ARMORED CORE 3 Replay ~ Stray Crow~ 作:神父三号
ソラがE-1ランクに昇格して2日後。
専用住居に併設されたガレージには、山のようにコンテナが届いていた。
最近の依頼とアリーナ戦の報酬を足し合わせて購入した、新パーツ一式である。
「よぉ、おはようさん……これまた一気に買い込んだもんだのぅ……げぷ」
「やめろってチーフ、酒クセえ。……まさか昨日も飲んでたのか?」
「そーじゃが?そろそろお前さんがパーツ買うだろと思って、どーせ今の外装直してもと思って、んで2日連続パーリィよ……げぷ。まあ、あれよ。整備士には酒、ACにはオイルって言うんだわ」
「……どっかの傭兵と同じようなこと言いやがって。昨日もガレージに来てりゃよかった。頼むから整備中に事故らないでくれよ」
「だいじょーぶだいじょーぶ。げぷ。うっ、ちょっと吐きそう……」
「他の整備班は大丈夫だろうな」
「あー……おい集合しろやぁ~!今日はレイヴン様が直々に点呼取るからのぉ~!……じゃあ、あと頼む、ワシトイレ……!」
「……あーあ」
背を丸めてトイレに走っていったチーフのアンドレイをジト目で見送り、ソラは集まってきた整備班の点呼を代わりに取った。
皆、一昨日のアリーナ戦直後の宴会の酔いはもう抜けきったようだ。
つまり、2日連続でハメを外したのはあの白髭もじゃもじゃの大ベテランだけということだ。
「……誰か、あの爺さんの代わりにチーフやってくれないか?」
整備班は全員、苦笑いして首を横に振るのだった。
………
……
…
十数人の整備班がパーツ入りコンテナを移動させながら忙しく行き交うガレージの中。
コアだけとなったストレイクロウが吊るされたACハンガーの前で、ソラはトイレから無事帰還したアンドレイと話していた。
「ほーん、頭部を多機能の"02-TIE"、腕部をバランスに優れた"11-SOL"、脚部は旋回速度重視の"MX/066"、んでラジエータに高効率の"SA44"か……やっぱりワシの予想通り、コア以外全部変えてきたなぁ」
「ここ最近、緊急の出撃が多くてパーツを買う暇もなかったからな。金も溜まってたし、思いきって目をつけてた奴全部買った。おかげでまた素寒貧だけどな。ま、依頼をこなしていけばいいだけだ」
「ん?そういやぁ、保管してあった"04-YIV"は?」
「え、売ったよ。さっきコンテナ搬入した時に、業者が持ってっただろ」
「何じゃとぉ……!?おのれ、やっぱりあの機能美が分からんかったか」
「いいだろ別に……頭部ならあの皿頭よりこの"TIE"の方がかっこいいし、多機能だし」
「うぅ、可哀想な"YIV"……」
「あと、ジェネレータのオプションパーツに防御スクリーンの対実弾防御効率を向上させる"S-SCR"だ。これで、おおかた初期配備品は卒業だな。あ、ブレードと肩部レーダーはまだ初期装備だけど、これも近い内にアップデートする予定だ」
「むぅ……正直、予想しとったより相当早いぞ。ここまで来るのにもう少し時間がかかると思っとったが……なかなかどうして」
「そうか?結構四苦八苦したし、ここまで長かったけどな。依頼何回もこなして、アリーナもE-1まで来て、それでようやくACも一皮剥けた」
ソラは感慨深く目を細め、自分の愛機を見上げた。
整備班により、まず新しい頭部がコアに接続されようとしている。
昼過ぎには全ての部位の接続とマッチングが終わり、テストに出られる予定だ。
「なぁ、チーフ。やっぱりこれだけ外装変えたらだいぶ操縦感覚変わるかな?」
「いいや。外装が操作性に大きく影響するのは脚部のカテゴリを変更した時くらいよ。同じパーツカテゴリ内で変えたぐらいなら、従来とほぼ同じ感覚で動かせるはずだの。まあ、頭部が多機能型になった分、依頼遂行はだいぶ楽になろうがな」
「そうか。でも、テストに出るのが楽しみだよ。ようやく、自分の思うようなアセンになってきたし」
「うむ……そうかそうか、思うようなアセンに……うむうむ、うーーむ」
アンドレイが目を瞑って腕を組み、何やら唸り始めた。
ソラが見守っていると、その場で首をぐるぐると回し出し、5回転したくらいで制止した。
「じゃがな、若者よ」
「な、何だよ急に改まって」
「お前さん、パーツカタログでスペックとデザイン見て選んだろう?」
