ARMORED CORE 3 Replay ~ Stray Crow~   作:神父三号

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アーマードコア25周年おめでとうございます。
新作が出るのを願って、時々不定期に書きます。
ほぼ3のお話をなぞる形式です。
独自解釈の設定が多数含まれますのでご注意ください。

12/9追記:アーマードコア6出ますね。本当におめでとうございます。


とある傭兵

不思議と、あの日のことは今でも不意に思い出す。

 

孤児院の先輩から譲り受けたボロボロのランドセルを背負い、登校した初日のこと。

入学式を終え、数十人の児童が集められた教室の中。

 

 

『皆さんの見ている空は、本物の空ではありません』

 

 

適当に自己紹介を済ませた担任の教師が、突然無感情にそう言った。

連絡事項をただ告げたような、有無を言わせない口調だった。

教室が俄かにざわついた。

だが教師は気にせず教科書を開き、付け加えた。

 

『このことは教育上、君たちの年齢に達すれば、必ず教えることになっています。将来、別の階層に行く子もいるでしょう。それだけです』

 

何が、それだけなものか。

教室の児童達はもはや教師の声も耳に入らず、皆そわそわとして窓の外へ目をやっていた。

そこには、太陽に薄く照らされた曇り空が、いつものように広がっていた。

 

そう、生まれてからいつも目にしてきた曇り空である。

だがそれは、偽物の空だった。

 

 

………

……

 

 

「クソ教師」

 

 

青年は狭い空間、振動するコクピットの中で、名前も顔もとっくに忘れた教師を罵った。

 

《ん?何か言ったか、ボウズ》

「何も言ってねえよ、旦那」

 

隣のMTからの通信に、適当に返事する。

 

《よく分からんが、あんま作戦前にかっかすんなよ。怒りは戦場で発散しろ》

「分かってるってば。あと、別にかっかしてねえから」

 

嘘である。

クレスト社の旧式輸送機の乗り心地は、最悪と言ってよかった。

揺れる格納庫の中で愛機の重装型MT"スクータム"が同僚の機体と何度も肩をぶつけ合う。

5機ものスクータムが、空を行く輸送機の格納庫にひしめき合っているのだ。

積載量はほぼ限界で、機体を旋回させるスペースすらありはしない。

しかも、輸送機がヘボならばパイロットもヘボらしく、ちょっとした気流に羽を取られているようだった。

これでは目的地に着くころには、MTの装甲はベコベコになっていることだろう。

MT乗りの傭兵の扱いなどこんなもの――それは分かっているが、世知辛さを感じずにはいられない。

 

《作戦地点到達まで10分を切った。作戦の最終確認を行う》

 

無線通信が、輸送機の管制室から入る。

 

《作戦目標はセクション728。アヴァロンヒル東区にて演習を行っている、ミラージュの新型MT部隊への奇襲だ。正規の部隊を伴わない、本部隊だけの電撃作戦となる》

 

青年が乗るスクータムのモニターに、管制室から攻撃目標のデータが送信されてきた。

ミラージュ社が新開発した近接用MT"ギボン"。

対ACを前提に、地上での運動性を強化された機体らしい。

データの限りでは、ショットガン、ミサイル、そしてレーザーブレードを装備している。

 

《ミラージュの新型は、旧式の逆関節MTを相手に模擬戦中のはずだ。武装も、模擬戦仕様だろう。それを輸送機からのECMで攪乱し、一気に撃破する。諸君にとっては容易い任務だ。我がクレストの覚えをめでたくする好機だぞ》

 

接触回線で、隣のMT乗りが鼻で笑うのが聞こえてきた。

いくら新型とはいえ模擬戦仕様のMTを制圧したところで、傭兵にとってどれほどの評価になるというのだろうか。

実際、クレスト自身も大して重要な作戦だとは認識していまい。

ちょっとした妨害とMTのデータ採取が目的だろう。

旧式輸送機に一山いくらの傭兵を積んでいるのが良い証拠だ。

成功しても、失敗しても、どちらでも構わないと思っているに違いない。

 

《それと、クレストとしては今回の新型MTには興味がある。運よく鹵獲できた場合は、追加報酬を支払おう》

 

無理な注文だった。

この輸送機に載っているのは重装型MTスクータムが5機。

その装備はバズーカと携行型のシールドのみである。

もとより鹵獲用兵装などないのだ。

だから――

 

「ああ、了解した」

 

青年は適当な返事をして、管制室との通信を終えた。

 

《……へっ、鹵獲だって?オンボロ輸送機に傭兵のMTだけ載せて、ずいぶんと高望みしやがるな?》

「いいだろ。追加報酬なんだから物好きがやるだけだ」

《そもそも、このギュウギュウの格納庫にどうやって乗せて帰るんだろうな?》

「さあ?スパルタンの旦那が他の奴を羽交い締めにでもすればいいんじゃないか」

《おいおい。冗談言うなって、ははは》

 

