ARMORED CORE 3 Replay ~ Stray Crow~   作:神父三号

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ゲーム本編ではルグレン研究所で酸に弱いダニを駆除する依頼ですが、シナリオの都合で大幅に改変しています。ご了承ください。


正体不明生物駆除

2週間後。

病院から無事に退院したソラが初めにしたことは、整備班への謝罪と労いだった。

 

「恥ずかしながら2週間、病院でサボってた。皆、心配と迷惑をかけてすまない!俺がボロボロにしたACを直してくれて、本当にありがとう!」

 

整備用ハンガーに固定された、完璧に修理された状態のストレイクロウ。

その足元に呼び集めた十数人の整備班に対して、ソラは大きな声で感謝を伝え、頭を下げた。

パチパチとメカニック達が拍手し、逆にソラへと次々に温かい言葉をかけてくれる。

和やかな雰囲気の中、チーフのアンドレイが前に歩み出てきて、ソラの肩をぽんと叩いた。

 

「どうじゃ。看護師も、美人揃いだったろう?」

「うるせっ」

 

ソラが髭もじゃの爺にツッコミを入れると、ガレージがどっと笑いに包まれた。

 

「ということでチーフ、俺入院で鈍りまくってるから今日の午後には早速テスト場に行ってくるぞ」

「おうおう、行ってこい行ってこい。ワシらの汗と涙で蘇ったACを堪能してこいや」

「ああ。皆、今日からまた忙しくなるからな!よろしく頼む!」

 

おうっ、とメカニック達の野太い声が、威勢よく響き渡った。

 

 

………

……

 

 

 

「んで、どうよ?久々のACの乗り心地は」

「良好。問題なし。さすが、完璧な修理だぜチーフ。ただ、ちょっと俺自身の勘が鈍ってる気はするな」

 

テスト場から戻り、ハンガーでコクピットの微調整をしていたソラにアンドレイが話しかけてきた。

 

「2週間もベッドで寝てたら当然だわな。それに、金も素寒貧だろ?」

「ああ、当分レーザーライフルとブレードでやりくりしようかと。ミサイルぶっ放すのも、控えないとな」

「それがええわな。マシンガンは弾代かかるし、投擲銃もおじゃんで買い直しだしな」

「ははは……本当は新しい脚部買う予定だったのに」

「まあ、命あっての物種と言う奴じゃねえか?んで、話変わるけどよ」

「何だよ?」

 

少し声を低めたアンドレイに、ソラは振り返ってモニターから視線を移した。

白髭が眩しいベテランは、手元の携帯端末に視線を落としていた。

 

「アンタ入院中、報道は見とったか?」

「……ああ。なんか色々起きてるな」

「うむ、今日もこれだ。ほれ、第三層第一都市区で大規模停電。復旧の目途立たず。今度はクレスト管轄のセクションだってよ」

「この前はミラージュ管轄の産業区だったな。管理者のスケジュール外の停電がこんなに頻発するとは」

「困るぞ、都市区の電力供給止まったらよぉ。しかも今回は市街地どころか、お空の人工気象システムや気温管理システムまで逝ったらしい。酸素供給が止まらなかったのは不幸中の幸いじゃが……」

「それでも長引いたら死人が出るぞ。第一都市区はただでさえ貧困層が多いのに」

「しかも1週間前には、また第二都市区のセクション封鎖があったろ?それもクレスト、今回もクレスト。クレストも報われねえな、あれだけ熱心に管理者拝んでるのに」

 

アンドレイの差し出してきた携帯端末の報道を、ソラは見た。

やはり、都市区の大規模停電の詳しい原因は不明なようだ。

だが、セクション封鎖の件と合わせて、クレスト系メディアは盛んに非合法な地下組織の暗躍によるものだと主張していた。

非合法な地下組織、おそらく"ユニオン"のことを指しているに違いない。

入院中だったソラに、コンタクトを取ってきた連中だ。

ユニオンはソラに、ルグレン研究所を襲った部隊が管理者の"実働部隊"だと告げてきた。

そして何らかの"仮説"を検証しているとも。

ここ最近レイヤードで頻発し始めた異常も、彼らは検証しているのだろうか。

 

