ARMORED CORE 3 Replay ~ Stray Crow~ 作:神父三号
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FROM:ミラージュ
TITLE:礼状
低ランクのレイヴンにしては、なかなかの働きをした。
完成を間近に控えたナイアーブリッジは、我々ミラージュの新たな流通計画の要となるものだ。
その破壊を未然に防げたのは、お前のグラン採掘所での失態を十分に挽回するものといっていい。
よって、今回の働きを考慮して、特別報酬となるパーツをガレージに送る。
AC用頭部パーツ"04-YIV"だ。
クレストの施設から接収したものだが、カタログ上の性能はそれなりに高い。
好きに使え。
今後も、我が社への貢献を期待する。
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「すげえ上から目線の礼状……はいいとして。チーフ、なんだこの頭部パーツ?」
「おー、クレストの"YIV"じゃねえか。良いもん貰ったな」
「良いのか、これ?……そうは見えないが」
ミラージュから届いたコンテナを前に、ソラは口をぽかんと開けて特別報酬のパーツを見ていた。
確かに資料上のスペックはどの項目も初期配備品の頭部を凌駕しており、オートマップ機能まで備えていて、使い勝手は良さそうである。
だが、見た目が問題だった。
分厚い皿、潰れたカエル、脚と腹のない蜘蛛、そんな表現が似合う奇抜なデザインである。
「確かに性能はいいが、さすがにちょっとこの外見はな……」
「えぇ、そうかぁ?味があると言うんだわこういうのは。洗練された機能美とも言うな。まあ、20そこそこの坊ちゃんには分からんかな」
「そうですかよ……」
「で、どうする?装備するか?ワシはするべきだと思うが。強く」
「……保留で。オートマップ機能が役立つ依頼が来たら、考える」
「なんでえ、こんなイケとるのに。まあ、パーツを貯めて選択肢を増やすのはいいことだわな。あと、愛機の見た目に凝るのもな」
「……悪かったな、格好つけで」
アンドレイが白髭をもしゃくりながら、いつものようにからからと笑った。
ため息をついたソラのポケットで、不意に携帯端末が鳴った。
「もしもし、レインか?」
《はい。レイヴン、先日はお疲れ様でした。今はガレージですか?》
「ああ、用件は?依頼か?」
《ええ、緊急の依頼です。至急、ブリーフィングルームへお願いします》
「了解……仕事だ、チーフ。機体のチェックを頼む。この頭部パーツは、保管しておいてくれ」
「あいよ。さあ、忙しくならぁな。おい、テメェら!出撃準備急げぇー!!」
しわがれても野太く響く怒号が、ガレージに反響した。
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レイヴン、緊急の依頼だ。
現在セクション324の基幹高速道路を走行している、我がキサラギの超大型輸送車両"アレグロ"に、強力な爆発物が仕掛けられていることが判明した。
我々の物流施設に潜入していたクレストの工作員を捕縛し、得た情報だ。
仕掛けられた爆弾は、輸送車両が一定以下の速度になると自動的に爆発する仕掛けになっているらしく、走行を止めて対処することは不可能だ。
輸送車両"アレグロ"の名は、レイヴンも知っているだろう。
我が社の物流部門の象徴ともいえる希少な大型車両であり、決して破壊を許すわけにはいかない。
現在、当該道路の全面的な封鎖を行い、MT部隊を随伴させているが、万が一ということもある。
本社の爆発物処理部隊との合流まで、ACによる護衛を依頼したい。
なお、事態が解決するまで、輸送車両への直接的妨害は一切許容できない。
護衛に関しては、くれぐれも慎重に頼む。
