TS逆行したら才能に満ち溢れてた   作:黒髪赤眼すこすこ侍

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幼馴染視点の話その2


修練

 昨日までの日々と変わらず、今日も己を鍛える。

 

「涼馬!」

「おお!」

 

 受け取ったパスを味方が囮になって生んだスペースへダイレクトで蹴り出し、そのままディフェンダーを置き去りにしてゴールを決めた。

 

「っし!」

「ヘイヘイヘイ!流石だなぁ涼馬!」

「おー、ナイス誘い出し」

 

 点を決めた俺に集まってきたチームメイトから手荒な祝福を受けた。バシバシと叩かれる背中が痛い。こいつら力加減を知らないのか。

 

 試合再開のホイッスルが鳴らされると前線からプレスをかけに行く。中盤と連動してコースを限定し、相手の選択肢を無くしていく。苦し紛れにゴールキーパーに戻されたボールを瞬間的に加速する事で奪い取り、そのままキーパーとの1対1を冷静に処理しゴールネットを揺らした。

 これでハットトリック達成だ。

 

「涼馬!交代だ!」

「はい」

 

 コーチからの指示により残り15分の所でベンチへと下がった。試合の大勢が決まった事でお役御免らしい。

 

「よくやった。体が冷える前にクールダウンをしておけ」

「はい」

 

 シューズを履き替えジョギングを開始。この後にやる静的ストレッチの内容を考えながら試合展開を見守っていた。スコアは4対1とリードしているし、残っているメンツも危なげない試合運びをしているので問題なく勝てるだろう。

 ジョギング後、ベンチにいた奴にストレッチを手伝ってもらっていると試合が終了した。これで関東ユースのリーグ戦は首位に立ったはずだ。幼馴染風に言えば「ようやっとる」結果だと思う。

 

「おふはれー」

「先におにぎり食ってんじゃねえぞ」

「んぐ。早上がりの特権だよ。ほら、さっさとクールダウンして来い」

 

 試合終了後の挨拶を終えた面々を梅干しおにぎりをパク付きながら出迎える。運動した後は30分以内に糖質、タンパク質を摂る事を推奨されているのでセーフだよ。

 

「涼馬、お前は年明けから1つ上のカテゴリーに移動になると思う。頭に入れといてくれ」

「了解です」

 

 プロテインを飲みながらベンチに座っていると監督に声を掛けられた。年明けからなら3ヶ月ばかりはレベルの高い環境に身を置けるな。有難い事だ。

 

 全体でのミーティング後に送迎バスに乗り込んで地元まで送ってもらう。周りの奴らは睡眠に充てたりスマホゲームをしていたりと思い思いに時間を潰していた。

 

「優等生の涼馬君はまーた英語のお勉強ですか。それ、楽しいか?」

「やってみると案外楽しいぞ」

「俺は馬鹿だからなんて書いてあるか分からん」

 

 隣の席の奴からのちょっかいを適当にやり過ごし、止めていた音楽再生アプリを再生させる。イヤホンから流れてくる音声を小さな声でシャドーイングしながら本を読み進めていく。

 こういった移動時間に出来る事は限られているので1秒足りとも無駄には出来ない。

 この勉強方法を教えてくれたのは、愛しい幼馴染だったな。

 

『英語の勉強なんて簡単な本を沢山読めば良いんだよ。所謂多読ってやつだね』

 

『もしくは内容を完全に理解している文章を音読しまくること。リスニング教材があれば尚良しだね』

 

『そんな簡単な事で良いのかって?勿論。だって、所詮は言語だよ。涼くんだって日本語を覚えようとして覚えた訳ではないでしょ?』

 

『まずは赤ちゃんと同じように聞く、話す、読むからだよ。書くことなんて授業で散々やるでしょ』

 

 彼女のアドバイスを中学一年の春から実践している。辞書なしで分からない単語は飛ばすという多読は最初は慣れなかったが今や要領を掴んでスイスイと読めるようになった。

 おかげで英語の成績は学年トップの座につくことが出来ている。

 いや、英語以外も、か。

 

 俺の幼馴染は、それはもう可愛い。世界一の美少女だと断言出来る。

 黒く艶やかな髪。宝石のように煌めいている美しい瞳。小さな唇は瑞々しく、きめ細かな真っ白い肌には汚れ一つない。日本人離れした長さの脚は不健康に見えないギリギリの細さを保っている。

