TS逆行したら才能に満ち溢れてた   作:黒髪赤眼すこすこ侍

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少々性的な描写があります


青い日

 2月。私の出したシングル「Forward」が年間最優秀レコード賞、最優秀楽曲賞を含む3冠を達成。

 あの震災の事を想い書いた詩は、日本だけでなく世界でも評価されたらしい。それだけ海外の人にも衝撃的だったのだろう。

 この史上最年少での栄誉と共に日本では国民栄誉賞も授与された。これで名実ともに世界のトップに並んだ訳ではあるのだがやる事は特に変わらない。

 スマホの普及によりインターネット人口もより増えて来た。これからは現実世界よりもオンライン上での娯楽、交流が発展していくだろうし、その流れに上手く乗っていきたい。

 

「昨日のテレビ見た?」

「どれのこと?地震のやつなら見たけど」

「それだよそれ!もう1年経ったなんて信じられないよ」

 

 震災から1年経った昨日はどのチャンネルも特別番組で持ち切りであった。

 最新の復興状況、避難民の生活、そして日本という災害が多発する国に住む私達の取るべき行動などなど。

 これから30年以内に発生すると言われている南海トラフへの対策も進めていかなければならないと熱弁する専門家もいた。それはそうだと同意するが難しい面も多々ある。

 そも、地震だけならば日本の対策は十分すぎるほどに済んでいる。中には老朽化しても構わず住む人や、放置された空き家もあるが全体で見れば稀である。

 

 一番の問題は、河川が張り巡らされ、海に囲まれたその地理にある。水源が豊富な事は恵みでもあるのだろうけど、一歩間違えれば数万もの命を奪うものに変化してしまうのだから恐ろしい。

 これからの時代は地震以外の大雨にも注意しなければならない。水害を完璧に、未然に防ぐ事は果たして出来るのだろうか。

 

「佐藤さん、一緒にトイレ行こっか」

「う、うんっ」

 

「あっ、なら私達も」

「葵の気遣いを無駄にしなさんな」

 

 休み時間、普段通りに私の机の周りに集まってきた女子達から今年度引越してきた子を連れ出す。別にイジメが起きている訳でもない。ただ、彼女が辛そうな顔をしたからというだけだ。

 

「……ありがとう、八色さん」

「気にしないで」

 

 佐藤さんは岩手県出身の女の子だ。それも、海にほど近い地域の。人死にが少なかったとは言え、あの光景を目の当たりにした精神的負荷は計り知れないよ。

 

「もう大丈夫です。心配かけてごめんなさい」

「敬語出てるよ」

「あっ……ごめん、八色さんが相手だと、その……」

「まあ無理にとは言わないよっ」

 

 水で顔を洗った彼女は普段と同じ表情に戻っていた。

 クラスメイトの子達も無遠慮とは言わないがデリケートな話題がある事も学んでくれると嬉しい。

 とは言え気にしすぎるのも佐藤さんに対してよそよそしくなってしまうので難しい塩梅だ。

 ……逆行前だと原発事故も相まって、子どもながらに酷いイジメもあったらしい。この世界ではそんな事が起こり得ないのは良かった事だ。

 

「……何も聞かないの?」

「聞いて欲しい?」

「八色さんになら」

「その返しは予想外だよ……」

 

 ……なんか、彼女からは初対面からぶち抜いた好感度を感じる。そこまで特別な事をした覚えは無いのだが、不思議なものだ。

 

「私ね、将来は自衛隊に入りたいの。それで、困ってる人達を助けるのが私の夢。私にしてくれた人達みたいに……」

「……そうなんだ」

 

 その道以外にも災害支援をする職はある。女の子が自衛隊に入るのは辛いだろう。

 そう口に出そうとしたが、彼女の目を見て止めた。それだけ固い意思があるのであれば、どんな困難にも立ち向かって行けるだろう。その道に幸があらんことを願うのみだ。

『はいはい、祝福をっと。これで5人目だね』

「そろそろチャイムが鳴っちゃうし、教室に戻ろうか」

「うんっ」

 

 暖かな春の風が流れて来た。去年とは違い今日は春らしい気温になっている。

 そろそろ防寒着を片さないとな。教室に戻る道すがら、そんな事を考えた。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

「なんで私達も出なきゃいけないんだろ」

「家で寝てたいよね」

「しかも知らない人の話を聞かなきゃいけないって、ほんとに意味わからない」

「ねぇ〜」

 

 3月22日の今日は6年生の卒業式が執り行われている。

 5年生の私達も在校生として出席しているが暇な時間は隣の子とお喋りしている子達も見える。保護者の手前、式が始まってしまえば先生方が注意に来れないという事を分かっているのだろう。

 この頃になると精神も成熟してきて強かな子が増えてきた。でも君達の担任が鬼の形相をしているから後で怒られると思うよ。

 

 卒業証書が授与された後は在校生からの言葉と卒業生からの言葉が交代で行われた。なんとも小学生らしい式の内容に、懐かしい気持ちが溢れてくる。これを恥ずかしがらずにやるんだから、みんなは偉いよ。

