TS逆行したら才能に満ち溢れてた 作:黒髪赤眼すこすこ侍
「葵、がんばってね」
「お土産楽しみにしててね、涼くん」
うだるような夏の暑さの中やってきたのは東京の空の玄関口のひとつ、成田空港。7月8日から始まるIMOに出場するためメキシコにフライト予定だ。
他の出場者も近くにいて、各々見送りの人と話している。
幼馴染の涼馬くんは最近になって「葵」呼びになった。そろそろ小学生になるしカッコつけたいお年頃かな。可愛い。
「葵ちゃん、最後の確認だけどパスポートはー?」
「ここにあるー」
「よし、オッケー!向こうに着いたらママが預かるのでそれまでなくしちゃ駄目よ?」
「まかせて」
出雲ご夫妻と話してたお母さんに最終確認をされる。最悪の場合、パスポートさえあれば他の備品は現地で揃えられる。
「葵ちゃん、頑張ってねのギュー」
「むぎゅっ」
「メキシコは物騒と聞くから気をつけてね?」
「ぷはぁ。はい、大丈夫です」
「八色さーん!そろそろ時間です」
最後に涼子さんにハグされその場を後にする。他の出場者はみんな高校生なので1人だが、私は年齢の事もありお母さんが着いてくる。最初は高校生のみんなも遠慮していたが、合宿を通して仲良くなり気軽に話しかけてくれるようになってくれた。
この世界では初めての海外、しかも行ったことのないメキシコということで今からワクワクしてきた。
IMOの期間は1週間あるが、実際に問題を解くのは2日だけ。あとは他国の人との交流やメキシコ観光がある。カメラをしっかり持ってきたのでたくさん動画を撮って後にシリーズものとしてあげることにしよう。
荷物検査等の搭乗手続きを経てタラップから飛行機へと乗り込む。この時期に利用しているお客さんは大人ばかりで私のようなちっちゃい子は見当たらなかった。私も幼稚園を休んできてるから当たり前と言えば当たり前か。
お母さんにお願いして手荷物を上の棚に置いてもらった。手元に残してあるのは暇つぶしのための本。
1歳になってからは日本語や英語以外の様々な言語の本も読むようになった。というのも家の本棚にはヨーロッパ各国の書物が多くあり、言語習得に適していたからだ。
子どもの頃は日本語と英語が入り交じった生活だったので後の人生に役立ったなと前の世界に思いを馳せる。前世では日本語、英語、中国語、ドイツ語、そしてスペイン語までしか話せなかったが、今やヨーロッパの主要言語はある程度話せるようになっている。翻訳を仕事としているお母さんもペラペラなので、最近の家での会話は多言語が飛び交うカオスな状態だ。
手元にある本もスペイン語で書かれたもので、メキシコに行く前の復習みたいなものだ。
ふと隣にいるお母さんを見ると珍しそうに席を確認していた。
「どうしたの?」
「うん?あー、ママはこの飛行機に乗るのは初めてで舞い上がっちゃった」
「なるほど」
わかるわかる。初めての飛行機や新幹線は「このボタンなに?」「テーブルがここに入ってる!」みたいな感じでワクワクするものだ。お母さんにもそういうところがあったのかと知ってニヤニヤしてしまう。
「む。葵ちゃん、ママのこと笑ってるね?」
「そんなことないよ」
「嘘つく悪い子はこうだ!よーしよしよし」
笑っていたことがバレて撫ぐり回されるが、髪がボサボサになるので止めてくれ。しばらく撫でて満足したのか安全のしおりを取り出して読み始めた。それしっかり読む人いたんだ。
しばらくお母さんを眺めているとポーンと放送の音が鳴った。そろそろ離陸準備に入るらしい。
シートベルトの着用の確認やらなんやらをした後にいよいよ離陸する。この瞬間はいつ体験しても楽しい。窓際に座る高校生の子は外を見てはしゃいでいた。分かるぞその気持ち。ここから偏西風に乗って約半日のフライト。
さあ、いざメキシコへ!
