。ここだけの話、ユーザー用のタイムシフトは近々実装予定です」

「本当ですか!?」

 

 いや、知っていたけど。でも喜ばしい事なので感情を顕にしておく。

 

「あとはコミュニティレベルの上限を引き上げ、それに伴う特権も9月に実装予定です」

「えっ!?」

「葵さんの場合は5000人まで生放送に入れる事が出来るよ」

 

 コミュニティレベルに関しては前世よりも動きが早い。これには鱗滝師匠もニッコリだ。

 

「葵さんの生放送がパンパンなのは以前から問題視されていてね。それにプレミアム会員も90万人を突破したからお祝いも兼ねてるんだ」

 

 この意識のままだったら衰退する事も無いだろうけど、改悪なんてせずどんどん突っ走ってほしい。

 他にも外国語にインターフェースが対応するかは不明らしいが前向きに考えているとのこと。これは私も急ぎで行う必要はないと思うので軽く流しておいた。

 

 しっかし9月から5000人も生放送に来れるのは本当に嬉しい。最近はコミュニティの掲示板で生放送に入れない人が暴れていたりしていたから、それも解消するはずだ。

 この調子でサーバーも強くなればYouTubeに先んじて配信サイトの雄になれるかもしれない。

 ……流石に世界的には無理かな?でも日本国内だけでもニッコニコ業界が盛り上がればそれだけ埋もれていた才能も発見されるだろうし、頑張ってほしいな。

 

 

 




これが投稿されている頃はポケモンとW杯に現を抜かしているはずなので投稿ペースが落ちるかもしれません
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