TS逆行したら才能に満ち溢れてた 作:黒髪赤眼すこすこ侍
本日は1時間後にもう1話更新されます
何故だか分からないが時代を逆行
最初は同じ生活を繰り返すのか、と思っていたが前の人生と違うところが多すぎる。
まずは性別。これが1番分からない。いや、逆行なんていう常識では考えられない体験をしているとは言ってもこれはないんじゃないかな……さらば、愛しのマイサン。
幸いと言っていいのかは不明だが、今生の身体は超絶可愛いのでこの身体を謳歌する方向にした。
艶々とした黒髪に母親譲りの青い瞳。鏡に映る自分の姿は、幼い容姿にも関わらず前世では見た事のないほど整っている。自分の身ながら将来が非常に楽しみである。
次に血液型。こちらも前世とは異なっていた。半年くらい前に病院で血液検査をしようかとなり、前回と同じくA型だろうなと思っていたがとんでもない。
O型のRh null型。俗に言う黄金の血液型であった。
検査していた病院ではちょっとした騒ぎになったが、まだ幼いため抗原や抗体があまりつくられてない可能性があるので4歳から5歳くらいになってから再検査をする運びとなった。自分としても普通の血液型の方が万が一があった際に困らないのでいいのだが、どうなるかは不明だ。
両親ともにA型であるはずだからAO同士ならOにはなる可能性もあるけれど、Rh抗原はあってほしいし、せめて陰性であってほしい。まあ、次に検査した時に分かるのでそれまではこの不安も置いておく。
そして逆行した時代もまたズレていた。前世の誕生日は1995年の8月27日。それが今世では2000年の8月27日に。日付は同じだが5年もの空きがある。
同じ両親のもとにしてくれた事は感謝するが、こんな逆行みたいなことをさせたカミサマとやらは随分とお茶目らしい。
あとは住所が変わっていたりなどの微妙な差異はあるが、変化していないこともある。
両親の年齢は以前と変わらず、苗字や名前も同じ。パーソナルデータが大きく変化していないことはよかったが、この世界でも居て欲しい人はやはり既に存在していなかった。
父の死は、どうやら自分の世界では避けられない事象らしい。
前世でも今の世界でも、父は自分の生まれる2か月前に亡くなっていた。死因は脳内の血管が裂けたことによる病死。まだ20代であったにもかかわらず2度も同じ病気にかかるのは運が悪いのか……何か世界の修正力でも働いているのではと思わずにはいられない。
父の写真は見たことがあったが、実際に会ってみたかった。
幼い頃は幼稚園や小学校の行事に来ている友人らの父親を見て羨ましく思った覚えがある。思春期を迎える頃になると悪びれもなく「親父がウザい」などの話で盛り上がる友人が眩しくてしょうがなかった。その鬱陶しいと感じる経験すらさせてもらえない自分に「親なんて居ない方が気楽だ」と言った奴とは大喧嘩もした。
それほどまでに父という存在に憧れを抱いていた。
そういえばこの世界でも彼は父と仲が良かったらしく、父の一周忌にも来てくれた。ありがたいことだ。こちらでも縁が切れることのないよう接していきたいと思う。
「葵ちゃーん、準備出来たかな〜?」
「うん、今行くよ」
まあ、そんな感じで前世との違いを感じながら新しい人生を歩んでいくことになった。いろいろ思うところはあれど、未だ3歳の身。一先ずの目標は母を死なせないことではあるのだが、まだ時期が来ないため保留。
「よし!じゃあ涼馬くんのお家に行って夢の国に行きましょー!」
「おー!」
前と同じように研究者の道を行くのもいいが、せっかく強くてニューゲームみたいな体験をしているんだ。ちょっとだけ目立つことをしてもいいかもしれない——なんて考えながら、幼なじみと一緒に出かけるため家を出た。
◆◇◆◇◆◇
埼玉県さいたま市にある我が家の隣には、私の一つ上になる男の子の家族が住んでいる。母が後ろで戸締りしているのを横目に、隣の家のインターホンを鳴らそうとするが流石に届かなかった。表札には「
「葵ちゃん、ピンポン押したい?」
「お母さんが押していいよ」
「ママって呼んでねって言ってるのに……」
家の鍵を閉めた母が後から来てちょっと落ちこみながらインターホンを鳴らす。ママ呼びはちょっと恥ずかしいので、幼馴染がお母さん呼びに移行してから乗っかるように私も呼び始めた。自宅で英語で話すときは
そんなことを話してると扉の向こう側から足音が聞こえ、鍵が開けられる。
「お待たせー!うーん葵ちゃん今日もかわいっ!」
「ふぎゅ」
「あらあら」
扉を開けて出てきたのは幼馴染のお母さん、涼子さんだ。そのまま勢いで抱きしめられるがいつものことなので胸の柔らかさを堪能する。まだ20代の人妻は私の精神年齢的にはどストライクです。体が女の子になっているからか興奮はしないが役得役得。というよりも3歳が興奮したらマズイかな?
