TS逆行したら才能に満ち溢れてた   作:黒髪赤眼すこすこ侍

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増員

「葵ー!」

「八色ちゃーん!」

「葵ちゃーん!」

 

「おおー、これがグラミーパワーちゃんですか」

「いや、行く前からこんな感じだったでしょ」

「そうでしたっけ?」

 

 アメリカから帰国すると空港には多くの人とマスコミ陣が待っていた。

 警備員も多く配置されており余計な仕事を増やしてしまったようだ。申し訳ないと思いつつマスコミ陣には後日記者会見の場を設けるので今日のところは帰らせてもらう。

 

「会社の方で迎えを用意してもらってるから移動しましょうか」

「分かりました」

 

 警備員に囲まれながら表に来ていた車に乗り込んだ。ここからレコード会社(SWUM)の方にグラミー賞の報告へ。

 SWUMでは社員の皆さんや非番だったアーティストの方が出迎えてくれた。祝福を受けながら日本支社社長にグラミー賞のトロフィーを渡す。その様子を社員の人に写真を撮ってもらいながら報告を済ませた。

 その際に由希さんの出向について3月からお願いする旨の話も聞いた。事前に由希さんを交えて話し合いをしていたので勿論了承。来週にまた来て正式な手続きをする約束をした。

 

「これで来月から由希さんも私の会社の人員になりますね」

「今までもほとんど葵ちゃんに付きっきりだったから、あまり変わる事はないんだけどねー」

「その時に真由美ちゃんも一緒に来るんだっけ?」

「その予定です」

 

 真由美さんとは、これから由希さんのサポート係として出向してくる人だ。2人とも2年の縛りを付けて私の会社へ出向してくる手筈になっている。

 これからライブなどが始まる関係で密な連絡を取れるようにとSWUMの方が気を利かせてくれた形だ。向こうも人件費の削減にもなるしwin-winの関係だと思う。ただし籍はまだSWUMにあります。

 

「そういえば。今月の頭から新しく雇った人が来てるはずなので、この後に顔合わせしますか?」

「おー!会いたい会いたい!」

「じゃあ行きましょうか」

 

 我が社は12月に1人、1月に2人、そして2月に2人従業員を新たに雇っている。前者3人については由希さんも顔合わせはしているのだが、後者2人についてはまだだ。

 やる事を終わらせて暇になった由希さんを連れて私のオフィスに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま帰りましたー」

「社長!」

「おめでとうございます!」

「おかえり」

 

 扉を開け顔を見せると祝福の声をかけられた。オフィスには珍しく全員集合していた。

 フレックスタイム制を導入している関係で、定期ミーティング日として定めている土曜日以外は時間によっては揃ってない事もあった。

 

「おお、賑やかになって来たね!」

「空席が埋まって来ましたからね。東さん、近藤さん、こちらの方は私のコーディネーターの佐藤由希さんです。来月からこの会社の一員にもなります」

「経理部の東朱里(あかり)です!」

「税務部の近藤(いつき)です」

「SWUMの佐藤由希です!よろしくお願いします!」

 

 由希さんに2月から入った新人さんの紹介をする。彼らは12月に雇った企業内税理士の部下として会社の会計を任せている。

 

 実はこの2人、中途採用なのに上場企業の役職持ちだったというとんでも人材だ。

 いつ頃辞めたのかを聞くと、私が企業した際にホームページでその旨を更新していたのを見た時と宣ってきた。

 なんでも、何時かは人員募集されるはずだと踏んで速攻で辞表を叩きつけたとのこと。そこから引き継ぎや有給消化に3ヶ月ほど使って面接にやって来たらしい。

 ちょっと思い切りが良すぎる2人だが優秀なのでそのまま採用。前の会社と同じ部に配属させた。

 

 正直に言うと今はそんなに会計の人員は必要ない。ただ、これからは全国ツアーなどが始まるので必要経費ということで。現在は企業内税理士の綿貫さんの下で資格勉強中だ。

 

「社長、示談交渉を行った3人についての進展なのですが」

「あー、どうなりました?」

「3人とも支払いに応じました。手続きを進めますか?」

「そうですね、佐伯さんに任せます」

「承知しました」

 

 法務部にも新たに脅迫や誹謗中傷に強い佐伯優斗さんを雇い入れた。彼は和真さんの紹介で10月に顔合わせをして1月から入社してもらったのだ。

 