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《依頼主はキサラギ社です。作戦区域は第一層第二都市区、セクション324の基幹高速道路。報酬は先払いが5,000C、成功報酬が12,000Cとなっています》
「輸送車両アレグロ……キサラギ系メディアのCMでしょっちゅう見るアレか」
《はい、ACすら超えるサイズの巨大連結トレーラーにより、様々な物資の大量輸送を行う特殊車両ですね。キサラギの企業イメージにおいても、重要なものかと》
「先払い報酬まで出すあたり、キサラギは相当焦ってるな。しかも、採掘所でもナイアーブリッジでも邪魔した俺に対してだ」
《依頼の特殊性から、既に何人かのレイヴンに断られているそうです。どうしますか?》
「……やる。敵対はしたが別にキサラギに恨みがあるわけじゃないし、こういう変わった依頼も経験しておくべきだ。レイン、すぐに輸送機の手配を頼む」
《了解しました。……ただの護衛で終わるといいですが》
「どうだかな」
………
……
…
《ルートA-24の封鎖を解除!アレグロはもうじきここに来る!レイヴン、よろしく頼むぞ!》
「了解だ」
ブースタを吹かし、ソラの黒いAC"ストレイクロウ"が合流口から基幹高速道路へと躍り出る。
肩部レーダーが、複数の反応を捉えて捕捉した。
反応表示にサイズを反映するよう設定すると、巨大な光点が1つ、左右と後方を囲む小さな光点が3つ。
やがて高速道路の振動が地震のように振動し、ACのコクピットまで伝わってきた。
緩やかなカーブから、護衛目標の車両が顔を出した。
ACよりも確実に背が高い。
並走している四脚型MT"クアドルペッド"がまるで子どものように見える。
キサラギの物流の象徴、超大型輸送車両"アレグロ"だ。
《アレグロと合流。レイヴン、作戦通り先行しましょう。距離を開け過ぎないように》
「分かってる。レイン、アレグロは今時速何㎞だ?」
《時速100㎞です。これ以上は速度を落とせないようです》
時速100㎞か、とソラは独りごちた。
ブースタを新型に変えた今、ストレイクロウは時速330kmは出る。
ブースタを使用せずに走行しても、130㎞は安定する。
動いてさえいれば、アレグロに追いつかれる心配はない。
《れ、レイヴンか!?こちらアレグロだ。よく来てくれた……》
「運転手、爆発物は大丈夫なんだろうな?」
《分からん!本社によれば今の速度で走っていれば問題ないとのことだ。だが、トレーラーを3台も連結している!細かいライン取りはできんから、注意してくれ!》
「ああ。任せろ」
《通信……キサラギのMT部隊長、デルタ1だ。アレグロの周囲にはクアドルペッドが展開する。……レイヴンは前だけに集中しろ》
「了解した」
アレグロとの距離が500になったところで、ソラはACのブースタを吹かせて護衛任務を開始した。
レーダー表示に気を配り、モニターでも道路上に障害物が落ちていないかを確認しつつ先行する。
そして時折ブースタを切りつつ、アレグロとの距離を保ってはその無事を確かめて、再び発進を繰り返していく。
単調な任務だが、緊張感はあった。ACより巨大な車両に、常に追いかけられているのだ。
何か不測の事態が発生しても、対処できる時間や方法は限られている。
「A-24通過、A-25に侵入。アレグロも異状なし。レイン、爆発物処理部隊はどうなってる?」
《現在、ルートA-41地点を走行中です。このまま行けばA-33付近で……!?待ってください、処理部隊から通信です!……所属不明の部隊から攻撃を受けたとのこと!》
「何だって……」
レインの焦った声。ソラの額に、ぶわっと汗が浮いた。
嫌な予感がして、さらにその予感を確信に変える、キサラギの通信が入る。
《レイヴン大変だ!A-26の封鎖が謎のMT部隊に突破された!A-27の合流口も攻撃を受けている!敵が上がってくるぞ、至急排除してくれ!》
「やっぱりこうなるかよ……クソっ!アレグロ!ACは大きく先行する!」
ソラは舌打ちしつつ、オーバードブーストを起動。
