ARMORED CORE 3 Replay ~ Stray Crow~ 作:神父三号
武器とFCSが変更されたのでまとめて記載しておきます。今回は500マシと投擲銃です。
フレーバー程度ですので、武器以外は一切気にしなくても大丈夫です。
右腕部武装:CWG-MG-500(500発マシンガン)
左腕部武装:KWG-HZL50(投擲銃)
右肩部武装:CRU-A10(初期肩レーダー)
左肩部武装:CWM-S60-10(10連小型ミサイル)
エクステンション:MWEM-R/24(2発発射連動ミサイル)
頭部:CHD-02-TIE
コア:CCM-00-STO
腕部:CAM-11-SOL
脚部:MLM-MX/066
ジェネレーター:MGP-VE905
ラジエーター:RMR-SA44
ブースタ:MBT-OX/E9
FCS:AOX-X/WS-3
オプショナルパーツ:OP-S-SCR(実弾防御上昇)、OP-E/SCR(EN防御上昇)、OP-E/CND(ジェネ容量増設)、OP-L-AXL(ロックオン時間短縮)
空が好きだった。
孤児院にいたあの頃、遊び疲れてふと見上げる空が。
空はいつも曇り空で、太陽が雲の向こうでうっすらと光っていて。
だけど本当にたまに晴れていて、そうしたら太陽は真っ直ぐに見つめられないくらいにまぶしくて。
先生が夕食だから部屋に入れと呼びに来て、泥まみれのボールを抱えて戻る時。
いつも西の空を見ていた。
西に沈む太陽はじんわりと赤くなっていて、それで雲も淡い赤に染まって。
その色が、すごく好きだった。
大人になったら飛行機に乗って、空を飛ぶ仕事をしたいと、先生に話していた記憶がある。
まだ学校にも通ってなかった頃の、何も知らない子供の頃の話だ。
それなのに。
あの日。初めて学校に通ったあの日。
『皆さんの見ている空は、本物の空ではありません』
何か大切な物が、奪われた気がした。
それはきっと、日常とか、将来の夢とか、空への憧れとか、そういうものとは少し違っていて。
もっと大切な、大切な、何か言葉にできないくらい、大切なものだった。
「………………」
「…………」
「……ん」
目が覚めてソラが見上げたのは、いつもの天井だった。
レイヴンになった時に、グローバルコーテックスに貰った専用住居。その寝室の天井だ。
時計を見る。早朝の6時前。
カーテンの隙間から、うっすらと朝の弱い日差しが差し込んでいる。
「また……あの頃の夢か……」
ソラは背中を起こし、指先で目を擦った。
「…………」
ベッドから立ち上がり、カーテンを開く。
東の空に太陽が昇ろうとしている。
今日はいつもの曇り空だ。
地下世界の人工気象システムが作る、偽物の空。
本物の空じゃない、偽物の――
「俺って、やっぱ変なのかな……」
空を見つめている内に、そんな言葉が口からこぼれ出た。
誰にも相談したことのない、悩みだった。
いつまで経っても、"あの日"のことをずっと覚えている。
事あるごとに、思い出してしまう。
それは決して、特別な体験ではない。
このレイヤードに住む誰もが幼い頃に知る、どうしようもない現実。
だがソラはその現実を、大人になった今でもずっと、苦々しく噛みしめていた。
ぐぎゅるるー。
「……空は偽物でも、腹は減る……なんてな。意味わからねえな、ははは……よし!飯だ飯!食ったらガレージ!依頼来ねえかなぁ!」
バシっと両頬をぶっ叩き、わざと大きく声を張りながら、ソラはリビングへと下りていった。
………
……
…
夕暮れ時。
ソラがテスト場で、ACの訓練をしていた時だった。
コクピットから出て、メカニックが渡してきた携帯端末を受け取り、レインと話す。
《テスト中に失礼します、レイヴン》
「いい。クレストの重要な緊急依頼だって?」
《はい、テスト場のブリーフィングルームで話せますか?》
「すぐ行く。……悪い!機体のチェック頼む!多分、そのまま出撃だ!動作に異常はなかったから、簡単なチェックだけでいい!」