「この先どうなっちまうんだろうな、レイヤードは」

「……さあな」

「どうするよ?このセクション301も急にバツン、って停電起きたら」

「そうだな。今の内に、電池と毛布と非常食買っとかないとな、あと……発電機とかか?」

「そうさな。しかしまあ、結局ワシらに出来ることなんて決まっとるんだがな」

「出来ること?」

「ACの整備よ。コーテックスの整備班に出来るのは、それだけじゃ。レイヤードがどうなってもな」

「いや、停電起きたら、出来ないだろ」

「かぁ~。分かっとらんなぁ、これだから若いのは。心意気の話をしとるんだ心意気の」

「はぁ……」

「つまりよ……お前さん次第ってことだ」

「何が……?」

「わははははっ!オーイお前らぁ!!ちょっくらコーテックス本社へ買い物に行ってこい!!非常用のもん色々買っとけ~~!!」

 

アンドレイは、いつものしわがれた大笑いで一人盛り上がってハンガーを下りていった。

ソラは要領を得ないベテランの言葉に首を傾げながら、ACの調整に戻るのだった。

 

 

………

……

 

 

翌日の朝。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

レイヴン、前例のない事態だ。

 

現在、我が社が管轄する第二都市区の複数のセクションにおいて、正体不明の生物が大量発生し、市街地を襲撃している。

 

我々としてもこの生物を駆除しようと手を尽くしてはいるが、発生箇所が非常に広範囲に渡っており、侵入経路の封鎖で手いっぱいの状況だ。

これ以上数が増えないとは思うが、市街地内で活動している生物を片づけなければならん。

 

そこで、レイヴンに駆除を頼みたい。

こちらの指定したセクションに向かい、この生物を1匹残らず撃破してくれ。

 

なお、生物とは言うが、どういうわけか奴らは装甲車程度なら貫く威力の熱線を撃ち出してくる。

くれぐれも油断はせず、迅速に対処しろ。

 

失敗は許されないと思え。

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

《依頼主はミラージュ社。作戦区域は第一層第二都市区セクション309、ネリスシティ市街地です。報酬は26,000C。敵不明生物は、100匹近くを市街地に確認しているとのことでした》

「さっき報道で見たばっかだ。デカい蜘蛛みたいな化物だったな。レイン、現場はどうなってるんだ?」

《不明生物が確認されたのは、セクション305から309までです。市民の避難は現在も継続中……ですが急激な大量発生だったために、多数の被害が出ています。発生源は不明ですが、おそらくセクション地下に張り巡らされた下水道を通って侵入してきているらしく、ミラージュの部隊はそちらへの対処に追われています。市街地の駆除は、他のセクションも全てレイヴンに依頼するみたいですね。かなり大掛かりな駆除作業になるかと》

「クレストかキサラギの仕業って線は……どうなんだろうな」

《……分かりません。ミラージュもメッセージで言っていますが、とにかく前例のない事態です。生物の形態を模した兵器というのであれば、企業の関与はありえますが、もしそうでないとしたら……》

「ああ、企業の仕業ならまだいい。むしろ、自然に発生したケースが一番怖い。なにしろ自然区や下水道は、第二層の環境制御区を通して管理者自身が管理してるはずだからな」

《管理者……そういえば近頃、各セクションで原因不明の停電が相次いでいますが、本件と何か関係が?》

「分からない」

 

ソラもレイン同様、急に頻発し始めたセクションの異常を考えていた。

これも、管理者に原因を辿れる異常だとすれば、企業もただ駆除して一件落着というわけにもいくまい。

 