コア背面から大型ブースタが露出し、一気に加速する。
高速道路のルートA-25をACが時速700kmで瞬時に駆け抜け、A-26地点へと到達した。
頭部の望遠カメラが、合流口から侵入してきたMT部隊を確かに捉える。
基幹高速道路に入ってきたのは、逆脚MT"エピオルニス"2機だけだった。
はっきり言ってACの敵ではない。だが、問題はこの状況そのものである。
《レイヴン、MTを爆散させないでください!路上に破片が散らばれば、アレグロの走行に支障が出ます!》
「分かってる!なら……!」
ストレイクロウを捕捉したエピオルニス達がガトリングを斉射し始める。
悠長に回避行動を取る余裕などない。アレグロが追いついてきたら、終わりなのだ。
弾幕で機体が揺れるのを気にせず、ソラは素早くコンソールを引き出してキーを叩いた。
FCSのオートロックを切り、マニュアル射撃へと切り替えたのである。
そしてジェネレータのEN残量を確認しつつ、ブースタを吹かして敵に最接近した。
「くらえ…!」
コクピットに照準を合わせ、至近からライフルを撃ち込む。
パイロットが即死し、機体が沈黙した。
もう1機のエピオルニスがそれを見て、後ずさる。
「お前もだ!」
ソラはまたもコクピットのみを撃ち抜き、MTを撃破。
これで道路上には動くことのないMT2機が鎮座した。
《レイヴン、どうするつもりですか?》
「オーバードブーストで、無理やり端に寄せる!」
ストレイクロウを止まったエピオルニスにぶつけ、ソラはオーバードブーストを起動。
爆発的な推力がACもろとも敵機を無理やり道路から押し出し、高速道路の壁面へと乱暴に叩きつけた。
爆発はない。金属片の類も、飛び散ってはいない。
「もう1機も!」
残るMTに対しても、連続してオーバードブースト。
ジェネレータが過熱して悲鳴を上げ、冷却するラジエータが警告音を響かせる。
だがソラの目論見通り、道路に侵入したMTは2機とも道路の端に追いやることに成功した。
「これでいい……レイン、アレグロとMT部隊に通信!」
《分かりました!》
「俺はA-27に向かう!」
ジェネレータとラジエータの復調を待ちつつ、ソラはACを走らせた。
少しでもアレグロが近づいてくる前に、敵機を片づけなければならない。
急げ、急げ、だが焦るなと、心の中で何度も繰り返す。
《レイヴン、A-27の封鎖も突破された!気を付けろ!》
キサラギからの通信。予測済みだった。
またオーバードブーストを起動して、ルートA-26を一気に通過、A-27に入る。
合流口付近に機影。先ほどと同じくエピオルニス。今度は3機だ。
「3機……やるしかねえ!」
オーバードブーストを切り、莫大な慣性で機体を滑らせつつ牽制のライフルを放つ。
当てるわけではなく、あくまで足止めの牽制だ。
合流口付近で敵を仕留めれば、わざわざ端に寄せる必要もない。
だから、このまま撃破すればいいだけだ。
MT達は迎撃のガトリングを撃ってくるも、照準は定まっていない。
「よし、このまま潰して……!?」
ソラは敵機の挙動に違和感を覚えた。
3機の内、迎撃は2機だけ。
残る1機は妙に落ち着いている。銃口をこちらに向けてすらいない。
淡々と合流口から、道路の中央へ向かおうとしていた。
そして、パイロットがコクピットから、飛び降りた――
「やめろっ!!」
オーバードブーストで、不自然な1機に向けて無理やり突っ込む。
ソラは歯を食いしばり、フットペダルを踏み込んで通常ブースタも点火、激烈な加速でMTに体当たりした。
瞬間、ACのメインモニターが閃光に包まれ、コクピットが轟音を立てて激しく揺さぶられる。
APが一瞬で2000近く消し飛び、自爆したMTはぐちゃぐちゃのズタズタになって、その破片を撒き散らした。
――道路の左端に。
《な、なんて奴だ……》
めまい、耳鳴り、視界の明滅。
ジェネレータはチャージング寸前、ラジエータは冷却が追いつかずに熱暴走アラートを出している。
