TS逆行したら才能に満ち溢れてた   作:黒髪赤眼すこすこ侍

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約1週間振りの更新である(遅くなってしまい申し訳ありません!)


拝啓、親友へ

 なあ、お前との出会いは6歳の時だったか。

 

 始まりはなんて事は無い普通の出会い。小学校で同じクラスになったから仲良くなっただけの、極々一般的な関係だった。

 

 ただ一つ、お前が特別な出自であった事を除いて。

 

 それ故にお前は小学生の時は交友関係に悩んでいたんだろうな。

 腫れ物を扱う様に接しられ、親世代からも特異な目で見られる。一般人な俺からしたら、それはそれは大変そうな少年時代だったと思うよ。

 

『……和真はさ、俺と一緒にいて御両親に怒られないのか?』

『は?逆に仲良くしろって言われてるけど。媚びを売っておいて損はないだろ』

『それもそれで何だかなあ……』

 

 親から接触を禁じられる者。その逆に積極的に仲良くなれと命じられる者。そんな連中に囲まれているんだからたまったもんじゃない。しかも実の両親を早くに亡くすという境遇。

 良く捻くれずに育ってくれたよ。

 

 そんなお前も周囲と上手く折り合いをつけた高校生の時、彼女と出会ったんだったな。

 とある国からの留学生。そして、お前の運命の人。

 

 たった半年間の交流で愛を育んだお前らはそのまま大学でも付き合いを続けたな。しかも向こうさんは将来を見据えて庶民になって再留学して来るんだから本気度が伺える。

 そして、大学生の時分でお前も彼女に続いたのは度肝を抜かれたよ。

 

『はぁ!?皇籍離脱って……おまっ、ええ!?』

『片方の国の王室に血を集めるのは良くないだろ。リーナが抜けたと言うなら俺も抜けるよ』

『いやいやいや!現代日本じゃ無理……でもなさそうか?』

『宮内庁にはもう話つけたから』

『判断が早い!』

 

 平成になって初の皇籍離脱、しかも男児がとなると世間はしばらくお前に注目せざるを得なかった。収入面等も心配されての事だろうけど、それはお前が在学中に司法試験に合格した事で収めたのは流石だったよ。

 

『改めて、八色陽仁です。これからもよろしくお願いします』

『素敵なお名前ですね!』

『なんで八色?』

『さあ?八色(やくさ)(かばね)から選ぶのは古いとでも考えたんじゃない?』

『それ由来だとしたらまんまじゃん』

『リーナは褒めてくれたもん、ねー』

『はいっ!』

『……野生のロイヤルバカップルが』

 

 まあ、マスコミが静まったのは交際相手が強すぎた面もあると思うけど。国際問題に発展させる蛮勇をメディアが持ち合わせていなかったのは良かったな。

 

『事務所まで一緒にする必要は?』

『おいおい、幼馴染だろ?嬉しそうにしろよ』

『ここまで着いて来られるのは予想外だろうが』

『実の所、結婚式における友人代表挨拶のネタ探しだ』

『しょうもなっ……えっ、マジでそれだけの理由?』

 

 大学を卒業してもお前との繋がりは切らなかった。それはある方々に頼まれたって事情もあるし、それとは別にお前と一緒に居たいって気持ちもあった。

 それだけお前との居心地が良かったんだ。

 

 1年の実務研修を終え、晴れて弁護士になったお前は速攻でリーナさんと籍を入れた。

 仕事も順風満帆。中々子宝に恵まれなかったものの、結婚4年目にして待望の第一子を授かったお前ら夫婦を見て。

 

『もう名前は決めたんですか?』

『折角なら和名がいいわねって事で悩み中です』

『和真!いまお腹の中の子が俺にハイタッチしたぞ!』

『リーナさんの青い目を受け継いでれば"あおい"なんて名前もあるんですけど、陽仁の茶色が優性だから難しいか』

『爽やかな感じがして良いね!候補に入れときます!』

『おっ!また動いた!』

 

 俺は、明るい未来が待っていると信じて疑わなかったんだ。

 

『リーナさん!陽仁はっ!?』

『……』

『残念ながら搬送された時には既に……』

『嘘……だよな?おい陽仁、返事しろよっ』

『我々はこれで……』

『お前……本当に……』

 

 出産予定日の2ヶ月前。

 あの日、お前が死ぬまでは。

 

『葬儀は俺が手配するから……だから、リーナさんは休んでてください』

『…………ありがとう、ございます』

 