ソラは同伴していた数名の整備班に指示を出して、ブリーフィングルームに向かった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
レイヴン、緊急の依頼です。
我が社の中央研究施設であるルグレン研究所が、ミラージュの部隊による襲撃を受けています。
大至急、救援をお願いします。
敵部隊は施設のA棟に侵攻を図ろうと破壊活動を続けています。
こちらも3名のレイヴンを含む、相応の戦力を投入しましたが、信じられないことに圧倒されています。
現状、敵部隊の攻勢はまったく止む気配がありません。
攻撃の手は、おそらくA棟だけにとどまらないでしょう。
残るB棟及びC棟からは重要物資の移送と研究員の退避を急がせていますので、それまでの時間を稼ぐだけで構いません。
敵部隊は極めて強大です。
必ずしも、撃破する必要はありません。
他のレイヴンや我が社のMT部隊と協働し、施設放棄までの時間稼ぎを、よろしくお願いします。
可能な限り、急いでください。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
「…………」
《クレスト社の緊急依頼です。作戦区域は第一層特殊実験区セクション605、ルグレン研究所。報酬は34,000C。確認されている戦力はギボン、カバルリー、スクータム計15機と……AC1機です》
「……敵ACの詳細は?」
《不明です。クレストからは何も情報がありません》
「AC1機とMT15機で、レイヴン3人とクレストのMT部隊を圧倒……?敵は本当に、ミラージュの部隊か……?」
《やはり……以前ファルナ研究所を襲撃した部隊と関係が?》
間違いなくそうだ、とソラの本能が告げていた。
依頼のメッセージを読むだけで、クレストも敵の攻勢に驚愕しているのが分かる。
戦力の数字だけを見れば、どう考えてもクレストの方が優勢になるはずなのだから。
加えて、このAC1機とやらがもし上位ランカーのことならば、事前にそう通達してくるだろう。
それをしないということは――
ソラの額に、汗が滲む。
リスクを考えれば、決して受けるべきでない依頼だ。
あの図抜けた高性能MT達とまたやり合いに行くなど、正気の沙汰ではない。
だが。
「……依頼を受ける。レイン、輸送機の手配をしてくれ。このテスト場から、すぐに発つぞ」
《……いいのですか。これは明らかに……》
「俺は知りたい。こいつらが何なのか。それだけだ」
《……分かりました。直ちに手配します》
「悪いな、いつも」
レインが各手配に動き始める。
ソラは、ファルナ研究所のモノレール防衛戦で自分だけが聞いた、謎の通信を思い出していた。
『いずれ』
いずれ、とは今回のことなのだろうか。
だとしたらやはり、この依頼から逃げるわけにはいかなかった。
自分の早とちりかもしれない。全く無関係で、本当にミラージュの部隊かもしれない。
そんな楽観的な意識は、一切なかった。
何の根拠もない確信に似た予感が、ソラの中にはあった。
あの時の声に、呼ばれていると。
………
……
…
時刻は18時30分。
ストレイクロウを載せた輸送機が、セクション605上空に入った。
《レイヴン、クレストから通信です。研究所内部で防戦中のACの内、D-1ランカーAC"ジョーカー"が撃破されたそうです。残るD-5"ナイトフライヤー"、C-3"マルチボックス"は現在も戦闘中》
「……そうか」
《それと、D-7"エキドナ"ももうすぐ現地入りするとのことです》
「レジーナもか。これでレイヴンを合計5人も投入……とんでもないことになってきたな」
《ルグレン研究所が最重要施設だというのもあるでしょうが、それにしてもこのクレストの焦りようは……》
「奴らも感じてるんだろ。敵部隊が普通じゃないってな」
やがて輸送機のカメラが目標のルグレン研究所を捉えて、ACのコクピットモニターに映像を送ってきた。