 早速ネットの掲示板で度が過ぎた書き込みをしているアカウントを特定してもらえば3人だけという結果に。わざわざIDを変えてまで名誉毀損をする時間がもったいないと思うのだが、世の中不思議な人もいるもんだ。

 この件についてはお母さんと和真さんがお冠で、示談なんか生ぬるい事はせず告訴しようと言い出した時は大変だった。その場は再犯したら絶対に告訴すると約束して収まったが、いつかは見せしめとして告訴する事も検討しよう。

 

「和真さんと大和田さん、向こうでスポンサー契約の話をもらったので後で確認をお願いします」

「りょーかい」

「承知しました」

 

 大和田さんは司法書士の資格を持った人で、この人も法務部に突っ込んである。

 

 そんなこんなで現在の従業員数は私とお母さん含め8人。3月には更に由希さん達2人も加わるので10人で回して行く事になる。人件費も跳ね上がったけどそれ以上の利益が出てるので無問題です。

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 2月13日。定例のミーティングを終わらせた後、明日のバレンタインに用意していたチョコレートケーキをみんなに配った。

 東さんと近藤さんは大真面目な顔をして「家にお祀りします」なんて言い出したので流石に止める。強火過ぎるだろこの2人。

 

「そういえばカリュシアの国王様が8月に日本にやって来るらしいですね」

「んぐ。珍しいよな」

「どこに行かれるのか気になるなあ」

 

 午後の収録までYouTubeに上げる動画を編集していると綿貫さん、和真さん、佐伯さんの会話が耳に入ってきた。

 土曜日はミーティングが終われば帰っていいのだが、今日はみんな残って渡したケーキを楽しんでいた。部屋にはコーヒーの匂いも漂っている。

 

「お母さんは国王様に会った事あるの?」

「う、うーん。パレードとかでお会いした事はあるかなー」

「へぇ。優しそうな人だった?」

「そうねぇ……うん、とっても優しい方だったわ」

 

「ブフッ」

「うわきたなっ!ちょっと、後藤先輩!」

「すまん」

 

 王族や皇族に会う機会は少ない。私も今度の園遊会に呼ばれているので粗相がないように気をつけないと。

 

「社長、ちょっとご提案したいことがあるのですが……」

「ん?どうしました?」

 

 雑談しながら作業を続けていると何かの資料を持った東さんに話しかけられた。

 

「お昼ご飯を会社に持ってきてくれるベンチャーが最近出来たんです。これなんですけど、そこと契約する事って……」

「ふむふむ……いいですよ!なんなら半分は会社で出す事にしましょうか」

「っ!ありがとうございます!」

「和真さん、後はお願いします」

「はいはい、お任せあれ」

「そのサービスを使わない人にはどうするんですか?」

「全員に手当を出します。調整は綿貫さんに任せます」

「承知しました」

 

 見た感じメニューの品揃えもよく、栄養バランスも良さげなので断る必要はないかな。

 しかし、この時期からお弁当配達をする企業があったなんて、ちょっと意外だ。そういえばゲーム機にも出前チャンネルなるものがあったな。時代の先を行く人達の目の付け所に感服するよ。

 

 

 

 

 

 

 

 2月14日。バレンタインで浮かれている世間を尻目に、私は運動場へ来ていた。

 最近購入した一眼レフカメラを構えて動き回る人影を追う。狙いすましたゴールを決めた被写体をしっかりとカメラに収めた。うん、良い躍動感だ。

 

「涼くんナイス!」

「葵ちゃん、大声出しちゃダメよ」

「あー……はい……」

 

 今日は涼くんの練習試合を観戦ついでにカメラの試運転をしに来ていた。止まっている景色を撮るのも良いけど、折角なら動いてるものも撮りたいしね。

 

 涼くんは秋から地元のクラブユースに移籍した。セレクションに合格したという話を聞いた時は「そんなバカな」という思いだったが、何時の間にかめちゃくちゃ上手くなっていたのでビックリだ。一体何があったの……?

