”ここは……そうか俺は死んだのか。”
何もない空白、ただ眩い光だけが果ての無いその場所を満たす、魂の買える場所と言われればただ納得するばかりの景色、その中に薄れゆく意識だけが漂う。
彼は己の生が終わりを告げたと認識していた何故ならここへ至る前、彼は体を押し潰される痛みに苛まれていたのだから。
痛みの原因は学童たちが学び舎へ向かう列に速度を緩めず真っ直ぐに進む一台の自動車の前に躍り出た事、運転手はスマートフォンを片手に握っていた、あのまま進んでいれば潰されたのは児童たちだった。
”子供たちは、無事なのか?”
命尽き動かすに肉体を失って尚その献身の精神は消えず、事切れる前の光景とその後の詳細を検案する。
安心なさい、貴方の献身は無駄ではありません
不意に虚空に響く何者かの意思を伝える声、男とも女とも生きとし生ける物ともつかぬただ穏やかなりし声、ただ慈悲深くもあり冷徹でもある人のみならず肉体を持つ物はすべからず逆らえぬ圧倒的存在を感じる声。
声の主の姿は無い、姿無き事が当然の事と自然と認識させられる相手からの語り掛けである。
その存在からの言葉が誠であると疑念の疑の字すら浮かばずその意味を信じるのは仕方ない事だった。
”そうか……無事なのか、良かった。”
沸き上がる安堵感と充足感、己の起こした行動に一切の後悔を持たず自死の感傷すら俄かに浮かぶのみ。
残した親類や友人たち死の瞬間までに自分に係った人々、彼等に何も残せず終わった事には申し訳なさもあるがそれ以上に、己ただ一人の犠牲だけでまだ幼い子らの未来を守れたのなら良いと考えていた。
その献身の心に二心無く、その行いに悔い無き……感恩奉仕の心を持つ貴方なら
穏やかにこの後の己に下される沙汰を待つ魂に、声の主は何か考えを巡らせそして……。
……貴方に救ってほしい、
声の主は僅かな躊躇いを浮かべながらそう切り出した。
”分かりました、私に出来る事であればその願い聞き入れましょう。”
その声に、その思いに答える事に彼は一切の迷いは無かった、魂だけになった体を持たず何も成せぬ自分にも縋るこの声を拒む事など、この清らかで強かな魂には出来ないのだ。
救いを求め延ばされた手を掴む事は彼が生者であった頃から変わらぬ信念、それで何度も裏切られ虚仮にされようと変わらず続けてきた彼が彼で意味、だから拒まないその懇願を。
僅かな間も置かず、戸惑いも迷いも無く即答ですか……
彼の素早い決断に少し悲哀の色が声に混じった様に感じた、だがそれも一瞬の出来事であり気のせいだったかもしれない。
貴方をこれから宇宙からの侵略に晒され滅びる一歩手前の地球へ送ります
声の主は何かを迷いを振り切る様に魂に告げた、その世界はbetaと称される宇宙由来の怪物によって人間に限らず多くの生物が存亡の危機に瀕する世界だと言う。
そして、その世界に送りにあたり、魂だけとなった彼に新たな肉体と彼が着る鎧と暮らす為の宙船を与える言ってくれた。
それから貴方にその世界で暮らす人間から三人選び出し、これから預ける力を渡してください
力は勇・智・仁の三つの力を集め開放する鎧とそれに対を成す聖獣の姿をした機械の獣、三人が一心となってかる機械の龍そして力を纏める為の水晶、それらを受け取ると光の空間から彼の意識は離れ始めた。
あの世界をお願いします、私の英雄……
空間を完全に離れる直前、姿無き声の主は彼にそう語りかけていた、まるで大恩ある人物にさらに無茶を頼んでしまった自分を恥じる様に。
そして、彼の意識は一時暗転して……。
「……ん⁉ここは宇宙‼じゃあ地球は……あった‼あそこが、この世界の滅亡に近付く地球。」
気が付けば宇宙船の中で眠りについていた、如何やらここが今生で住処となるらしい。
「地上はどうなって……ッ!あれがbeta、地球に降りた侵略者ッ!」
格納衛星シェイドスターのメインデッキのメインモニターに地球の地表を写し拡大する、そこには地上を這い回る怪物の軍団の姿を見た彼は奥歯を噛み締める。
「場所は……日本の横浜!行かなければ!」
何故か知っている転送ポータルの転移装置に座標を入力しポータルゲートへ急ぎ入り、ブレスレットの填まった腕を掲げ叫んだ。
「クラスト・オン!ジャスティライザー・リゲル‼」
黒い鎧を纏い地上へと降りる、三人の戦士を見つける為そしてあの惨状で生き残っているかも知れない人々を助ける為に。
そして、そこで彼は出会うのだ強き心を持つ戦士たち最初の一人、勇の心を持つ熱き魂の青年に……。