《レイヴン、ユニオンからあなた宛てに届いたというメールの話ですが……》

「奴らも当然、この正体不明生物のことは調べてるだろうな。なんでも"仮説"を検証しているらしいからな」

《彼らの言う"仮説"とはいったい、何なのでしょうか?それに、"実働部隊"とは……》

「さあな……けど、今はそれより依頼だ、レイン。依頼は受けるぞ。いつも通り、輸送機をガレージに回してくれ」

《分かりました。それと、ミラージュより今回の依頼に関しては、僚機の雇用に予算を構えているそうですが》

「候補者のリストを。……レイヴンは無理か。当然だな、人手が足りないだろうし。じゃあ、僚機はスパルタンだ。手配を」

《了解しました。……駆除して、それで本当に終わりとなるでしょうか》

「今はレイヴンとして、出来ることをやるだけだ」

《……はい。ではまた後で》

 

通信の切れたブリーフィングルームで、ソラは携帯端末を操作して各社の報道を見た。

現在発生している正体不明生物のニュースではない。

その前の、各地の停電発生についてだ。

クレストは、地下組織の暗躍を主張していた。

ミラージュは、管理者の不完全性と老朽化、その改善を謳っている。

キサラギは、ただ起きた事実をそのまま報道しているだけだ。

それはそのまま、レイヤードに起こりつつある異常に対する、そして管理者に対する各社のスタンスを表しているように思えた。

どの企業が正しいか間違っているかではない。

どの企業も、各々の姿勢で向き合っているのだ。

そしてそれは、レイヴンであるソラ自身もそうしなければならなかった。

地下世界レイヤードの異常は、そこに住む全人類にとって、決して他人事ではないのだから。

 

「……俺は傭兵だ。依頼がくれば、こなす。結局それだけだ」

 

今はそれでいい。そうするべきである。レイヴンとして、正しい姿勢には違いない。

だが、もしそれ以上の判断を求められる瞬間が来たとすれば?その時はどうするのか?

ソラは自問した。その時自分は管理者に対して、この変わりつつある世界に対して、どう向き合っていくのか。

答えの見つからない問いだった。少なくとも、今答えを出すことはできそうにもない。

 

「とにかく準備だ。出撃の準備しないと」

 

ソラは頭を戦闘向けに切り替えつつ、更衣室へと向かっていった。

 

 

………

……

 

 

11時30分ごろ。

 

《レイヴン、スパルタン、まもなくネリスシティ上空です。市民の避難は既に完了。出撃準備をお願いします》

《やれやれ、お声がかかったと思ったら害虫駆除かよ。たまんねえなオイ》

「100匹近い上にレーザー吐くって話だ。囲まれたら死ぬからな、スパルタンの旦那」

《ばっきゃろー。そんなヘマするかよ。弾もいつも以上にたんまり持ってきてる。だが、FCSに気を付けろよ、ボウズ》

「FCS?……ああ、生体ロックの話か」

 

ソラは出撃直前にアンドレイにもされた話を思い出した。

特定のAC頭部にのみ付与されている生体ロック機能。

生体ロックは本来対人制圧や自然区での特殊任務などに使用されるものだが、ストレイクロウの頭部"TIE"には備わっていない。

今回の敵は生物なため、もしかしたらFCSによるオートロックができないかもしれないと、アンドレイの指摘があったのだ。

 

「敵さん、生物なんだろ?金属反応がねえと、マニュアルで撃つしかねえはずだ。そのAC、生体ロック機能ついてんのか?」

「……ついてない。金欠だし」

「かぁー!頼むぜおい。いつまでも新人気分か?」

「仕方ないだろ……この前の機体修理で有り金吹っ飛んだんだから。そういう旦那はどうなんだよ」

「俺か?俺はもちろん」

《ネリスシティ北部へ到達。投下ポイントです。2機とも出撃してください》

「ねえよ、そんなものは」

 

ブースタを吹かし、コーテックスの輸送機からソラのストレイクロウとスパルタンのスクータムが飛び降りた。

着地してすぐ前方のビルの壁面に、全長10mはあろうかという白い大蜘蛛が数匹固まって張りついていた。

こちらに気付いたようで、カサカサと8本の長い足をばたつかせて、振り向いてくる。

そして、緑色の熱線を撃ち込んできた。

当然、そんな見え透いた攻撃に当たるソラとスパルタンではない。

機体を左右に揺らしてかわし、反撃のレーザーライフルとバズーカをマニュアル射撃でぶち込んだ。

大蜘蛛はさすがにそれほどの堅牢さはないようで、一撃貰うと盛大に緑の体液を跳び散らして絶命した。

 