 身重な体の彼女にはこれ以上の負荷を掛けられない。職場の理解もあり、葬儀を含めた様々な手続きに奔走したもんだ。

 その方が、お前の死という現実から目を背けられたから。

 

 しかしながら何時までもお前の事を引き摺ってはいられない。多大なストレスがかかった状態での出産は大変だろうし、何よりお前とリーナさんの出自の特殊性により頼れる先達()も皆無。そんな中で生まれて来る赤ちゃんの事も考えなくてはならない。

 だから、お前を墓に納める際に決意と同時に区切りをつけた。

 

 お前が残した二人を、必ず護ってみせると。

 

『おおっ!この子がリーナさんと陽仁の赤ちゃんか!可愛いなあ』

『名前は葵です。呼んであげてください』

『葵ちゃーん、怪しいおじさんじゃないでちゅからねぇ。……なんかこの子、すっごい凝視して来ますね』

『可愛いでしょ?』

『それはまあ。リーナさんとはまた違った綺麗な目ですし……いやこの目どうなってるんだ?』

『視力に異常は無いみたいです。突然変異ですかね?』

 

 だけどさ。聞いて驚けよ、我が親友。

 そんな決意とは裏腹に、生まれてきた赤ちゃんは俺の想像を遥かに超えていた。

 

『ママ』

『……は?』

『和真君!ほら!』

『かうまさん』

『濁点はまだ難しいかなー。葵ちゃん、かずまさん、だよ』

『これが生後3ヶ月……?』

『かう……かずまさん』

『偉いっ!いい子いい子〜』

『いやいやいや』

 

 生まれて間もなく日本語を堪能に操り。

 

『ハイハイ!あんよが上手、あんよが上手!』

『ママ、あのご本読みたい』

『はいどうぞ!』

『ありがとう』

『ごめんリーナさん。葵ちゃんって何歳だっけ?』

『先日1歳の誕生日をお祝いして貰いました』

『……丁寧に教えてくれてありがとう、葵ちゃん』

 

 1歳では自由に歩き回りお前の蔵書を読み漁って。

 

『金メダル獲ってきました。ぶいっ』

『わー、凄いなー』

『和真さん、なんか適当じゃないですか?』

 

 僅か4歳で歴史に残る偉業を達成し。

 

『法人化するので相談に乗ってください』

『なんて????』

『暇な日は何時ですか?』

『待って待って思考が追い付かないから』

 

 9歳でメジャーデビュー、それと同時に1つの企業の長となり。

 

『ただいま帰りました』

『社長!おめでとうございます!』

『また歴史に名を刻みましたね』

『皆さんのバックアップのおかげです。ありがとうございます』

 

 11歳という若さで名実ともに世界のトップに立った。

 

『あっ!葵ちゃんの広告!』

『なんでこの子こんなに顔が良いんだろ。神様は不平等だ……』

『そんなのどうでもいいから。コラボ商品だよ!絶対に買わなきゃ!』

 

『先輩。どこを見てもウチの社長が目に入るって面白い感覚ですよね』

『そんな子の近くに居られる幸運を噛み締めておけ。んで、進捗は?』

『罰金30万円に着地しました』

『そっちじゃなくて——』

『悪質な方は執行猶予が付きそうですね』

『ん、了解』

 

 聡明な頭脳。美しいなんて言葉では言い表せない容姿。そして、圧倒的な才能。

 世界そのものが全力で愛を注いでいるかのような。又は世界が生み出した突然変異種。現代に生きている人間の上位互換。

 完全無欠な女の子がお前の娘だよ。

 

 街のいたるところに彼女の姿が張り出され、テレビCMで彼女を見ない日は無い程に人気を得ている。

 本当に残念だったな。こんなに可愛い娘を見れないなんて。……そっちに行くのが早すぎるんだよ、このバカ。

 

 なあ、陽仁。見てるか?

 お前の遺した宝物は、今や世界中から愛される大スターに成長しているぞ。

 

「和真さん!来てくれたんですね!」

「そりゃあ勿論。娘同然の葵ちゃんの大事な節目なんだ、駆けつけないとね」

「……和真さんもそろそろ身を固めても良いのでは?」

「相手がね」

「和真君が夜遊びしているってタレコミも——」

「さあ葵ちゃん写真を撮ろうか!いやー目出度い!そして可愛い!何枚でも撮れちゃう!ほらポーズを取って!」

「話を逸らすの下手か?」

 

 そんな彼女が小学校を卒業するというのだから時の流れは早いな。お前の十三回忌が回って来るのも納得だよ。俺もおじさんになる訳だわ。

 ……今更ながら、弔い方は仏教で良かったのか?一応、神道のトップの家系だよな?……まあ、歴史的に見たら問題なさそうだし、お前もとやかく言う奴じゃないか。

 