 もしも美の神がいるのであれば是非彼女と並んで美を競い合って欲しい。きっと自信を無くして逃げ出す滑稽な姿を見れること間違い無しだ。

 

 そんな彼女は、数多の才能を持つ怪物でもあった。

 

「おっ、それ葵ちゃんの新曲じゃん!片耳貸して!」

「しゃーねーな。ほらよ」

 

 先ずは音楽の才能。

 弱冠9歳にしてメジャーデビューした彼女は、そこから世界のトップへと一気に駆け上がった。今や彼女の曲を知らない者は世界中には居ないのではないだろうか。

 そして、音楽の才能は作詞作曲、歌唱だけには留まらない。

 ファンの間では周知の事実ではあるが、ピアノの腕も一級品だ。一度テレビ番組にてその腕前を披露した時には世界中の音楽家が「彼女をピアニストに」と声を上げたくらいだ。

 勿論彼女は趣味の範疇でしか興味が無いので断っていたが。

 

 次に、学問の才能。

 これについては音楽の才能よりも早く世間に知られていた。発端となったのは国際数学オリンピックにおいて史上最年少で金メダルを獲得した事。当時僅か4歳という大偉業が世界に轟いた。

 更にはその姿をインタビューする各国のメディアに対し、それぞれの国の言語で、完璧な発音での返答をするのだから驚きだろう。

 先日、彼女が解いたことのある問題を興味本位で調べてみた。そして、そこに書いてある文を何一つとして理解する事は出来なかった。

 こんなものを高校でやるのかと戦々恐々としている俺に彼女は苦笑いを浮かべていた。

 

『これは日本の指導要項から外れているから……まあ、高校数学はもっと簡単だよ』

 

 そう宣った彼女は、自身がその問題を幼い時分で解いた異常性を理解しているのだろうか。

 ……どこか抜けている彼女の事だ。きっと、それが当たり前だと考えているのだろうな。その天然さがまた可愛いのだが。

 

 更にはスポーツの才能、絵の才能等など、挙げれば枚挙に遑がない。きっと未だに挑戦していないだけで明らかになっていない才能も眠っているのだろう。

 

「葵ちゃんが俺の妹だったらなぁ!みんなに自慢して回ってるぜ」

「妹なんて結婚出来ないのに、バカか?そこは幼馴染だろ」

「お前が葵ちゃんと結婚出来るわけないだろ、バカか?」

「は?」

「あ?」

 

 そんな彼女が世界的に見ても美しい少女だというのだからやってられない。

 神様は彼女を作る時に致命的なミスをしたに違いない。もしもミスではないのだとしたらもう少し加減をしてくれ。

 

 彼女を追いかける身を、少しは考えてくれ。

 

「そういや涼馬が音楽聞いてるとこ見たことないな。なんか好きなアーティストとか居る?」

「家では八色葵の曲を聞いてるよ」

「へぇー!お前も現代っ子だったんだな!」

「同世代のスターだからな」

「分かるわー。しかもむっちゃ可愛い!」

「そうだな」

 

 彼女の隣に立つ資格。それは、如何程の偉業を成せば良いのか。

 

 分からない。何一つとして正解が無いように見える。

 

 しかし。

 

「お疲れ様!先ずはお風呂に入ってきちゃいなさい」

「ん、ありがとう」

 

 例えそうだとしても、自己を高める事を辞めていい理由にはならない。一度立ち止まってしまえば、追い付けない事だけは理解出来てしまっているから。

 

「ご馳走様。今日も美味しかったです」

「お粗末さまでした」

「じゃあ、勉強してくるから」

「涼馬、試合の日くらいは——」

「分かってるよ父さん。確認事項を確かめたら早く寝るさ」

 

 だから、今日もまた己を鍛える。

 いつか、彼女の隣に立つことを夢見て。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

「あけましておめでとうございます」

「あけましておめでとうございます」

「あけおめー」

「理華は適当過ぎないか?」

 