極めて敷地面積の広い施設の内、南側の研究施設が火の海に包まれ、夕焼け空に黒い煙を幾筋も噴き上げている。
「よし、そろそろ降りるぞ。ハッチ開放。輸送機は旋回して……」
《待って、捕捉されています!すぐに回避を!!》
レインが叫んだ直後だった。
輸送機のコクピット部分が極太の青白い閃光に包まれて、消滅した。
格納庫でも誘爆が発生し、機体が傾き始める。
「クソッ、待ったなしかよ!この射程距離……どんなMTだ!?」
ソラはACのオーバードブーストを起動。炎上して墜ちていく輸送機から素早く脱出した。
輸送機はルグレン研究所の敷地内に墜落し、大爆発を起こした。
ストレイクロウが研究所の正門前にドスンと着地し、武器のマシンガンと投擲銃を前方に構える。
「こちらレイヴン!ストレイクロウだ!クレストMT部隊聞こえるか?現状を……」
《レイヴン、来ます!カバルリー3!》
施設のコンクリート塀が一瞬で溶け去り、3本の超高出力レーザーがソラのACを掠めた。
ソラが舌打ちする間もなく、フロートMT"カバルリー"3機が消滅した塀を乗り越えてくる。
いずれも一定距離以上に近寄らず、左右に踊るような動き。だが、その速度が尋常じゃない。
薄暮の暗闇に残像が残るほどに、激しく機動している。
FCSがその速度を処理しきれないのか、ロックオン表示が敵の動きについていけていない。
ブリーフィング時の予感は、的中していた。
超高性能MT部隊である。
「こいつら……!」
《レーザーに気を付けてください!明らかにカバルリーの標準装備ではありません!》
「見りゃ分かる……この!」
ソラはブレるロックに構わず、マシンガンと投擲銃を斉射した。
カバルリーは一斉に左右に散らばって躱し、青白く輝くレーザーを撃ち放ってくる。
ソラは機体を大きく退かせながら、3本の閃光を何とか避けた。
今回のストレイクロウは近距離仕様の装備だ。
距離を取らされては不利だが、迂闊に近寄れば輸送機すら一撃で抉り取った攻撃を受けてしまう。
「まだ施設の敷居すら跨いでないんだぞ……こいつらっ!」
ソラは1機だけ孤立したカバルリーにブースタを吹かして突っ込んだ。
カバルリーは素早く横に動くも、距離は取ろうとしない。後ろに研究所の塀があるせいだ。
近寄ると、通常のカバルリーと同じ砲身が、常に帯電して青白く光っているのが分かった。
マシンガンと投擲銃を乱れ撃つ。敵機は弾幕をかわしきれずに被弾しつつ、砲身をACに向けてきた。
モニターを埋め尽くす閃光。
「ぐ、ぅっ……っ……っぶねぇっ!」
敵MTを1機撃破して、ソラは残る2機へと向き直りながら再び距離を取った。
撃破と同時にストレイクロウは、横合いからのレーザーキャノンを回避していた。
直撃したのは、撃破した敵に刺し違える形でもらった1発のみ。
だが、その1発でAPが2000近く削れてしまっている。
MTとしては、異常過ぎる火力だ。
《レイヴン、クレストの部隊と通信ができました。他の敵MTは施設内部に残り9機。ギボン5、スクータム4。レイヴン2名とMT部隊が応戦中。それと敵ACは依然として健在、既にA棟の奥深くに侵入して破壊活動中だそうです》
「分かった。けど……」
ソラは再び左右に激しく踊り始めたカバルリー2機を睨みつけた。
撃破するごとにダメージを貰っていたら、どうしようもない。
何とか手を打たないと――そう考えていた時だった。
カバルリー達の砲身が上空に向き、レーザーを発射。
入れ替わるように飛んできた火球が1機を粉砕した。
《エキドナ到着!待たせたわね、先輩!》
「レジーナか……よし!あと1機だ、挟み撃ちにするぞ」
《すー……了解!》
集中状態に入ったレジーナが、愛機"エキドナ"のブースタを吹かして横に飛ぶ。
ソラもストレイクロウを反対側に動かし、左右からグレネードとマシンガンを見舞って、最後の1機を吹き飛ばした。
《今どうなってるの?》