「やっぱりFCS反応無し……レーダーもダメか」

《街は広いぞ。全部の通りを1個1個当たるのか?》

「冗談だろ……レイン!コーテックスのオペレーションシステムで、敵の居場所を把握できないか?」

《市街地の管制機能を経由していくつかスキャン方法を試しましたが、熱源での探知が可能なようです。この生物はかなりの熱量がありますので、それでおおよその場所は分かります。熱線を吐くために高熱の器官でもあるのでしょうか……》

「レーダー上にスポットだ。とりあえず数が多い場所が最優先。余裕が出来たら、全ての生物の居場所をスポットしてくれ」

《了解です。一番近い密集地帯は……北東の公園です。どうしてこんな場所に……》

「理由は知らん。そこへ行く。旦那、俺が先行するから、追いついてきてくれ。道中で化物を見かけたら、代わりに撃破頼む」

《任せとけ。お前はとりあえず目的地へ急げ》

「ああ、行くぞ!」

 

レインやスパルタンと打ち合わせ、ソラはACのブースタを吹かして北東の公園へと動いた。

道中、何匹かの蜘蛛が道路やビル壁面にいるのを見かけたが、無視して進む。

その度にスクータムの砲声が後ろで響いて、ソラの背中を押してくれた。

 

「目標の公園に到達し……なんだあいつら、何やってる?」

 

公園内には、奇妙な光景が広がっていた。

蜘蛛の巣のような物がそこかしこに張り巡らされ、公園の中央部を走る水路に20匹近い蜘蛛が群がり、何やらもぞもぞと蠢いている。

水を飲んでいるのかと不審がりながら、ソラが公園の敷地にACを入れた時だった。

 

「っ!?」

 

蜘蛛が一斉に水面から顔を上げ、ストレイクロウめがけて熱線を浴びせかけてきた。

ソラは何発かに被弾しつつもブースタで素早く距離を取り、最寄りのビルの陰に身を潜めて手荒い歓迎をしのぐ。

だが、敵の乱射はいっこうに終わる気配がない。

20匹が群れているのだから、射撃の隙間などあるはずもなかった。

ソラは舌打ちしながら、機体をビルから出してレーザーライフルを群れにめがけて放った。

あまりに密集しているものだから、狙いすまさなくてもレーザーは蜘蛛を数匹まとめて焼き尽くす。

お返しとばかりに撃ち返される熱線を、ソラはこまめに避けながら辛抱強く反撃していった。

 

《おいおい、パーティか……よっと!》

「旦那、気を付けろ!こいつらしつこいぞ!」

《見りゃ分かるわそんなの!》

 

追いついてきたスパルタンが、スクータムをビルの陰に隠しつつバズーカだけを突き出して砲撃する。

ソラはあえて機体を晒して注意を引きながら、蜘蛛の数を減らした。

残り10匹。

数が減ると、敵の狙いの甘さが浮き彫りになった。

蜘蛛達はFCSなど積んでいないのだ。

生物的な反射で撃っているだけでは、縦横に飛び跳ねるACを正確に狙い撃つことなどできない。

それが分かると、ソラは一気に気分が楽になった。

残り5匹。スクータムのバズーカが2匹をまとめて爆発で吹き飛ばし、残り3匹。

残り3匹もレーザーライフルで確実に、しとめきった。

 

《周辺に熱源無し。公園の掃討は完了です》

《ふぅー。本当に虫の本能だけで攻撃してきてる感じだな。数が多いと厄介だが、減ったらまったく大したことねえ》

「ああ。このまま他の密集地点も……」

《レイヴン、ミラージュ社から通信です。敵生物の習性がある程度判明。どうやら水辺に巣を作り、卵を産み付ける性質を持っているようです。下水道内で多く見られた事例ですので、間違いないだろうとのことです》