 元旦、二人の幼馴染の家族と毎年恒例の初詣へ。

 メジャーデビューしてからのお馴染みの変装をした彼女を改めて見つめる。腰に届くまで伸ばされた髪は一体どこに隠しているのか、肩口までのボブスタイルに変わっている。裸眼でも視力1.0以上の瞳を覆うのは度が入っていない伊達眼鏡。ボリュームのあるマフラーで口元まで塞がれたとしても隠す事の出来ない可憐さ。

 今日も幼馴染は世界一の美少女だ。例え世界が暗闇に包まれようとも、彼女の周りは光り輝いて見えるだろう。

 

「1年間良い子でいた葵ちゃんと理華ちゃんにはお年玉をしんぜようではないか」

「有り難き幸せ」

「ははー」

 

 一般人なんて目じゃない程に稼いでいるであろう彼女は、今年も二家族からのお年玉を嬉しそうに受け取っていた。ウチと理華の家は恐らく平均額だろうけど、おば(リーナ)さんからのお年玉は少しばかり入れ過ぎ感もある。これが王室の金銭感覚か。

 

「着々とPC費用が貯まっていくわ」

「理華ちゃんパソコン欲しいの?私のお古で良ければあげようか?」

「良いの!?」

「うん。あっ、壁掛けだったからケースは買わなきゃいけないね」

「あのゴチャゴチャしてたのパソコン部品だったのかよ……」

「綺麗に収まってたでしょ?」

「そうかなぁ……」

「初代のケースは?」

「あぁ!それがあったね!」

 

 理華はどうやらパソコン関係にお熱らしい。俺は一切分からない分野なので話には混ざれない。そもそも自作するメリットって何だ?市販品を買えば間違いないような……

 

「自作PCのメリットなんて微々たるものだよ。上手く作れば既製品より安くなるくらい」

「意味ねえじゃん」

「性能を逐一アップグレードしたい人向けだね。まあそうすると既製品を長く使うより高く付く罠があるんだけど」

「涼馬、これは浪漫なのよ。男の子なら分かるでしょ」

「ええ……」

 

 参拝の列に並んでいる時でもパーツの話で盛り上がっている二人は果たして本当に女の子なのだろうか。俺よりも男子っぽい趣味してるぞ。

 

「何お願いしたの?」

「5000兆円欲しい」

「何でそんな中途半端な額なんだよ」

 

 そんな大金があっても理華は使い切れないだろうに。

 お金でふと思いついた事だが、葵の資産はどれくらいあるのか気になってきた。

 

「葵の自由に使える金額ってどんくらい?」

「うわっ。涼馬、デリカシーがなってないわね」

「理華も気になるんじゃないか?」

「それはまあ……」

「どれくらいと言われると困るけど……億とかの単位かな?」

「ふぁー」

「すげえ」

 

 あんだけCDが売れてればそれくらいになるか。それに、彼女をテレビで見ない日は無いと言える程にCMにも出まくってるし。……億って言ったけど、本当は10億単位な気もしてきたな。

 

「新年初っ端からお金の話ばっかりはやめようよ」

「それもそうね」

「すまん、つい気になってな」

「気になると言えば涼くんの身長だよ。何食べたらそうなるの?私まだ163センチなんだけど」

「遺伝でしょ。父さんデカいし」

「二人ともデカすぎるから」

 

 一時は葵に追い付かれそうになった身長も、今では10センチ以上突き放すことに成功している。例え色んな面で負けてるとしても背の高さだけは勝っておきたいからね。父の遺伝子に感謝だ。

 

「私の180の夢が……」

「そこまで伸ばしてどうすんのよ」

「そっちの方がカッコよくない?」

「葵は可愛い系だから諦めなさい」

「えー……」

 

 理華の言う通り、葵の身長が伸びた所でカッコいい系にはならないと思う。出来ればそのまま小さいままでいてくれ。

 

「3人とも。屋台はいいの?」

「私は興味無いかな」

「俺も」

 

 一昨年くらいからは俺も理華も屋台の食べ物に興味を示さなくなった。理華がどのような気持ちでそうなったかは分からない。もしかしたら二人とも葵の真似をしているだけに過ぎないのかもしれないな。

 

「今日のお昼はどうしましょう」

「八色さんと藤崎さんが構わないなら外で食べてく?」

 

「そういや二人の中学って俺と一緒?」

「うん」

「ならまた一緒に通えるな!」

 

