ARMORED CORE 3 Replay ~ Stray Crow~   作:神父三号

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生体兵器戦続きです。自然発生なのに兵器分類でいいんでしょうか。

生体兵器戦仕様の構成をまとめて記載しておきます。今回はレーザーライフルと投擲銃です。
フレーバー程度ですので、武器以外は一切気にしなくても大丈夫です。

右腕部武装:MWG-XCW/90(90発レーザーライフル)
左腕部武装:KWG-HZL50(投擲銃)
右肩部武装:CRU-A102(生体センサー付き肩レーダー)
左肩部武装:CWM-S60-10(10連小型ミサイル)
エクステンション:MWEM-R/24(2発発射連動ミサイル)

頭部:CHD-01-ATE
コア:CCM-00-STO
腕部:CAM-11-SOL
脚部:MLM-MX/066

ジェネレーター:MGP-VE905
ラジエーター:RMR-SA44
ブースタ:MBT-OX/E9
FCS:AOX-X/WS-3
オプショナルパーツ:OP-S-SCR(実弾防御上昇)、OP-E/SCR(EN防御上昇)、OP-E/CND(ジェネ容量増設)、OP-L-AXL(ロックオン時間短縮)、SP/E++(EN武器威力上昇)


下水溝調査

「よぉ、お疲れさん。どうだった、本日の害虫駆除は」

「変わらねえよ。水辺に群がってるのを蹴散らして、卵焼いて、それの繰り返しだ。んぐ……はぁ。もう今回で5度目だぞ、この手の依頼は」

 

ソラはACのコクピットからハンガーに移り、アンドレイに渡されたドリンクを飲みながら、ため息を吐いた。

整備班がすぐに機体に駆け寄ってきて、各部の損傷チェックを開始する。

今日も今日とて、クレストの依頼で第三層第一都市区の正体不明生物駆除に行ってきたところだ。

 

2週間前、最初にミラージュが駆除を依頼してきた時ほどの物量はもう無かったが、それでも大変な依頼には違いなかった。

ACの頭部も、この手の駆除依頼をこなすためにわざわざ生体ロック機能を搭載した初期配備品"01-ATE"を買い直していた。

肩のレーダーも生体センサー機能を備えた"A102"へと買い替え、ほぼ対不明生物仕様といってもいい機体構成になっている。

 

「レインに聞いた。他のレイヴンも大半が、ひっきりなしに害虫駆除へ駆り出されてるってよ」

「いつまで続くんだかな。三大企業が皆して原因調査してるって話だろ?進展ねえのかよ」

「なさそうだな。まったく困ったもんだ。……ホント、勘弁してほしいよ」

 

ソラはもう一度ドリンクを喉に流し込んだ後、一際大きなため息を吐いた。

各企業の報道はやはり正体不明生物関連の話題が非常に多いが、まだこの生物発生の原因は不明である。

発生が頻発しすぎているためか、どの企業も駆除依頼に関しては報酬額をほぼ最低限にしており、レイヴンには実入りも少ない。

その上、現場ではグロテスクな蜘蛛の化物を何十匹も見ながら、体液をぶちまけさせ、卵を潰し、蜘蛛の巣を焼かねばならないのだ。

正直、気が滅入りそうだった。

 

「まったく、ワシもそこそこ長く生きてきたが、ここまでの混乱は初めてだの。……お、何じゃ?またニュースか」

 

アンドレイが自身の携帯端末を取り出して、もじゃもじゃの白髭をしごいた。

 

「……また停電だとよ。近いぞ。今回はセクション303。……お、もう1個ある。なになに、『産業区のセクション552の封鎖が管理者の意向により決定。管轄するキサラギは正体不明生物への対処に追われ、セクション閉鎖という大規模事業の即実行は困難と主張』……そりゃそうだ。何だって今言うんかね、管理者サマは」

「はぁ……停電、セクション封鎖、その上に化け蜘蛛。レイヤードはいきなりどうしちまったのかな」

「まあ、やれることをやるしかないわい。ワシらは整備、お前さんは依頼。そうだろ?」

「……だな。悪い、あと頼む。休憩に入るから」

「おう。見た所、今回はダメージも少ない。すぐ終わるぞい」

 

