ARMORED CORE 3 Replay ~ Stray Crow~   作:神父三号

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10万字越えてました。長くて申し訳ありません。
まだまだ続きます。


ガレージにて・2

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FROM:ミラージュ

TITLE:伝達事項

 

レイヴン、ファルナ研究所の職員達は無事回収できた。

礼を言っておく。

 

セクションの総エネルギー量調整に伴う電力供給の停止は珍しいことではないが、それは通常、管理者の厳密なスケジュール管理と事前予告のもとに行われるものであり、今回のケースはあまりに唐突だった。

結局のところ、レイヤードの維持に伴う管理者の判断ということならば止むを得ないとも言える。

しかしながら、結果としてファルナ研究所は全壊、防衛部隊も壊滅した上に、先の所属不明部隊の身元は一切判明していない。

ミラージュの損害は莫大なものとなった。

 

近年のレイヤードの人口増加については、お前も知っているだろう。

エネルギー調整さえも管理者に依存しきっている現状では、今後も膨れ上がっていく地下世界を管理する事は困難を極める。

 

管理者は当然、必要不可欠な存在だ。

だが、今後我々はその存在を有効に活用し、この世界により確かな秩序をもたらさなければならない。

 

レイヴン、お前にも分かっているはずだ。

一体誰が、このレイヤードを真に導いていく存在なのかが。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

………

……

 

 

専用住居に併設されたガレージにて。

 

「どうだ?チーフ」

「……戦闘ログは見たけどよ。にわかには信じられんな……」

 

ACのコクピットから出てきたメカニックチーフのアンドレイが、ソラの前でふうっと息を吐いた。

その額には、大粒の汗が浮かんでいた。

しきりにもじゃもじゃの白髭をしごき、何かを考えるように唸る。

 

「確かに映像の限りじゃ、スクータムが時速300km近く出しとる。見た目には、カスタマイズされてるように見えんのじゃが……」

「ブースタが通常のものと違うんじゃないのか?」

「背面を映した場面は見たが、通常の規格品と同じものにしか見えん。噴射炎の色も同じじゃ。あと、バズーカもな。あれの構造をそのまま使ってバースト射撃すんなら、相当特殊なカートリッジと炸薬を使わんと……」

 

アンドレイはハンガーの通路に膝を下り、指で地面をなぞりながら、ぶつぶつと呟いた。

やはり、かつてはミラージュに勤め、ACにも長年関わっているベテランでさえ、そう容易くは信じられない機体らしい。

 

「ふー。あのMTが何なのか……仮説としてワシが思いつくのは2つ……いや、3つだの」

「仮説でいい。教えてくれ」

「1つ目、企業が既存のスクータムを限界までチューンした説。三大企業はACの私的運用こそ管理者に認められとらんが、パーツの構造を流用することについては許可が出ておる。ACのジェネレータ構造を流用すれば、短時間だがMTのブースタをACの速度域でぶん回すことは不可能ではない、とワシは思う」

「バズーカの3連射もか?」

「うーむ、企業のチューンナップ説の問題はそこだのう。ライフルやパルスならバースト機構を持たせるのは難しくないんじゃが、バズーカみたいな大口径兵器では聞いたことがない……だいたい、そんな技術あったら真っ先にACがその恩恵に預かっとるわい。戦闘兵器技術の大元は、全部管理者なんだからよ」

「…………」

「あと、こんな無茶苦茶な改造したら、間違いなく継戦能力が犠牲になる。だが、こいつらはミラージュの防衛部隊を潰して研究所を破壊した後で、ACと交戦してやがる。これだけ無理な改造したMTが、そんな長丁場に耐えられるとは思えん。……自分で言っといてなんじゃが、企業のチューンナップ説はねえな、うん」

 

アンドレイはそこまで言って、また指で地面をなぞり始めた。

ここまで真面目な表情のチーフを見るのは、ソラも初めてだった。

 

「……2つ目の仮説は?」

「2つ目も企業じゃ。ガワだけスクータムな、新型の超高性能MTが開発された説。まあ、重装型MTとしてはイカれた高機動に連射式バズーカ担いでんだ。中身はスクータムじゃないと考えた方が自然だわな。……じゃが、この説にも問題があって、まずスクータムのガワを使う意味がない。スクータムがあんな高性能じゃないことくらい誰が見ても分かるし、何より重装型MTのフレームでここまで無茶やるなんて非効率じゃ。同じ内装パーツ使っても、フレームごと新造した方が確実に性能が良くなる」

「偽装目的で、スクータムのガワをかぶせてる可能性はあるんじゃないか?」

「まあ、なくはないな。こいつら丁寧に最後自爆して、証拠隠滅してやがるからのう。じゃが、この新型MT開発説にはもっと根本的な問題がある」

「根本的な問題?」

「管理者が許さねえって問題よ。レイヤードにおける最強の機動兵器は、レイヴンのアーマードコア。これは管理者が秩序維持のためにこしらえた不文律の枠組みだ。このスペックの高性能MTを独自に開発・量産するなんてのは、経済戦争のバランスを崩す、逸脱行為に該当するだろうよ。管理者からどんな裁きが下るか分からんわい」

「管理者崇拝のクレストはまずやらない。ミラージュも被害者側。なら……キサラギか?」

「それもどうだろうかの?……アンタ、自分が前奪った採掘所のニュース、追っとるか?」

「?いや……何だよ急に」

 

アンドレイが立ち上がり、自分の携帯端末を操作して、ソラに見せた。

それはかつてソラがミラージュの依頼で制圧した、グラン採掘所関連の報道だった。

採掘所はあの後も、ミラージュとキサラギの間で激しく争奪戦が続いているらしい。

記事によれば、紛争はお互いに高ランクのレイヴンまで雇用する事態にまでなっており、既に数名のレイヴンが死去しているとあった。

 