スパルタンと呼ばれた僚機が、通信機越しに人のよさそうな笑い声を上げる。

スパルタンは、MT乗りの傭兵の中ではよく名前が通った男だった。

裏表のない性格と、経験に裏付けされた確かな操縦技術で、かなり高い評価を得ている。

 

《ハッチ開放、ハッチ開放》

 

青年がスパルタンと軽口を叩いていると、格納庫内に警報が鳴り響き始めた。

輸送機の後部ハッチが開放され、アヴァロンヒルの荒れた大地が機体のモニターに映る。

 

《ECM作動!全機発進しろ!》

 

青年は短い命令に併せてフットペダルを踏み込み、ブースターを吹かす。

重装型MTスクータムが5機、アヴァロンヒルの大地に降り立った。

同時に輸送機が放ったECMによって一時的に計器類が悲鳴を上げるも、すぐさま事前に知らされたコードを入力すると、正常に戻った。

 

《距離600!敵さんECMでまごついてやがる!いける、ぞっ……く!》

「お先に」

《俺もだ、じゃあごゆっくり》

《ああっ、て、てめえら!》

《くそっ、行くぜ!》

 

着地の衝撃に足を取られた3機の僚機を後目に、青年とスパルタンのスクータムが素早く加速した。

傭兵としての力量の違いである。

着地時のブースターの吹かし方一つで、同じMTであってもその動きは大きく変わるのだ。

まんまと先行した2機のスクータムは、ECMと奇襲に狼狽えている逆関節MT部隊に接近し、バズーカを撃ち込んだ。

 

《ぐわっ》

《き、奇襲!?まさかクレストの……》

《通信が……!》

 

逆関節MT"エピオルニス"が怯えたように、狙いも定めず両腕のガトリングをばら撒く。

しかし、ただでさえ集弾性の低い武装をめくら撃ちしたところで、重装型MTに有効打は与えられない。

スクータムの砲撃によって早々にエピオルニスは全滅し、アヴァロンヒルには目標の新型MT"ギボン"数機が孤立することとなった。

 

《ECMが効いてんなぁ……投降しろっても無理か》

「撃破でいいだろ」

 

青年が狙いを定めてトリガーを引き、バズーカを放つ。

しかし、ギボンは舞うような機動によって、砲撃を避けた。

反撃のショットガンが撃ち込まれ、スクータムはたまらずシールドを構える。

模擬戦仕様ということもあってか大した威力の散弾ではないものの、青年のコクピットには相応の衝撃が走った。

スクータムがアヴァロンヒルの大地を後ずさったところに、ギボンが1機接近してくる。

 

「くそっ!」

 

青年は咄嗟にスクータムのシールドを突き出し、発振されたレーザーブレードを受け止めた。

シールドの上半分が焼き切られ、切断面が溶解する。直撃すれば、スクータムでも危うい出力である。

模擬戦仕様とはいえ、一応の自衛手段は持たされているようだった。

仕掛けてきたギボンは押し合いはせず、すぐさま跳ねるようにして離れていく。

反撃のバズーカ――の狙いはなかなかに定まらない。

右へ左へあるいは上方へと、ミラージュの新型MTは縦横無尽に機動した。

そして間断なく撃ち込まれる、ショットガンとミサイル。

威力はないが、機体が大きく揺さぶられ、被弾の度に動きが止まってしまう。

 

《一旦退け、ボウズ。固まるぞ》

「分かったよ。相手は全部で何機だ?」

《4機だな。ブレードだけ実戦用の出力みてえだ。斬れるぜありゃ》

 

スパルタンがスポットした地点に、4機のスクータムが固まった。

残る1機は、前のめりに崩れて動かない。既にレーザーブレードの餌食となっていた。

敵のギボン部隊は優勢と見たのか撤退せず、スクータムを囲むようにして飛び跳ねては隙を伺ってくる。

輸送機が放ったECMの効果が切れれば、猛攻を開始することだろう。

 

《一番動きが鈍いのは、こいつだ。こいつに狙いを定める》

「集中砲火か?」

《そうだ。駄弁ってる暇はねえ。このスパルタンに従えよてめえら!》

 

スパルタンがマークした標的へ向けて、3機のスクータムが一斉に砲撃した。

ギボンは予測していたのかすんでのところで横跳びに回避――したところを青年のスクータムが仕留めた。

 

《おいてめえ、横取りだぞ!》

「結果オーライだろ……来る!」

 