「おかあさん!アオイちゃんはなして!」
「あら、この子ったらいっちょまえにヤキモチ妬いてー」
「涼馬くん、おはようございます」
「おはようございます!」
後から来て私を涼子さんから離してきたこの男の子が我が幼馴染である涼馬くん。いつの間にか母達と一緒に立っている寡黙なお父さん、大輔さんに似ずに活発な男の子だ。
「涼くん、おはよう」
「アオイちゃんおはよー」
「リーナさん達も来たことだし、早速行きましょうか!」
全員揃ったところで本日の目的地となる夢の国へと出発した。駅に向かう道すがらさり気なく手を繋いでくるこの愛い男の子も、成長したら粗野な口になっていくのかな。自分のことではないが子どもの成長を見守る楽しみがある。道を踏み外しそうだったら引き留めようと考えながら、早朝の涼しい空気の中、先を行く母の背中を追った。
時刻は飛び、お昼過ぎ。
実家がある埼玉県のお隣、千葉県にあるテーマパークで昼休憩をしていた。
ここに着いてからは定番の地球を模したオブジェの前で写真を撮ったり、子どもでも乗れるアトラクションで遊んだりと充実した時を過ごした。実を言うと前世含めここに来たことはなかったので新鮮な気持ちで楽しめた。清掃員の人って本当にいろいろなパフォーマンスが出来るんだね。
「アオイちゃんはなにが食べたい?」
「涼くんが選んでいいよ」
「じゃあこのカレーにする」
メニューを決め雑談しながら周りを見渡すと、ピーク時間を過ぎたためか大混雑というわけではないがそれでも多くの人がこのフロアにいるのが見て取れた。流石は世界一のテーマパークだ。夏休みも終わり、普通の週末であるのにこれなのだから大型連休等の時期はもっと凄いに違いない。
またその大勢の人の中で少なくない人がこちらを見ていることも分かった。視線を集めているのは日本では珍しい母の容姿かな?こんなに綺麗なブロンドヘアはそうそうお目にかかれないので分からなくもない。が、ちょっと見すぎではないか?
「葵ちゃんはこの後どこに行きたい?」
「パレードを観たいな」
視線を集めている本人は気にしていないようなのでいいか。
自分で言うのもなんだが、私も成長するにつれ視線を集めそうな容姿をしているのでこういう雰囲気に慣れていこうと思う。
この後の計画を立てていると注文した料理が運ばれて来た。美味しそうな香辛料の匂いで忘れていた食欲が掻き立てられる。
お母さん達は一人ひとり1人前をいただくが、私たち子ども組は1食を半分に分けてもらった。
「う〜ん、おいしっ」
「葵ちゃんは辛いの平気なんだ。ウチの子なんてほら、涙目なのに」
このナンがいいんですよと心の中で実況しながら食べていると涼子さんに声をかけられた。確かに涼馬くんは涙目になっている。甘口にしてもらったはずだけど、まだ辛かったみたい。
「辛くない!泣いてない!」
「無理しなくていいのよ。こっちと交換する?」
「食べれるからいい!」
意地を張ってるように見えるが、男の子だな〜という微笑ましい気分にさせてくれる。ほら、頑張れ♡頑張れ♡君の可愛い幼馴染が応援してるぞー。
その後、私があーんとしてあげながら何とか完食した涼馬くんは「どうだ!」と言わんばかりに胸を張ってくれた。可愛いなーこの子。
食事の後はパレードを観にいき、キャストの人たちのパフォーマンスを楽しんだ。前世ではテレビの特集を見る度にアトラクションの方が面白いんじゃない?とは思っていたが、想像以上に楽しめた。音楽や雰囲気など、その場に居ないと分からない面白さがあったのかな。
パレードも見終わった夕暮れ時、そろそろ帰りの時間が近づいてきた。最後にお土産屋さんでグッズを見繕う。大輔さんが持つカゴに涼子さんと涼馬くんがどんどんと商品を入れていく。大輔さんは黙ってるけど、重くないのかな……?