「後の敵は全部内部だ。AC入れて10機らしい。内部のレイヴン2人と合流するぞ」
《オーケー》
ストレイクロウとエキドナは並んで、ルグレン研究所A棟の内部へと突入していった。
正面ゲートは全壊し、施設の中は至る所が破損、爆裂、漏電しており、惨憺たる有様だった。
《れ、レイヴンか?こちらハート1だ!》
フロアを3つほど進んだ時、黄土色に塗られた逆脚MT"モア"が1機、接近してきた。
脚関節に損傷があるのか、スパークしていて、挙動もぎこちない。
「クレストか。敵は今どこだ?」
《隣のブロックで激しい撃ち合いになってる!状況はかなり悪い!MT部隊は俺以外全滅だ!》
「分かった。いくぞ、エキドナ」
《了解》
そうしてソラのACが隣接フロアのゲートにアクセスし、開いた瞬間。
3連バズーカの大口径砲弾が飛来してきた。
「いきなりかよ!」
《こちらナイトフライヤー!よく来た!もうAPがやばい!すまんが前に出てくれ!》
《ま、マルチボックスだ!気を付けろよ!こいつらただのMTじゃないぞ!》
「知ってるよ!」
《……前みたくグレネードを当てれば!》
四脚AC"ナイトフライヤー"と逆脚AC"マルチボックス"が、ソラ及びレジーナと入れ替わるように後ろに下がる。
前に出たソラ達を、フロア奥に陣取ったスクータム達のカメラアイがじろっと捉え、バズーカを構えてきた。残り3機に減っている。
だが、レーダーにはまだ機影。
「……ギボンは!?」
《天井だ!》
ナイトフライヤーが叫んだ瞬間、スクータム3機が一斉に砲撃、地面に炸裂した爆風を切り裂くように、ギボンが2機上空から降ってきた。
ショットガンをばら撒きながらも、青白いレーザーブレードを発振させている。
ソラは反射的にトリガーを引いた。
投擲銃の榴弾が直撃し、降ってきたギボンを衝撃で押し返すも、敵機はブースタで無理やり距離を詰め、ブレードを振りきった。
APが大きく消し飛ぶ。
マシンガンで反撃。蜂の巣にして、ようやく息の根を止めた。
エキドナも、1機落としたようだった。
続いて降下しようとしてきたギボン達を、ナイトフライヤーのパルスキャノンとマルチボックスのミサイルが咄嗟に追い払う。
ギボンはブースタの異常な滞空能力で、ずっと天井に張りついて隙を伺っている。これで残り2機だ。
「スクータムが隙を作ったら、ってところか?」
《じゃあまず、スクータムをやるべきよ》
《だがあいつら、器用に避けるぞ。ミサイルもかわすかシールドで受けるかで、上手い》
《4機で一斉射撃すればいけるんじゃないか?》
「ッ!また来るぞ」
スクータム部隊のバーストバズーカが火を噴いた。
今度は直撃コース。AC4機はそれぞれ飛び退ったが、マルチボックスが運悪く被弾。その隙を狙い、ギボンがまた天井から一気に突っ込んできた。
《ま、待てっ!》
分厚い高出力ブレードがマルチボックスのコアを斬りつける。
防御スクリーンの限界が来ていたのか、マルチボックスはまるで安価な作業用メカのように容易く両断され、大爆発を起こした。
《逃がさない!》
僚機撃破の衝撃にも狼狽えず、エキドナがグレネードをギボンに見舞って、破壊。
その瞬間、最後のギボンが降下、ショットガンを撃ち込みつつブレードでエキドナを狙ってきた。
「さすかよ!」
ストレイクロウはロックが間に合わず、ほぼマニュアル照準でエキドナに斬りつけた直後のギボンを撃った。
マシンガンと投擲銃の弾幕が、身軽な高機動MTの装甲をぐちゃぐちゃに引き裂き、仕留める。
これでフロア内の敵は残り、スクータムが3機だけだ。
「ストレイクロウ、残りAP4500。そっちは?」
《ナイトフライヤー、AP2000だ》
《エキドナ、AP5500。あたしが一番余裕がある》
「じゃあ、俺とエキドナが仕掛ける。ナイトフライヤーは援護だ」
《……ああ。死ぬなよ!》
「一気に終わらせるぞ!」
ソラとレジーナがフットペダルを強く踏みしめ、フロア奥で待ち構えるスクータム3機に同時に突っ込んだ。