「は……はぁ!?……ぅっ!……そ、そうといえばそうだけど」
「ふん、まだまだ甘いわ」
「何が……?」
「足りんのよ、個性という名の切れ味が。こんなのは無難に万能で、どんな状況にでもある程度は対応できる機体になっただけじゃ」
「……いいことじゃねえの?」
「いいことだわな、間違いなく。だが、お前さんは企業のトップニュースに関わり、Eランクの頂点にも立ち、もう一端の有望なレイヴンとなった。それなら、もっとこう……あるじゃろ!?」
ベテランのメカニックチーフは両手をわきわきとさせ、名状し難い表情とポーズを取った。
「ワシが勧めた"YIV"を売り飛ばしたのもそうよな。メカニックの目からみれば、このアセンは量産型極まる最大公約数的アセンよ。武器も外装も内装も、カタログ眺めとれば誰でも思いつくわい。そんなアセンは、そう……面白くない!鴉の嘴のごとき尖ったコンセプトが足りん!!」
「はぁ。じゃあ、チーフが代案出せよ。というか武器のロングレンジライフルはチーフが選んだんだけどな」
ソラは熱弁を振るうアンドレイに、パーツカタログを表示した携帯端末を渡した。
「そうさな。まず頭部は各種センサー及び広範囲レーダー完備の"07-VEN"!コアは最も高い拡張性を誇る"SS/ORCA"!腕部に武器腕バズーカの"DBZ-48"!脚部は戦艦のごとき重フロート"SS/REM"!そして肩にマルチミサイルユニット"MM16/1"と追加弾倉の"AD/20"!インサイドへ移動式ダミー射出装置"DM-30"を格納し、締めはエクステンション多連動ミサイル"CWEM-R20"!!」
「…………」
「フロートの機動性とダミーで敵を攪乱しつつ、ミサイル弾幕と連装バズーカで一方的に圧殺する……どうじゃ?これが玄人のアセンブリよ」
「……そのアセン、金が全然足りねえんだけど」
「えっ?」
「だから、今のパーツ全部売っても無理なんだけど」
沈黙。
「……ふむ。中々ええ機体になったな、ストレイクロウは。まあ、ありじゃないか?」
1回張り倒してやろうかと思ったがソラはぐっと堪え、機体が仕上がるのを住居で待つことにした。
………
……
…
偽物の空の、人工太陽が傾き始めたころ。
ソラは新生したストレイクロウの動作テストを終えた足で、グローバルコーテックス本社ビルを訪れていた。
吹き抜けのロビーは相変わらず無機質で殺風景で、余分なものが何1つない。
壁際で携帯端末を弄りつつ待っていると、見慣れた顔の専属補佐官がこつこつとヒールで床を鳴らしながらやってきた。
「レイヴン、わざわざ足を運んでいただき、ありがとうございます」
「いいよ。テスト場からなら、住居に戻るよりこっちに来た方が早いしな。それで、用件は新しい依頼か?レイン」
「……その件ですが、少しお待ちいただけますか?そろそろ指定時間ですので」
「?」
腕時計を確認するレインにソラが首を傾げた直後、入口の自動ドアが開いた。
少し丈の長いコートを着た少女が、赤いサイドポニーを揺らしてキョロキョロとしながら入ってくる。
一見して若い、いやまだ幼いといってもいい容貌だった。
元学生のアップルボーイと同年代か、さらに歳下かもしれない。
落ち着かない様子の少女に、レインが静かに歩み寄っていく。
「あ……ねえ。管理者の言ってた待ち合わせって、ここでいいわけ?」
「はい。管理番号0916-RA7866号で間違いありませんか?」
「うん、そうだけど」
「身分証の提示と、バイオメトリクスの確認を」
「へ?ああ、身分証ね……ちょっと待ってよ……んと、どこ入れたっけ……あれ?……あった!はい、これ……と、手を出せばいいの?」
「……確認できました。ようこそ、我がグローバルコーテックスへ。……少々お待ちください」
見覚えのあるやり取りを済ませたレインが、遠巻きに眺めていたソラの元へと戻ってくる。
「すいません、レイヴン。今日は急遽適性試験の説明官を兼任することになっていまして。別室で待っていてもらえますか?」
「いいけど、あの子は新しいレイヴン候補か?」
「……ええ。今回の依頼にも関わることですので、話の続きは後ほど」
「ねえ、ちょっと!」
声を抑えて話していたソラとレインの元に、いつの間にか少女が接近していた。
勝気そうだが可愛らしく整った顔立ちが、不満そうに眉をひそめている。
