ARMORED CORE 3 Replay ~ Stray Crow~ 作:神父三号
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FROM:レイン・マイヤーズ
TITLE:ユニオンについて
レイヴン、夜分遅くに失礼します。
先日のセクション513での依頼は、お疲れ様でした。
ブラッククロスの通信を傍受した際に出ていた"ユニオン"について、私の方で少しだけ調べました。
どうやら彼らは、『脱管理者』を掲げる非合法な地下組織のようです。
管理者の方針に異を唱える彼らは、クレストによって度重なる弾圧を受けているようですが、どういうわけか常に一定の勢力を保持し続けています。
セクション301への襲撃や、レイヴン試験の妨害を狙ったのもおそらく彼らだと思われます。
その理由はやはり『脱管理者』思想によるものでしょう。
グローバルコーテックスは、管理者直属の組織ですから。
そういえば、あのセクション513は何故、封鎖されたのでしょうか。
数年前の大規模な第三層第一都市区のセクション封鎖ですが、これも私の調べた限りでは、封鎖理由は一律で地殻変動の影響となっていました。
ですが、少なくともレイヴンが立ち入ったセクションは、地殻変動で封鎖されたようには見えませんでした。
しかも、電力供給も生きたまま……あまりにも不可解な状態だったと言わざるを得ません。
ユニオンはあのセクションと、何の関わりがあるのでしょうか。
一体、レイヤードで今、何が起こっているのでしょう?
私は少し、不安に思います。
夜中にすいませんでした。おやすみなさい。
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「真面目だな、レインは……本当に良いオペレーターだ……ありがたい……」
ソラは枕元に携帯端末を置き、眠気に負けそうな瞼を擦って、寝室の暗い天井を見上げた。
あの封鎖済みセクションでの任務から、2日が過ぎた。
レインはこの2日間、独自に調査を続けていたらしい。
確かに、あれは奇妙な依頼だった。
クレストは何かを隠すように、あるいは自分に言い聞かせるように、長い礼状を寄越してきた。
勘繰るな、と暗に語っていたその文面は、逆にソラの中に疑念を産んだ。
セクションの封鎖権限は、管理者の最上位命令だ。
各企業には、決定権も拒否権もありはしない。
封鎖すると管理者が言えば、封鎖しなければならないのである。
だが、封鎖の理由が不明なのは事実だった。
地殻変動で壊滅したという市街地は、現に無傷だったのだから。
もしかしたら、ユニオンもその真相を探りに来ていたのかもしれない。
「ふわぁ……何なんだよ、管理者……お前は一体、何考えてんだ……」
ソラは天井に向かって呟きながら、再び目を閉じた――
………
……
…
翌日。
ガレージでACの調整をしていたソラに対して、通信があった。
《レイヴン、今構いませんか?》
「レインか。ああ、今コクピットで調整中だ。依頼か?」
《はい。クレスト社から、依頼が入っています。自然区のアビア湾での作戦行動のようですが》
「アビア湾?ああ、なんだっけ……金持ち御用達の……けど、フロート脚部持ってないしな……それに、クレストか……」
《……どうしましょうか?》
ソラは携帯端末片手に、コクピットのコンソールを弄りながら唸った。
クレストには、先のセクション513の依頼で少し思うところがあった。
それは嫌悪感や不信感に近い感情である。
もっとも、地下世界ナンバー2の企業の依頼を無碍にできるほど、ソラはまだ上等なレイヴンではない。
ミラージュにも、キサラギにも、同じような感情を抱いたことは当然ある。
しかし。
「悪い。断っておいてくれ。アビア湾での作戦じゃ、状況にあった装備が調達できそうにない」
《……そうですね。分かりました》
「……レイン、迷惑かけてすまん」
《いえ、正しい判断だと思います。では》
レインとの通話が切れ、ソラは大きなため息を吐いた。
「おーどうしたどうした。若いのにハァハァ言ってよぉ」
「クレストと色々あったんだよ、前の依頼で。それよりチーフ、午前のテストでちょっと旋回や姿勢制御の乱れが気になったんだけど」
「ん。前の戦闘で地雷踏んづけてたみてえだから、多分それでバランサーが狂ったんかな。すぐ直る。ワシの端末に、テストデータ送ってくれ」
