ARMORED CORE 3 Replay ~ Stray Crow~ 作:神父三号
クレストの依頼を終えた翌朝。
「ふわぁ……眠い。あー……ラジエータをいい加減変えるか。それと頭部……安くてできるだけ高機能な……ん?何見てんだ、チーフ」
「よぉ、おはようさん。いやな、昨日お前さんが片づけた兵器開発工場の報道よ。あれ、トップニュース扱いされとるぞ」
「トップニュース?何でそんな大事に……」
ガレージの備え付け端末を覗き込んでいたメカニックチーフのアンドレイがソラの方を振り返り、手招きしてきた。
モニターに表示されている報道は、クレスト系メディアのものだ。
「ん、なになに……『第二都市区の居住セクション303において、ミラージュの工作部隊が工場を占拠。セクション上空への毒ガス散布により、市民の虐殺を目論んでいたことが発覚した。クレスト本社はレイヴンを派遣し、これを未然に鎮圧。地下都市の秩序を揺るがしかねないミラージュの凶行に、市民たちは戦慄した。クレストは本件を地下都市の秩序保全に関する協定からの逸脱と判断し、管理者に対して……』あー、やっぱりこういう報道になったんだな」
「依頼の詳細は聞いてねえが、どうせ盛ってんだろ?」
「まあな。けどまあ、こんなのどこの企業も毎回やってるしな。どうせミラージュはミラージュで『事実無根の中傷である』とか報道してるだろうし」
「正解だ。ほれ」
アンドレイが端末を操作し、ミラージュ系メディアの報道を見せてくれた。
見出しの一文は『クレスト恒例の自作自演。無辜の市民すら巻き込む、恥知らずな企業体質』である。
その下には、クレスト系工場における凄惨な労働状況の実態が、工場労働者への取材を交えて長々と特集されている。
「やっぱりな……こんなあからさまなポジショントークを毎日読まされてる市民のこと考えろっての」
「わはは、確かに。……だが重要なのは、メディアのトップニュースにお前さんの対応した案件が載ったってことじゃ」
「え?」
アンドレイが普段のお気楽な雰囲気とは違う、少し真面目な表情と声音でソラを見上げてくる。
「お前さんに直接依頼したクレストは当然のこと、ミラージュもキサラギもトップニュース案件に関わったレイヴンの情報を、改めてリサーチしてるはずだ。これからは、ややこしい依頼が今まで以上に舞い込むと思っとった方がええ」
「……レイヴンの有する"影響力"って奴か」
「おう。まあよ、前向きに考えりゃ稼ぎやすくなるってこった」
「簡単に言ってくれるな、チーフ……」
「どの道、これでお前さんはもう名実ともに一端のレイヴンだってことじゃ。気張っていけや」
「……ああ、そうする。精進するさ」
「おうおう、その意気じゃ!いやあ、整備班も鼻が高いのう!将来有望なレイヴンを担いでると思うとよ!」
しわがれた声で笑い出したアンドレイを横目に、ソラは頭をかいた。
まだEランクレイヴンの自分が、企業報道のトップニュースに関わるなんて。
自分が思っているよりも、自分は順調に行き過ぎているのかもしれない。
覚えた感覚は達成感や自己肯定感ではなく、ある種の危機感に近かった。
「……ん?」
再び端末で各報道を読み始めたアンドレイに、背中を向けた時。
ソラの携帯端末に、メールの着信があった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
FROM:管理者
TITLE:アリーナ参加要請
E-5ランカー"ソラ"に、アリーナにおけるオーダーマッチへの参加を要請します。
対戦相手は、E-1ランカー"ツインヘッドW"となります。
勝利報酬:19,000C
参加手続きを専属補佐官に確認し、指定の日時にアリーナ用調整ガレージA-2へ出頭してください。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
………
……
…
《おはようございます、レイヴン。2回目のアリーナ戦ですね……》
「ああ、おはよう。レイン、早速だけど相手の情報を頼む」