ソラはドリンクのカップを握りつぶして、手の甲で口を拭った。

最近は依頼から帰ってきたら、出来るだけすぐ休むことにしていた。

状況が状況である。

精神的にも肉体的にも十分な休養を取れる時に取って、不意の出撃に備えた方がいいという判断だ。

レイヴンが蜘蛛ごときに遅れを取ったら笑い話にもならない。

ミラージュが礼状で言ってきた通り、害虫駆除はまだ当分続くかもしれないのだから。

 

 

『フェーズ1、クリア。フェーズ2へ、移行』

 

 

ソラは寝室のベッドに寝そべって天井を眺めながら、あの時、クレストのルグレン研究所で聞いた謎の通信を思い出していた。

地下組織"ユニオン"は、あの研究所を襲った部隊は管理者の"実働部隊"だと断言していた。

だとすれば、あの無機質な声の通信も、管理者の部隊によるものなのだろうか。

ということは、この異常事態の頻発こそが"フェーズ2"であり、それは管理者が宣言したことでもある――

 

「……今がフェーズ2ってことは、まさかフェーズ3もあるのか?」

 

ソラは頭に浮かんだ疑問を、なんとなく口に出した。

 

 

………

……

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

正体不明生物の調査のため、我が社が管轄する下水道のとある区画に立ち入った調査部隊が、突如消息を絶った。

 

そして、この調査部隊の最後の報告により、当下水道内で水位が異常上昇し始めていることが分かった。

下水道の水位管理は、管理者の制御下にある排出コントロール機能によって、常時適正に行われているはずだ。

このような異常には前例が無い。

 

状況から見てこの区画に不明生物の発生源がある可能性が高いため、高ランクのレイヴンを送り込んだのだが、彼もまた連絡が途絶えてしまっている。

 

一体何が起きているのか、早急に把握して対処しなければならない。

そこで、レイヴンには我が社の精鋭部隊と共に、下水の調査に向かってもらいたい。

 

君の実力は、これまでの仕事ぶりで我々も十分に把握している。

だが、それを踏まえても非常に危険な任務だ。

よって、今回は通常の成功報酬に加えて、追加報酬としてAC用パーツを提供する。

 

よろしく頼む。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

《依頼主はキサラギ社です。作戦区域は第三層産業区セクション557地下の下水道。成功報酬は45,000Cに加えて、60,000C相当のACパーツを提供するとのことです。敵戦力は例の正体不明生物多数と予測されます》

「蜘蛛の発生源だって?レイン、キサラギの情報は確かなのか?」

《分かりません。ですが、調査部隊及び高ランクレイヴンが行方不明になった上、水位の異常上昇が観測されているため、どの道現場を調査する必要はあるでしょう》

「水位はどの程度なんだ?ACの腰より上だと、さすがに行動できないぞ」

《現在、通常水位0.8mが2.0m近くまで上昇しているようです。ACならば二脚型でもまだ活動できる範囲と思われます。また、キサラギ社は緊急の場合、現場判断の手動操作で水位を調整すると言ってきています》

「このまま放置すれば、産業区は汚水まみれな上に俺達レイヴンはずっと蜘蛛退治続行か……やるしかないな」

《……企業が『非常に危険』と予め告知までしてきた依頼です。かなりの激戦が予想されますが……》

「分かってるよ。それでもやる。今、ニュースじゃいつも蜘蛛が蜘蛛がって流れてるだろ?どこかの誰かがなんとかするのをじっと待ってるより、自分自身で動く方が気が楽だ。もう蜘蛛の巣と格闘するのは、これで最後にしたいからな」

《……了解しました。輸送機の手配を行います》

 

レインがいつも以上に深刻な雰囲気でそう言って、通信を切った。

 

「ケリをつけてやる、蜘蛛野郎。フェーズ2だか何だか知らねえがな」

 

ソラはバンと机を叩いて勢いよく立ち上がり、更衣室へと走った。

管理者の制御下での、異常事態。

蠢く蜘蛛達の向こうで、管理者がまた呼んでいる。そんな気がした。

管理者め、今に見ていろ。ソラは昂ぶる戦意と反骨心に強く突き動かされていた。

 