「ファルナ研究所はワシも知っとる。ミラージュの施設の中では古い方よ。研究者の数は多いが、わざわざリスキーな虎の子の新型で奇襲するほどの価値はないわい。もしキサラギがやるなら、真っ先にこっちのグラン採掘所に投入するろうな。ワシならそうするね。レアメタル鉱脈は、たとえセクションの主導権をいくつか放棄してでも欲しい代物じゃからな」

「……最後の3つ目の仮説は?」

「……………」

 

アンドレイは黙りこくって、俯いた。

言うか言うまいか、迷っているような素振りだった。

ソラは、ベテランのチーフが言葉を切り出すのをじっと待った。

 

「……耳を貸せ。誰かに聞かれるとまずい」

「ん?」

「……3つ目。管理者の差し金」

「……!?」

 

アンドレイはソラにだけ聞こえるよう、声を極めて小さくひそめた。

 

「企業が開発するMTや、ACパーツの基礎設計は、全部管理者が段階的に提供しとる。技術力の向上とレイヤードの勢力の均衡を見つつ、な。言い換えれば、管理者はACやMTのスペックを知り尽くし、その性能をコントロールしとるってことだ」

「……ちょっと待て。つまり、性能を抑えずに作ったスクータム本来のスペックが、あれだってことか?」

「この仮説によればそうなる。木っ端微塵に自爆したのも、企業にその情報を渡さないためと考えれば辻褄が合う。モノレールの逃亡中に電力供給が都合良く遮断されたのも、管理者ならば容易いしの」

「管理者が直接攻撃……ミラージュの古い研究所に何の問題があって……?」

「分からん。それこそミラージュが逸脱行為に該当するような研究をしとったか……まあ、元から管理者の考えることなど、ワシらコーテックス社員すら分からんもんだ」

「…………」

「言っとくが、仮説じゃからな。あくまで仮説じゃ。んで、もっと仮説に仮説を重ねて言えば……」

「?」

「管理者の目的はアンタらレイヴンだった可能性も、なくはない」

「……!?」

「施設は破壊した癖に、肝心の研究者のモノレールを狙う好機は手放した点から考えればな。研究所の襲撃から全部、レイヴンを釣り出すための餌だったって説よ」

 

ソラは、敵MTが自爆する直前の、通信を思い出した。

男と女が入り混じったような、不気味で無感情な声。

 

「チーフ……あのボイスログ」

「ああ、途中でオペ子や僚機と通信できなくなったあれか?あれもよく分からんな……多分電力供給の急激な再開による高密度の電波放射の影響だと思うが」

「いや、それじゃなくてその後の……」

「その後……?通信回復後のやりとりか?オペ子がミラージュへ通信した件か?」

「……いや、何でもない。忘れてくれ」

「?まあ、戦闘記録に何か不備があればオペ子通してコーテックス本社に言うがええわい。管理者がACのログを吸い上げて、一括管理しとるからよ」

「……分析ありがとうよ、チーフ。さすが、大ベテランなだけあるぜ」

「わはは、まあな。……老婆心で言っとくが、終わったことはあまり気にせん方がいいぞ。終わった依頼のことなど、悩んでもしかたないのがレイヴンじゃ。渡り鴉は、前だけ向いて飛んどればええんだ」

「分かってるよ。整備班に休憩するよう言ってくれ。もうすぐ新パーツが届くからな。その前に休憩しよう」

「おう。おーーーーーい、テメエらぁ!!昼休みだぁぁぁ!!茶の用意せぇぇーーーーい!!!」

 

ガレージ中からおう、おうと野太い返事が返ってきた。

アンドレイも汗を拭い、身体を伸ばしてハンガーを下りていく。

午後には、新しく購入したクレスト製のレーザーブレード"LS-2551"が届く予定だった。

武装のマッチングが済めば、そのままテストの予定である。

 

「んー?お前さんは休憩せんのか?」

「……ちょっと、コクピットで調整。やっときたいことがあってさ」

「わかった、根詰めるなよ」

 

ソラはコクピットシートに座り、先日の戦闘のボイスログを再生した。

 

《レイヴン、モノレー………え、通信……が……レイ……!?》

《おい……うした?なぜこの距離で……なってい……?》

《レイン?ゲルニカ?どうした、通信が……》

《通信回復……どうなったのだ?奴らは》

《レイヴン、残存していた2機のMT及び、撃破したMTの残骸が全て自爆しました。木っ端微塵です。これは一体……》

《レイン、ミラージュに通信してくれ。作戦はこれで終了でいいかどうか》

《……はい、了解しました》

 

あの不気味な声は、録音されていなかった。

ソラが確かに聞いたはずの、あの声が。

ボイスログの会話からあの声が、ソラの反応まで含めて、ごく自然に切り取られていた。

何度再生し直しても、それは変わらなかった。

ソラが使用するAC"ストレイクロウ"のコクピットは、ソラ自身を除けばチーフのアンドレイしか触らない。

他にログの編集ができるとすれば、それはACの操縦システムのバックアップ兼マザーコンピュータにあたる――

 

「……管理者?」

 

モノレール護衛で出会った、異常に高性能なMT部隊。

ログから削除された、あの声。

アンドレイの3つの仮説、その3つ目。

 

管理者。

 

ソラは、思わず後ろを振り返った。

ACのコアから引き出されたコクピット、その後方には当然、ガレージの壁しかなかった。

だが。

 

管理者。

地下世界レイヤードの、神。

 

ソラは生まれて初めて、その神の"視線"を感じた気がした。

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