ARMORED CORE 3 Replay ~ Stray Crow~   作:神父三号

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モノレール防衛

 

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FROM:レジーナ

TITLE:礼

 

レイヴン試験の時に爆撃機を撃墜したのはあなただと試験官に聞いた。

おかげでレイヴンになれたし、会いたかった奴にも会えた。

ちょっと色々あったけど。

 

とりあえず、礼は言っておく。

ありがとう。

 

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FROM:トルーパー

TITLE:迷惑をかけた

 

あいつから話は聞いた。

まさかあいつがレイヴンになるとは思っていなかったが、なった以上は仕方のないことだ。

 

君には、関係者として礼を言わせてもらいたい。

迷惑をかけたな。依頼かアリーナで会った時は、お手柔らかに頼む。

 

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「2件のメール……"レジーナ"は、あの受験生だよな。それと"トルーパー"……あった、Cランクのこいつか」

 

専用住居のリビングで冷凍食品を口に運びながら、ソラは携帯端末でデータを確認していた。

トルーパー。C-7ランクのレイヴンで、四脚型AC乗りである。

レイヴン歴は5年以上、ベテランと呼んでいい傭兵だった。

開示情報には、個人を特定できるような情報は記載されないため、このトルーパーというレイヴンの事情は分からない。

ロビーでの発言やこの両者の文面からしてレジーナとトルーパーには何かしら繋がりがあるようだが、他人が首を突っ込むべきではないだろう。

新しい同業者が誕生して、Cランクのレイヴンと関わりを持った。

ソラにとっては、それだけのことなのだ。

 

「……ん?」

 

使い終えた食器をシンクで洗ってから、携帯端末にもう1件メールが来ていたことに気付いた。

コーテックス本社からの、注意喚起のメールだった。

 

 

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FROM:グローバルコーテックス

TITLE:レイヴンの紛争抑止について

 

先日、レイヴン2名が直接接触し、口論の末、暴力沙汰に発展したという事案が報告されています。

このセクション301においては、紛争抑止の観点から各住居間は相応の物理的距離を設けており、またレイヴン同士の直接接触にも制限があることを、改めてご承知おきください。

 

なお、本件については、管理者の判断により特別な制裁措置は行いません。

しかしながら、各レイヴンは今一度、専用住居の備え付け端末よりレイヴン活動に関する規約をご確認の上、不必要な紛争を起こさないよう注意してください。

 

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ソラは改めてレジーナとトルーパーのメールを見比べた。

 

「…………まあ、いいか」

 

それ以上この件について考えるのをやめ、ソラはガレージへと脚を運ぶことにした。

 

 

………

……

 

 

《レイヴン、深夜に失礼します》

「ふわ……大丈夫だ。ブリーフィングルームに入る。依頼を確認させてくれ」

《はい》

 

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レイヴン、我々ミラージュから緊急の依頼だ。

 

当社の兵器研究施設が、所属不明部隊の襲撃を受けた。

 

常駐させていた防衛部隊が現在も応戦を続けているが、戦況は芳しくない。

幸い、素早く襲撃を察知できたため、研究者達は施設専用のモノレールで脱出した。

 

ところが、何らかのトラブルにより、施設への電力供給が突然停止し、現在地下線路の途上で車両が立ち往生している。

原因はまったくもって不明で、特に電力供給箇所への攻撃を受けた痕跡もない。

これは管理者のエネルギー調整スケジュールにも含まれていない、通常では考えられない事態だ。

 

復旧を急がせてはいるが、所属不明部隊が防衛線を突破して追撃してくることは十分に考えられる。

直ちに現地に向かい、復旧までモノレールの護衛を頼む。

なお、今回は作戦完遂を万全のものとするため、お前以外に僚機としてレイヴンをもう1名雇用する。

 

研究所は比較的古い施設だが、在籍する研究者達は我が社にとって貴重な知的資産だ。

失えば、かなりの痛手となる。

 

失敗は許されないと思え。

 

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《依頼主はミラージュ社。作戦区域は第三層産業区セクション578、ファルナ研究所。成功報酬は20,000C。ミラージュによれば、敵戦力は重装型MT"スクータム"10機前後と推測されます。研究所の防衛部隊壊滅は時間の問題、とのことです》