 

………

……

 

 

《輸送機が合流地点に到着。レイヴン……気を付けてください》

「分かってる。……来てるな、キサラギも」

 

ソラのストレイクロウが指定ポイントで輸送機から飛び下りた。

今回の装備は右腕にレーザーライフル、左腕に投擲銃、肩にミサイルユニットとエクステンション連動ミサイルだ。

レーザーブレードは持ってこずに、代わりに2丁拳銃の高火力仕様にしていた。

卵の後始末程度は、随伴するキサラギの部隊に任せようと考えたためだ。

 

下水道への侵入口には、キサラギの高機動型四脚MT"クアドルペッド"が5機、待機していた。

たった5機だが、いずれも脚部が通常の機体より大型化し、武装もパルス砲とミサイルランチャーを両方装備している。

クアドルペッドはこれまでも戦場で見かけてきたが、ソラが初めて見るタイプだった。

 

《通信……こちらキサラギMT部隊。部隊長、デルタ1だ》

 

落ち着いた渋い声が、通信機が聞こえてくる。

キサラギの現場では、もう馴染みの声だった。

 

「こちらストレイクロウ。……やっぱり指揮官はあんたか、デルタ1」

《……今回、クアドルペッドは全機特務仕様となっている。水位次第では、我々がACより先行する》

「了解した」

《……いくぞ》

 

ストレイクロウを先頭に、調査部隊は下水道内へと突入した。

非常照明のついた通路を進んでいき、道中で散発的に沸いた蜘蛛を素早く処理しつつ、サブゲートを解放、問題の区画の水路へと入る。

明らかに水量が多い。水路脇の作業員用通路も水没し、汚水がかなりの勢いで流れていた。

 

《キサラギより通信です。現在このL9区画の水位は2.5m。なおも上昇中とのことです》

「2.5m……ちょうどACの膝くらいか。クアドルペッドじゃ溺れないか?」

《……問題ない。全機、磁気駆動システムを起動しろ》

 

特務仕様のクアドルペッド達が、水路の壁を駆け上がり始めた。

垂直の壁面に対して、まるで蜘蛛のように張りついている。

数mサイズのMTとしては、ありえないほどの走破性能だ。

 

「なるほど。特務仕様って言うだけはある」

《……金食い虫の虎の子だ。逸脱行為ギリギリのな。こういう機会にしか使えん》

《っ!レイヴン、熱源を多数感知しました!一斉にそちらへ向かっています!》

「よし、やるぞデルタ1!」

 

ソラは気炎を吐き、ストレイクロウのブースタを吹かして豪快に水路へと突っ込んだ。

かなりの水量によって僅かに操縦桿が重くなるも、ACの高出力の前ではこの水位はまださほど問題にはならない。

肩部レーダーの生体センサーが、敵影を捉え始めた。

距離600。数は、20ほどだ。

 

「俺が突っ込む!援護は任せた!」

《……デルタ4と5は天井を伝って逆サイドに回れ!全機、砲撃戦開始!ACに当てるなよ!》

 

ストレイクロウがレーザーライフルを撃つのに合わせ、クアドルペッド達もパルス砲を撃ち始めた。

蜘蛛は熱線を吐く暇もなくどんどん撃ち殺されて水路に落ち、あるいは熱線を吐いても虚しく宙を貫くだけだった。

AC1機、MT5機の一斉射撃の前にあっという間に20匹が死滅し、ソラ達の進路が開けた。

 

《……このまま先行した部隊の反応消失地点まで向かう!》

 

デルタ1の力強くも落ち着きのある声が部隊を鼓舞し、ソラ達は静かに、だが勢いよく進撃した。

道中、水路の横穴から幾度となく沸き出てきた蜘蛛の群れを問答無用で蹴散らしていき、やがて、すんなりと目標地点に到達した。

隣のL10区画へのメインゲート付近である。

 

《メインゲートが閉じている?それにこれは、ACの破片……!?》

 

