ARMORED CORE 3 Replay ~ Stray Crow~ 作:神父三号
誤字報告をくださっている方々、ありがとうございます。本当に助かります。
誤字が多くて申し訳ありません。
アヴァロンヒルでの戦闘から2日後。
ソラは専用住居のリビングで、知人に連絡を取っていた。
《なるほど……異常な高性能MTねぇ》
「ああ。俺達以外にも見たレイヴンがいた。俺達の時はスクータムで、そいつの時はギボンだ」
《……その2機種なら、怪しいのはミラージュじゃねえのか?》
「分からない。少なくとも、俺がスクータムと戦った時に被害を受けたのはミラージュだった。ギボンの襲撃があったのも、ミラージュとキサラギの交戦中だったって言うし。スパルタンの旦那は、そういう奴らに出会ったことねえか?」
《んー……》
携帯端末の向こうで、傭兵の先輩が低い声で唸る。
スパルタンは今日は素面らしく、ごく真面目な態度で通話に出てくれていた。
《ねえな。少なくとも俺の傭兵生活の中で、そんなブッ飛んだ性能のMTを戦場で見たことはねえ》
「……そうか」
《というか、ACでも苦戦するような代物にMTで出会ってたら、命がいくつあっても足りねえだろ》
「……まあ、言われてみたらそうかも」
《ばっきゃろー、納得してんじゃねえ!もう少し俺の腕を信用して『そんなことないだろ』とか言えねえのか!?》
「そんなことないだろ」
《後出しで言うんじゃねえよ!はぁ……まあ冗談はさておきだな。俺自身は見かけたことないが、実はボウズの話によく似た噂は知ってる》
「噂?」
《おうよ》
端末の向こうで、スパルタンがふぅっと息を吐き、声をひそめた。
《"実働部隊"って言ってな。どこの企業にも属さない、管理者直属の処刑部隊……言っちまえば死神よ》
「……実働部隊。死神……」
ソラはスパルタンの言葉を、舌の上で転がした。
管理者直属という着眼点は、奇しくもメカニックチーフのアンドレイの仮説と同じだった。
《MT乗りの昔からの言い伝えでな。その"実働部隊"は、見た目は普通なのに通常の数倍の性能のACやMTで構成されてるって話でよ。戦場で見かけたら絶対に死ぬっつー、まあ安直な伝説だ》
「……なんだそりゃ。オカルトか?何の謂われがあって」
《謂われは知らん。ボウズみてえに、イカれた性能の機体を誰かが実際に見たのか。あるいは、管理者への畏れの表れみたいなもんか》
「…………」
《だがまあ、この噂はどっちかというと傭兵の戒めに使われる話でよ。色んな企業に節操なくシッポ振ったりしてると、管理者の実働部隊に目をつけられちまうぜってな》
「そんなの、レイヴンはほぼ全員アウトじゃねえか」
《ははは、だな。まあ、だからこいつはあくまで、MT乗りの間の言い伝えだ。元々MT乗り傭兵は、リップハンターみたく1つの企業にだけ味方した方が美味い飯が食えるからな。俺も、あえて言うならクレスト寄りの傭兵だしな》
「そうか……実働部隊……そんな奴らが」
《あー、あんま真に受けるなよ?噂だぞ、単なる。根拠も何もねえんだ。ボウズが見たっていうMT部隊がその実働部隊だなんて断言する気はねえからな》
「分かってるよ。けど、参考になった。じゃあ……」
《……待て、ボウズ。話変わるが、いい機会だ。ちょっと聞いとけ」
「え?」
ソラが通話を終えようとした時、スパルタンが息を吸い込み、ぷはっと吐いた。
どうやら携帯端末の向こうで、煙草を吸っているようだった。
酒、煙草、女。スパルタンは歴戦の傭兵らしい、非常に分かりやすい男である。
《……俺はどうも、最近クレストがピリピリしてるように思う》
「クレストが?」
《ボウズ……"脱管理者"って言葉を、聞いたことあるか?》
「……"ユニオン"のことか?」
《おう、さすがレイヴン様は耳が早いな。……管理者至上主義のクレストはどうも、その勢力をひどく恐れてる。俺も、何度か奴らの拠点への襲撃に駆り出されたけどよ》
「…………」
《まず第一都市区だろ?第二都市区、産業区にも行ったな……とにかく結構回ったし、レイヴンが動員されてるのも見かけた。けど、ユニオンはクレストがどれだけ叩いてもしぶとく生き延びてやがる》
「……規模がデカいってことか?」
《それもあるだろな。なんてったって今の管理者体制はイコール、企業の経済戦争体制だ。管理者はともかく、企業の横暴が嫌いな奴らはごまんといるからな。……だが、クレストがピリついてる本質はそこじゃねえ、と俺は見てる》
「そこじゃねえ?」
《俺が見てきたのはだいたいしょっぱいアジトなんだが、レイヴンも駆り出されるようなそこそこの拠点になるとユニオンの戦力も顔ぶれが変わってな。……ミラージュのカバルリー、キサラギのクアドルペッド。いわゆる市場に出回ってる普及型じゃねえ、各企業固有の高級機だ。こいつらがなぜか出てくる》
ソラはスパルタンの話で、アダンシティでの戦闘を思い出した。