 実際、涼くんは同年代の子と比べても頭1つ大きいので攻撃の要として躍動していた。男子三日会わざれば刮目して見よ、なんて言葉もあるが、限度があるだろ。

 

 試合が終わった後は入念なストレッチとミーティングをしていた。クラブの下部組織ともなるとみんな真剣に取り組んでいるのが分かる。それでも将来成功するのは選ばれた者のみ。この中からプロ選手になるのは果たして何人だろうか。

 結果と才能を求められる世界の残酷さを思いながら彼らを見つめた。

 

「葵、来てたんだ」

「カメラの練習でね。はい、お疲れの涼くんに糖分をあげようじゃないか」

「おっ!サンキュー!」

 

 帰りは出雲家と一緒だ。ついでにバレンタインのトリュフチョコレートもあげる。美味しそうに食べる様子に来年は何を作ろうかと想像を膨らませた。そろそろ辛いのも平気になって来ただろうし、次は1個くらい悪戯してみようかな。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 日本某所。

 厳重な警備が敷かれた建物の中で、国と国とを跨ぐ会談が極秘で行われていた。

 

『お久しぶりです。そちらはお元気そうですね』

『お久しぶりでございます、陛下。昨年の英国以来でございます』

 

 この内容を知るものは僅かな側近のみ。

 

『さて、此度の件は外遊ですかな?』

『……孫に、お会いしとうございます』

『やはりその件でしたか。しかしながら立場的には難しいと思われます。私も又姪*1に会いに行こうとしても周りに止められてしまいますし』

 

 側近の「当たり前です」との呟きには終ぞ誰も反応する事はなかった。

 

『……陛下、どうにかなりませぬか?話に聞いておりましたが、実際の姿を見てしまったばかりにこの気持ちを抑えられないのです』

『まあ、私は春に公的に会う機会があるので楽しみにしておりますが』

『陛下!?それはいくら何でもズルいのでは!?』

『日程を調整してもらい、私達の歓談の際にゲストとして来てもらいましょう。我が国が誇る世界の歌姫ともなれば十分に可能なはずです』

「陛下っ!御勝手に判断されては困ります!」

「後で長官に話を通しておきますので」

 

 流石に見過ごせない提案に忠言をする側近だが仕える主人には流されてしまう。

 

『陛下っ!ありがとうございます!』

『詳しい話は正式な外交ルートにて』

『承知しました』

 

 自らのルーツを知らない少女。

 彼女の知らぬ間に、運命の歯車は静かに動き出した。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

「やっとオファーが来たか」

 

 学校から帰りスマホを確認すれば、目的の番組の出演依頼が来ていた。内容は近年注目されてきた再生可能エネルギー施設のレポート。そして、最後に資源エネルギー庁長官との対談だ。IMOに始まりテレビでも科学に興味がある姿勢を見せていた甲斐があった。

 日程は3月の春休み中との事。IMOの合宿と重なってしまうが、今年はツアーの為に本戦には出れない予定なので関係ない。記録が途切れてしまったのは勿体ないけれど、目的は達成出来たので良しとしよう。

 

「葵ちゃーん。園遊会に来ていく着物のデザイン案が届いてるよー。見てみる?」

「おお!見る見る!」

 

 4月15日に行われる園遊会には振袖を着ていく予定だ。そのため急ピッチでオーダーメイドの着物を作ってもらっている。

 届いた原案はどれも良さそうだけど、何故か全部青を基調としている。そんなに私って青のイメージがあるのかな。

 

「どれがいい?」

「うーん……お母さんの好みは?」

「ママはこの淡い色合いが好きかな」

「じゃあそれにしよう」

「ええっ!?そんなに適当でいいの?」

「どれも好きだから大丈夫」

 

 選んだのは淡い水色を基調とした振袖だ。ただしこれを後一月で仕立ててもらわなければいけないのだが、本当に間に合うのだろうか……お店側の「絶対何とかする」という言葉を信じよう。

 

「明日は何時までに向こうに着けばいいの?」

「15時までに会場入りすればいいみたい」

「じゃあ早めにお昼を食べて行きましょうか」

「そうだね」

 

 夕飯後、イチゴがたっぷり使われたタルトを突っつく。たまに食べるケーキは何でこんなにも美味しいのだろうか。

 

「車で行く?それとも電車?」

「慣れてない所だろうから電車で行こう」

 

 明日は大会議最終日だ。今日の分はまた後で確認しなければ。

 ふと、出演すると決めた時から随分と立ち位置が変わってしまった事に気づく。冬野さんは心配性らしく、一昨日くらいに「本当に来てくれるのか」という確認も来た。長期休暇でなければ暇な時間も多いから大丈夫なんだけどな。

 どれだけ人が来るか分からないけど、楽しんでもらえるように頑張ろう。

 

*1
兄弟姉妹の孫(娘)の事




人が一気に増えましたが出番は少ないと思うので覚えなくても問題ないです
一応は
○会計
・綿貫
・東
・近藤

○法務
・後藤
・佐伯
・大和田
となっております
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