通信機の向こうでレインが息を呑む。

キサラギが直近に雇ったと思しきACの残骸が、蜘蛛の糸によって壁に磔にされ、無数の卵の苗床にされていた。

水路のメインゲートには蜘蛛の糸がびっしりと張り巡らされている。

加えて、ゲート下部の排水口から溢れ出してくる汚水は、管理者がまったく流量をコントロールしていないのかその勢いが凄まじく、ACでも接近は困難だった。

この隣の区画から流れ込む大量の汚水が、下水道の異常な水位上昇の原因なのだろう。

ゲートの内部がどうなっているのか、まるで予想もつかない。

 

《ACがこれほどに損壊していては、データ照合もできませんね……デルタ1、何か知りませんか?》

《……C-1ランカーの"ファウスト"だ。キサラギが雇ったレイヴンに間違いない。だが、このランクのレイヴンが蜘蛛ごときにそう遅れを取るとは思えない。やはりこの奥で何かあったな。レイヴン、メインゲートの管制パネルへアクセスしてくれ》

「了解、コードキーを入力する」

 

ソラがコンソールを叩き、管制パネルへと事前に提供されていたコードキーを入力しようとする。

だが、パネルは一切の反応を見せなかった。

 

《水位の異常上昇によって、パネルへの電力供給がカットされているのでしょう。ゲートが閉じているのも、おそらく異常事態へのセーフティです。これでは先に進めません》

《……水位調節の判断は私に一任されている。これ以上水位が上昇すれば、作戦行動も取れなくなる。……デルタ4、5。L8区画のサブゲート内に緊急用の排水量調整装置がある。起動してこい》

《了解!》

 

クアドルペッドが2機、来た道を素早く引き返していった。

後に残ったのはソラのストレイクロウと、デルタ1~3が乗るクアドルペッドだ。

 

「これだけメインゲートの排水口から水が溢れ出してるってことは、L10区画の水位はこのL9より多いはずだろ?そっちは問題にならなかったのか?」

《……下水道の水位は、管理者の排出管制システムを通して区画ごとのデータが常に送信されてきている。この先のL10区画は通常の水路とは違って広場のような造りになっている、流量調整のための貯水機能付きブロックだ。最近、確かに水位の上昇は見られていたが正常な範囲であり、キサラギもさほど気にはしていなかった。だが……》

「だが?」

《L9のデータが送信されなくなった後、キサラギはその原因が正体不明生物にあると見て、それなりの戦力を伴った調査部隊を送り込んだ。そして調査部隊がL9の異常な水位上昇を報告して消息を絶ったため、今度は先ほどのレイヴンを派遣。すると、続けてL10のデータも送られてこなくなったのだ》

「……状況から見て、C-1のファウストがL9の異常の原因がL10にあると見て乗り込んだ後、そこで何かが起こった?」

《……そうなるな。そして、何が起こったかはこれから分かる》

 

デルタ1がそう言った直後、水路にビー、ビーと警報音が鳴り響き、非常照明が赤く点滅し始めた。

 

《緊急排水システムの起動を確認。汚水の緊急排水を行います。職員は直ちに退避してください。繰り返します。汚水の緊急排水を行います。職員は直ちに退避してください》

 

館内放送が警告を何度か繰り返した後、水路側面に無数に設置されている予備の排水口が開き、強制的に水路上の汚水を排出していった。

異常上昇していた水位が目に見えてぐんぐんと下がっていき、ACの操縦桿も軽くなって、ごうごうと音を立てて流れていた汚水の勢いも大幅に弱まる。

ソラはデルタ4と5の合流を待ってから、メインゲートの管制パネルに再度アクセスした。

 

《L10区画へのロックを解除。L10区画へのロックを解除。メインゲートオープン。メインゲートオープン。汚水が大量に流入する可能性があります。職員は直ちに退避してください。繰り返します。汚水が大量に流入する可能性があります。職員は直ちに退避してください》

 

再度の警報と館内放送。ソラ達は念のため、メインゲートから大きく距離を取る。

ゲートが開き始めた途端、やはりL10区画から大量の汚水が怒涛の勢いで流れ出してきた。

 

「……湯気?」

 