カバルリーと戦術爆撃機を使った、武装勢力のレイヴン試験妨害。
あれもレインの見立てでは、ユニオンの関与があったはずだ。
そして、結局有耶無耶になってそのまま忘れていたが、あの動きにはミラージュの支援があるとソラ自身も感じていた。
「……そういうのは俺にも少し、覚えがある」
《だろ?きな臭えんだよな……"脱管理者"団体の動きに、企業の影が見え隠れしてるなんてよ。んで、俺みてえな傭兵でも気づくくらいだから、当然、クレスト本社も勘付いてるはずだ》
「だからピリピリしてる、と?」
《ああ。ちょっと前に、第二都市区のセクション302が封鎖になったろ?あれもユニオンのせいだって発表してたしよ。ああいうのもあって、クレストはユニオン撲滅に血眼なんだわ。支社で依頼受ける度にしょっちゅう聞かされるぜ?管理者への冒涜とか、秩序への挑戦とかってよぉ。その内、ボウズにも声がかかるだろうな》
「けど、クレストも……」
《あん?》
ソラはクレストの依頼で訪れた、セクション513のことを思い出していた。
地殻変動で壊滅したはずなのに全くの無傷だった、第一都市区の封鎖済みセクション。
セクション302の封鎖も、本当にユニオンが原因かは怪しいところだ。
だが、その話をクレスト寄り傭兵のスパルタンにするのは、彼にとって不利益になるように思えた。
「……いや、何でもない。ユニオンか。やっぱり、要注意なんだな」
《ああ。"脱管理者"なんて掲げてるくらいだ。ひょっとすると、噂の"実働部隊"もユニオンの処刑に現れるかも、なんてな》
「どうだろうな。ミラージュもキサラギも、見境なく襲われるくらいだぞ?実働部隊ってのは、人間が相手なら何でもいいんじゃないか?……それがたとえ、管理者崇拝のクレストでも」
《知るかよ。というか、お前が見たそのイカレ性能MTが実働部隊だとは、まだ決まってねえからな?オカルト信じて、鵜呑みにすんなよ?》
「分かってるよ。旦那、ありがとな」
《おう。それにしてもよ、ボウズお前……俺に全然依頼まわさねえじゃねえか!!このままじゃレイヴンになれねー!嫌だぜパイソンのアホアホ牛野郎に頭下げ》
「じゃあな旦那、レイヴン目指して頑張れよ」
ソラはスパルタンの長くなりそうだった愚痴を、すっぱりと切った。
一人きりの静かな専用住居のリビングで息を吐き、頭をかく。
管理者の"実働部隊"の噂。
ユニオンの粘り強い活動。
クレストの焦り。
ミラージュやキサラギの暗躍。
頭が、こんがらがりそうだった。
容易に答えの見えない巨大な物が、レイヤードで蠢いている。
それを感じるのは確かである。
あるいは、ともソラは思った。
レイヴンは所詮、傭兵である。
来た依頼をこなすことだけを考えていればいいのではないか。
難しいことを、自分ではどうしようもない大きなことを考える必要など、どこにもないのではないか。
そんな気もしていた。
しかし。
ソラの胸の内でざわめく物は、日増しに大きくなりつつあった。
ピー。ピー。
そんな時である。
手に握りしめたままだった携帯端末が、着信音を響かせた。
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FROM:管理者
TITLE:アリーナ参加要請
D-10ランカー"ソラ"に、アリーナにおけるオーダーマッチへの参加を要請します。
対戦相手は、D-3ランカー"パイソン"となります。
勝利報酬:78,500C(別途褒賞あり)
参加手続きを専属補佐官に確認し、指定の日時にアリーナ用調整ガレージA-1へ出頭してください。
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「……管理者の野郎、俺のこと監視してないだろうな」
ソラはあまりにタイミングのいい管理者からのメールを、じっと睨みつけた。
………
……
…
次のアリーナの対戦相手が決まったことを受け、ソラはレインと戦闘前の打ち合わせをしていた。
いつも通りブリーフィングルームにて、二人だけの作戦会議である。
「急に勝利報酬の額が跳ね上がったな。78,500Cって。レイン、どうなってるんだ?」
《私の個人的な見解ですが、この辺りからレイヴンはいわゆる"ベテラン"がかなり多く混じるようになっていきます。ベテランといってもそれはレイヴン歴が長いということを意味しているのであって、必ずしも依頼遂行率やアリーナの勝率に優れているというわけではありません》
「……つまり?」
《レイヴンとしての成績の向上が、このDランクで頭打ちになるケースが多いということです。アリーナにおける昇格と降格、依頼における成功と失敗のバランスが取れてくる、と言うべきでしょうか。それはつまり、このランク帯であなたのように飛び級気味に昇格するレイヴンが稀であるという意味でもあります。だからこそ、フィクサーのような問題のあるレイヴンが幅を利かせられるのでしょうけど……》