「おう」
「……まあよぉ。企業にゃ、腹黒いところなんて山ほどあるもんじゃ。クレストに限ったわけじゃなく、な?」
「分かってるよ、チーフ。別に、これからずっとクレストの依頼を蹴る、なんてつもりは毛頭ない。ただ、今回はまだ……少し気持ちの整理がついてない。クレストの依頼を受けて頑張るって気に、どうしてもならねえんだ」
「ほーん。まあ、いいさ。ワシら整備班は、アンタがどんな依頼受けようが、受けなかろうが」
「……そうかよ」
「おっと、いじけんなよ?別に突き放してるわけじゃねえんだぞ。メカニックの心構えって奴だの。ワシらは戦場で命賭けたりなんてしねえ。だから、せめて実際に命賭けるレイヴンのケツくらいは、きっちり支えてやるってな。何があってもよ」
「……はあ、ありがとう」
ベテランメカニックの突然のこそばゆい話に、ソラはどう返していいか分からず、ボソっと礼だけを返した。
「どうじゃ?ワシを少しは見直したか?」
「……そういうこと聞かなかったら、もっと見直してたよ」
「なんでいなんでい。わははは」
相変わらず調子のいい髭もじゃの笑い声に、ソラもつられて笑った。
自分は少なくとも、周囲の人物には恵まれていると、改めて実感した。
ピー。ピー。
「ん?携帯に着信……げ」
「なんだ、またオペ子からか?」
「いいや、スパムメールだよ。……E-9ランカー様からの。どうせ環境保護についてのありがたいお話だ」
「ああ、例のグリーン何たらのな……わはは」
「笑いごとじゃねえよ。せっかくコーテックスに通報してメルマガ爆撃収まってたのに……誰が読むか。削除、と」
ソラがE-9ランカー"ビルバオ"からのメールを削除した直後。
携帯端末に、新たな着信があった。今度はメールではなく、通話。
相手は、レインだった。
《レイヴン、度々すいません》
「どうした?」
《つい先ほどクレストとは別の……団体からの依頼が入りました》
「別の"団体"?企業じゃなくてか?」
《はい。是非レイヴンに、と……》
「……まさか"ユニ……レインが調べた奴らか?」
《いえ、違います。えー、その……とりあえず依頼メッセージを閲覧してほしいとのことですが》
「?ああ、分かった。チーフ、あと頼む」
「おー。そういやさっき届いた入口のパーツコンテナ、ありゃ中身何だ?」
「へ?んん……何だあのコンテナ?……いや、後で確認するよ。先にブリーフィングだ」
珍しく非常に歯切れの悪い、レインの口調。
そして、注文した覚えのないパーツコンテナ。
若干の不安を覚えつつ、ソラは後の調整をアンドレイに任せてブリーフィングルームへ向かった。
………
……
…
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私達"グリーンウィッチ"の所有する輸送機が、アビア湾上空を飛行中にクレストの航空隊から攻撃を受け、撃墜されてしまいました。
輸送機の中には、グリーンウィッチの支援者の方々に関連した積み荷を多数積載していました。
非常に残念なことです。
脱出した乗組員によれば、積み荷のうち重要なものは強固な輸送用カプセルに保管していたらしく、おそらくは無事と思われます。
ですが、これらのカプセルはなんと、アビア湾沿岸の水浄化施設付近を漂流しているようなのです。
この施設はクレストの管轄であり、回収部隊を呼ばれると、カプセルを強奪されてしまいます。
心優しい支援者の方々の貴重品を、企業に奪われるわけにはいきません。
そこで、ソラさんには水浄化施設を襲撃し、カプセルの回収協力をお願いしたく思います。
本作戦にはこの私"ビルバオ"も団体から正式に依頼を受ける形で出撃しますので、ソラさんは施設に配備された敵部隊を排除するだけで構いません。
なお、水浄化施設は環境保護の観点から非常に重要な施設です。
施設自体への攻撃は決してしないよう、お願いします。
ソラさんには是非とも、私達の手配したEN兵器を装備してお越しいただければ幸いです。
お待ちしていますね。
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「…………」
《…………》
「……依頼主は」
《環境保護団体"グリーンウィッチ"ですね》