ソラはACが流されないように脚部に気を配るも、L10区画から流れてきた汚水の不自然さに目を奪われた。

汚水から、もうもうと湯気が立っている。

モニター上の外気温を確認。先ほどまで30度未満だった気温が、48度まで跳ね上がっていた。

 

「何が……っ!?」

 

L10区画の暗闇の向こうに、蠢く影。そして発光。

ソラは反射的にACを跳ばせた。

直後、水面に極太の青い閃光が着弾し、じゅわと水蒸気を噴き上げた。

 

《熱線!?でも、この威力は……っ!?気を付けてください、極めて大型の熱源反応です!こんな大きさ、見たことない……!》

 

レインの慌てた声が、ソラの緊張を高める。

またも放たれた、極太の熱線。

ソラはそれを躱しながらフットペダルを踏み込んでブースタを吹かし、ストレイクロウを汚水の排出が終わったL10区画へと突っ込ませた。

 

「な、何だこいつはっ!?」

 

あまりに非現実的な光景にソラは思わず操縦を忘れ、叫ぶことしかできなかった。

禍々しく尖った8本の足。

獲物を食い破るための鋭い牙。

そして、胴体の不気味な青白い発光。

ACの優に3倍はある巨体の化け蜘蛛が、天井にへばりついて待ち構えていた。

 

《……全機散開!戦闘態勢!レイヴン、気を引き締めろ!》

 

デルタ1の呼びかけに、ソラは我を取り戻した。

半ば無意識の操作でACを飛び退かせ、またも放たれた化け蜘蛛の熱線を回避する。

しかし同時に、今まで飽きるほど見てきた蜘蛛達が足元にわらわらと群がっているのに気づいた。

親蜘蛛の攻撃に続くように、子蜘蛛達も熱線を吐きかけてくる。

咄嗟に操縦桿を切るも何十もの閃光を完全に躱しきることなどできず、ストレイクロウは防御スクリーンにダメージを受けた。

続けて、またも天井の親蜘蛛が強く発光し、熱線を放射。

狙いは甘い。ブースタを空中で吹かして機体をスライドさせることでやり過ごして、反撃のレーザーライフルと投擲銃を撃ち込んだ。

しかし。

 

「効いてない!?ホントに虫かよこいつは!」

 

着地したACめがけて、子蜘蛛達がわらわらと群がってくる。

だがその無秩序な突進を横合いから、パルスとミサイルが食い止めた。

 

《……子蜘蛛は私達が引き受ける!レイヴンは天井の親蜘蛛をやれ!》

 

5機の特務仕様クアドルペッド達が区画の壁面を縦横に機動し、パルス砲を、ミサイルランチャーを間断なく子蜘蛛の群れに撃ち込んだ。

たまらず蜘蛛達はACへの突進をやめ、邪魔をしてきたMT部隊への反撃に行動を切り替える。

が、やはり生物的な反射による砲撃では高機動MTを捉えるのは困難なようで、デルタ1達は熱線の乱射を巧みにすり抜けて、子蜘蛛の群れを削っていった。

さすがにキサラギの最精鋭、心強い味方だった。

ならばソラも、怖気づいている場合ではない。

 

「行くぞ親玉ァ!」

 

こちらを威嚇するようにキシキシと息を吐く親蜘蛛に向けて、ブースタで宙を舞う。

粘ついた涎を幾筋も垂らす口がストレイクロウに向けられ、青白く輝いた。

熱線の放射。だが、予備動作が分かりやすく狙いも杜撰な攻撃を受けるソラではない。

かすめる閃光に目を細めながらも、反撃のレーザーと榴弾を撃ち込む。

親蜘蛛はむず痒そうに巨体を震わせ、なおも攻撃してきた。

空中での不規則な機動によって回避し、反撃。

回避と反撃を繰り返し、エネルギー残量が危うくなれば、子蜘蛛の群れの中に乱暴に着地する。

脚部で何匹かを踏み潰すと、MTに向いていた子蜘蛛の注意がまたACに集まった。

しかし、そこにデルタ1達が素早く援護射撃し、再び注意を逸らしてくれる。

そして、天井の親蜘蛛が地上のAC向けて8本足を旋回させ、大口を開いて喉を輝かせた。

 

