TS逆行したら才能に満ち溢れてた   作:黒髪赤眼すこすこ侍

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分岐点その2

「八色さん、到着しましたよ」

「ありがとうございます。帰りの際はまたご連絡します」

「了解です」

 

 午前11時、ナレーションをあてるため東京某所にあるスタジオに来ていた。

 受付係から通行許可証を受け取り楽屋へと案内してもらった。

 

「今日は軽い打ち合わせをしたらお昼を食べてそこから収録の流れだよ」

「いつも思うんですけど、それなら午後集合でも良いのでは?」

「実の所、それでも問題は無いんだよね。人によっては本当に時間ギリギリに局入りとか稀にあるし。ただ余裕があった方が良いでしょ?はい、あったかいお茶」

「そういう人も居るんですね。ありがとうございます」

 

 ディレクターが来るまでの時間を利用して新曲のメロディの打ち込みをする。

 最近、「恋愛ソングを作れ」との要望が増えて来た。需要があるならと作曲してるがなかなか納得いくものが出来ない。恋愛ソングから現実逃避しながら作る曲は良い物が出来るんだけどなあ……

 

 そもそも私の恋愛経験値がゴミである事をみんなは知らないんだよね。付き合った経験なんて中学時代と大学生の時の2回だけだし。

 それも中学の頃の子は彼氏という存在をアクセサリーか何かのように見せびらかす事を目的としていたので、高校進学と同時に連絡を絶った。

 大学の時の子は3年ほど続いたが、彼女が就職、私が院進と生活リズムが乖離してしまった為に話し合いの末別れた。

 

 どちらも相手側からのアプローチだったから失恋もないし、恋愛したという感覚も薄い。これで恋愛ソングを書けと言うのが無理な相談だよ。

 

「ラブソングなら歌ってほしいって依頼来てるよ?」

「他人の恋愛ソングを歌うのはなんか自分の中で抵抗が……」

「カラオケとかじゃ歌わないの?」

「カラオケだと歌いますが、売りに出すとなるとまた違うじゃないですか」

「そういう事もあるのね〜」

 

 他人の経験や気持ちを私が声をあてて売る事に何とも言えない忌避感がある。この気持ち、分からないかなぁ。

 

「そういえば、由希さんは結婚とか考えないんですか?今年で30歳でしたっけ」

「葵ちゃん、女性に歳の話は厳禁よ。特に、20代後半くらいの女性にはね」

「つまり結婚願望はあるんですか」

「そうだよ!焦ってるよ!」

 

 投げやりに答えて来た由希さんからは彼氏さんとの話を聞いた事がなかったな。もしかして忙しすぎてそんな暇が無かったとか……?

 

「やっぱりマネージャー業の人員を増やします?」

「なんか気を使われている気がするけど、彼氏はちゃんと居るからね?」

「そうなんですか!?」

「今の反応で私の心に深い傷が……」

「だって話に出てこなかったですし……」

「聞かれなかったからね。なお彼氏は浮気性な模様」

「ええ……」

 

 由希さんがダメンズ好きだとは思わなかった。曰く、まだ責任は取りたくないから結婚は考えてないとの事。そんな奴さっさと見切りをつけちゃえばいいのに。

 

「この歳と仕事内容を考えると、次の出会いがね……」

「マネージャー、増やしましょうか。そうすれば由希さんや真由美さんの仕事も大きく減りますし」

「……そうね、お願いします」

 

 コーディネーターと言いつつ専属マネージャーも兼務していた彼女達だ。歌手関係の調整だけでも大変だろうに働かせすぎてたな。お給料が良くても時間が無ければ何も意味ないしね。

 

「八色さん、遅れてしまい申し訳ありません」

「問題ないです」

「ありがとうございます。では本日の流れをご説明します」

 

 由希さんとの話が一区切りついた所でノックと共にディレクターが入ってきた。

 この特別番組は阪神淡路大震災の発生した日付に合わせて2週連続で放送される。

 高齢化と共に地域のコミュニティが崩壊しつつある昨今の防災計画に焦点を当てながら、去年の豪雨災害、今年のチリ地震及び太平洋湾岸を襲った津波、そして国の研究機関が明らかにした東北地方での400年から800年周期の巨大地震の可能性。

 それら全てを豊富な資金を元に緻密なCGで再現される。

 

 正直に言うと、よくそこまで掘り下げたなという気持ちが強い。私もUnityで映像を用意しているがどうしても臨場感に欠けてしまうのが悩ましかった。それを公共放送の力でやってくれているのだから手助けしない理由がない。

 

「では13時にまた伺いますので。よろしくお願いします」

「はい、よろしくお願いします」

 