◆◇◆◇◆◇
着きましたメキシコ。乗り継ぎのヒューストンではちょっとした問題も起きたが無事に辿り着くことができた。日本よりも緯度がほんのちょっと下にあるが、暑さはそこまで変わらない気がする。今の季節は雨季にあたるそうでたまにスコールが降るので気をつけてと言われた。
滞在するホテルでは通常は2人組で一部屋に泊まるのだが私はお母さんと一緒の部屋になった。5つ星ホテルらしくそんな高いところに泊まったことがない私は萎縮していたが、想像よりも普通で肩透かしに合った気分だ。
「葵ちゃん、お水はペットボトルのしか飲んじゃダメよ」
「え、このホテルのもダメなの?」
「万が一があるのでダメです」
指をバッテンに重ねブッブーと言ったお母さんはこういう所に慣れていそうだった。荷物整理をしながらそういえばお母さんの故郷の話を聞いたことがない事に気づく。前世では父親が居ないこともあり、そういう事は聞いちゃいけないと勝手に遠慮していたため質問する機会がなかったのだ。
「お母さんってさ、どこ出身なの?」
「言ってなかったっけ?カリュシアよ」
カリュシアと言ったらノルウェーとアイスランドの間に浮かぶ小さな島国だ。そんなところでお父さんとどのように会ったのだろうか。
もっと聞いてみたいと思ったところ部屋の扉をノックする音が聞こえた。お母さんが出れば同じ出場者の子で、どうやらホテル側のミスにより他国の人と一緒になったらしい。そんなこともあるのかと思っていると通訳として来てくれないかと頼まれた。私も気になるので部屋に行ってみると残された子が一生懸命コミュニケーションをとっている。
『やあ、災難だったね』
『おや?可愛らしいお嬢さんだ。 キミもこの部屋に泊まるのかい?』
『いや、私は違う部屋だよ』
話してみれば気さくな性格のようで、とりあえずはなるべくゆっくり話してあげてと頼んだ。日本の高校生もリンキングやリダクションなどがなければある程度は聞き取れるはずだ。後はこちらから意思を伝えるだけだが、それは片言でもなんとかなる。そんな感じのことを高校生の子に言えば「頑張ってみる」とやる気を出していたので大丈夫だと思う。
そういえばけん玉を持って来ていたはずだから、試しにパフォーマンスをしてみれば?と提案したらそれが大ウケ。仲良くなっているようなので私は部屋に戻った。
そんなこんなで開会式の日がやってきた。
日本チームの入場時にはみんなでけん玉をパフォーマンス。これは合宿の時にみんなで話し合って決めたことだったが、海外の人にはウケるらしくこれが後々の交流に繋がっていったので大成功だと思う。
意外だったことは私が結構な注目を浴びたことで、各国のチームに着いてきていた取材陣が私に集まってきたのだ。
どうやら史上最年少での出場というのは思いのほか大きい影響を与えたようで計画が順調に進んでいることに満足する。
そして明くる日の今日、遂に試験が始まる。パソコンを手にするには銀メダル以上を取らなければならない。過去の成績を見れば6問中4完答すればよさそうなので多分大丈夫だ。
キャスター付きのイスに座りながら足をプラプラさせ試験開始の時刻を待った。
試験はあっけなく終わった。高校数学程度ならこんなもんでしょというのが感想であるが、どこで減点を食らうか分からないため結果発表まではドキドキだ。
試験終了の次の日からは観光が始まった。メキシコの有名どころを見て回ったが高校生の諸君は数学の話で盛り上がっていた。
君たち、大学生になって女の子がいる前でそういう話はしない方がいいぞ。お兄さん(4歳女児)との約束だ。
マヤ文明の説明で2進数や暦の正確性で話が出来るのは流石だとは思う。
私はそんな彼らも撮影しながら観光を楽しんだ。
本場のメキシコ料理は辛さはあるが本当に美味しかった。タコスの生地はしっかりとトウモロコシから作っているらしい。ペラグラ*1にならないようニシュタマリゼーションと呼ばれるアルカリ処理を考えた先人には脱帽だ。ヨーロッパの人たちもトウモロコシだけじゃなくて調理方法も持ち帰ればよかったのに。
