TS逆行したら才能に満ち溢れてた   作:黒髪赤眼すこすこ侍

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分岐点その1

「今日は以上になります!八色さん、お疲れ様でした!」

「お疲れ様でしたー」

 

 3月の下旬。春休みに突入したためテレビの収録やミュージックビデオの撮影に勤しんでいた。

 今日お邪魔したのは青森県にある風力発電施設。以前お話を貰ったレポーターとしてのお仕事だ。

 

「着替えてから帰られますか?」

「いえ、このまま宿までお願いします」

「承知しました!八色さんお帰りです!」

 

 放送されるのはゴールデンタイムという事もあり、担当者の方がそれはもう丁寧に仕組みなどを説明してくれた。特別に発電内部の見学もさせてもらい、新しい体験で楽しかった。

 個人的には普段見るプロペラ型ではない次世代発電機が気になった。数本の円筒が垂直に設置されているタイプは知っていたのだが、他にも台風などの強風に耐えられるような工夫がなされている発電機が数多くあった。

 話に聞くと海外では羽のない発電機を開発中との事で、日本も負けていられないと技術屋さんが頑張っているらしい。ただし資金的な問題があるのがもどかしいね。

 

「明日は予定通り宮城県にある原子力発電所に向かいます」

「はい、承知しております」

 

 本日泊まる宿までの道中、プロデューサーから明日の目的地を確認された。どうせなら問題の福島の方に行きたいのだが、言っても意味の無い事なので仕方ない。どうせ資エネ庁長官と話すのだから初めての原発見学を楽しもう。

 

「原発はママの故郷にもあったなぁ」

「北欧は水力と原子力が主力なんだっけ?」

「そうそう!懐かしいなー」

 

 雑談しながら車に揺られていると豪華な旅館が見えてきた。この収録の最中はテレビ局側が手配してくれたホテルなどに泊まることになっている。

 私、お母さん、由希さんの3人に用意するのはお金がかかるだろうに。動画投稿サイトが日の目を浴びて来たとは言っても未だテレビの時代は終わってないね。

 

「昨日はホテルだったけど、泊まるならやっぱり旅館だよ!」

「葵ちゃんは旅館派かー。私は断然ホテル」

「ママもホテルの方が好きかな」

「どうやら私達は敵同士だったみたいだね…」

 

 案内された部屋で収録用の衣服から部屋着に着替えた。どうやら2人ともホテル派らしいが、私は豪華な部屋より落ち着いた和の空間が好きなんだよね。

 

「ご飯の時間までまだあるから順番にお風呂を頂いちゃいましょうか」

「葵ちゃん!背中流してあげるよ!」

「一緒に入るんですか?まあ、いいですけど」

 

 部屋には大きな露天風呂も完備されており、2人で入る分には問題なさそうだ。

 お言葉に甘えて背中を流してもらっていると、ふと思い出したかのように話を切り出された。

 

「葵ちゃん、胸膨らんで来てるね」

「2ヶ月ほど前にブラデビューしましたから」

 

 そうなのだ。今年に入って遂にブラデビューをした。胸が膨らむという現象が想像出来なかったのだが、自分の身に起きてしまうと「本当に女の子の体なんだな」という思いが芽生える。

 

「身長って142cmだっけ?」

「ですです」

「はー、1年ですっごい大きくなって……子供の成長は早いなぁ」

 

 成長期も来たようで最近は1月に1cmのペースで伸びている。

 ただ、未だに女の子の日は来ていない。これもそのうち体験するんだろうけど、逆行前に付き合っていた彼女は大変そうだったし憂鬱だ。何とか軽い方である事を祈る。

 

「ママも入りまーす!どーん!」

「3人は流石に狭いんじゃないかな…」

 

 お母さんも途中で乱入してきた。それでも露天風呂はそこそこの余裕があったのでお高い旅館様々だ。

 その後、仲居さんが部屋に料理を持って来てくれた。東北地方は黒潮と親潮がぶつかり合う潮目があるので海の幸がふんだんに使われている。

 その味を堪能しながら明日以降について思考を巡らせる。私が何もしなければ、この御馳走も風評被害などで一定期間日陰者にされてしまうのだ。

 復興支援などの為に基金の用意も出来ている。大元の津波はどうにもならないが、それ以外の事で出来る限りの事はやろう。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「——これが原子力発電の大まかな仕組みです」

「この逆をするのが核融合炉ですよね?」

「よくご存知で。流石は八色さんです。我が国でも——」

 

 担当者の方から説明を受けながら施設を回る。台本通りの進行をしながら適宜アドリブで話を盛り上げていく。この後は制御室に特別に入らせてもらえるとの事だ。

 

「ここが原子炉を安全に運転する為の心臓部になっています。24時間体制で正常に稼働しているかのチェックも欠かせません」

「へー!壁一面に機器が張り巡らされてますね!」

「そうなんです。これなんかは——」

 