 収録の時間までは自由なので外にご飯を食べに行ってもいいらしい。面倒なので用意されているお弁当を頂くけど。

 

「テレビ局によってお弁当の種類が変わりますよね〜」

「局の違いもそうだし収録番組によっても変わるみたいだよ」

「予算とかの問題ですかね?」

「私も詳しくは知らないけど、多分そうなんじゃないかな」

 

 番組収録の際に食べるお弁当は密かな楽しみになりつつある。それぞれの局でお弁当会社もオカズの種類も全く違うのが面白い。今日は白米ではなくキノコの炊き込みご飯となっているので高ポイントだ。

 

 由希さんと話しながらお弁当を平らげ、暇つぶしに携帯を弄っていると再びノックの音が聞こえてきた。

 

「お待たせしました。では移動しましょう」

「了解です」

 

 案内された場所はどことなくレコーディングスタジオを彷彿とさせる部屋であった。違いは椅子の前にマイクと映像を映す画面があること。ラジオ番組がこんな感じの部屋でやっているのを見た事があるな。

 

「マイクの音量などはこちらで調整しますので、普段通りに話してくだされば大丈夫です」

「分かりました」

「こちらの画面に実際の放送映像と字幕が出ます。読むスピードはその字幕の色の変化に合わせてください」

「カラオケみたいな感じですね」

「そんな感じです。では早速オープニングの声入れをしてみましょう」

「はい!」

 

 映像がちゃんと映される事を確認してから最初の収録が始まった。ミスも無く進めば2時間もかからず終わる予定だ。感情を入れる事もないので恐らく大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「オッケー!八色さん、お疲れ様でした!」

「お疲れ様です!」

 

 昨日のCM撮影とは打って変わってリテイク無しで終了した。やっぱり演技のお仕事は絶望的に合わないだけなんだろうな。

 

「ちなみになんですけど、さっきの津波の再現VTRのデータを頂く事って出来ないですよね……?」

「んん〜……今すぐには判断出来ないですね。何かに使われるのですか?」

「今回の内容に深く感銘を受けたので、放送後に改めて取り上げたいと考えまして。無理は承知の上ですので聞き流してください」

「いやいや!八色さんであれば問題はないと思いますよ。ただ私の一存では決められないので後日連絡を差し上げてもよろしいですか?」

「はいっ!それで大丈夫です!ありがとうございます!」

 

 ダメ元で映像を借りれないかと頼んでみれば存外にも色好い返事が戻ってきた。何事も言ってみるものだ。

 

「本日はありがとうございました。今年も年末の歌、楽しみにしていますね!」

「こちらこそ無理を聞いていただきありがとうございます。期待に応えられるよう、頑張ります!」

 

 いやー、私の行動のバタフライエフェクトかもしれないが、世間の人が自発的に動いてくれるのはありがたいわ。

 これで最善なのは地震が来ない事なんだろうけど、それはもう神頼みだ。願わくば犠牲が少しでも小さくなることを。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

 12月。今年もグラミー賞のノミネート作品が発表された。嬉しい事に私も6部門にノミネートされ、見事に大物の仲間入りだ。

 なお女性系の部門には去年の女王様も居るので受賞は望み薄な模様。爆発的人気を得ているが流石に積み上げた年数の違いが大きすぎる。

 まあ詳しい枚数は知らないし評価基準も色々あるので期待だけはしておこう。

 

「先週のアナイマ杯は色々ありましたね」

 

狩りしながら話す内容がそれかよ

その話は今禁句だから

アルバトリオン君が虐殺されとる

トイレ行ってたら最初の自傷儀式見逃したわ

なぜ葵ちゃんも参加したのに申し込まなかったのか……

次は縛りプレイしよう

てかシークレット参加すな

名前のHUNTER見るだけで笑いが込み上げてくる

弓つえええええ

もうこ君さあ……

 

 秘密裏に参加したアナイマ杯は逆行前とは違いもうこさんが運営を投げ出す事はなかった。

 ただし運営能力を過信した件と切断をした事、そして事前に搾取した事でまあまあの炎上。それは仕方ないので頑張って消火してほしい。

 

「号泣謝罪配信していたのでこれからの姿勢で許してあげてください。おっ弱ってきましたね。っぱ火事場ですよ、この火力はいつ見ても惚れ惚れします」

 

俺の怒りが有頂天

俺には害がなかったので許した

猫火事勢は正直イカれてると思ってる

その弓のエイム力ヤバすぎない?

もうこ君、葵ちゃんとのコラボチャンスを潰してしまうプレミ

叩いてる奴の大半は叩ける奴を探してるだけだからな

(搾取に関しては葵ちゃんが参加するプレッシャーがあったのでは?)