夜には他国の人と交流を図るべく、ボードゲームやカードゲームなどでコミュニケーションをとった。日本人の彼らもけん玉から始まり片言ながらもしっかりと会話を楽しんでいたと思う。この経験が彼らのためになればと手伝うことはせず見守っていた。
一方の私はというと
『葵、通訳をありがとう!やっぱり拙い英語より母国語で喋りたいから助かったよ』
『僕からも感謝を。葵は幼いのにこんなに色々出来るなんて凄いよ。正直日本人だからと侮っていたもん』
『あー、うん、気にしないで』
『葵、こっちに来てよ!』
『私の体はひとつだから無茶言わないでね』
何やら上手く話せていない集団がいたので近寄ってみれば「これはなんて言ったらいいんだ?」のように単語が分からないようだった。日本の子じゃないし、手伝ってやるかと思って手を出したのが運の尽き。次から次へとこっちもこっちもと呼ばれて私は一躍大人気になった。こんな人気は要らないんだけどな……
おかげで名刺もいっぱい貰い連絡先が山ほど手に入った。使うことはないだろうけど何か役に立つかもしれないので有難く貰っておく。
でもまあ、世界中の人とその母国語でこんなにも話せるのは楽しいしいい経験になった。前世では基本的に英語でのコミュニケーションになっていたし、ドイツ語なんて披露する場所もなかったからなあ。
ちょっと嬉しかったことはロシア人に筆記体のキリル文字をしっかりと読み取ってもらえたことだ。書けたら面白いかもと練習したかいがあったもんだ。
『そこの可愛いお嬢さん。ちょっといいかな?』
ある程度人がはけ、ぶらぶらと彷徨っていると声をかけられた。
声の方向を見れば高校生くらいの青年とチームスタッフであろう男性がいた。
『どうしたの?』
『さっきの君の活躍を見ててね。もしかしたらカリュシア語も話せるんじゃないかと思ったんだ』
『おー、珍しいね!もちろん話せるよ』
『やっぱり!僕はカリュシアからきたケリーだよ。よろしく』
カリュシアは日本と同じく島国だ。人口も300万人と少なく、その公用語であるカリュシア語もまた話者は少ない。島国で侵略を受けた事のない国の言語というのは似かよった知名度らしい。どうやら母国語で話せそうな私は彼らにとって嬉しい存在のようだ。私も日本語が話せる外人さんに会えば嬉しくなるしその気持ちはよくわかる。
『葵はどうやって言語を覚えたんだい?まだ4歳って話じゃないか』
『家にたくさんの本があってね。カリュシア語ももちろんそれで覚えたよ』
今になって思えばお母さんの出身地だからか結構な数のカリュシア語の本があった。辞書も書き込みがされているものがあり、もしかしたらそれを使ってお父さんが一生懸命覚えたのかもしれない。
『発音とかは?』
『それは辞書である程度覚えて実践したんだ。実を言うとお母さんがカリュシア出身でね』
『それは本当かい!凄い偶然だ!』
『今もあそこに居るから連れてくるよ』
『ぜひ会ってみたいね!』
そんな話になり隅っこで日本のスタッフと話していたお母さんのところへ向かった。
「お母さん。お母さんに会いたいって子がいるからちょっとだけ来てくれる?」
「ママに?物好きな子がいるんだね」
「カリュシアから来てる子みたいだよ」
「えっ!?」
お母さんをケリーと名乗った青年のところへ引っ張りながらそう言うと、お母さんは驚いたようだった。どうしたんだろう。
「何かいけなかった?」
「うーん……まあ高校生なら大丈夫かしら」
「なにが?」
「ううん、何でもないのよ」
そう言いながら頭を撫でてくる。お母さんは私を撫でることが好きみたいだけど、私は恥ずかしいんだよね。
『ケリー、連れてきたよ』
『おお!こんな所で同郷の方に会うとは思いませんでしたよ!』
『貴女様は……っ』
『しー』
『ん?』
連れてきたお母さんをみたケリーは嬉しそうだが、今まで黙って見ていたスタッフの人が驚いた様な表情を見せた。ビックリすることなんてあったか?