私もお母さんにいろんなアクセサリーをあてがわれ、満足したものをカゴに入れていた。
「我が娘ながら何でも似合うので迷っちゃうわね」
「お母さん、アクセサリー以外のはいいの?」
「それは後で選ぶから心配ないよー。次はこれ!」
母の着せ替え人形みたいな感じになっていたがちょっと尿意を催してたため、早く終わってほしい。
ひととおり満足したのか、次はぬいぐるみのコーナーへ向かうようなので急ぎ気味でトイレへ向かうことを伝える。
「お母さん!私トイレ行ってくるからちょっと待ってて!」
「はーい……え!?ちょっ、ダメ!」
「すぐに戻るから!」
「あれ、葵ちゃんは?」
「1人でトイレに!人混みが多すぎて——」
「あなたっ!すぐに——」
後ろで何か言われたような気もするが、我慢出来ずに駆け出す。人が多かったが小さい身体の利点でスイスイと人混みを縫って進んでいった。
幸いなことにトイレは並んでおらずすぐに用を足すことが出来た。あと少し遅れれば黒歴史間違いなしだったので危なかったぜ。
トイレを出てお土産屋さんに戻ろうとした直後、急に腕を引かれたたらを踏む。
見上げると知らない男性が腕を掴んでいた。
「お嬢ちゃん、迷子かな?おじさんが案内所に連れて行ってあげるよ」
「違いますけど?腕を——もがっ」
「いいから来い」
強引に腕を引っ張りながら口を抑えられる。小さな身体のため、抵抗しようにも上手くいかず軽い身体は抱き上げられ何処かへと運ばれていく。
これマズイやつでは、と遅まきながら気づいた。
こんな人目のあるところで気づかれるだろと思うが、周囲の人は帰ることに気を取られているのか出口の方へ一直線だ。このまま人気のない裏の方へ連れて行かれると本当にまずい。
冗談じゃない。新しい人生が始まってまだ3年だ。それがこんなところで——
「おい!ウチの子に何してる!」
突然大きな声が聞こえたと同時に男性の動きが止まった。 驚いたのか拘束が緩んだ隙に男性の腕から抜け出し離れる。
声の方向を見れば大輔さんがいた。
「お前、いま、何をしようとした?」
「い、いやー、迷子を見つけたので案内所へと……」
「そっちに迷子センターがあるわけないだろ!ふざけるな!」
普段寡黙な大輔さんが声を荒らげ男性へと詰め寄っていく。こんなにも怒気をにじませている大輔さんを見るのは初めてだ。
先程の大声に釣られてか人が集まってきた。これはマズいと感じたのか下手人は走り出し逃げていった。
「どけ!」
「うわっ」
「キャー!」
一瞬逃げ出した男を追いかけようとした大輔さんだが、体の力を抜き、しゃがんで私と目線を合わせてきた。
「葵ちゃん、怪我はないかな」
「はい、大丈夫です……」
突然の事の連続でどこか現実感がなくボーッとしていた私だが、大輔さんは普段通りの雰囲気に戻りこちらを案じてくれた。そうだ、大輔さんにお礼の言葉を言わないと。
「おじさん、さっきはありがとうござい——」
「葵ちゃんっ!」
「むふっ」
言葉の途中でお母さんに抱きしめられた。急いで来たのか息も絶え絶えで、綺麗な髪も乱れている。
「本当に……本当に、心配したんだから」
「……ごめんなさい、お母さん」
しばらく抱き合っていると落ち着いたのか解放してくれた。ただ、次は目線を合わせて両肩に手を乗せられる。
「葵ちゃん、よく聞いてね」
「はい……」
その真剣な視線からは目を逸らすことが出来ない。この歳にもなって、本気で叱られることを予感した。
「葵ちゃんが難しい本を読めることも、精神も大人びていることもママはちゃんと分かってるわ」
「うん……」
「でもね、葵ちゃんの身体はまだ子どもなの。それも、とびっきり可愛い女の子。それをしっかりと理解して。葵ちゃんなら分かるわね?」
「はい……」