《はい。今回の対戦相手は、E-1ランカー"ツインヘッドW"。レイヴン歴は半年ほど。通常の依頼では、同時期にレイヴンとなったE-7ランカー"ツインヘッドB"と協働することが多く、集団戦闘を得意とするレイヴンのようですね。ですが、最近になってアリーナへの参戦回数の増加を申請しており、その結果連勝、少し前まではDランクに在籍していました。ランク入れ替わり戦に破れ、現在はEに降格となっていますが、戦歴の割にアリーナの経験値は高いかと》
「アリーナに力を入れ始めた、新進気鋭か……」
「うむ。積極的に経験を積もうとする若手はこええぞ。実力以上のもんを発揮してくるからな」
《…………。あの、レイヴン?》
レインが通信機の向こうから、訝しげな声をあげる。
ソラの隣の席で、もじゃもじゃの白髭がふんぞり返って腕を組んでいた。
「悪い、言ってなかったな。今回、試しにメカニックチーフのアンドレイにもブリーフィングに参加してもらおうと思う。チーフはACの専門家だ。対AC戦では頼れそうだからな」
《……そうですか。レイヴンがよろしければ、私はそれでも構いませんが》
「よ、オペ子ちゃん。ワシが噂のド有能ベテランチーフのアンドレイじゃ。しかし、えらく美人な声しとるなぁ。直にお会いしたいもんだのう、でへへ……」
「やっぱり出て行ってくれ」
「すまんかった」
《…………はぁ》
レインがため息をつき、"ツインヘッドW"のAC"スクリーミングアニマル"のデータをブリーフィングルームの端末へと送信してきた。
白いカラーリングが眩しい四脚型ACである。
「ふむふむ。武装はパルスライフル、ENシールド、肩に連発式小型ミサイルユニット、そんでイクシードオービット内蔵中量コアか」
「どう見る?チーフ」
「はっきり言うが、あんまり上手なアセンじゃねえな。四脚ってのは安定性や状況対応力は高いが、その分EN消費が激しい脚部じゃ。これでパルスとシールドを併用なんてしたら、イクシードオービットはほぼ使えねえし、機動性にも支障が出るだろうよ」
《機動性に関しては、エクステンションのマルチブースタで補うつもりでは?》
「机上の空論だの、そいつは。この"OX/MB"は緊急加速用として開発されたもんじゃが、自機が今向いてる方向に超短距離しか進めねえ難物だ。有効に扱えるのは、レーザーブレードでの格闘戦を得意とするような、手練れ中の手練れだけよ。要は飾りと思っといていいってこった」
《……なるほど》
「あとあえて言うなら……肩の小型ミサイルユニットじゃな。これがもったいねえ。積載にも余裕がありそうなのに。ワシならキャノンかチェインガンを担ぐわい」
「まとめると、そこまで怖くはないってことか?」
「うーむ、シールド構えてパルスでちまちま消耗戦でもやるんでねえかのう。そこそこACを振り回せる腕があれば、低ランクならそれで十分ってことだな。けどな、オペ子ちゃんが初めに言っていたようにアリーナ戦の経験値はお前さんよりあるだろうから、そこには注意しとくんじゃな」
「経験値……」
ソラは端末上に表示された敵の情報を睨みつけた。
確かに、このランクにしては対戦回数が多い。
自分はこれが2戦目だと言うのに、このツインヘッドWは既に7回も戦っている。
それが、具体的に戦闘にどう影響してくるのか。
経験の少ない自分では、それすらもはっきりとしない。
「ありがとう、チーフ。いいアドバイスだった」
「おう、じゃあワシらは今回もお前さんに賭けるからな。絶対負けるんじゃねえぞ。負けたら3日はACが整備されないと思えや」
「はぁ!?」
「わはは、冗談じゃ冗談。よっこらしょ、そいじゃワシはガレージに戻るからの」
手をひらひらさせながら、アンドレイがブリーフィングルームを出ていった。
気まずい沈黙が、室内に充満する。
《……やはり賭博してるんですね。整備班の方々は》
「えー、あー、あれだ。伝統らしいぜ、自分の担当レイヴンに賭けるのが」
《ええ、先輩オペレーターにもそう聞いています。……そもそもアリーナの勝敗予想は管理者が認めた公営賭博ですので、どうこう言うつもりはありませんが》
「お、おう」
通信機から聞こえてくるレインの声は、今までにない剣呑な雰囲気を纏っていた。
依頼遂行中にも見せない冷ややかな態度が、通信機からじんわりと伝わってくる。