3rdは難易度低いから言うほど難しくはない

縛りプレイを所望する!楽な狩りをするな!

コメに黄金の鉄の塊のナイトがいるじゃん

アルバトリオンくん、死す!

 

「はい勝ちー、人間はモンスターに負けないため。それでは剥ぎ取りタイムです。いい加減天角落としてくれないかな」

 

はい勝ち〜

そこはかとなく漂うクソガキ臭

はい勝ちー

もっと生意気な感じで頼むわ

そういえば天角目当てだったね

葵ちゃんの「はい勝ち」勝鬨好き

逆鱗ばかり落ちるその運俺にもくれ

俺も天角目当てで乱獲してるわ

葵ちゃんのやるゲーム買いたくなるからズルいわ

どうせ今回も逆鱗だぞ

葵の大晦日の出番って何時?

 

「逆鱗はもうお腹いっぱいなんだ……大晦日の時間帯は秘密です。言ったら私が怒られちゃいますから」

 

それはそう

部位確定報酬で必ず低い確率を引く葵ちゃん

ちょっとくらいゲロってもバレないバレない

どうせ21時前のどこかだぞ

年齢で時間帯は絞り込めるんだよなあ

グラミー賞歌手様を日本のテレビで見れるとは、恵まれてるわ

そのエイム力、お前もFPSをやってみないか?

さてさて報酬は……

名前いい加減変えようぜ

今更ながらなんで男アバターなんだよ……

はい逆鱗

ふぁーー

豪運すぎるだろ、なお逆鱗

 

「また逆鱗!?なんでぇ!?……こいつ、本当に10%か?体感80%くらいあるんですけど」

 

 またしても部位破壊報酬の確率が逆鱗に吸われてしまった。なんなんだよこいつ、もう要らないぞ。

 

乙乙

ファーwwwwwwwwww

その運俺にくれ!!

確率が収束すると思ったら大間違いだぞ

私、ソロで勝てないんですけど何かコツありますか?

偏りが酷すぎる

この逆鱗攻めのせいで葵ちゃんのTAが極まってしまってる件

意味のない狩りだよ

10%を信頼するな、ポケモン初代だとスピードスターだって外れるんだぞ

確率なんて飾りです!偉い人にはそれが分からんのです!

神様「葵ちゃんは可愛いからレア物出してあげようかの」

 

「心が折れたので今日はここまでにします……あっ、大事なことを話し忘れてました」

 

行くな行くな

もっと強い心を持て

大事なこと?

鋼の精神を手に入れろ!

なになに

wktk

いかないで

まだ1時間しか経ってないじゃん、もっと粘ろ?

なんですの?

???

 

「ニコニコ動画で著作権関係の取り組みが始まります。簡単に説明すると、自主的もしくは自動的に、動画内で使う音楽や他者の動画を管理してくれるツールです。詳しくは先ほど公式から発表されたものを読んでください」

 

 そう、コンテンツIDがこの時代に、しかもニコニコ動画に適応されるようになるらしい。放送で周知してくれと事前に頼まれていたので、聞かされた時は驚いたよ。

 なおYouTubeはこのタイミングで収益化を一般へと公開もするとの事。

 ニコニコくんの運命は如何に。

 

いいんじゃない?

めんどくさそう

ほーん

へー

利点は?

いいじゃん

あまり理解出来てないけど了解

ふーん、分からん

面倒じゃない?

なんで葵ちゃんが知ってるの?

ほんまや、公式が出してるわ

分かりやすく説明するために延長しよう

利点はあるの?

ただの視聴者には関係ないやつ

 

「そうですね、投稿者以外は関係ない仕様です。動画投稿している視聴者さんが居ればそんなのもあるんだと思っておいてください。私はこれを周知してくれと頼まれましたので」

 

なるほどね

視聴者の僕には関係なかった

よく分からん

企業の使いっ走りにされるJSは笑う

周知と言っても5000人にしか伝わらない件

ほーん、軽く読んだけど分からんわ

内容知らないけどまあいいんじゃない?

賢い僕、全てを把握

広告塔の葵ちゃん

 

 伝えなきゃいけない事は伝えたのでそろそろ終わりにしよう。

 

「このアーカイブも投稿しますし、改めて説明動画をうぷしますよ。ということでおやすみなさい」

 

待て待て待て

その手には乗らないぞ!

おやすみなさい!

流れるような終了宣言、オレでなきゃ見逃しちゃうね

なに終わらせようとしてんねん

おやすみ!

いかないで

いつも最初と最後が雑ぅ!




この話と同時に「分岐点その1」を手直ししています
大まかな流れは変わってないので見直す必要はないです
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