「なるほど、それで水路がある公園か」

《ミラージュは、卵の排除も頼むと言ってきています》

「……了解。本格的に駆除作業になってきたな」

《レーザーブレードでやっちまえ。弾がもったいねえぞ》

「だな。ちょっと待っててくれ」

 

ソラはACを公園の水路に近寄らせた。

グロテスクなマーブル模様の球体が、粘っこい糸に包まれて大量に水中に沈んでいる。

モニター越しとはいえ、正直直視したい光景ではない。

レーザーブレードを発振し、ソラは無心で水中の卵を焼き払った。

 

「これでよし。レイン、残るポイントは?」

《残りは3ヶ所。やはり、どこも公園のようですね。このネリスシティは景観に配慮した新しめの街ですから、他の市街地に比べても公園施設が多いようです》

「残りAP7500か……まあ、余裕だろう。旦那、順番に回ろう」

《おうよ。ったく、停電連発の次はドデカ害虫騒ぎかよ。レイヤードはどうしちまったんだろうな》

「……知るかよ。管理者に聞いてくれ」

 

レインがスポットした次の場所も、同じような有様だった。

大量の蜘蛛の糸、水辺に群がる数十匹単位の大蜘蛛、そして熱線の嵐。

数が多少増減しただけで、敵の行動はまったく変わらない。

公園手前の大通りで機体を踊らせて被弾を減らしつつ反撃を繰り返し、スクータムに援護射撃を貰いつつ、数を減らしていく。

数が減れば何の脅威にもならなくなり、やがてその場の蜘蛛は全滅。

終いに水路に産み付けられた卵を焼き、またも駆除は一段落した。

 

「これで、あと2ヶ所だな」

《張り合いのねえ仕事だぜ。所詮、デカくても虫だな》

「めんどくさくなくて楽でいいだろ、旦那」

《おう。さっさと残りも終わらせて家で酒でも……》

《……!?待ってください、熱源が一斉に移動を開始!……え、これは……残る敵が、全て特定ポイントに向かっています!》

 

レインが焦ったように報告してきた。

 

「特定ポイント?どこだ」

《場所は……ネリス中央公園!……いえ、その傍のミラージュ支社の高層ビルに群がっています!》

「何だって……それはどういう……いや、とりあえず現地で状況を確認しよう。旦那、先行するからな!」

《おう!》

 

ソラはレインのスポットマーカーに従い、ACを急行させた。

交差点を3つほど曲がり、ネリスシティの目抜き通りを突っ走る。

その突き当り、中央公園に隣接したミラージュ支社のビル壁面には、夥しい数の大蜘蛛が散開して張りついていた。

まだ距離は700以上あるが、それでもACの頭部望遠カメラがそのおぞましい群れの姿を見せつけてくる。

 

《やはり、ビル壁面に50匹近くがいます!》

「あいつら、何をやってるんだ……?」

 

距離600まで近づいた。マニュアル照準でも、一応敵が狙える距離。

その時だった。目抜き通りを進むストレイクロウめがけて、敵が一斉に熱線を放ってきた。

 

「く、っっ!?」

 

集中砲火という言葉がふさわしい、異常な乱射にソラは慌てふためき、ACをすぐさまビルの陰に入れた。

狙いはまったく正確ではないが、不意打ちの弾幕でかなりの被弾を受けてしまっていた。

1回の一斉射撃でAPが1000近く消し飛んでいる。

 

「奴ら、あんなところで何をしてるんだ!?」

《……ビルの最上階付近に、一際大型の熱源があります。レイヴン、望遠カメラのログで確認できませんか?》

「大型の熱源?待っててくれ」

 

ソラはコンソールを叩き、素早く戦闘ログを確認した。

ビルに距離600まで近づいたところで再生を止め、建物の頂上付近を拡大する。

確かに、他より一回り大型の蜘蛛がそこにはいた。

 

「なるほど。こいつが親玉で、他の蜘蛛達を指揮してるのかもな。数が減り始めたから、集まるように呼びかけたのか」

《なんとかこの大型を叩ければ……》

「難しいな。かなり高い場所だ。近づく前に熱線の集中砲火でやられちまう」

《悪い。待たせた。……もしかしてピンチか?》

 