「まあ、ちゃんと勝つから。本社ビルで見物しててくれよ」
《……はい。健闘を祈っています。それと……いつもお疲れ様です、レイヴン。前回のアリーナ後も、大変だったのでは?》
「ははは……試しに1日だけ替わってみるか?なんて」
《お断りします。では、参加手続きをしますので》
通信がぷつっと切られた。
アンドレイをブリーフィングに呼んだのは失敗だったかなと思いながら、ソラは端末に表示された敵ACを軽く人差し指で弾いた。
………
……
…
2日後。
調整用ガレージから搬出されたソラのAC"ストレイクロウ"がアリーナへと入場した。
ゲートの前で、恒例のビー、ビーとうるさい警報音が鳴り始める。
アリーナ開戦の合図である。
「……すー、はー」
ソラは深呼吸で逸る気持ちを抑えつつ、操縦桿を握り直した。
規則正しい警報音が、それでも戦意を昂ぶらせ、心臓の鼓動を早めてくる。
2度目となる対AC戦闘だった。相手のアセンブリは、頭に叩き込んである。
あとは、戦って勝つだけだ。
ビー、ビー。
ビー、ビー。
ビー、ビー。
ビーーーーーーー。
ゲートが開く。
ストレイクロウが黒いボディを躍らせ、アリーナへと突っ込んだ。
向かいのゲートからは、白い四脚型AC。
"ツインヘッドW"の機体"スクリーミングアニマル"だ。
「……!?」
開幕、ソラは意表を突かれて、思わず目を見開く。
事前のデータと、敵の肩武装が違っていた。
瞬時に頭の中でパーツカタログをめくる。覚えがない。
しかし幸か不幸か、それがどういうパーツかは、すぐに分かった。
「両肩ミサイルかっ!」
束になって突っ込んでくるミサイル弾頭。
一瞬の困惑が、回避行動を鈍らせる。
ズズズン、とコクピットが振動し、モニター上のAPが一気に1000近く飛んだ。
ミサイルの爆炎で機体温度が一瞬で上昇し、ラジエータが悲鳴を上げて熱暴走を訴える。
さらに追い撃つように、矢のようなパルス弾頭が間断なく撃ち込まれてきた。
開幕から、劣勢だった。
『アリーナ戦の経験値はお前さんよりあるだろうから、そこには注意しとくんじゃな』
ソラはアンドレイのアドバイスを、今さら噛みしめる。
敵は機体構成を知られていること前提に、調整用ガレージで戦闘直前に肩武装を換装したのだ。
データに頼りきっていた自分への、手痛い先制攻撃だった。
「落ち着け……立て直せ……」
ソラはパルスライフルの射撃を冷静にやり過ごしつつ、ロングレンジライフルを放ち始める。
スクリーミングアニマルが左腕のENシールドを正面に構えた。
余剰ENを常時振り分けることで、コア周辺への被弾を抑える装備だ。
加えてパルス砲の連射。相手の燃費は必然的に大きく悪化し、機動性が低下する。
やはり、ブースタによる移動が目に見えて散発的になった。
ソラはストレイクロウを左右に振り回しながら、肩部ミサイルユニットを起動した。
ロックサイトをあわせ、動きの鈍った相手に多重ロックをかける。
「お返しだ……くらえ!」
4発のミサイルが連続発射され、スクリーミングアニマルへと向かっていく。
相手は弾幕をかわしきれず、うち3発に被弾した。
いくらシールドで守っていても、爆発の衝撃と熱量を完全に消すことはできない。
スクリーミングアニマルは、苛立ったようにマルチブースタを吹かして突進してきた。
彼我の距離が、一気に近づく。
ソラはレーザーブレードを発振して迎え撃つが、相手はさらにマルチブースタを吹かしてすれ違うように回避。
お互いに、背を向ける状況となった。
「何のつもりだ……?」
ブースタで回避運動をしつつも、機体を敵方向に向き直らせようとするソラ。
だが、敵はこちらよりも素早かった。
ストレイクロウが振り向ききる前に、スクリーミングアニマルが再び両肩ミサイルを発射したのだ。
ソラは咄嗟に旋回をやめてフットペダルを踏み込み、ブースタで一気にACを加速させる。
ミサイルがしつこく追尾してきて、2発だけ機体側面に当たった。
「そういうことか……!すげえ!」
アリーナの先達の戦法にソラは思わず声を上げた。
ツインヘッドWは、二脚と四脚の旋回速度の差を利用したのだ。
互いに向き合いすれ違ってから同時に旋回すれば、四脚の方が早い。