スクータムも一斉にブースタで動き、シールドを突き出して時速300km近い高機動で迫ってくる。
バズーカが構えられ、3点バーストが唸った。
3発当たっても、削れるAPは1000だ。そう考えれば、気が楽になった。
バズーカ砲弾がストレイクロウに直撃した。隣でエキドナがグレネードを撃つ。後ろからパルスキャノンの援護。ソラも両腕の火器を同時にぶっ放した。
シールドごとスクータムが2機爆散。
残り1機が横に滑りながら、執拗にバズーカでソラを狙ってくる。
3点バースト。タイミングを掴み、回避に成功した。
「今だ、やれ!」
3機のACが一斉射撃をしかける。
最後のスクータムも防ぎきれず、木っ端微塵に吹き飛んだ。
「やった、なんとかなったな……」
《ふしゅー……さすが!》
《終わったか、助かったぞ2人とも。マルチボックスは可哀想だったが……》
3人のレイヴンは決着に安堵し、それぞれを労い合った。
あまりの激戦によって、大事なことを忘れて。
《レイヴン、クレストから通信!未確認ACが突如破壊活動を停止!そちらのフロアへ一直線に向かっています!》
「何だと……忘れてた。まだそいつがいたか!」
《ですが、物資の移送と職員の退避は完了済みです!もう施設から脱出して構わないとのことです!》
《どうする?俺は脱出だ。このAPじゃ、AC戦は無理だ》
《あたしも、これ以上はやめとくわ。集中切れちゃったし……ていうかあいつらの親玉って考えたら、相当ヤバそう》
「……決まりだな、脱出しよう」
ソラはモニタ-上部のAP表示を見た。残り3500。
エキドナもナイトフライヤーも満身創痍だ。
未確認ACは気になるが、これ以上の戦闘は難しそうだった。
ソラ達は先ほどくぐってきたゲートに素早く向かい、ロックを解除――できなかった。
「……え?」
《ちょっと、何やってるのよ先輩。早くゲートを……》
「開かない……レイン、ゲートが作動しないぞ!」
《そんなはずは……!?ま、待ってください、すぐクレストに確認を!》
《代わってみろ!俺のACの頭部COMなら……》
ナイトフライヤーが入れ替わりにゲートへアクセスするも、やはり開かなかった。
《レイヴン、クレストより!施設の制御権を喪失!全ゲートがアクセス不能になっています!》
「なんだって……」
《原因を究明するとのことです!もうしばらく……》
《どいて!あたしのグレネードでゲートを吹き飛ばすわ!》
《おい待て!この手の施設のゲートはそれじゃ無理だ!そもそもそれでゲートが歪んだら……!》
その時。
ゲートが開いた。
逆方向の、ゲートが。
けたたましく言い合っていた通信が、静まり返る。
そして通信機から、誰かの息を呑む声が聞こえてきた。
入ってきたのは、見知らぬACだった。
「っ、散開しろ!レイン!データ照会急げ!」
《は、はいっ!》
撃ち込まれたグレネードを、3機のACが咄嗟に躱して散らばった。
《くっ、やるしかないか!》
《こなくそーっ!》
フラジャイルが対ACライフルを、エキドナがイクシードオービットとグレネードを敵AC向けて乱射する。
だが、敵はブースタで空中へと舞い上がり、出鱈目な機動性で砲撃を躱しきった。
オーバードブーストほどではないが、中量機にもかかわらず軽量AC以上の速度が出ている。
しかも、細かく軌道を制御しながら。
ありえない。ソラは戦慄しながらも、傭兵の勘でその着地際を狙い、二丁拳銃の斉射を合わせた。
弾幕は確かに敵を捉えたが、そこはやはりAC。
防御スクリーンが張られているようで、容易く致命打にはならない。
グレネードが、またもストレイクロウめがけて飛来した。
直撃は避けたが発生した爆炎に晒され、機体温度が上昇する。
「撃ちまくれ!3対1だ!火力はこっちが上だ!」
そう叫びながら、ソラはマシンガンも投擲銃もトリガーを引きっぱなしにした。
縦横無尽に空中を駆ける敵機を完全に捉えきることはできない。