道路の斜向かいのビルの陰に、スパルタンのスクータムが潜り込んだ。

カメラアイを向けて、ソラに状況を確認してくる。

 

「ああ。正面奥のビル見たろ。あいつら、ビル壁面で散開して待ち構えてる。一番上に親玉らしき奴がいて、多分だけどそいつの指示だ。スナイパーライフルでもあれば話は別だが、この距離だとちまちまやるのも骨だ」

《……なるほどなぁ。じゃあ、あれやるぞ》

「あれ?」

 

スパルタンの発言に、ソラは首をかしげた。

 

《囮作戦で、挟み撃ちだ。ここまでやり合ってよく分かった。あいつら所詮は虫だ。目の前の敵を反射的に撃つしか出来ねえ。今まとまってるのも、その親玉がちょびっとだけ賢いからだろ》

「囮で挟み撃ちって……どうするんだよ」

《決まってる。俺がこの距離で踊ってるから、お前はグルっとビルの裏側に回り込め》

「……スクータムで?危なすぎる」

《仕方ねえだろ。役割逆にしても、スクータムのブースタじゃビルの上まで上がれねえ。お前のACしか出来ねえんだよ、ボウズ》

 

ソラは歯を食いしばった。

非常に危険な作戦だ。

重装型MTといえ、スクータムの装甲などタカが知れている。機動性もだ。

スパルタンがいかに歴戦の傭兵といえど、50発の熱線を凌ぎ続けるなど、不可能に近い。

 

「……この距離で正面から狙撃してじわじわ数を減らすってのは?」

《あの物量から反撃受けながらか?そっちの方が分が悪いだろ。頭叩いて、敵さんが混乱した隙に畳みかけた方がいい》

「…………」

《ボウズ、お前俺が死ぬとか思ってんだろ?余計なお世話だぜ、そりゃ。レイヴンになるまで、俺は死なねえ!さっさと行け!それとも、昔みたいに怒鳴り散らさねえとペダルも踏めねえか!?》

 

スパルタンがバズーカをソラのACに向けて吼えた。

懐かしい怒鳴り声だった。

ソラは戦闘用MTに乗りたての頃、しょっちゅうこの声音で怒鳴られたものだ。

 

「……死ぬなよ、旦那!」

《ばっきゃろー!死ぬか!うおっしゃあー!》

 

スクータムがビルの陰から飛び出していく。熱線の雨が、降り注ぎ始めた。

ソラはACを旋回させて、別のルートへと進んだ。

 

「レイン!」

《市街地のルート分析結果を送ります!このルートなら、敵の視界に触れることなく裏側に回れるはずです!》

「急ぐぞ!」

 

操縦桿横のレバーを引き上げ、オーバードブースト起動。

もはや慣れ親しんだ急加速で、ソラは大通りをひたすら突き進んだ。

指定された交差点で曲がり、脚部で走行しながらエネルギーの回復を待つ。

エネルギーが溜まれば、再びオーバードブースト。

スパルタンがどうなっているかは、聞かなかった。

レインも、あえて報告してこなかった。

ソラはラジエーターの悲鳴も気にせず、何度もオーバードブーストを使った。

 

《到達しました!ミラージュ支社の裏側です!》

「待ってろクソ虫!」

 

ブースタを吹かして、上昇。窓からちらちら見えるビルの反対側では、まだ夥しい熱線の発光が続いている。

屋上に到達し、ソラはビルの壁面を見下ろした。

ACの頭部カメラを通して、最も大型の蜘蛛と目が合った。

 

「くたばれこの野郎!」

 

レーザーライフル連射。

大型蜘蛛は一瞬逃げようとしたが、足をもがれ、腹を撃ち抜かれ、頭を消し飛ばされて、大量の体液を撒き散らしながら壁面から滑り落ちていった。

親玉の死亡に蜘蛛達は熱線乱射を止め、我を忘れたかのようにビルの壁を右往左往し始める。

今が好機。ソラはレーザーライフルをマニュアル照準でひたすら撃ち下ろし、1匹、また1匹と敵の数を素早く、確実に減らしていった――

 