「なるほど。コーテックス側も大幅な昇格をあまり考慮せずに報酬額を決めているから、一気にランクが上がるようなオーダーマッチが組まれるとその分報酬が跳ね上がる、と」
《そういうことですね》
「……管理者に、俺は有望扱いされてるってことだよな?」
《ええ。それは間違いないと思いますよ》
通信機の向こうで、レインが少しだけ嬉しそうに声音を和らげた。
やはり、オペレーターにとっても担当するレイヴンの躍進は嬉しいものなのだろうか。
だが、レインの様子にソラは頬を緩ませながらも少しだけ、引っかかるものを感じていた。
まるで、ソラの動揺を見透かしたように送られてきたオーダーマッチの通知に。
「……レイン、変なこと聞いていいか?」
《はい、何か?》
「オーダーマッチって拒否することは出来るのか?」
《……制度としては可能です。緊急の依頼等を優先するケースもあるでしょうから。ただ、その場合は不戦敗扱いとなり、ランクが通常の敗北より大きく低下します》
「そうか」
《もっともオーダーマッチは基本的に管理者がレイヴンのスケジュールやACの整備状況を考慮して組むものですので、よほどのことがない限り辞退する理由はないと思いますが……何か気になることでも?》
「いや……別に」
《……先日の作戦終了後に、レジーナさんと話していた件ですか?》
レインが声をひそめて、ソラに問うた。
ソラはその問いかけにしばしの沈黙で返し、話題をアリーナ戦に戻すことにした。
「変なこと聞いてすまない。それより、相手の"パイソン"って奴のデータは?」
《……はい、端末に送信します》
備え付け端末に、例の如くレインが見やすく丁寧に編集した対戦相手のデータが送信されてくる。
《D-3ランカー"パイソン"のAC"ガントレット"は非常に堅牢な重量タンク型ACです。外装の構成を型番で調べましたが、カタログスペック上はACでもほぼ最硬クラスの重装甲となっています》
「確かに、見るからに硬そうだ」
《武装は速射型マシンガン、拡散投擲銃、そして両肩の特殊コンテナミサイル。いずれも弾数に乏しいですが、瞬間火力に非常に優れる武装群です。また、過去の対戦を分析したところ、この機体はタンク型ACとしてはかなりオーバードブーストの多用が見られます》
「重装甲に物を言わせてオーバードブーストで肉薄、瞬間火力で一気に削りきるって感じか。今までにないタイプの相手だな……」
《はい。レイヴンはこれまでタンク型ACとの対戦経験がないですから、未知の部分が多い相手になるかと思われます》
「こっちの武装はバズーカだな。ライフルやレーザーライフルで持久戦は無理だろう。けど、厳しい戦いになりそうだ」
ソラは自身のAC"ストレイクロウ"のアセンを思い起こした。
バズーカ、小型ミサイル、連動ミサイルを装備した、汎用型中量ACである。
今なら、かつてメカニックチーフのアンドレイが口にした『最大公約数的なアセン』という評もうなずける。
今回のような極端なコンセプトの敵を相手取る場合、決め手らしい決め手がなく、じり貧の戦闘をせざるをえないのだ。
それはおそらく、相手が重装甲ではなく高機動タイプだったとしても同じことだろう。
やはり現状のストレイクロウは、器用貧乏に近いというべきか。
そろそろ、選択肢を増やすことを考えていくべきかもしれない。
《レイヴン、大丈夫ですか?》
「……大丈夫だ。今はやれることをやるしかない。この勝負に勝てば、報酬もデカいんだ。何としても勝って、金が入ったらその時考えるさ。気合だ、気合」
《はい、頑張ってください。……その、私も応援してますので》
「ああ、本社で見ててくれよ、レイン」
ふと、ソラは思った。
少しずつだが、レインの態度が柔らかくなっている――そんな気がした。
《ですが、勝った後に整備班に乗せられて羽目を外しすぎないように。フィクサー戦後の通信は、あまり褒められたものではありませんでした》
「あ、はい……ごめんなさい」
気のせいかもしれなかった。
ソラは専属オペレーターの冷たい注意にいたたまれず、端末に表示されたパイソンのエンブレムを、二丁拳銃をかっこよく構えた牛をなんとなく見つめた。
………
……
…
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FROM:パイソン
TITLE:待っていた
スパルタンの奴から、お前の話は聞かされている。
対戦を心待ちにしていた。
俺の猛牛のごとき突進を受けてみろ。
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TO:パイソン
TITLE:気になったんだが
なんでエンブレムが牛なのに、レイヴンネームはパイソン(蛇)なんだ?