 

「涼くん、卒業おめでとう!」

「ん、サンキュー」

「……あれ、なんかあった?」

 

 卒業式が終わった後は帰宅してもいいのだが、理華ちゃんと2人で幼馴染を待っていた。

 昇降口からゾロゾロと出てくる人波の中で、私よりも7センチ高い身長は目立ちに目立って分かりやすい。

 でも、なんか雰囲気が朝と違うような……

 

「なんで?」

「雰囲気が……あっ、女の子から告白でもされた?」

「されてないよ」

「いつもと変わらないように見えるけど」

「そうかな?……そうかも」

 

 理華ちゃんが変わらないと言うならそうなんだろう。珍しい正装に騙されていたのかもしれない。

 

「演技するの辞めたの?」

「しばらくは会わないからな」

「ん、なんか言った?」

 

 八雲家ご夫妻と一緒に帰る道中、涼子さんと話していると後ろから2人の話し声が聞こえてきた。

 

「女の子にモテない涼馬を茶化してた」

「理華も告白された事ねえじゃん」

「私はあるわよ」

「ええっ!?」

「はぁ!?」

「2人してなんだその反応。喧嘩なら買うわ」

 

 小学5年生でも告白なんてあるのか……しかも理華ちゃんがされているのは意外だ。

 茶髪混じりのセミロングの髪に今風の少し大人っぽい私服、確かに可愛らしい容姿をしているけど……最近の子は進んでるなぁ。

 

「何時されたの?」

「この間のクラブ活動の後。振ったけどね」

「はえー」

「まあ俺もあるんだけどな」

「ええ!?」

「涼馬、嘘はダメよ」

「母さん、本当だって!」

 

 なんか2人して先に大人の階段を上っている事に危機感を覚える。私も超絶美少女ちゃんの自信があるのだが一向に告白される気配はない。

 野郎からの告白——女の子からされても困惑するが——はノーセンキューではあるが、この差は一体なんなんだ……

 

「葵は、まあ、ね?」

「何その含ませた言い方」

「身長だけ伸びたお子様には分からないかしら」

「下手な大人より大人してるんだが?」

 

 身長の方も現在159センチメートルと少し成長に陰りが見えてきた。このままだと夢の180に届かないようで焦りも出てくる。何とか伸びてくれないだろうか。

 

「涼くんは春休み忙しいんだっけ」

「クラブの方で埋まってるな」

「来年までは会う機会が少なくなるね」

 

 私達が中学に上がるまでは少し疎遠になるかな。こうやって幼馴染としての関係も薄れていくのだろう。

 まあ、お隣さんだからあまり変わらない気もするが。

 

「じゃあ、また後で」

「私は葵の家で待つわ。お母さん達も後から来るし」

「はいはい」

 

 今夜は涼くんの卒業祝いとして3家族合同のパーティーがある。会場は無駄に広い我が家で、理華ちゃんも家に帰るのが面倒みたいだ。

 

 涼子さんやお母さんと一緒に料理の手伝いをしていると、改めて涼くんがしっかり成長しているんだなと感じる。このまま曲がらず真っ直ぐに大人になってほしいなぁ。

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

「うわああああ!」

 

 春休みの朝、それは起きた。

 いつもと同じ様にトイレへ行き服を脱ぐと、それが現れた。

 

「お母さん!お母さん!」

「どうしたの!?」

「血が…っ」

「ああ〜……」

 

 トイレのドアを開けてお母さんを呼びつけると何かに納得したような顔をしたお母さんが。慌てている私とギャップが酷い。

 

「病気…いや、えっ!?」

「葵ちゃん。それはね、体が大人になった証拠なの」

「大人?……あっ」

 

 曰く、女性が子どもを作る準備をしている証。これから数十年間付き合わなくてはならない周期的なもの。

 それは、初めての月のものだった。

 

 とりあえず汚れた下着などを取り替え、初めての生理用品の使い方をお母さんに教えてもらった。

 

「この歳にもなって下着を手洗いする事になるなんて……」

「そんなものよ。気にしないで、ね?」

「うう……」

 

 落ち着いた後にベッドの確認をすると、幸いな事にシーツには汚れが付いてなかった。下着だけで食い止めてくれた事に感謝するべきなのだろうか。

 

「もしも量が多ければタンポンって言うのもあるけど」

「それは怖いから嫌だ」

「痛くないよ?まあ、初めのうちはナプキンだけで問題ないと思うわ」

 

 タンポンってあれでしょ、中に入れるやつ。女の子の体に慣れてきたとは言え、まだそこは触ったことが無い。失敗した時が怖いので絶対に遠慮したい。

 

 それにしても、以前からも分かっていたことだけど、本当に女の子の身体なんだ……男の体が恋しい。

 

「これ、本当に3日から5日で治まるの?」

「個人差があるけど、そんな感じね」

「うえー……めんどくさい……」

「体調は大丈夫?お腹が痛かったりしない?」

「それは無いけど……」

 