「この私"ビルバオ"って言ってたが。レイヴンがレイヴンに依頼するのは、確かルール違反じゃないのか?」
《どうやら、あくまで依頼はグリーンウィッチという団体からのものであるということで、コーテックス本社及び管理者は通したようです》
「あ、そう……じゃあ依頼は拒否で……と思ったけど、『私達の手配したEN兵器』って。あの見覚えのないコンテナか」
《資料によれば、レーザーライフル"XCW/90"をレイヴンのガレージに送ったそうですが……》
「あー……あれかよ……」
型番を聞いてソラは思わず、頭を抱えた。
レイヴンになった当初、パーツカタログで『これが欲しい』と思って、よく眺めていたパーツである。
一度はアンドレイに購入を相談したが、ジェネレータの性能不足を理由に見送って以後、買うタイミングを逃していた。
値段も覚えている。59,000Cもする、それなり以上の高額パーツだ。
それがよりによって、バレルダムで一悶着あった連中から送られてくるとは。
《あの……依頼についての補足ですが》
「……おう」
《作戦区域は第一層自然区アビア湾、セクション714のクレスト水浄化施設です。報酬は32,000C。予測戦力は、水上戦闘MTと普及型MT、及び戦闘機となっています》
「報酬はかなりいいけど……レーザーライフルもらっても、そもそも俺のACは水上戦闘できないんだがな」
《それが……水上は協働するE-9ランカー"ビルバオ"のフロートACがカバーするそうです》
「は?あいつこの前レイヴンになったばっかだろ。そんな金がどこに……」
ソラは携帯端末を取り出して、ビルバオの開示情報を確認した。
ビルバオのACのアセンは確かにフロート型で、しかも初期配備品の面影がほぼ見られないほど全面改修されていた。
そう言えばミラージュがバレルダム戦の礼状で、グリーンウィッチという団体は富裕層を取り込んでいると書いていたのを、ソラは思い出した。
レイヴン活動の支援も、相当手厚いようだ。
《レイヴン……あの》
「……やるよ。依頼を受ける。……というか、お高いレーザーライフル貰うだけ貰って、依頼は受けませんってのもできないだろ」
《分かりました。輸送機の手配をします。その輸送機ですが……協働相手のビルバオより、同乗を提案されていますが》
「嫌だ、って言っといてくれ。輸送機は絶対に別だ。レイン、頼むぞ」
《……ええ、お任せください。レイヴン、それではレーザーライフルの装備を忘れないように》
通信機の向こうで、レインが少しだけ笑った気がした。
ソラはといえば、長く大きなため息を吐き、ぐでっと机に突っ伏した。
………
……
…
第一層自然区。
その区画には、かつて地上に存在したらしい自然環境が再現されている。
市民の立ち入りはほぼ認められていない。
ごく一部の富裕層と企業関係者、そして企業に雇われた傭兵だけが、立ち入りを許される区画だった。
ソラ自身、今まで立ち入ったことがあるのは"アヴァロンヒル"と呼ばれる荒野のセクションだけである。
《目標地点に到達。レイヴン、ACを出撃させてください。僚機のAC"グリーンウィッチ"到着までは、そのまま待機を》
「了解」
開いた輸送機の後部ハッチが開いた瞬間、ソラはあまりの眩しさに目を細めた。
メインモニターをまばゆい光が照らしている。
人工太陽が夕方の色合いを帯びながら、アビア湾にその光の束を反射させているのだった。
「……すげえ」
ソラは輸送機からACを降ろすのも忘れ、その光景に目を奪われた。
セクション710系、アビア湾。
それは、管理者によって再現された"海"という地上の自然。
ソラが"海"というものの存在を知ったのは、MT乗りの傭兵を始めて、自然区に入れるようになってからだ。
スクータムに乗ってボロい輸送機の中で揺れながら、先輩傭兵のスパルタンに教わったのだ。
だが、人伝に聞くそれと、今眼下に広がるそれは、まったく違っていた。
「これが"海"なのか」
砂の浜辺があり、岩の岸壁があり、そして遥か彼方まで続く水面があり。
当然、レイヤードに住む誰も本物の海など見たことがない。
これが本当に、"海"の姿を再現できているのかすら誰も分かりはしないのだ。
だがそれでも、それはソラが生まれて初めて目にした"海"だった。
たとえ管理者が作った偽物であっても。
海は、ソラの目の前にあった。