「……ミラージュ、ね。結局この前の試験妨害の件は、深く突っ込まないようにしたのか」

《……決定的な証拠はありませんでしたから。それに、コーテックスが三大企業に直接報復措置を取るようなことは、管理者が禁じています》

「いいけどよ。それはともかく、産業区の重要な兵器研究施設なら、それなり以上の防衛部隊がいるだろ?スクータム10機を片づけられないものなのか?」

《分かりません。確かに予測戦力から言えば、レイヴンを2名も雇用する任務ではないようにも思えますが》

 

ソラは腕を組み、シートに背中を預けた。

ミラージュの言う通り、優秀な研究者は企業にとって替えが効かない重要な存在だ。

その安全確保に万全を期するため、レイヴンを複数動員するというのも、理解できなくもない。

だが、その相手が普及型MTのスクータム10機前後とは。

クレストかキサラギが、精鋭部隊でも送り込んできたのだろうか。

 

「ちなみに協働するレイヴンは?」

《……E-4ランカー"ゲド"ですね》

「あの拡散レーザーのACか。……よし、もう二度寝する気分でもない。出撃するぞ、レイン」

《了解です。輸送機の手配をします》

 

ソラは、頭を悩ませるのをやめた。

やると決まったら、やるだけなのだ。

それが、レイヴンであった。

 

 

………

……

 

 

《久しぶりだな、今回もよろしく頼むぞ》

「……ああ、こっちこそ」

 

第三層産業区のセクション578、ミラージュが送信してきたマップデータを頼りに、2機のACが並走していた。

ソラの黒いAC"ストレイクロウ"と、ゲドの赤いAC"ゲルニカ"である。

網の目に張り巡らされた地下線路を右へ左へと曲がりつつ、モノレールが立ち往生している地点まで向かう。

電力供給が止まっているせいで、線路内は真っ暗だった。

ACの投光器のみが頼りで、実に見通しが悪い。

 

《ミラージュより通信です。……研究所の防衛部隊は壊滅した模様。所属不明部隊は全機、モノレールを追ったとのことです》

「こちらストレイクロウ、もうすぐモノレールの停止位置に到着する。レイン、敵部隊の状況は分かるか?」

《……駄目です。周辺の電力供給が止まっていては、こちらのオペレートはACのデータ越しにしか》

「そうか」

《幸い、通信は電力が生きている地区からACにアクセスすることで可能です。できるだけ、やってみます》

「頼んだ、レイン」

 

通常、レイヴンの専属オペレーター達はコーテックス本社ビルの通信室から支援を行う。

現場に来る必要がないのは、管理者がレイヤード全体に張り巡らせた情報送受信ネットワークを、そのままオペレーションに利用できるためだ。

そのため、よほどセキュリティレベルの高い企業の直轄施設等以外では、オペレーターはACのシステム以上の情報把握が可能となる。

しかしそれも、今回のように電力供給が完全に止まっていては不可能だった。

 

《ストレイクロウ、俺のACの頭部は探索特化型装備だ。レーダー範囲もそちらより広い。状況を随時伝えてやる》

「了解だ、ゲルニカ。頼りにさせてもらう」

 

やがて、2機のACは立ち往生しているモノレールを発見した。

 

《れ、レイヴン……か!?》

 

ノイズ交じりに、モノレールの運転手が通信してきた。

極めて通信の音質が悪い。おそらく、備え付けの非常通信装置を使っているのだろう。

 

「そうだ。状況はどれだけ把握している?」

《……防衛部隊からの通信は……途絶した!ミラージュ……本社からの通信も……ダメだ!車内は……一応非常電源が……今どうなってるんだ!?》

《本社が復旧作業中だ。敵部隊は我々が何とかする。お前達が出来ることはない。大人しく待っていろ》

《……!!りょ、了解した》

 

ゲドは運転手に的確な指示を出した。

この状態でモノレール乗組員が出来ることなど、管理者に祈る程度しかないのだ。

あとは、レイヴンの仕事だった。

2機のACはモノレールを戦闘に巻き込まないように出来るだけ離れ、研究所方面からやってくる敵部隊を迎撃できる位置へ展開する。

地下線路内は視界は悪いものの、ACが戦闘できる程度の広さはあった。

MTによる作業を行うことを前提とした設計によるものだ。

こうした余裕を持たせた施設設計は、地下世界レイヤードでは基本である。

 