だがそれでも、こちらはAC3機での同時射撃だ。少しずつだが攻撃は当たっている。
このまま行けば――そう思った直後だった。
敵が肩のグレネードを下げ、その反対側の見慣れぬ球体ユニットを展開した。
「何を……っ!?」
小さな子機が複数射出され、ナイトフライヤーを囲んでレーザーを連射し始めた。
さらに敵ACはコアのイクシードオービットを展開、これもレーザーを高速で発射し出す。
《待っ、レーザーが……や、やめっ!》
既に虫の息だったナイトフライヤーがその四脚を地面に垂らし、煙をボンっと吹いて力無く崩れた。
それでも、子機とイクシードオービットのレーザー弾幕は止まらない。
凄絶な熱線の嵐を受け、言葉にならない絶叫を通信機から響かせながら、ナイトフライヤーは爆散した。
これで、2対1。
《……敵ACのデータ無し!ですが、さきほどの武装はおそらくオービットの類です!子機が放たれたら、とにかく動き回ってください!》
《ふざけないでよ……!こんなところで、死ねるかってのっ!!》
「エキドナ!無理に突っ込むな!」
激昂したレジーナが、ソラの制止も聞かず敵ACに突っかかっていく。
狙いの定まらないグレネードを撃ち、肩のトリプルロケットを放ち、イクシードオービットで弾幕を張っての激しい攻勢。
敵ACは地上に降りて激しく機体を左右に揺らしながらも、分厚い射撃に何度か被弾した。
しかし、反撃のレーザーライフルが高速で連射され、エキドナを何度も炙り、蝕んでいった。
もう、ソラも突っ込むしかなかった。
雄叫びを上げながら、挟み撃つようにしてマシンガンを撃ちっ放す。
そしてまた、敵ACが飛び上がり、肩の球体ユニットを展開させた。
バシュバシュバシュッと放出される自律子機。その小さな砲口は、エキドナを向いていた。
《やばっ、グレネードが切れ……っ!》
レーザーが乱射され始める。子機だけではない。コアのイクシードオービットからもだ。
レジーナは必死に機体を動かし、オービットの砲撃を躱し続けた。
フロア内をブースタ全開で疾走し、追いかけてくる子機を振り切ろうともがく。
ソラも、少しでも気を逸らそうと横合いから敵機に砲撃を浴びせた。
だが、それでも。
《ダメ、もうエネルギーが……!きゃあああぁっ!!》
レーザーの嵐がついにエキドナを捉えた。
スピーカーから響いた少女の悲鳴が、ソラの耳をつんざく。
エキドナはレーザーを受けながら勢い余ってフロア内の壁に激突し、そのまま動きを停めた。
機体の至る所がスパークし、防御スクリーンが装甲表面で乱れに乱れ、もう次の攻撃で爆発してもおかしくないほどに煙を噴き上げている。
敵ACはそんなズタボロのエキドナの前に着地し、黒いレーザーライフルを向けた。
「待て、やめろっ!!」
ソラは反射的にオーバードブーストを動かし、敵機に横合いからぶつかっていった。
敵ACはストレイクロウの突撃に反応して素早く飛び、マシンガンと投擲銃の乱れ撃ちが空振りに終わる。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
ACとMTの残骸が無数に散らばった、脱出不能のフロアで。
ソラは息を荒げ、肩を上下させながら、敵ACと相対していた。
ナイトフライヤーは爆散。エキドナは戦闘不能。
数の優位は脆くも崩れ、既に動けるのはソラのストレイクロウしかいない。
それも、APは残り3000を切っていた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」
心臓が、口から飛び出そうなほどに高鳴っている。
通信機の向こうで、レインが何かを必死に叫んでいた。
だが、ソラにはもはや自分の荒い息遣いしか聞こえなかった。
その目には、正体不明のAC――いや、ACの皮を被った"何か"しか見えていなかった。
"死"という概念が、人型兵器の形を取っている。
そんな気さえしてしまうほどに、ソラは恐怖していた。
「嫌だ……死にたくない……嫌だ……」