こんな現実味のない世界が本当に、地下世界の外には広がっているというのだろうか。
ならば、本物の空だって、きっと――
《……レイヴン、グリーンウィッチの輸送機が到着しました。出撃を!》
「……え?あ、分かった!……ストレイクロウ、出撃する!」
レインの催促に、ソラは頭を振り、ACを輸送機から発進させた。
近くを飛んでいた別の輸送機からも、緑色のACが降下してきた。
アビア湾の水面に隣接するクレストの水浄化施設まで、距離1000といった地点である。
《こちらビルバオです。ソラさん、よろしくお願いしますね》
「……ああ、よろしく」
僚機のACから通信が入り、ソラは事務的に応じた。
こんな素晴らしい光景が、このひどく個性的な女のおかげで見られたかと思うと、少し複雑な気分だった。
《レイヴン、浄化施設の警備部隊に動きがありました。航空隊が発進。MT部隊も展開を始めています》
「グリーンウィッチ、作戦は?」
《二手に分かれましょう。ソラさんはこのまま正面から警備部隊のお相手を。私は回り込んで、水上で回収部隊の撃破とカプセル回収を担当します》
「了解、あの数なら余裕だ」
《ふふふ、心強いです。あ、そうです。くれぐれも浄化施設自体への攻撃はしないよう、お願いしますね?》
「分かってるよ……じゃあな!」
ソラは通信を切り、先行してきた戦闘機部隊に向けて、レーザーライフルを発射した。
弾速の極めて速いレーザーが一瞬で戦闘機の胴体を焼き貫き、炎上させる。
ロックを切り替え、別の戦闘機にも撃ち込んで、撃墜。
戦闘機部隊はミサイルで反撃してくるも、あまりに素直な軌道のそれはかわすに容易く、ソラは回避行動を取りながら3発目の引き金を引いた。
敵の航空隊はこちらに到達するまでにその半数を失い、少し怯えたかのように機首を逸らして散開する。
ソラは横っ腹を晒す戦闘機達に容赦なくレーザーを見舞って、全機叩き落とした。
「いいな、このレーザーライフル……」
期せずして手に入った念願の武装は、弾速、威力、連射性能全て文句無しだった。
《グリーンウィッチ、海に入ります。ソラさん、そちらは?》
「問題ない。航空隊は片づけた」
《了解です。そのままお願いしますね。……あら、水上MT……あ、カプセルを。すみません、待ってください》
ビルバオのAC"グリーンウィッチ"も、水上で接敵したようだ。
ソラはACのオーバードブーストを起動し、時速700km超で一気に水浄化施設の敷地内へと突っ込んだ。
《レイヴン、エピオルニス8、スクータム6です》
レインから敵数の報告が入る。
普及型MT"エピオルニス"と"スクータム"がそれぞれ、水上で戦闘中のグリーンウィッチを水辺から狙おうと砲を向けていた。
だが、フロートACの高機動故か、あまり戦闘慣れしていないのか、クレストの正規部隊にしては射撃精度が杜撰で、まともに捉えられていない。
その上、背後への警戒も甘かった。
「おいおい、こっちは2機いるんだぞ……俺の方も見ろよな!」
ソラは並んでアビア湾に砲身を向けているMT部隊に、レーザーライフルを連射した。
元々MTは基本的に背面装甲が薄い。
ACの携行兵器レベルのレーザーを背中に受ければ、一発で風穴が空いてしまう。
オーバードブーストでの急接近を考えていなかったのか、MT部隊は今さら慌ててストレイクロウの方へと向き直り始めた。
ソラはその動揺の隙に容赦なく敵機の数を減らしていく。
仕留めやすいエピオルニスにレーザーを浴びせていき、ガトリングをもぎ、逆関節をもぎ、コクピットに致命の一射を撃ち込む。
ガトリングとバズーカの反撃がくるも、やはり射撃精度が甘い。
軽く機体を空中で左右に揺らしつつ、レーザーを撃ち返した。
「ん……レッドゾーンか」
ジェネレータの警告が、ACのコクピットに響く。
フィクサー戦の褒賞で得た高出力ジェネレータでも、さすがにここまでブースタを吹かしながらレーザーを連射すれば悲鳴を上げるらしい。
ぶっつけ本番ということもあり、ソラは一旦攻撃の手を休めた。
だが、もはや敵も残り少ない。
スクータムが3機、残るのみである。
《クソッ、なんでACがわざわざこんなところに……!》
《し、死にたくねえ……!》
クレストMT部隊の弱音を頭部COMが傍受する。
それもそうだろう。水浄化施設は、アビア湾の莫大な水量を浄化してレイヤード市民に供給する、ダムに近い役割の施設である。