 両親勢が昼食の相談をしているのを尻目に、この春からの進学先を聞いておいた。もしかしたら私立に行くかもと考えていたので肯定が返されたのは嬉しい。

 

「涼馬は朝練……と思ったけど帰宅部だったっけ」

「別に一緒で良いけど、涼くんは嫌じゃないの?」

「嫌?何が?」

「まあ、嫌じゃなければ良いよ」

 

 葵と登下校を共に出来るチャンスを誰がみすみす逃すものか。高校は恐らく別々の所になるだろうし、今くらいは良い思いをしたい。

 それに、幼馴染二人との日常は日々の疲れを癒してくれる。彼女達にその自覚はないだろうけど、本当に有難い存在だよ。

 

「3人とも、移動するわよ」

「はーい」

 

 正月は、普段忙しい葵が唯一のんびり休める期間だ。この一年葵と会う機会が少なかった俺としても存分に葵成分を補充させてもらう腹積もりだ。

 

 なお腑抜け過ぎると葵は勿論、理華にも置いていかれるので注意する。あいつ、最近は化け物みたいに能力を伸ばしているみたいだし。

 ……彼女と同性のくせに、何故あそこまで葵第一主義になったのだろうか。これが分からない。

 

 そんな一般から外れた幼馴染を二人持つ俺は凡人なりに努力しなければならない。

 彼女達の歩みに比べれば亀のようなスピードだろうと、一歩ずつ進んで行くしかない。

 

 例えどんなに周回遅れになろうとも、絶対に隣に並んでみせる。

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「おはようさん」

「おはー……てか早いわね。なに、そんなに葵の制服姿が気になるの?」

「無論」

「……まあ、新鮮さはあるわね」

 

 4月。中学2年になった俺は下級生を迎える年代となった。それ即ち幼馴染ズが後輩となる事でもある。何やら今年度の新入生は馬鹿みたいに多いらしいが俺には関係ない。

 

 正直に言う。葵の中学校の制服姿が楽しみでならない。

 普段はオシャレな私服姿ばかり見ていた。それはもう最高なのだが、制服という魔性の衣に身を包んだ彼女は格別だろう。

 だから集合場所たる彼女の家の前に30分前から陣取っていたのも仕方ない事だ。

 

「いや30分前行動は馬鹿でしょ……」

「理華は良いよな、入学式で制服姿を拝めてさ」

「女子みたいな嫉妬しないの。イケメンが廃るわよ」

「葵以外にモテても意味ないからセーフ」

 

 幼馴染の片割れと軽い雑談を交わしていると件の家の扉の鍵が開けられる音が響いた。

 

「お待たせ!」

「おはよ」

「おはよー。二人とも早いね」

「早く起きちゃったからね。早速行きましょうか」

「ほーい。……あれ、涼くん?おーい……し、死んでるっ」

「叩けば蘇生するわよ。こうやって、フンッ!」

「……はっ!」

 

 突如目の前に降臨した天使に意識を奪われていたようだ。

 どうやら俺の幼馴染は遂に可愛さで人を失神させる所まで来てしまったらしい。罪深い、罪深いぞ!

 

「ほら、早く行こ?」

「あぁ……ありがとう、神様

「バカ言ってないでさっさと歩く!」

 

 普段から完璧な彼女がこうして可愛いの権化たる制服を身に付けるだけでここまでの可愛いの暴力が生まれるとは……恐ろしい真実を知ってしまった。これを他の奴らにも見せなきゃいけないのが惜しくて堪らない。

 

 ともあれ、この感謝の気持ちを捧げなければ。

 ありがとう、中学校。ありがとう、制服。ありがとう、神様。

 これで明日からも頑張れそうです。本当にありがとうございました。

 

 ……帰りに写真撮っていいか聞いてみよう。もしも許可が出るならスマホの壁紙決定だ。

 




光に目を焼かれたのは一緒なのに光の亡者っぽくならない安心感
っぱ恋心ですよ
ラブアンドピース!愛だよ愛!

なお幼馴染二人が"ケツイ"を固めている傍ら葵ちゃんは「隣にいる資格?そんなん好きなだけ居ればいいじゃん」と思っている模様

中学校の制服って芋っぽいイメージですがこの世界ではおかわわな感じの制服としておきます
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