 テロ対策のため、放送では編集が加えられるであろう細部までじっくりと観察する。加速器の制御室を思い出させてくれる部屋の様子に懐かしさを覚えた。

 

「海辺にあるのは何でですか?」

「それはですね、熱い炉を冷やす為に大量の海水を使うからです」

「海水を?」

「はい。詳しく説明すると——」

 

 ここら辺で「へー」なんてラフ・トラックが加えられたりするんだろうな。なんか、こういう台本通りの進行はつまらないな。

 

「でも停電が起きた時などは冷却装置も止まってしまうんじゃないですか?」

「その際は緊急電源と言った独立した電源があるので問題ありません」

「それもダメになった時は?」

「本当の最終手段は海水をそのまま注入する事ですが、無電源でも冷却出来る仕組みがあるんですよ。その間に何らかの対策をして安全に停止させる事が出来るのです」

 

 流石に筋道から逸れすぎた質問にスタッフさんがちょっと慌ててるのが見えた。しかし止められないという事は、編集で消すか、問題ないという判断でもある。

 

「その装置は自動なのですか?」

「基本は自動なのですが、手動で行う事も可能です」

「なるほど!そうやって入念な対策をもって安全な運転をしているんですね!」

 

 あまり突っ込みすぎると担当者の方が可哀想になるのでこの辺りで退いておく。今日は資エネ庁長官が来てくれているので、詳しい話はそこで聞こう。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

「失礼します」

「ようこそおいでくださいました。はじめまして、八色さん」

 

 

 

 応接室のような部屋で小さな少女と初老の男性がガッチリと握手を交わした。台本通りに進行する2人の様子をテレビカメラに収める。

 

「彼女、本当に小学3年生なんですかね?僕より賢くないですか?」

「当たり前だろ。ここに居る誰よりも頭はいいぞ。それとマイクに音が入るから声を抑えろ」

 

 その場にいるADがポツリと零した言葉に冷静に返す。

 この後は今日の感想と少女が疑問に思った事を長官に答えてもらう流れになっている。

 質問内容自体は軽く打ち合わせをしてあるので突飛なものは飛んでこない。彼女の天才性を考慮すれば台本無しの方が面白い画が撮れると思うが、それはそれ。流石に専門的過ぎる質問オンリーになりそうなのでストップした。

 だが、収録後にそれは起きた。

 

 

 

「これは今日見て疑問に思った事をまとめたものです。もしよろしければ一考していただけないでしょうか……?もちろん、何も知らない子供の考えた事である事は承知しております」

「これは……いや、十分に参考になるよ。ただ、私だけでは対処出来ないだろうから全部を直ぐにとはいかないだろうけど……いやはや恐れ入りました」

「本当ですか!?ありがとうございます!出来れば電源装置や浸水対策だけでもお願いしたいです!」

「それなら費用も少なくて済むし1年くらいで可能かな」

 

 

 

 

 曰く、重大な事故に繋がりそうな事を列挙しておいたとの事。何故それを高々10歳の少女が気づくのかという話だが、もしかしたら専門の人らも警報を鳴らしていたかもしれない。

 

「この映像もカメラに収めてれば面白かったかもですね?」

「何をやってるかは分からないだろうから意味ないだろ」

 

 そう、これは所詮バラエティ番組だ。今の日本で知らぬ者が居ない少女を使った「為になる」ロケだ。もしもこの映像や紙の内容が世間に知られればバッシングに繋がりかねない。流石にそれは可哀想なのでやめておいた。

 心の中ではそうした方が国も動くかもしれないとも思ったが、もうそれは過去の事だ。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

 今回のロケでは最終的に水力、風力、原子力、地熱の4つの施設を回った。他にも波力や圧電なんてものもあるのだが放送時間の問題でお流れに。

 圧電素子は友人が研究していたので、聞き齧りではあるが少し詳しい自信があったのに残念だ。

 

 資エネ庁長官には大分失礼な事をした気がするが、もしも早急に対応してくれるなら大きい。最低限訓練や点検くらいはやらせてくれ。

 もしも動きが遅いようであれば、資料を作ってYouTubeに「ロケに行ってきて学んだ事」という題で動画でも撮ろうかな。多少無理してでも世論を動かしてやる。

 

「明明後日から遂にライブだね。明日はフリーだけど何か予定はあるの?」

「なんと、私の着物が出来上がったみたいです!なので明日はそれの試着に向かいます」

「おー!よく間に合ったね。てっきり無理だと思ってデイドレスを手配しちゃってたよ」

「職人さんには頭が下がります」

 

 東京に戻って来たのでついでにオフィスに寄ってロケの間の報告書を読んで急ぎの案件だけ片付けよう。

 

「あっ、社長!ちょうどいい所に!」

「どうしたんですか?」

 

 オフィスに戻れば真由美さんに声をかけられる。

 

「皇室とカリュシア国王の対談に、社長も来るよう要請が来ました」

「……は?」

 

 

 

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