「当たるかよ!」

 

再びACを跳躍させ、強力な熱線を回避。

ブースタでそのまま突進。化け蜘蛛がもう一度熱線を吐こうとしているところに、武器を構えて突っ込んだ。

ほんの少し、間に合わない。

だが熱線の直撃で機体の体勢を崩されながらも、ソラはフットペダルを踏み込んでACの高度を無理やり維持し、両手のトリガーを引き絞った。

レーザーライフルと投擲銃が連射され、口を開いたままの醜い顔面に何発も射撃をぶち込んだ。

 

「ギシャァァアァ!?」

 

親蜘蛛が直撃に全身をのたうち回らせ、熱線をめくらに撒き散らす。

子蜘蛛の群れがそれに巻き込まれて何匹もまとめて消し飛ぶが、それでも親蜘蛛はのたうつのをやめない。

 

《……レイヴン!畳みかけろ!》

「分かってる!」

 

デルタ1の声に、ソラは水路に着地したACを再び飛ばせる。

そしてレーザーと榴弾の激しい連射で、足を2本もいだ。

バランスを崩した親蜘蛛が、怖じたように区画の端に退き始める。

痛みと恐怖。図体の大きさがかえって無駄な知性や感覚を与えているのか、化け蜘蛛は戦意を半ば喪失したように見えた。

親の動揺に子蜘蛛達も引きずられ、目に見えて動きが鈍って、飛び交う熱線の嵐がやむ。

今が好機だった。

ソラは肩ミサイルと連動ミサイルを起動し、怖じた巨体を素早く多重ロックしていった。

同時に投擲銃も構えて、狙いを定める。

 

「デルタ1、援護くれ!しとめる!」

《……了解した!全機包囲、親蜘蛛に一斉射撃!》

 

ミサイル、榴弾、パルス、ミサイル。

AC1機とMT5機の集中砲火が、天井の化け蜘蛛に襲いかかる。

ミサイルの束が起こした大爆発で足がまた2本引きちぎれ、親蜘蛛は痛みに耐えるように身を丸めた。

勝った。ソラはもう一度ミサイルの多重ロックをかけながら、そう思った。

思った直後だった。

 

《っ!?熱量が急速増大!レイヴン、何かき……!》

 

レインの通信は一歩遅かった。

親蜘蛛が"爆発"したのだ。

その身を四散させたわけではない。

青白い胴体が異常発光し、エネルギー波を全方位に照射した。

凄まじい閃光と衝撃がACを吹き飛ばし、足元の子蜘蛛達を汚水ごとまとめて蒸発させ、包囲していたMT部隊をも薙ぎ払う。

 

「ギシシシ……」

 

暗い広場に、化け蜘蛛の嘲るような鳴き声が静かに響いた。

L10区画で動いているのはもはや、再び足を開いた化け蜘蛛と、何とか立ち上がったソラのストレイクロウだけだった。

 

《き、キサラギMT部隊全滅!レイヴン、無事ですか!?》

「ふざけやがって……クソ虫が……!」

 

ソラはモニターの向こう側で再び大口を光らせ始めた化物を睨みつけた。

APが先ほどの爆発で3000以上消し飛んで、残り3000を切っていた。

あと2射か3射、熱線の直撃を受ければ、ACといえど危ない。

だが、そんなことはもうどうでもよかった。

モニターの端でクアドルペッドがぐちゃぐちゃに押し潰れ、赤熱して地面に転がっている。

デルタ1の機体だ。こんな醜い害虫なんかに――

ソラは自分でもよく分からないほどに、激昂していた。

目の前の敵を殺す。もうそれだけが、頭の中を支配していた。

 

「くたばれ化物ぉっ!!」

 

オーバードブースト起動。

迎撃の熱線が直撃する。

APが2000を切った。

青白い光の束を力任せに突き破り、ソラは化物と至近距離で目を合わせる。

そして牙を向く醜悪な口に、左腕の投擲銃を無理やり突っ込んだ。

 

「うぉおぉぉぉ!!」

 