《……こちらゲルニカ、先行する敵影を2機捕捉。……なんだ、この速さは……?》

「どうした?」

《……スクータムじゃないのか?距離900、来るぞ!!》

 

ゲドが少し焦った声音で、ソラに通信してきた。

遠方から、敵部隊のブースタ音が線路内に反響してくる。

ストレイクロウの頭部望遠カメラが、敵の光りを放つカメラアイを捉えた。

確かに、2機だった。

 

「俺の方が射程が長い!しかけるぞ!」

《了解した!》

 

ソラはフットペダルを踏み込み、ACをゲドより先行させる。

ストレイクロウの肩部レーダー表示にも、敵機の光点が2つ入ってきた。

確かに、速い。

あっという間に、ロングレンジライフルの射程に飛び込んでくる。

 

「なんだ、お前らは!」

 

ソラは唾を飛ばし、トリガーを引いた。

先行する1機に対し、徹甲弾が空を割いて迫り、そして、外れた。

 

「!?」

 

違う、『かわされた』のだ。

そう認識したソラは、ロックサイトの中央にスクータムを捉え直し、ライフルを連射した。

敵はシールドを構えたまま、規則的な動きで細かくジグザグと走行し、少しでも偏差射撃をかわそうとしてくる。

ACの高性能なFCSもこう暗くては、高速で動く敵を完全には捉えきれない。

距離がさらに詰まった。距離300。

スクータムがバズーカを構えた。

 

「ぐっ……しまっ!?」

 

焦りから周囲の状況確認を怠ったソラはブースタを吹かした瞬間、ACが何かに激突したことに気付いた。

地下線路内に無数に乱立するコンクリート柱だ。

敵のバズーカが火を噴く。

それも、3連続で。

 

《3連射!?そんなスクータムが……!》

 

レインが通信機の向こうで声を裏返した。

直撃でAPが一気に1000近く削れている。

だが、ソラは吼えてライフルを連射した。

スクータムは被弾しつつも、無感情に突進してくる。

距離200。100。

 

「くそったれ!!」

 

レーザーブレードを発振し、迎撃する。

シールドを切り裂いた瞬間、またバズーカが発射された。

近すぎて狙いが定まらず着弾は1発、2発が地面を凹ませた。

ソラはもう一度、ACにレーザーブレードを振らせた。

強い手応え。崩れ落ちる重装甲。今度こそ、スクータムを1機撃破した。

息を吐く前に、脇をもう1機が高速ですり抜ける。

 

「ゲルニカ!頼む!」

《おおっ!!》

 

ゲルニカが武器腕から拡散レーザーの嵐を見舞う。

敵MTは一矢報いろうとばかりに一度だけバズーカを3連射し、そのまま穴だらけになって爆散した。

 

「異常な速度に連射機能付きバズーカ?こいつら何なんだ!」

《ACのカメラを分析しましたが、さっきのスクータムは時速300㎞近い速度でした》

 

時速300㎞といえば、ACの機動性とほぼ変わらない。

普及型のスクータムは本来、ブースタを吹かしてもせいぜい時速120㎞が限界だ。

重装型MTとしては、あまりにも現実離れしたスピードだった。

 

「レイン、出来るだけデータを取ってくれ。こんな奴らがワラワラ出てきたら……」

《また来るぞ!今度は3機だ!……さっきと同じ速度!》

「ゲルニカ、前に出よう!あの火力じゃ、1機でもすり抜けられたらモノレールは終わりだ!」

《了解だ!やるぞ!》

 

ストレイクロウとゲルニカがブースタを吹かしてモノレールからさらに距離を取る。

3機のスクータムが、やはり先ほどと同じ高速で暗闇の中を突っ込んできた。

ソラは肩部ミサイルユニットを起動して、多重ロックをかける。

 

「行けっ!」

 

4発のミサイルが先頭のスクータムに噴射炎を輝かせて突進し、そして大爆発した。

 

《敵、速度を落としません!》

 