《……正体不明生物の全滅を確認。中央公園の卵も焼却完了。ミラージュ本社より通信、下水道からの敵の侵入も停止したそうです。もう1ヶ所残った公園の卵は、ミラージュの部隊が対処するとのことです。レイヴン、スパルタン、お疲れ様でした》

《おお……キレイな声したねーちゃんに労ってもらうと、なんか達成感もひとしおだな。レインちゃんって言ったか。今度おじさんと呑まねえ?》

「……蜘蛛に撃ち殺されてりゃよかったのに」

《んだとぉ!?お前、誰のせいで俺のスクータムがスクラップ寸前になったと思ってんだ!これじゃ当分依頼受けらんねぇぜ!あーあ、レイヴン様のお仕事が遅いからよー!》

「あーはいはい。レイン、輸送機回してくれ。それと、このおっさんの言うことは真に受けなくていいからな」

《……クスっ。はい、了解しました》

 

ソラはACをスクータムのすぐ傍まで近寄らせた。

スクータムは、スパルタンの言う通りボロボロだった。

シールドはもはやどろどろに溶けて原型をまったくとどめておらず、バズーカもひしゃげて潰れ、機体本体には無数の弾痕。

この有様にも拘らずパイロット本人はぴんぴんしていて、作戦終了後に僚機の専属オペレーターを口説き始めるのだから、歴戦の傭兵は伊達ではない。

スパルタンといえば、MT乗りの間では知らぬもののない、凄腕の代名詞的存在なのだ。

そして、ソラの傭兵としての先輩でもあり、師匠でもあった。

 

「生きててよかった、スパルタンの旦那」

《ばっきゃろー。俺を誰だと思ってる。クソ虫の雑な攻撃なんざ、目をつぶっててもかわせらぁ!》

「それでも、生きててよかった」

《……へっ、そうかよ。そりゃどうも》

「旦那がレイヴンになれたら、一杯やろう」

《たりめえだ。当然、お前のオゴリでな?》

「はぁ?オゴるのは旦那の方だろ。旦那がレイヴンになれるとしたら、絶対俺が依頼回したおかげなんだから」

《言ったなてめえ!覚えてろよ、AC手に入れたらアリーナでヒーヒー言わせてやるからよ》

「無理無理。ACじゃ俺の方が先輩だし。返り討ちで終わりだわ」

《あーこいつ、ホントよぉ!なんでこんなクソガキが俺より先にレイヴンになれるんだ!?管理者のばっきゃろー!!》

 

輸送機が迎えに来るまでの束の間、ソラはスパルタンとじゃれて過ごしたのだった。

 

 

………

……

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

FROM:ミラージュ

TITLE:礼状

 

レイヴン、第二都市区への正体不明生物の侵入は一旦沈静化した。

ひとまずは礼を言おう。

 

市街地に多数の被害が出た事件だったが、生物の発生理由はまったく不明だ。

研究員が死骸の分析を行ったところ、金属反応は一切見られず、生態系の異常が産んだ化物としか言えない結果が出た。

お前も知っているだろうが、レイヤードにおける生態系は管理者が厳重に管理しており、今回のような生物の突然変異は本来ありえないことだ。

 

また、同様の生物の襲撃がクレスト・キサラギ管轄のセクションにおいても発生し始めたらしい。

ついては、三大企業で協議した結果、各管轄の地下下水道及び自然区・環境制御区の大規模調査を行うことが決定した。

 

発生源を絶たない限り、今後も正体不明生物の攻勢はやまないだろう。

長引けば、レイヤード全体に甚大な影響が出ることになるやもしれん。

お前も当分は、今回のような状況への対処が続くと思っておけ。

 

管理者が昨今のような失態を繰り返すならば、やはり我々ミラージュが率先して管理者とレイヤードを正しき方向へ導いていかねばならん。

時代が、より確かな秩序を求め始めているということだ。

 

今後とも、我が社への貢献を期待する。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

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