「理華ちゃん達も来たみたいなので行きましょうか」

「はいはい」

「未婚なら遊んでても良いけど、和真君は子ども欲しくないの?」

「その話は終わった筈では……?」

 

 彼女の幼馴染も随分と影響を受けているみたいだぞ。情緒が未発達な子どもにまでここまでの変化が生じてしまうとは、お前の娘は劇物のようだ。あるいは純粋な子どもだからこそなのだろうか。

 

「や、八色さん!一緒に写真を撮ってくださいっ」

「私も!」

「はいはい!私もー!」

 

 到着した小学校では校門前に待ち構えていた女の子連中に取り囲まれていた。お前とは違って交友関係に問題はない。彼の家柄を捨てたお前の判断は間違ってなかったな。

 安心しろよ、男子は遠くから見るだけで行動に移す奴は居ないさ。彼女自身、恋愛には興味が無さそうだから結婚するのはまだまだ先だろう。

 まあ、もう一人の幼馴染は彼女に懸想しているようだがな!

 

「保護者の方はこちらにお進み下さい」

 

「私達も行きましょうか」

「そうね」

「俺はリーナさんの隣で良いんですよね?」

「もちろん」

 

 自分の子どもの写真を撮り終わった家族から移動を開始している。俺達もその流れに乗って卒業式の会場となる体育館へと足を運んだ。リーナさんの隣に座る事は許してくれ、別に狙ってる訳では無いのだから。

 

「ねえ、リーナさん」

「うん?」

「葵ちゃんの活動を休止させるつもりはありませんか?」

 

 葵ちゃんが卒業証書を受け取るのを見ながら、最近の悩み事を打ち明けた。

 お前の娘はな、本当に可愛いんだ。それこそ「千年に一人の」という枕詞が力不足に感じる程に。

 

 そんな子が匿名性の高いインターネット上で活動する事の意味を、2000年に死んだお前は果たして理解出来るか?

 セクハラまがいの書き込みは優しい方だ。

 

 虚偽のレッテル貼りや人格否定、ただの噂を下にした悪辣な書き込み、更には殺害予告まで。

 

 お前が生きていたら一体どんな行動を起こしたのやら。

 未だに中学生にもなっていない少女に対するものでは無いよな。でも、それが普通に横行しているのが今の世の中なんだ。

 技術の進歩は必ずしも利点のみを生み出すだけじゃない。光がある所には影があるのも世の常だ。

 

「あの子が自分で辞めるまでは静観する予定です」

「危険では?」

「そんな事から守るのも私達大人の役目ですよ」

「そうは言っても……」

「和真君には以前に話したよね?私があの子を止めない理由」

 

 勿論覚えているさ。その時からも顔出しでの活動に反対だった俺を一応は納得させたのだから。

 それは、ある種の宗教。

 彼女の存在を、誰も否定しないと信じる馬鹿げた想定。

 それでもその作戦は成功していた。

 

『私達のせいで葵ちゃんには無垢な信頼を向ける相手が少ないの。なら、世間の大多数の人に味方になってもらいましょう』

 

『普通に暮らしてても遅かれ早かれアクシデントは起きると思うわ。そうならない環境作り、手を出してはいけない状況を作る為には持ってこいの事だと思うの』

 

『現に未だに問題は起きてないでしょ?』

 

 芸能界デビューをしていなかった当時は確かに事件は発生しなかった。結果論だと断じても良かったが、ネット住民も一応は幼女に対して配慮した動きだったので様子見を続けた。

 

 ただし、世間に広く知られた今は違う。

 

 ——あの子がいるせいで○○ちゃんの出番が無くなったから

 ——アイツが存在するだけで他のアイドルグループが輝かなくなってしまった

 ——出来心だった。彼女が羨ましくて堪らなかった

 

 本人は気にしていない様だが我々保護者組は見逃せない。リーナさんは勿論、俺だってお前らの大切な人を害する者は許せないさ。

 起訴された奴らの言い分は皆似た様なもんだ。「生理的に無理」という理由が無い事が異常であるとも言える。

 

「加えて5月から侮辱罪の厳罰化が始まるわ」

「それでも所謂無敵の人は出て来ます。葵ちゃんが狙われた事はありませんが、未来がどうなるかは分からないじゃないですか」

「それこそ私が絶対に守るわ。私達の宝物を害せると思ったら大間違いなんだから」

「そうではなくてですね……」

 