でん、とえらそうに腕を組んだ姿がどうにも背伸びしているようで、少し微笑ましい。
「そっちが呼び出したくせに、ほっといてひそひそ話し込まないでよね」
「……そうですね、失礼しました。では、試験の説明会場へ案内します。レイヴンは、45階の第2ブリーフィングルームへ」
「分かった」
「……レイヴン!?あんたレイヴンなの!?」
目を見開いて急に食いついてくる少女。
「……そうだが」
「じゃあ、"トルーパー"って奴と知り合いだったりしない?Cランクの」
「は?いや、面識ねえけど」
「っ……あっそ。はぁ……説明会場どこ?」
「エレベーターで57階まで上がります」
「分かった、じゃあ行くわよ。ほらほら急いでお姉さん」
「あの、待ってください、エレベーターはそちらでは……!申し訳ありませんレイヴン。また後で……」
なぜかずかずかと見当違いな方向に先行する少女に戸惑いながら、レインはソラに会釈して去っていった。
広いホールには、呆気に取られていたソラがぽつりと残された。
「慌ただしい奴。レインも大変だな……」
ソラは真面目な補佐官の気苦労を慮りながら、自分もエレベーターへと向かった。
そして、45階の第2ブリーフィングルームで待つこと30分。
少し乱れた髪を整えながら、レインが足早に入室してきた。
「すいません、レイヴン。大変お待たせしました」
「大丈夫だ。……さっきの奴、説明中も騒がしかったのか?」
「……ええ、まあ。それよりも、依頼の説明をさせていただきます」
レインが端末を操作すると、部屋の照明が落ち、スクリーンに映像が投影される。
どうやら、どこかの市街地のようだった。
ソラが以前、レイヴン試験を受けた街によく似ていた。
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以前に我がグローバルコーテックスに対してテロ攻撃を行った武装集団の、新たな動きが確認されました。
前回のアリーナ防衛戦によって戦力を全て失い、その活動を停止すると予測されていた彼らですが、どこから資金を得たのか再び武装を整え、コーテックスの活動に対する再攻撃の犯行声明を出しています。
現地の偵察情報によれば、武装勢力は爆撃機とMT部隊によるアダンシティへの侵入を計画し、既に郊外で戦力を集結させています。
同地域では、市街地を攻撃中のテログループ排除を目標としたレイヴン適性試験が本日21時30分から実施される予定であり、彼らの目的はこの試験の妨害にあると推測されます。
我々の威信にかけても、試験の妨害を許すわけにはいきません。
試験が行われる区画へ侵入される前に、爆撃機及びMT部隊を迅速に撃破してください。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
レインが依頼メッセージを読み上げ、スクリーン上の映像を切り替える。
作戦領域となる市街地の詳細な現況写真が表示された。
「作戦区域は第一層第二都市区、セクション307のアダンシティです。成功報酬は18,000C。予測戦力は高機動型MT"カバルリー"が10機前後、戦闘ヘリ多数、戦術爆撃機が1機です。シティへの侵入前にこれらを完全に排除することは時間的に不可能であり、市街地戦になると予想されます」
「さっきの子が受けるレイヴン試験の……妨害阻止か。奴ら、Eランクレイヴンに蹴散らされたからって、今度はレイヴンの卵を狙うなんてな」
「前回のアリーナ防衛戦よりMTの数は減少していますが、その代わりに戦術爆撃機の待機が確認されています。市街地を焦土に変えてでも、試験を強引に中止させるつもりでしょう」
「……レイヴン試験の時間や場所を変更することは?」
「できません。ご存じの通り、レイヴン試験は管理者権限によるレイヤード市民への最上位命令です。武装勢力の妨害で撤回したとあっては、コーテックスだけでなく管理者の威信に関わります」
「今18時すぎか……時間が時間だ。本社から指名を受けた以上、依頼は受ける」
「ありがとうございます。すぐに輸送機の手配をします。試験用の輸送機には、バックアップのレイヴンは同乗できない決まりですので。発進はテスト場前からになりますが、構いませんか?」