レインの通信にソラはライフルを構え、FCS頼りに煙へ向けて連射する。

ゲドもまた、拡散レーザーを間断なく発射した。

煙から勢いよく飛び出してきたスクータムが弾幕に呑まれて突っ伏し、ギャリギャリと地面を削って沈黙する。

さらにもう1機、こちらの射撃の隙を突き、煙の中からスクータムが抜け出した。

 

《くっ、リロードが間に合わん!》

 

ゲルニカがコアから中型イクシードオービットを射出してレーザーを吐く。

だが、AC並の速度で走行するMTには、満足に命中しなかった。

ストレイクロウのライフルもそうだ。

当たりはするが、シールドを正面に構えられているせいで致命傷にはならない。

お返しとばかりに、3連バーストのバズーカ弾が撃ち込まれてくる。

ここはコンクリート柱が乱立する地下線路内。

まともな回避行動も取れずに、ストレイクロウは被弾した。

そして2機のACの間を、敵が通り過ぎた。

 

《レイヴン、モノレールの防衛を!》

「分かってる!ゲルニカ!」

《ダメだ、まだ来る!3機!》

「……っ、そっちは頼む!俺は抜けた奴だ!」

 

素早く役割を分担し、ソラは逃がした敵を追った。

速度はほぼこちらと変わらない。これだけ柱があれば、余計に詰め寄ることは難しかった。

こちらがライフルで追撃するが、敵は脇目も振らずに、細かくジグザクと機動しながら進んでいく。

モノレールが、レーダー上に見えてきた。

まずい――ソラの背筋がざわつき、口から悪態が漏れそうになった瞬間だった。

 

「!?」

 

スクータムが、動きを止めた。

バズーカすら下ろし、その場に完全に停止する。

だが、気にする余裕はなかった。

 

「くたばれ!」

 

レーザーブレードで、背中から串刺しにした。

倒れ込み、ボンと煙を吐く敵MT。

 

《ストレイクロウ、早く来い!もうもちそうにない!こいつらめ!》

「……ああ!」

 

ソラは浮かんだ疑問を頭から追いやり、ゲルニカの援護に回った。

最前線では、ゲルニカがMT3機を相手取り、必死に攻撃をやり過ごしていた。

そのスクータム部隊は先行してきた5機の動きとは対照的に、一切突っ込むような動きを見せず、逆にその機動性で大きく機体を左右に揺らしながらバズーカの3連射を繰り返してくる。

ゲルニカの拡散レーザーが有効打となる距離の、ギリギリ外からの集中砲火だった。

 

「待たせた!ゲルニカ下がれ!」

《すまん!》

 

ストレイクロウは前に出て、敵の注意をゲルニカから逸らした。

バズーカの砲弾が大量に飛来する。

この狭く暗い地下線路内で、躱しきることは困難だ。

ソラは何発も被弾しつつ肩部ミサイルユニットを起動するも、速く大きく左右に踊るスクータムを多重ロックすることは容易ではなかった。

 

「こうなったら、やるしかねえ!」

《レイヴン!?どうするつもりですか!》

 

コンクリート柱が正面にないことを確認し、ソラは操縦桿横のレバーを引き上げた。

コアに内蔵された大型ブースタが露出し、甲高いチャージ音を地下線路内に響かせる。

 

「行けぇ!!」

 

オーバードブーストで突撃。敵部隊の中心へ。

急加速でバズーカ弾幕を躱し、目論見通り3機の密集地に飛び込む。

さらに通常のブースタ点火、真ん中のスクータムの至近に取りついた。

左右のスクータムが、ストレイクロウめがけてバズーカを構える。

 

「今だ!」

 

ACを仰け反らせてブースタを強く噴射し、一気に後ろに下がる。

左右の3連発バズーカが一斉に火を噴き、真ん中の1機が粉々に消し飛んだ。

激しい爆風が地下線路内に充満し、その場の全機の視界を一気に奪う。

賭けだった。この異常な高性能機が、センサー類まで高性能でないことに賭けたのだ。

ソラは、賭けに勝った。

左右の動きが、レーダー上で明らかに鈍った。

 

「っしゃぁ!」

 

右のスクータムへとブースタ全開で突っ込む。

圧倒的な反応速度でバズーカが向けられ、機体が着弾で揺さぶられるも、気にしない。

そのまま、レーザーブレードで斬りつけた。

浅い。スクータムは下がる。

しつこく追って、もう一度ブレードを見舞って潰した。

 