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FROM:パイソン
TITLE:それは
ちゃんと自分でも気づいている。
だが、管理者がレイヴンネーム変更を許可してくれなかった。
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………
……
…
「じゃあ蛇のエンブレムにすりゃいいのに……」
ソラがアリーナのゲート内で呟いた瞬間。
ビーーーーーーー。
開戦の号砲が鳴り響き、ストレイクロウがブースタ全開で戦場へと突っ込んだ。
敵の赤いタンクAC"ガントレット"の攻め方をじっくり確認――する間もなく、相手はオーバードブーストでこちらへと突っ込んできた。
「いきなりか!」
突進をかわすように右方向へブーストを吹いたその時、ガントレットが肩のコンテナユニットを発射。
コンテナはソラのストレイクロウをかすめた直後、大量のミサイルを一斉にばら撒いた。
ミサイルは好き放題に四散し、ある物はストレイクロウに直撃し、ある物は地面で爆発し、またある物は天井へと向かう、まるで無秩序な弾幕。
それに気を取られたソラめがけ、またも至近距離からガントレットがオーバードブーストで突撃してくる。
2つ目のコンテナを撃ち出した直後、速射マシンガンと拡散投擲銃が火を噴いた。
「くっ……!」
激しくも激しすぎる、パイソンの攻め。
まるで様子見など一切せずに武器を全てぶっぱなし、開幕から全身全霊でしかけてくる。
ソラも負けじと機体を下げながら、バズーカをガントレットに撃った。
だが、大口径砲弾のストッピングパワーをものともしない安定性で、ガントレットは執拗に攻撃してくる。
3つ目のコンテナ射出。また大量のミサイルが発射され、モニターの視界が塞がった瞬間、オーバードブーストの甲高い音。
そして、分厚い弾幕。
既にストレイクロウのAPは5000を切った。
「クソ、がぁっ!」
ソラは迫るガントレットを躱そうと、操縦桿横のレバーに手を伸ばす。
ストレイクロウもオーバードブーストを起動、機体が一気に大推力を得て、突進する猛牛から遠ざかった。
距離を稼いだ直後、ソラは一瞬操縦桿から手を離し、自分のこめかみを軽く殴りつけて、冷静さを取り戻そうとした。
そして考える。敵は4つのコンテナミサイルの内、既に3つを喪失。
オーバードブーストも連打して、機体の内部温度は相当上がっているはずだ。その証拠にラジエーターが熱暴走したようで、APがじわじわと減っている。
開幕からの大攻勢には驚かされたが、まだ立て直しは利く。
距離は450開いた。ここから、取り返せばいい。
「……よし!ここからだ!」
ソラは気合と共にバズーカを放った。
それほど弾速のない大口径砲弾でも、敵のタンクACはかわせず被弾する。
重装甲の代償で、俊敏性を大幅に犠牲にしているのだ。
それを補うためのオーバードブーストも、連続使用がたたれば次の起動まで大きなタイムラグが生まれる。
攻め時だった。
ソラは肩部ミサイルユニットを起こし、のろのろと向かってくるガントレットを多重ロックして、連動ミサイルもろともに弾幕を張った。
コアの迎撃レーザーに2発撃ち落とされたが残りは全弾命中し、一気に800近いAPを奪った。
さらに追撃のバズーカを連射する。
敵の残りAPが8000にまで減った。
「結構しかけたぞ……まだ8000かよ、化物タンク!」
ソラは敵の硬さに文句を垂れながらも、堅実にAPを奪っていく。
そして、赤い猛牛が再び動いた。
被弾しながらも、オーバードブーストを起動。また一直線に突っ込んでくる。
さらに4つ目、最後のコンテナユニットを射出。
その手はもう食うか、とソラも再びオーバードブーストを使った。
敵ACの直線的突進とミサイルの嵐から離れるようにして、ソラのACが大きく横方向へと大推力で逃げる。
相手は当てが外れたのか、逃げていくストレイクロウに向け、一瞬遅れてマシンガンと投擲銃で追撃してくる。が、もう遅かった。