操縦桿を握る腕の震えが、止まらない。
歯がカチカチと鳴り、口から弱音が絶え間なく漏れ出てくる。
そして、敵ACが肩の球体ユニットを、また展開した。
「いや、だ――」
飛んでくる子機。コアから浮かび上がったイクシードオービット。
その全てが、スローに見えた。
死が迫っているからだと、思った。
ここで死ぬのだと、砲口を輝かせる自律砲台を見ながら、思った。
――そして。
ソラの耳が、あの言葉を聞いた。
『皆さんの見ている空は、本物の空ではありません』
今聞こえるはずがない、言葉だった。
『皆さんの見ている空は、本物の空ではありません』
うるさい、何で今さら。もう、死ぬのに。
『皆さんの見ている空は、本物の空ではありません』
うるさい、うるさい。もう終わったんだ。終わるんだ。
『皆さんの見ている空は、本物の空ではありません』
うるさい。もう――だけど。
『本物の空ではありません』
『本物の空ではありません』
『本物の空ではありません』
だけど、俺はまだ、本物の空を――
「あああああああぁあぁっっ!!!」
ソラは唾を撒き散らして吼え猛り、フットペダルを壊れんばかりに踏み抜いた。
オービット兵器のレーザーが絶え間なく、ストレイクロウの頭上をかすめてくる。
敵ACがグレネードランチャーを起こした。砲口が、真っ直ぐ突っ込むソラの脳天を捉えている。
「くそったれええええ!!」
操縦桿横のレバーを力任せに引き上げ、オーバードブースト発動。
時速700km超の猛加速で、敵ACに激突した。
敵機はブースタを吹かして耐えるもずるずると後方に押し込まれていき、やがてフロアの壁に叩きつけられる。
ソラは歯を食いしばり、モニターに映し出される敵ACの頭部を睨みつけた。
そして、両手の操縦桿のトリガーを握りしめた。
ドド、ガガガガガガガッ!!ドンッ、ドドド、ガガガガガガガッ!!
零距離で、両腕のマシンガンと投擲銃が唸りを上げる。
「おおおおおぉぉぉぉっ!!!」
EN容量が、そしてAPがガリガリと擦り減っていく。
ぶつかり合った防御スクリーン同士が激しく干渉し合い、さらに頭上からオービットが乱射されているせいだ。
それでもソラは叫び、フットペダルを踏み込み、トリガーを引き続けるしかなかった。
そうして体当たりしたまま何度も何度もマシンガンが唸り榴弾が爆発し、ついにコクピットにAP限界のアラートが表示されて、モニターが乱れ始めた。
死ぬ。もう死ぬかもしれない。いや、それでも生きる。生きてやる。
絶対にここで、死んでたまるか。
ソラはそう思って、強くそう思って、攻撃をやめなかった。
ずっとずっと、狂ったように叫んでトリガーを引き続け。
――そして。
《レイヴン》
「……え?え……あっ……」
自身を呼んだ声にソラはふと正気に戻って、半分近くブラックアウトしたコクピットモニターを改めて見つめた。
敵ACはいつのまにかぐちゃぐちゃに押し潰れ、穴だらけになって機能を停止していた。
ストレイクロウのオーバードブーストも停止し、コクピット中の計器という計器が、まるでこの世の終わりとばかりにアラートを鳴り響かせている。
操縦桿のトリガーは強く引いたままなのに、もう砲弾は発射されていない。
マシンガンは弾切れし、投擲銃は榴弾を至近で撃ち過ぎたせいでひしゃげて潰れていた。
「勝……った?俺……生きて……さっきの声……」
《……ギー反応!……ヴン下がっ……さい!!》
「え?」
レインの途切れ途切れの声に、通信機をちらと見た瞬間。
《フェーズ1、クリア。フェーズ2へ、移行》
先ほど呼びかけてきた声だった。
それは男と女が入り混じったような、あの無感情な声。
「移行?なん……っ!?」
敵ACの残骸が、ソラの前で光り輝いた。
ソラは咄嗟に、顔面を腕で覆い隠した。
轟音。振動。衝撃。
ストレイクロウは爆発に巻き込まれ、大きく吹き飛んでフロアの床に叩きつけられた。
APがちょうど、0になった――