 そうか、生理痛とかも出てくるかもしれないのか。幸いな事に今回のは軽い方みたいだけど、いつかは重いものがあるのかな……

 世の女性はこんなものと付き合っているなんて、よく我慢出来るものだ。本当に尊敬するよ。

 

「学校や出先でも2時間に1回は変えなきゃダメよ。学校のトイレにゴミ箱はある?」

「サニタリーボックスの事ならあったはず」

「ならそこに捨てちゃって」

 

 我が家ではサニタリーバッグが設置されているが、学校では小さな黒いゴミ袋が被せられた蓋付きのゴミ箱がある。

 4年生くらいの時に女子だけ集められて使い方を説明されたっけ。その時は軽く流していたが、まさか自分もお世話になる時が来るとはね。

 

「今日のオフィスからの帰りにポーチも買いに行きましょう」

「ポーチ?」

「出先で使う用品をその中に入れておくの。葵ちゃんは学校へ行く時なんかも持っていかなきゃね」

「へ〜」

 

 そういえば前世の彼女は必ずバッグを持って出歩いていたっけ。気にした事はなかったがそういう物も入っていたのだろうか。

 ……こういう男の無知さ加減が日本のフェミニスト等の気に障っていたりするのかもしれない。いや、私だけが無知だった可能性もあるか。

 同棲していたので自宅では気にかけていたがそれだけだったし。今さら反省しても遅いけれど、彼女には申し訳ないことをしたな。

 

 そんな事を考えていると乗っていた車がオフィスに到着した。長期休暇中は平日でも出勤出来るのでありがたい。

 

「葵さん、明日のCD収録についてですが、今話しても?」

「千恵さん、大丈夫ですよ」

 

 寺田千恵さんは去年の2月から雇った専属マネージャーさんだ。今まで私に付き添っていた由希さんや真由美さんは、主な仕事をライブやCD販売の時期の調整、広告代理店との打ち合わせに移ってもらっている。

 

 暇な時間が出来た由希さんはSWUMの元同僚と付き合ってる、と言うより6月に結婚式を挙げる予定の中々のスピード婚だ。

 そんな彼女はそれはもう幸せオーラたっぷりな感じである。由希さんに子どもが出来ればまた人員を補充しなければいけないかな。

 

「午前10時にあちらに到着予定でしたが、向こうの都合により12時からに変更となりました。午後の収録が17時からですので少しバタバタすると思われます」

「つまり、全部一発録りしろって事ですね!」

「まあ、そういう事です」

 

 最近の私の曲は10ヶ国語を超えるバージョンで販売されている。そのせいで日本やアメリカ以外の市場も荒らしている傍迷惑な存在になっていたりもするが、現地のアーティストの皆さんには頑張ってほしい。

 

 多言語展開の良さは全体の収入が増えた事はもちろん、日本語版のCDの売上枚数が上がった事だろうか。

 どうやら各国のファンがオリジナル版も聞きたいと思って買ってくれているらしい。私の曲のオリジナルが日本語なのか英語なのか問題があるのだが、それは置いておく。

 

 CDの値段も1500円なので会社の収入はウハウハである。私の会社でこうなのだから、レコード会社はもっとだろうな。

 

「全て一発録りだと、確認も合わせて2時間くらいかな?」

「喉に無理をかけられないので休憩も入れてください。3時間でいきましょう」

 

 千恵さんは真面目そうな雰囲気をしているのに意外とノリがいい。堅苦しくもないのでやりやすい相方だ。

 

「そういえばなんだけどさ。葵ちゃんの小さくなった服ってどうしてる?捨てちゃった?」

「先輩、まさかもうお子さんが……?」

「違うよ!でもデキた時ようにあったらなーって。どう?」

「それなら送ってきたブランドさんに許可を貰ってNPO団体の方に寄付してます」

「ええっ!?」

 

 由希さんには申し訳ないが、そういう事だ。持っていても使い道はないし、近所の子も要らない物は全てそうしている。捨てるなんて勿体ないからね。

 

「すみません。そういう事なら残しておいたんですが……」

「しょうがないかー。ううん、私もあったらいいなくらいの気持ちだったから」

「先輩、もしお子さんが生まれても着るのは10年くらい経った服になりませんか?」

「真由美ちゃんは甘いなぁ。葵ちゃんが着た事に意味があるのだよ」

「仰る通りです!」

「同意です」

「樹、お前は黙っとけ」

 

 東さん*1と近藤さん*2はいつもの事なので放っておく。

 それにしても、オフィスも随分と賑やかになったものだ。スタイリストの高野さんは衣類の保管用に借りた部屋を行き来していたりもするが、基本はコッチにいる。

 今のままでも問題はないけれど、お金もある事だし、もう少し大きなオフィスに引っ越してもいいかもしれないね。

 

 

*1
経理部の東朱里ちゃん

*2
税務部の近藤樹くん




本当は主人公の小さくなった服を古着屋に持っていく設定で、それがヲチスレでバレて客が殺到するネタもありましたがボツになりました
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