僚機がやられて激昂したのか、2機のギボンが青年のスクータムめがけて突っ込んでくる。

青年はシールドを構えて懸命に後退しながら、歯を食いしばった。

ギボンのショットガンが、シールドを揺らす。レーザーブレードの赤い閃光が見えた。

だが引き金は、まだ引かない。まだ、まだ――

 

ドズン。

 

向かって来ていたギボンが1機、横合いからスパルタンに撃たれて吹き飛んだ。

ひるんだもう1機に青年は引き金を引き、風穴を空けた。

 

「さすが、スパルタンの旦那」

《うるせえ、死にたがりめ》

《おい、あと1機が逃げてくぜ!》

 

同僚からの通信に目をやると、最後のギボンが跳ねるように戦場から逃げていく。

4機のスクータムはブースターを全開に吹かし、バズーカで牽制しながら後を追った。

少しずつだが、彼我の距離が詰まる。

新型MTギボンは空間を自在に跳ね回る運動性はあっても、長距離を移動することはあまり得意ではなさそうだった。

 

《鹵獲、狙うか?》

「旦那がアレの足だけ狙えるならな」

《ああ、そりゃ無理だ》

 

アヴァロンヒルに、バズーカの砲声が轟いた。

 

 

………

……

 

 

作戦を完遂し、クレストの旧式輸送機はアヴァロンヒルを離陸した。

相変わらず揺れがひどく、4機のスクータムが戦闘による弾痕と土埃にまみれて、すし詰めになっている。

 

《弾薬費と機体の修理代、思ったよりかかるぜ。クレストのピンハネもあるしな。今回も大した儲けにならねえなぁ》

「新型のMTが相手だったんだ。死ななかっただけ、安いよ」

《まあ、そうだな。帰ったら一杯やろうぜ?》

「スパルタンの旦那のオゴりならな」

《ばっきゃろー。誰のおかげで生き延びたと思ってやがんだ》

 

青年はスパルタンの歯に衣着せぬ物言いに声をあげて笑った。

依頼を達成した後のくだらないやりとりが、今日も生き延びたと、生きる糧を得たのだと実感させてくれる。

孤児院を飛び出し、軍事工場に潜り込んで働き、いつしかこうしてMT乗りの傭兵として糊口をしのげるまでになった。

ただ適当な会社に入ってサラリーをやるよりは、充実した生き方をしていると思っていた。

だが。

 

 

『皆さんの見ている空は、本物の空ではありません』

 

 

また、これだ。また、あの時の教師の声が、耳の奥で響いた。

いい気分になる度に、かつて聞かされた何気ない言葉が、壊れた録音機器のように何度も頭の中でリピートされるのだ。

 

なんとなしに、愛機のスクータムのメインモニターを見る。

旧式輸送機の格納ハッチが、その整備不良故か完全に閉まりきらずに、遠くの曇り空を垣間見せていた。

 

本物の空ではない、人工の空。

偽物の空。

じゃあ、誰か本物の空を見たことがあるのか。

本物の空はどこにあるのか。

 

子どもの頃、教室で手を挙げて聞く勇気のなかった問いが、今でも頭の中で渦を巻いていた。

空が本物か偽物かなんて、実際のところ青年の人生には何の関係もない。

いや、それだけではない。

この地下世界"レイヤード"に生きる誰にも関係がない、はずだった。

本物の空なんて、もはや誰も見たことがないのだから。

だが、それでも。

もし、本物の空を、見られるとしたら。

 

ピー。ピー。

 

青年の感慨を裂くように、コクピットに聞き慣れた音が上がった。

収納スペースに突っ込んでいた、携帯端末の着信音。

青年自身の管理番号を表題とする、ごく短い電子メールだった。

 

「スパルタンの旦那」

《ああ、なんだよ?》

「やべえ、管理者から通信が来た」

《は……あぁっ!?》

 

メールを開くと、極めて事務的な文面が、"DOVE"――管理者のエンブレムと共に表示された。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

FROM:管理者

TITLE:0824-FK3203号

 

0824-FK3203号に、レイヴン適性試験を課します。

指定の日時に、グローバルコーテックス本社へ出頭してください。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「試験を受けろ、だってよ」

《お前それ、まさか……》

「レイヴン適性試験って書いてある、明日来いって」

《急すぎるだろ……任務帰りの輸送機の中だぜ》

「ああ。都市伝説か何かだと思ってたよ」

 

都市伝説。

確かに、この地下世界にはそういう都市伝説があった。

何の前触れも無しに送られてくるという、管理者からのメール。

"レイヴン"を志せという、管理者の命令である。

 

管理者は、地下世界"レイヤード"の神。

管理者の命令は、そこに住まう者にとって絶対だった。

 

 

 

新たなレイヴンが、偽物の空の下に誕生しようとしていた。

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