ソラは全身が痛みで軋む感覚をこらえながら、残る2機のMTに向けてACを旋回させた。
まるで逃げるように合流口へと後ずさるエピオルニス達。
数秒遅れて、今さら己の仕事を思い出したとばかりに、ガトリングを撃ち込んできた。
「げほっ……消えてくれ」
ソラはマニュアル照準を敵機のコクピットに向け、ライフルの引き金を引いた。
《A-27の敵機を排除。……レイヴン、大丈夫ですか?》
「口の中切った。それより、少しだけ道路にMTの破片が飛んじまった。アレグロには、車線の右側を通るように伝えてくれ。……あと爆発物処理部隊はどうなった?」
《敵部隊は撃退したようですが、処理班の車両が破壊されたそうです》
「アレグロの爆弾はどうする?」
《それが……緊急事態に備えて随伴させていた、特殊傭兵を向かわせるとのことです》
「特殊傭兵?」
《詳細は不明ですが、予定通りA-33付近まで護衛を継続してください》
やがて、ルートA-27にアレグロが追いついてきた。
ソラは一定の距離を確保しつつ先導を再開した。
もう、敵部隊の襲撃の気配はなかった。
「A-32通過、A-33に入った……あれか?特殊傭兵ってのは」
《あれは……カバルリー?》
ストレイクロウの前方から、白銀色のMTが1機接近してきていた。
プラズマ砲とフロート機構を持つ高機動型MT"カバルリー"だった。
《お疲れ様、レイヴン。後は私の仕事だ。任せてもらって構わないよ》
入った通信は、若い女性の声である。
「……ん、ああ。そのMTでどうするんだ。プラズマで爆弾ごと吹き飛ばすのか?」
《まさか。見物しているといい》
A-32のカーブから、アレグロが姿を見せる。
カバルリーはそのままアレグロへと向かっていき、やがて器用に速度を保ったまま旋回して、並走し始めた。
「ん?……んんっ!?」
ソラは望遠カメラの映像に、頓狂な声をあげた。
カバルリーのコクピットから飛び出したパイロットが、ワイヤーフックを射出してアレグロの巨大トレーラーへと生身で乗り移ったのだ。
《こちらアレグロ。レイヴン、助かった。"デュミナス"が来てくれれば、もう安心だ……》
《通信……MT部隊長、デルタ1だ。レイヴン、護衛はここまででいい。作戦は終了だ。……礼を言う》
「あ、ああ……そうか」
キサラギのMT部隊から通信を受け、ソラはACを道路端に寄せて戦闘モードを解除した。
超大型輸送車両アレグロが四脚型MT部隊に守られ、巨大トレーラーを引きずりながら目の前を通り過ぎていく。
パイロットを失ったカバルリーはオート操縦に切り替わったのか、ある程度進んだ後、その場に停止した。
やがて、レインが帰還用の輸送機をルートA-35付近に寄越すと連絡してきたため、ソラは再びACで高速道路を走った。
「……止まってる。もう爆弾を解除したのか?」
アレグロは道路脇に停車し、先ほどのカバルリーのパイロットと思しき人物が、トレーラーの上で携帯端末を弄っていた。
《レイヴン、輸送機が到着しました。イレギュラーの多い任務でしたが、改めてお疲れ様でした》
「ああ。やっぱりただ護衛して終わりじゃなかったな」
ソラは、長く大きく息を吐いた。
とても厳しい依頼だったが、それだけに達成感がある。
「……特殊傭兵"デュミナス"か。レイヤードは広いな」
頬を擦ると、口内の切れた場所が痛み、鉄分の味が舌に染みた。
………
……
…
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FROM:キサラギ
TITLE:礼状
大した腕だ。
輸送車両"アレグロ"の爆発物は、無事解除された。
道中乱入してきた所属不明部隊は、おそらくクレストの差し金だろう。
奴らの汚いやり口には、我々も手を焼いている。
レイヴンも気を付けてほしい。
力を貸す相手は、慎重に選ぶことだ。
また依頼する。その時は是非、協力してくれ。
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