TS逆行したら才能に満ち溢れてた 作:黒髪赤眼すこすこ侍
8月中旬、「結ンデ開イテ羅刹ト骸」が1ヶ月でミリオン再生を達成した。ボカロ曲が氾濫しているこの時期においては異例の速さだ。これが本物かと畏怖を覚える。
「おはよー」
「おはよう!もうご飯出来ちゃうから顔洗ってきてね」
「はーい」
キッチンで料理をしていたお母さんに朝の挨拶をして洗面所へ向かう。今日は午後に涼くんの練習試合を見に行く予定だ。それまでに1週間ぶりにYouTubeの更新をしなくては。
リビングへ戻り用意されていた納豆を混ぜながらニュースを確認する。特に目新しい情報はないかな。
「お待たせ!じゃあいただきまーす」
「いただきます」
今日の食卓のメニューはトーストにベーコンエッグ、サラダ、昨日のお味噌汁の残りだ。見事に和洋折衷である。私なんてそれにプラスして納豆も食べてるし統一感がないな。
それを雑談しながら食べているとニュースの話題が切り替わった。
『次は音楽コーナーです。日本のあるアーティストがアメリカで話題を呼んでいます』
「あら、葵ちゃんかしら」
「違うと思うなー」
親バカのきらいがあるお母さんは直ぐに話を私に繋げてくる。2週間ほど前にリリースしたばかりのファーストシングルは初動売上自体は悪くないそうだけど、それは日本での話。アメリカで話題になるのはもっと成熟したアーティストだと思う。
だから録画しようとしても意味ないって。
『今月5日にメジャーデビューした八色葵さんのファーストシングルが、アメリカのオリコンシングルチャートで週間3位にランクイン!これは——』
「——は?」
「よし!間に合った!」
カランッ。
食卓に箸が転がる音が響いた。
「うわっ。凄い増えてる……」
朝食を急いで済ましてからパソコンでYouTubeを確認するとチャンネル登録者がとんでもない事になっていた。1週間前は180万人を突破した程度だったのに今や200万人を超えている。
由希さんからも連絡がありアメリカでの売上が好調とのこと。あのニュースは間違いではなかったらしい。
確かにノリやすいテンポに拘ったけど、まさか国内より先に海外で人気が出るとは思いもしなかった。
「ニッコニコの方も増えてるなー」
冷静に試算してみる。昔に週に50万枚売れればチャート1位を取れるなんて聞いた事がある。アメリカの方がどんなものか分からないけど日本と同じだと仮定しよう。
仮にこの勢いのまま年度内に100万枚捌ければ売上は6億。その6%が私に入る契約なので収入は3600万円にもなる。為替レートも関係してくるので正確にはこの数字にならないと思うけど、想定外の額だ。
最近になってYouTubeの広告単価も上がって来ている。このまま行くと確実に半分を税金で失ってしまう事になる。
ということで。
「お母さん、和真さんと由希さん、後は司法書士の方を呼んで相談したい事があるの」
「んー?なになに?」
「起業したいなって」
「いいよー……えっ?」
法人化だ。
◆◇◆◇◆◇
日本では2006年より資本金の縛りが無くなり誰でも1円から株式会社を起こせるようになった。
「——では、こちらの契約内容の方で問題ないでしょうか」
「はい、問題ありません。よろしくお願いします!」
とは言っても15歳未満の場合は法律行為にあたる事について色々と面倒な手続きがあるのだが。
「もう上に話は通してるから正式書類は直ぐに準備出来ると思うよー」
「由希さんの真面目モードが解けちゃった…」
「堅苦しいからね!」
そう言って由希さんは一足早く会社に戻って行った。電話で相談した時も特に渋る様子も無く、淡々と手続きを進めてくれた事に有難さを感じる。
残された私達は起業関係の書類の詰めに入った。
「資本金は幾らでも構わないんだけど、どうする?」
「そうですね……一般的な額はどれくらいなんですか?」
「大体は300万円から1000万円の間に位置するね」
「そんなにかかるのねー」
今回の相談に乗ってくれた和真さんは遺産相続や起業関係の分野に強い弁護士だ。一応この後に司法書士の方にも相談する予定だがそれも必要ないかもしれない。
「少なすぎるのも問題なんだけど、葵ちゃんの場合は活動費とかも特にかからないだろうし大きな額は必要ないかな。ただし税金の内容が変わってくる事も考慮しなくちゃね」
「……なら、とりあえずは1000万円にします」
私が自由に使える資産は8000万円以上ある。全額ぶち込んでもいいけど流石に後が怖いので今はこれくらいでいいはずだ。ファーストシングルだけの一発屋でなければ増資すればいいしね。
その後も役員報酬や細かい事を決めた。事務所はとりあえず自宅にしたけど、近いうちに違う場所にオフィスを持つ事も検討しなければ。
「ちなみに顧問弁護士を雇おうとかって考えてたりする?」