バレルダム同様、あまりに市民生活への影響度が高すぎて、企業の経済戦争の戦火を被ってこなかったはずだ。
当然、常駐する部隊の質は最低で、士気もほぼ皆無というわけだ。
こんな場所に攻め込むのは、よほどのアナーキズムの持ち主か、あるいは今のソラの雇い主くらいだろう。
「悪いな、これも依頼だ」
恐怖のあまりバズーカすら向けずに散らばり始めた生き残りのスクータム達を、ソラは無慈悲にレーザーライフルで全機撃破した。
これでもう、水浄化施設は丸裸も同然である。
《こ、こちらはクレスト浄化施設、施設長だ!レイヴン、お前達の要求はな、何だっ!?ここがどれだけ重要な施設だと思って……!》
惨状を見兼ねたのか、浄化施設の管制室がソラのACに通信を繋いできた。
「俺じゃなくて、要求はフロートACの方に聞いてくれ」
《えっ!?》
《ソラさん、カプセル回収完了です。水上MTも全機撃破しました。よかった……これで支援者の皆様に顔向けできます》
「グリーンウィッチ、施設長が話したいってよ」
《まあ……そうですね。少しお詫びと環境についてのお話を……》
ビルバオのフロートACが水上を滑って水浄化施設へと呑気に近づいていく。
ストレイクロウの頭部COMが施設長の裏返った悲鳴を拾った。
ソラはため息を吐き、僚機を放置して近くの岸壁へとACを登らせた。
アビア湾はやはり、美しかった。
静かに揺れる水面を夕暮れの太陽が照らし、きらきらと輝かせている。
MTの破片が大量に浮いているが。
「海、か……いいな。海も」
《……レイヴンは、海を見るのは初めてですか?》
見惚れていたソラに、レインが通信してきた。
「普通そうだろ?超金持ちがお遊びで使うってのは、スパルタンの旦那に聞いたが」
《……そうですね。私も……海は数回しか》
「へ?」
《いえ、何でもありません。……グリーンウィッチはまだ施設と話しているようですが》
「気が済むまでやらせてやれよ。……と思ったけど、クレスト本社の精鋭部隊が来たら面倒だな」
やがて、グリーンウィッチが施設から離れ、ストレイクロウが佇む岸壁のすぐ下までやってきた。
《ソラさん、お待たせしました。輸送機で帰還してください。私は、このままカプセルをセクション715まで持って行きますので》
「715?何でだよ?」
《支援者の方々がちょうどアビアンリゾートにいらっしゃいますので。ACをご覧になりたいと以前からおっしゃられていましたし》
「いや、ACで乗りつけたら大騒ぎになるだろ……まあ、いいか。じゃあ、俺は先に帰還するよ」
《はい!ところで……どうでしたか?EN兵器のレーザーライフルは?》
「……あー、良かったよ。けど、本当にいいのか?これ貰っても」
《ええ。お近づきの印に、とでも思ってください。ふふふ、これからも仲良くしてください、ね?》
「……まあ、考えとく」
ビルバオと通信しながら、ソラは今さら海から何か音が響いているのに気付いた。
ざざん、ざざんと規則的で小さな音を、ACの頭部COMが集音して拾い続けている。
《レイヴン、どうしましたか?》
「……いや。なんださっきから、この音……スピーカーの故障か?」
《ああ、それは……》
《波の音ですね。海では波が音を立てるものなのです。素敵でしょう?》
「波……波がこんな音立てるのか。それって、どんな水の量だよ。贅沢だな……」
ソラは改めて、海の雄大さに驚いた。
20年生きてきても、自然については知らないことばかりだった。
管理者は、この自然区を作った管理者は、一体どれほどのことを知っているのだろうか。
海の波の音はただ聞いているだけで、ソラの胸を高鳴らせた。
「……ビルバオ」
《はい?》
「えーと……レーザーライフル、ありがたく貰うから。それと、海。海見せてくれて……礼を言う」
《うふふ、ええ。ソラさんもこの機会に、もっと環境のことを考えてみてくださいね》
「……まあ、そうだな。少しだけ、な」
ソラは頭をかきながら、ACを旋回させて、海に背を向けた。
それ以上長く見ていると、帰りたくなくなりそうだった。
自然区の"海"は、偽物の空を見上げて孤児院で育ったソラには、あまりにも魅力的だった。
依頼を終えた後、ビルバオのメールマガジン攻撃が、激化して再開された。
最初は真面目に読んでいたソラだったが、やはりコーテックス本社に通報して、やめさせたのだった。