既に射程距離外に逃れたストレイクロウの防御スクリーンを、減衰しきったマシンガンの豆鉄砲がかすめるも、まったくダメージにはならない。
そして、ソラはお返しのマルチロックミサイルとバズーカを見舞った。
オーバードブーストでENを使い込んだ直後のガントレットは到底かわせず、全ての砲撃に被弾。
こちらの視界と注意を奪うようにバラ撒かれた投擲銃も、やはり射程の外、虚しく地面に落ちて爆発した。
「最初だけだったな……もう手はないだろ!」
ソラはストレイクロウを大回りに動かしつつ、敵の射程距離の外から粘り強く砲撃を加えていく。
タンクACはとにかく硬いが、回避性能は皆無に近かった。
苦し紛れにブースタを吹かして左右に小さく飛び跳ねるのが関の山。それではバズーカとミサイルを十分に躱すことはできない。
そしてやはり何より、機動性。
一定距離を確保するように時速300km越えで機敏に動くストレイクロウに対して、敵のガントレットが一気に距離を詰める手段は、オーバードブーストしかないのだ。
つまり。
「また来る……分かってるぞ、牛さん」
相手のオーバードブーストの突進に合わせて、ソラもオーバードブーストで大きく逃げれば、距離は永遠に縮まらない。
両肩のコンテナミサイルを使いきった今、ガントレットの武装は短射程のマシンガンと投擲銃があるだけ。
その状況でパイソンの出来ることは、やはり大出力ブースタによる突撃のみ。
ソラのやることも、その突撃に合わせて離れるのみ。
いくら最硬の重装甲を誇ろうとも、もう猛牛に打つ手はなかった。
ガントレットが追いかけ、ストレイクロウが逃げては撃つ。
何度も何度も、その同じやり取りが続き、ついに。
ブォーーーーーーー。
サイレン音が、戦闘終了を告げた。
長時間にわたってバズーカとミサイルを受け続けたガントレットは、黒焦げで煙を噴き上げて、力なく項垂れていた。
「はぁ、はぁ……よし、これでD-3だ!」
ソラは額を滴る大粒の汗を手の甲で拭い、ぐっと拳を前に突き上げた。
今までで一番長く、気を張り続けた対AC戦だった。
無駄弾はほとんど撃ってないにもかかわらず、もうバズーカもミサイルも残弾がほぼない。
敵ながら感心してしまうほどの、極端な重装甲に頼った突撃アセン。
こういうACも有りなのかと、ソラはまた貴重な経験を噛みしめるのだった。
………
……
…
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FROM:パイソン
TITLE:負けたよ
大した腕だ。
この先のアリーナでも、頑張れよ。
あと、良ければスパルタンの奴を、また依頼に連れていってやってくれ。
俺も、奴とは若い頃からの腐れ縁だ。
さっきのアリーナ戦を見ていたようで、お前の自慢と俺への嫌味とレイヴンになれない愚痴ばかり言ってくる。
なんとかしてくれ。
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TO:パイソン
TITLE:こちらこそ
いい勝負だった。
あの呑んだくれが迷惑かけてるようで、すまない。
まあ、なんとかできる範囲でなんとかする。多分。
それと、レイヴンネームが変えられないなら、エンブレムを蛇にするんじゃダメなのか。
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FROM:パイソン
TITLE:それは
ダメだ。
俺は猛牛だ。
そういう生き方をするんだ。
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「そうか……でも名前は蛇なのに」
パイソンの、並々ならぬ牛へのこだわり。
その生き様に感じ入りつつ、ソラは携帯端末を片手に、更衣室を出た。
専用住居付きガレージでは既に、整備班がいつもの祝勝の宴会で大盛り上がりしていた。