「特には……え、和真さん、もしかしてですけど独立したいんですか?」
「僕もそろそろ歳だからねー。今は専属までは行かなくても良いからさ、数年後くらいに雇って欲しいなー、なんて」
「それは役員会議で決定しますので…」
「リーナさん!お願いします!」
「よしっ!いいでしょう!」
「いや、まあいいけどさ…」
ついでに法務部も設立する事になった。その関係で資本金も2000万円に変更です。
経営関係は問題ないとして著作権は専門分野から外れているのではと思ったけど心配ないらしい。実の所、私が所有している著作権はレコード会社が守ってくれているので問題は無いんだけどね。
会社が大きくなればその分野に強い人も雇えばいい。やるなら税理士さんも抱え込みたいな。
そんな感じで法人化を済ませた9月。2曲目のレコーディングを終えた私はそのまま音楽番組の出演に関する説明を聞いていた。
個人事業主であった以前までならレコード会社を通しての依頼になっていたと思うが、私が起業した為にメディアと直接対応する事になった。ただし由希さんも同席はしている。
「では収録の日取りはこちらにします。今のところでご不明な点は御座いますか?」
「当日の衣装とかってどうしたら良いですか?」
「ああ!申し訳ありません、説明をし忘れていました」
あのニュースで報じられて以来、日本でも順調に売上枚数を伸ばしていき週間チャートでも1位を獲得した。ライバルとなる男性アイドルグループや既に人気を確立しているアーティストの人達が新曲を出していない空白の期間だった事も関係していそうだ。
「当日はこちらの方でスタイリストを用意していますのでご心配なさらずに」
「承知しました。ありがとうございます」
初めての地上波デビューなので勝手が分からない事だらけだ。当日も楽屋に挨拶回りとかしないといけないのかな。
ただ、今回出演するのは音楽番組だ。同じレコード会社所属の方が多数いるのであまり心配しなくてもいいかもしれない。
「収録当日を心待ちにしております」
「よろしくお願いします」
契約を交わし局を後にする。初めてのテレビ局だったので芸能人に会えるかなーなんて期待していたがそんな事はなかった。しょうがないので収録日を楽しみにしておく。
「私達の想像通り、一気に人気が出たね」
「上手く行きすぎて怖いですけど」
「葵ちゃんがインタビュー以外でテレビに出るなんて、ママは感慨深いなぁ」
駅までタクシーで送ってもらっている際に由希さんから今後の予定を聞かせてもらった。
2曲目のシングルを出した後は今まで作ったボカロ曲も順次発売していく。更に歌唱依頼が既に来ているとの事で3曲目のシングルはそれになる。私が作詞作曲する手間が無いので9月中にレコーディングして直ぐに発売だ。
更に2曲目のシングルからCDの値段を税抜き600円から1200円に上げるらしい。
流石に強気過ぎる値段設定だと思うのだが、ファーストシングルがあそこまで売れてしまったので期待もしておく。
このまま順調に進めば年内に音楽番組以外にも呼ばれるかもしれない。なんなら何年か前に出演依頼を寄越していた所が動き出すはずだ。この勢いを上手く利用したい。
◆◇◆◇◆◇
「多分これが1番早いと思います」
ファーwwwwwwwwwwww
どこ通ってんねん!!!
動きがキモい
チートか?
ピピーッ!通行区分違反です!
これ俺の知ってるゲームじゃないわ
そろそろ良いだろうと判断しマリカのタイムアタック動画を投稿した。今はそれの解説を生放送でしている。
「このゲーム、他にも色々近道出来るので皆さんもやってみてください」
再現性がうんこ!
誰かやってみて
俺の持ってるゲームと違うみたいだから無理
お水飲む姿かわよ
お前普通に遊べよ……
喉がセクシー!
せんせー、葵ちゃんがゲーム壊しましたー
「ということで後は雑談しましょうか」
雑談の時間だあああああああ!
今をときめくアーティストとおしゃべりしゅるううう
最近になって葵さんのCD買いました!
歌い手とコラボして♡
アンケート!アンケート機能使いたい!
アニメの話しよ
俺との将来計画を話す時がやってきたな
【祝】YouTube300万人
9月になり生放送に参加出来る人数が大きく増えた。ただメジャーデビューしたとしても私の生放送の雰囲気は変わらない。ちょっと新規さんが増えたかなという印象はある。
ついでにインターフェースを外国語に対応する準備も始めたと運営が発表した。何時になるかは未定だけど海外勢を取り込む姿勢を見せているのは良い事なんじゃないかな。
雑談しているとコメントも賑やかになってきたけど残念ながら今日は延長はなしです。明日に音楽番組の収録を控えているので、それが終わったら耐久配信でもしてあげよう。