榴弾を腹の中にぶち込んで、ぶち込んで、ぶち込んで、ぶち込む。

トリガーを引き、爆発が起きる度に、化物の喉と腹が膨れて、膨れに膨れて、やがて、破裂して緑色の体液を勢いよく撒き散らした。

 

「ギシアァァァァ……」

 

気味の悪い断末魔を上げながら、化物は天井から地面に落下していった。

少し遅れてジェネレーターがチャージングを起こし、ソラのストレイクロウも地面に落ちた。

落下したのは、化物の頭の上。全高10mの金属塊がその重量でぐしゃりとグロテスクな頭部を押し潰し、確実にとどめを刺した。

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……デルタ1!デルタ1、応答しろ!」

《……れ、レイヴン……やった、のか……》

 

一縷の望みを託したソラの呼びかけは、相手に届いた。

 

「ああ、しとめた!無事か!?」

《……ほ、本社に、報告……"デルタ"は、任務を……ぅ、完了、した……イヴンのおかげ……だ…………》

「……デルタ1?おい、おいっ!」

 

その後、ソラはキサラギに救援部隊を寄越すよう、レインに要請させた。

救援部隊が到着した時、特務仕様のクアドルペッドに搭乗していた5人の精鋭は、既にこと切れていた。

 

《レイヴン、作戦は終了です……お疲れ様でした》

「……三大企業の最精鋭が害虫駆除なんかで死ぬって、そんな死に方があるかよ。使い捨ての殺虫剤じゃねえんだぞ……」

《…………》

 

ドン、とソラはコクピットのサイドモニターを拳で叩いた。

MT乗りの時代から、人の死には慣れていた。

ついさっきまで会話していた僚機が、次の瞬間砲弾に当たって死ぬ。

そんなことは、ざらだった。

気にするな、引きずるなともスパルタンに言われていた。

気にすれば鈍る、引きずれば死ぬ、そう教わっていた。

だから、気にしたことも、引きずったこともなかった。

ないつもりだった。

 

本当は、頭では分かっていても、どうしてもやりきれない時があった。

理由は分からない。

何度も関わったからか。腕前を買っていたからか。人柄を気に入っていたからか。

いずれにせよ今回は、その"やりきれない時"だった。

 

「……っ、ふざけんなよ、クソったれ……」

《……レイヴン》

 

抑え込もうとした物が、ソラの口からこぼれ落ちた。

 

輸送車両アレグロの護衛。

グラン採掘所地下下水道からの脱出。

そして、今回の調査。

 

3度にわたって協働した"戦友"の死。

その死が報われることを、ソラはただ願いながら帰還したのだった。

 

 

………

……

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

FROM:キサラギ

TITLE:礼状

 

レイヴン、今回はよくやってくれた。

 

正体不明生物に関する一連の騒動だが、下水道での超大型個体撃破以降、各地の生物達の動きが急速に鎮静化し、中にはショック死したと思しき個体まで報告されている。

大型個体を撃破した際に群れに混乱が生じる特性は以前から確認されていたが、奴らはやはり、各々が集団の長と極めて強く結びついた生物だったらしい。

今回撃破した超大型個体が、正体不明生物全体の元締めだったということだろう。

 

キサラギも最精鋭を多く失い、多大な出血を強いられたが、それでもこの未曾有の事態を終息できたのは幸いだった。

 

だが、レイヤードは今も、苦境に立たされている。

ミラージュもクレストも、異常事態の頻発に右往左往するばかりだ。

しかし我々キサラギは、このまま管理者の気まぐれに踊らされ続けるつもりはない。

 

今回の事態を収めた君の力は、今やこの地下世界において確かな頭角を現しつつあると我々は見ている。

近い内にまた、その力を借りる時が来るだろう。

 

その時は是非、協力してくれ。

 

なお、約束通り今回は特別に追加報酬を用意した。

AC用肩武装パーツ、KWM-AD-50だ。

自由に使ってくれて構わない。

 

以上だ。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 




今回死亡した"デルタ1"は、ゲーム本編だと"スキュラ"という名前の僚機でした。
愛機の四脚AC"デルタ"は立体化もされています。
キサラギにエースが欲しいという思惑からこういう立ち回りになりました。
大幅な独自改変になっていますが、ご了承ください。
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