「ぐぅっ!?」

 

コクピットが激しく振動し、APが吹っ飛ぶ。

左のスクータムが、仲間の死に何の動揺も見せず冷静にバズーカを撃ち込んできたのだった。

ソラはストレイクロウを柱に隠しつつも、懸命に180度旋回しようとした。

またも、3連バズーカが火を噴く。

そう思われた瞬間。

 

《忘れてもらっては、困る》

 

ゲルニカの拡散レーザーが横合いから突き刺さり、スクータムは膝を折って爆散した。

 

「はぁっ、はぁっ……ゲルニカ、これで8機だ、全部片付いたか?」

《…………いや。もう2機いる。距離900だ》

「……!」

《そんな、まだ……レイヴン……!》

 

ソラは荒れた息を整え、汗まみれの操縦桿を握り直した。

APはもう、1500もない。ゲルニカはそれ以下だろう。

もしも最後の2機が突っ込んで来たら、おそらくソラかゲドのどちらかが、あるいは両方が死ぬ。

死ぬのだ。ここで終わる。

この地下通路の暗闇の中で、本物の空を見ることもなく――

心臓の鼓動が早鐘のようになり、止まらなくなった。

額を流れる汗が、妙に冷たくて気持ち悪い。

逃げるか。たかが企業の依頼で死ぬことはない。逃げたって――

 

《来る。距離850、800、750……》

 

ゲドからの状況報告が淡々と入って、ソラの思考を中断させた。

ソラは覚悟を決めて、暗闇の向こうを見つめた。

それは長い、長すぎるほどに長く感じる時間だった。

やがて、ストレイクロウの肩部レーダーの表示範囲にも、敵は姿を見せた。

だが。

 

《…………え?接近してこない?止まった……?》

 

レインの訝しむ声が、通信機から聞こえた。

スクータムのカメラアイの光は、確かに線路の先に見えている。

だが、敵は距離700から接近してこない。

完全に、止まっていた。

 

《どういう、ことだ?》

「……諦めたのか?」

 

その瞬間だった。

真っ暗だった地下線路内の照明が、一斉に光を取り戻した。

 

《や、やった!レイヴン、電力が回復した!全速でここから離脱する!助かった……!!》

 

モノレールから喜びと安堵の通信が入る。

敵MT2機は、やはり動かないままだった。

 

《レイヴン、モノレー………え、通信……が……レイ……!?》

《おい……うした?なぜこの距離で……なってい……?》

「レイン?ゲルニカ?どうした、通信が……」

 

通信機の感度を調整しつつ、レイヴンはオペレーターと僚機に呼びかけようとして。

 

《……なるほど》

「!?」

 

聞いたことのない声が、通信機から響いた。

男と女の声が重なったような、不気味な声。

 

「誰だ、お前は……?」

《…………いずれ》

 

そして、ストレイクロウの頭部望遠カメラが、前方で2つの爆発を確認した。

同時に2機のACの周囲、そして後方でも爆発が起こった。

 

《通信回復……どうなったのだ?奴らは》

《レイヴン、残存していた2機のMT及び、撃破したMTの残骸が全て自爆しました。木っ端微塵です。これは一体……》

「……いずれ?」

《レイヴン?》

「いや……何でもない。レイン、ミラージュに通信してくれ。作戦はこれで終了でいいかどうか」

《……はい、了解しました》

 

ソラはストレイクロウの戦闘モードを解除して、コクピットの天井を見上げた。

 

「何だったんだ、あいつらは……」

 

ソラの耳には、先ほどの短い通信がこびりついていた。

無機質で、無感情で、しかし確かに男と女の入り混じった声だった。

 

「…………」

 

激戦を終え、達成感と脱力感で茫洋としながら、ソラはコクピットの天井をじっと見つめて、ある記憶を思い出していた。

 

それは幼い頃。

ボロボロのランドセルを背負い、学校に登校した初日のこと。

入学式を終え、数十人の児童が集められた教室の中。

 

 

『皆さんの見ている空は、本物の空ではありません』

 

 

名前も顔も忘れた教師のあの言葉が、不思議と、先ほどの不気味な声で再生された――

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