「構わない。だが、一応ACのチェックもしたい。動作テストで長時間稼働させた直後だ。整備班のチーフに連絡取って、何人か連れてテスト場のガレージへ出張するように伝えてくれ」
「了解しました」
レインがその場で携帯端末を使い、各部署へ連絡を取り始める。
ソラはそのやりとりを聞きながら、スクリーンに映し出されている市街地を睨みつけていた。
「レイヴン、各手配が終わりました。20時には輸送機にACを載せて出撃が可能です。21時すぎにはアダンシティ周辺に到着できます」
「試験の時間はずらせないんだろ?もし21時30分までに敵勢力が排除できなかった場合、あるいは試験区画に侵入された場合はどうするんだ?」
「試験開始時刻は厳守です。武装勢力の排除が完了しなかった場合についても、予定通り試験開始となります。また、試験区画へのレイヴンの侵入は認められません。区画内に敵の侵入があった場合、対処するのは受験者自身となります。よって、レイヴンは試験開始に先んじて出撃し、少しでも早く事態を収拾してください」
「分かった。準備が整い次第、出撃する。だが……今回の敵には、不可解な点があるな」
「……はい。なぜ管理者が決定した試験場所と開始時間が漏れたのか、ですね。……まさかコーテックス内部に?」
「いや、職員のリークを待ってから戦力を確保してセクション307に向かうなんて現実的じゃない。……試験はコーテックスに出された実際の依頼の遂行を兼ねるものだって話だろ?つまり、今アダンシティで暴れてるテログループは、試験妨害を狙ってる連中と事前に何かしら示し合わせてたんじゃないか」
「テログループの行動が撒き餌だった、ということでしょうか?」
「ああ、だけど……」
ソラは続けようとした言葉を呑み込んだ。
もしそうだとしたら、管理者が最上位命令で行う試験に対して、なぜこんな撒き餌が通用したのかという疑問が出てくるのだ。
犯行声明を出した武装勢力が既に試験場のアダンシティ郊外に集結しているということは、素直に受け取れば管理者を出し抜いて待ち伏せを成功させたということになる。
地下世界の神たる管理者が、この程度で出し抜かれるものなのだろうか。
あるいは、管理者は試験の妨害などまったく気にしていないのだろうか。
レイヴンを動員すれば、容易に解決できる障害だと考えているのか。
それとも、考えたくはないが管理者自身が事前に情報をリークしたのか――
「いや、それはないな……」
管理者が直轄しているグローバルコーテックスの活動を、管理者自身が妨害する理由がない。
さすがに考え過ぎだと、ソラは頭を振った。
「……レイヴン?」
「何でもない。それより敵戦力……カバルリーが10機前後か」
この予測戦力が高機動型MTのカバルリーだという点も、ソラは気になっていた。
カバルリーは普及型でない高級MTに属し、根無し草の武装勢力が容易く数を揃えられるものではない。
この機体を主に運用しているのは、ミラージュのはずだ。
戦術爆撃機も、武装勢力の持ち物としてはあまりに大仰過ぎる代物である。
そしてさらに遡れば、アリーナ防衛戦時の過剰とも言える物量。
「……レイン、このアダンシティはどこの企業の勢力圏だ?それと、テログループ排除の依頼主は?」
「どちらもミラージュですね。…………あっ」
レインが自分の発した言葉に、息を呑んだ。
どうやらソラが考えていることに、レインも思い至ったようだ。
「深読みになるからあえて言わないけどな。だが、俺達が考えつくってことは、コーテックス上層部も管理者も察してるはずだ。この事態を解決した後どうするかは、そいつら次第だろうよ」
「……はい」
ソラは深くため息を吐き、頭をかいた。
武装勢力という存在は、レイヤードでは珍しくない。
その活動目的は単なる下種の凶行から、利権の確保、企業への抗議、カルト団体の暴走まで、実に様々だ。
しかしながら、アリーナ防衛戦でもそうだったが、このコーテックスを目の敵にした武装勢力の動向には何かしら引っかかる点があった。
大きな何かが、密かにうねり始めている。
そう感じずには、いられなかった。
「……まあ、俺がやることは依頼をこなす、それだけだ」
出撃までまだ1時間以上ある。
ソラは手持ち無沙汰に席を立ち、ブリーフィングルームの窓から外を眺めた。
人工太陽が沈んだ偽物の空は、どんより暗く分厚い雲に覆われていた。