そして旋回に勝る分、攻撃再開も早くなり、結果として安全に先手を取れるということになる。
ACの旋回速度などろくに気にしてこなかったソラにとって、相手の取った戦法は衝撃的だった。
だが、同時にそんな巧みな相手に勝ちたいと気持ちが強く、大きくなる。
ソラは敵機へと機体を向き直らせ、再びライフルを放った。
相手がパルスライフルを下ろした。来る。
両肩のミサイルユニットからミサイル4発が束になってストレイクロウへと襲いかかってきた。
ソラは懸命に斜め後ろへと下がりながら、その弾道を見極めようとした。
ミサイルは孤を描いて追ってくる。ならば、とソラは操縦桿をひねった。
瞬間、ACがそれまで機動していた方向と逆に推進し、ミサイル群はその動きを追尾しきれず地面に着弾した。
矢のようなパルス弾の追撃が来る。
ソラは不規則に機体を揺らし、オートロックの偏差射撃を攪乱した。
「よし!」
5発放たれたパルスを4発かわせたことに思わず声をあげ、お返しにライフルを連射する。
ENシールドを構えたままの相手は、パルスを連射した後は満足に機動できない。
徹甲弾が連続でヒットし、確実に敵のAPを削り取っていく。
ついに、スクリーミングアニマルはしびれを切らし、ENシールドを下ろした。
そして再び、こちらへと向かってくる。
距離が詰まりきる前にソラは武装を切り替え、肩ミサイルを2発発射。
直撃。だが、しつこくスクリーミングアニマルは突進してくる。
至近距離。こちらがレーザーブレードを振る前に、相手がマルチブースタを吹かす。
またも白と黒、2機のACが正面からすれ違った。
「その手は食うか!」
ソラは唾を飛ばしながら、機体の姿勢を後ろに倒し、ブースタを吹かした。
ストレイクロウが高速で後退し、こちらに旋回しようとする敵機の横を通り過ぎて、そのバックを取る。
敵は予想外の動きに虚を突かれ、動きを止めた。
撃ち放題だった。
「……っ!」
操縦桿のトリガーを引きしぼり、ライフルをしつこく連射しつつ、接近。
ようやく旋回を始めた敵の肩口に向けて、レーザーブレードで斬りかかった。
橙色のレーザー刃が敵ACに直撃して、大きなダメージを与える。
敵ACがたまらず四脚をばたつかせて跳躍し、空中で旋回しようともがく。
だが、まだ攻められる。ソラはそう判断し、地上からライフルを連射した。
徹甲弾が何発も何発も命中。
スクリーミングアニマルがようやく向き直り、着地して反撃のパルスをばら撒き始める。
回避しつつ下がりながら、今さらソラはモニター上の互いのAP表示を確認した。
ストレイクロウのAP4500、スクリーミングアニマルのAP2500。
異様に集中していたから、気づかなかった。
ソラはダメージレースに、完全に競り勝っていた。
「勝つ……!今回も、これからも!」
独り気炎を上げ、ソラはひたすらにライフルを連射した。
敵ACはENシールドでの防御を再開するが、もう遅い。
確実に、そのAPは0へと近づきつつあった。
苦し紛れに放たれる、ミサイル弾幕。
もう3度も見た。分かっている。
斜め後ろに下がって引きつけつつ、一気に逆方向へ加速する。
ミサイルの束が、虚しく横を通り過ぎた。
パルスの反撃が収まっている間に、ライフルを撃ち込む。
しつこく発射される両肩ミサイル。
しっかりと回避し、反撃でこちらもミサイルを連続発射。
相手はマルチブースタの急加速でやり過ごそうとするもタイミングを見誤り、全弾被弾した。
パルスの矢。オートロックの予測を外すようにランダムに動き回って、そしてライフルを当てる。
敵の残りAP500、400、300、200、100――
ボンッ、ボシュゥゥ……
スクリーミングアニマルが煙を吹き、その場に崩れ落ちる。
そして戦闘終了を告げる、大仰なサイレンの轟音。
ストレイクロウのモニターに、『WIN』の文字が躍った。
「はぁっ、はぁっ……勝った。また、勝ったぞ」
ソラは操縦桿から手を離し、震える拳を握りしめて、コクピットで勝利を噛みしめた。
分かってきた。
ミサイルを上手く回避する方法が。
知ることができた。
旋回速度を駆使する戦い方を。
得る物の大きい勝利に、ソラは額の汗を拭いながら笑みを浮かべるのだった。