 お前の愛する奥さんは、どうしてここまで頑固なのだろうか。「命に代えてでも」なんて言いかねない危うさがある。

 俺個人の意見としては、もう生涯年収を遥かに超える金額を得ているのだし、後は静かにゆっくりと暮らして欲しいものなのだが。

 

『あの子の可能性を私如きが縛って良い権利は無いよ。大きく羽ばたくのを支えるのが私の役目だから』

 

 過去にそう語ったリーナさんは、怪物とも言える子どもを持った故の覚悟だったのだろうか。

 なあ、陽仁。お前が生きていたらどう対処したんだ?俺には正解が分からないよ。

 

「そもそもの話、インターネット上で活動していなくても歌手デビューした時点でこうなってたとリーナさんは思うのです」

「更に言えば普通に暮らしててもメディアに嗅ぎ付けられたか、ですか」

「この急速なネット社会の構築を見るに、そうなっていたでしょうね」

 

 そのインターネットの普及に葵ちゃんが関わってそうな件について。

 まあ、彼女が普通に暮らしていた世界なんてタラレバを言ってもしょうがない。今ある事実を受け止め、彼女に危害が加わる事の無いように頑張るさ。

 お前に誓った通り、リーナさんも含めて護ってみせるよ。

 

「取り敢えずは理解しました」

「詳しい話はまたの機会にしましょう」

「ところで、葵ちゃんは歌わないんですね?」

「先生方が周りの子に配慮しているのかなーと」

 

 式も大詰めに入り、卒業生一同が合唱にて感謝の気持ちを伝えようとしている。そんな中で葵ちゃんは壇上にあるピアノの前に腰掛けているのが目に入った。

 リーナさんの言う通り、彼女が児童に混ざっても存在感は隠せないからな。この措置も仕方がない。回していたカメラを調整して葵ちゃんに合わせる。

 

「この動画、東と近藤が欲しがってたんですけど」

「ん〜……あの二人なら他所に流すような事しないだろうし、オッケー!」

「家宝にする所まで未来が見えました」

 

 葵ちゃんの会社には、多かれ少なかれ彼女を崇拝している様な奴が集まってるんだよ。

 高々小学生に対して大袈裟だと思うだろ?

 ところがどっこい、今でも採用して欲しいって連絡が後を絶たない。それも、とびきり優秀な奴らばかりだ。

 リーナさんの想定通りと言って良いのか、葵ちゃん教みたいな存在が、社会全体として出来上がりつつある。一人の少女に対して大多数が盲目的になるのは傍から見ればホラーだよ。

 ……やっぱりお前の娘、魅了バフか何かを標準装備してるぞ。

 

『これより卒業生が退場します。皆様、どうか大きな拍手でお見送りください』

 

 例年よりも参加者が多い卒業式は無事に終了した。歩きながら此方を見つけ笑顔になった彼女もしっかりとカメラに収める。

 

「あなた、今の見た!?」「くぅ〜っ」「かわっ……」「あなた!自分の息子を無視してどうするのよ!」

 

 身内にしか見せない自然な笑み。それにやられた人の声がそこかしこから聞こえてくる。

 俺も幼い頃から付き合ってなければ同じ様な反応になってたんだろうな。そも、12歳にして既に完成された身体が凶悪だわ。彼女に狂わされたであろう同年代の少年達には黙祷を捧げておこう。

 

「お待たせ!アルバムにサインが欲しい子が多くて手間取っちゃった」

「滅多に書かない葵ちゃんのサインが貰えるなんて、ここの子達は恵まれてるね」

「言われてみれば書く機会が……サイン会でも開きます?」

「安売りするのは良くないでしょ。しかも葵がナンバーまで振ってるんだから」

「別に特別感を出そうとしてる訳じゃないんだけどね」

 

 まあ、なんだ。

 これからも大小様々な問題が彼女に降り注ぐと思う。

 

「よーし!では家に帰ってパーティーの準備をしちゃいましょう!」

「おー!」

「葵ちゃんは主賓の一人なんだからお休みだよ?」

「ヘラジカ肉の調理、楽しみだったのに……」

「今でも趣味の塊なのにジビエ要素まで加えてどうするのよ」

 

 それでも、彼女の笑顔が曇らないように。

 お前の遺した大切な宝物を、そして今や世界の宝物となった彼女を。

 必ずや守り抜いてみせるよ。

 

 そっちに行くまでは、お土産話を楽しみに待っていてくれ。




早めの年末休暇をもぎ取ったのでボチボチ書き溜を作っておきます
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