「もうっ、ママを心配させちゃダメよ?」
「ごめんなさい……」
その言葉と同時にまた抱きしめられた。気づけば係の人と大輔さんは話しており、涼子さんと涼馬くんも近くにいた。
今回の件は完全に私のミスだ。1人でも大丈夫だと勝手に判断し、肉体年齢を考慮していなかった。いや、考えてはいたが、それでもまさか自分が巻き込まれるとは考えてもみなかった。
本当に甘い見通しだった。猛省しなければならない。
ある程度の事情を話したのか大輔さんがこちらへ戻ってきた。お母さんも立ち上がり、顔には笑顔がもどっている。
「さて、それじゃあ買いそびれたお土産屋さんに戻りましょー!」
「おー!大輔さんもありがとうございました」
「葵ちゃんが無事なら良かったよ」
私のせいでみんなの行動を邪魔してしまったが、普段通りの雰囲気にしてくれる大人組には本当に感謝の念が絶えない。
移動を開始しようとすると、今まで静かだった涼馬くんが隣に並んできた。
「アオイちゃんは僕が守るよ。ずっと、となりで守ってみせる」
私の手を握って誓いを立てるようにそう言った。この歳でそんなプロポーズみたいな事を言うとは将来女たらしになるかもしれない。
「そうだね、大人になっても涼くんの気持ちが変わらなかったらお願いしようかな」
まあこんなのはよくある「将来結婚しようね」と同じような事だと思うので適当に煙に巻く。そもそも私の恋愛対象が男女どちらなのかわからないからね。
「リーナさん、聞きまして?」
「涼子さん、ばっちりと聞きましたっ。将来が楽しみです!」
幼い子の言葉をそんなに真に受けないでほしいが、成長していくにつれ記憶も薄れていくだろうから私は気楽に考えておこう。
変わってしまった性別。縮んでしまった身体。
初めての夢の国遠征は、この二つの認識を新たにしたほろ苦い記憶とともに幕を閉じた。
◆◇◆◇◆◇
夜。無事に家に帰ってこれた私は娘とともに布団に入っていた。
娘の宝石のような瞳も今や閉じられ、すぐに眠りについてしまった。一日中歩き回ったことが思いのほか疲れていたらしい。
娘が攫われそうになってしまった旅行だが、結果的には何事もなく本当によかった。
「本当に、心配したんだからね……」
娘の髪を撫でながら今日の事を思い出す。大輔さんが居なければどうなっていたか、考えるだけでも恐ろしい。出雲さんご夫婦にはまた今度改めてお礼をしようと思う。
葵は、生まれた時から全く手がかからなかった子だ。夜泣きもせず、おしめを替える際も泣かない。なんなら生後半年も経たずにハッキリと「ママ」と発声してくれた。
そこからは驚きの速さで言語を習得していった。1歳になる頃には不自由なく歩き回り、家にある本を読み始めた。赤ちゃんってこんな感じなのかなって最初は思ったが、出雲さんのお家やママ友の話を聞くとビックリである。
ギフテッドという言葉がある。まさに天からの贈り物のような才能を持つ子ども。おそらく葵もそれに分類されるのだと思う。その才能を無駄にしないためにいろんな本を買ってあげたりもした。その分出来る限りのお手伝いをしようとしてくれる葵は本当にいい子だと思う。
不満があるとするならば、その聞き分けのよさか。
迷惑は掛けてもいい。わがままもいっぱい聞いてみたい。ただ、心配だけはかけてほしくない。
私と陽仁さんとの大切なたいせつな宝物。
陽仁さんの1500年もの歴史と、私の1300年もの歴史。その血がこの子に宿っていることは、まだ知られてはいけない。そうでなければ今日のような事が起きてしまうから。葵がしっかりとした大人になり、自分で身を守れるようになるまでは私が絶対に守ってみせる。
「愛してるわ、葵」
眠っている娘のおでこにキスをして、私も眠りについた。
この小説はファンタジー要素を含みます