『お母さんが美人で驚きました?』
『そう…ですね。葵さんのお母さんがとびっきりの美人で驚いちゃったんだ』
『お母さんはお父さん一筋だから残念でしたね』
『それはそれは。葵さんのお父さんはとても素敵な人に違いないね』
お父さんと会ったことはないが、お母さんが好きになる人だ。きっとそうなのだと思う。
その後はケリーは嬉しそうにお母さんと話し、最後にスタッフの人にぜひカリュシアに来てほしいと頼まれた。自然豊かな国なのでいつかは行ってみたいと応えたら、おじさんは大層喜んでいた。そんなに嬉しいことかな?私としてもお母さんの母国は気になるので近いうちに行きたいな。
そしてメキシコ旅行最終日。この日は運悪くハリケーンが直撃してしまい外出も出来なかった。閉会式の会場も変更になってしまったが自然相手には勝てないのでしょうがない。
成績の方はと言うと、日本は私を含め4人が金メダル、銀メダルと銅メダルが1人ずつで全体では7位だ。
無事に銀メダル以上という目標が達成出来てよかった。個人的には前世から続いていた「試験では満点以外取ったことがない」ということが継続してるので嬉しい。今までのものとはちょっと毛食が違うものだったので安心した気持ちだ。
成績発表の後は案の定というべきか開会式の日と同じように取材陣に囲まれた。史上最年少記録を塗り替えたらしいが、そもそも私は年齢詐欺しているため微妙な気分である。その年齢詐欺で話題を呼ぼうとしているので私は腹黒い性格なのだろう。
閉会式の後も日本の高校生含め多くの人が会話を楽しんでいた。日本の彼らもメキシコに来た時よりもだいぶスムーズにコミュニケーション出来ていると思う。こういうのは慣れが1番だと思うから、この経験を忘れずに彼らの将来に役立ててほしいな。
◆◇◆◇◆◇
無事に日本に帰国してきた。メキシコよりも蒸し暑い日本の気候は少し嫌になるが、それが日本に帰ってきたという実感にもなる。
お土産にはあちらの伝統工芸品とポテトチップスを買ってきた。色によって辛さが変わってくるので涼馬くんが食べれるものもあると思う。反応が楽しみだ。
今年やることはもう残り少ない。資金集めにちょっとお馬さんを見に行くくらいかな。
来年からはいよいよ日本の動画投稿サイトが始まる。それまでにどれだけの人が集められるかだが、利用者層が異なってくるからあまり気にしないでもいいかもしれない。
とりあえずはメキシコで撮った動画を編集することから始めよう。
| 【快挙】4歳日本人 史上最年少で国際数学オリンピック金メダル |
| メリダ(=メキシコ)で今月11日から行われている国際数学オリンピック(IMO)。日本の出場選手の1人、八色葵(やくさあおい)が4歳での金メダリストという偉業を成し遂げ、これまでの最年少記録であった12歳を大きく更新した。このことについて八色は「光栄なこと。落ち着いて取り組めた結果だと思う」と淡々と応えた。 なお今回の日本の成績は金メダル4、銀メダル1、銅メダル1で全体7位の結果となった。日本チームの団長である山田浩司は「大変満足いく結果。八色さんを筆頭にみんなが自分の実力を発揮出来たようでよかった」と述べた。 過去のメダリストの中には「数学界のノーベル賞」と呼ばれるフィールズ賞を受賞する者も多い。日本に生まれたこの若き天才の今後の活躍から目が離せない。 |
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Tips:【国名】カリュシア
ヨーロッパの国でノルウェーとアイスランドの間に位置する小さな島国。地理のために建国以来どこからも侵略を受けていない。スイスと並び永世中立国となっており、徴兵制度や核シェルターなどの設備も充実。1300年もの歴史を持つ王室がある。
独自言語があるのに名前が「リーナ」や「ケリー」……?妙だな……