ARMORED CORE 3 Replay ~ Stray Crow~ 作:神父三号
今回もレーザーライフルとブレード装備です。
フレーバー程度ですので、武器と脚部以外は一切気にしなくても大丈夫です。
右腕部武装:MWG-XCW/90(90発レーザーライフル)
左腕部武装:CLB-LS-2551(緑ブレード)
右肩部武装:MRL-RE/111(多機能型肩レーダー)
左肩部武装:CWM-S60-10(10連小型ミサイル)
エクステンション:MWEM-R/24(2発発射連動ミサイル)
頭部:CHD-02-TIE
コア:CCM-00-STO
腕部:CAL-MARTE
脚部:MLR-SS/REM
ジェネレーター:MGP-VE905
ラジエーター:RMR-SA77
ブースタ:脚部に内蔵
FCS:AOX-F/ST-6
オプショナルパーツ:OP-S-SCR(実弾防御上昇)、OP-E/SCR(EN防御上昇)、OP-E/CND(ジェネ容量増設)、OP-L-AXL(ロックオン時間短縮)、SP/E++(EN武器威力上昇)
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レイヴン、極秘の依頼だ。
我が社が保有する超大型軍事研究船"オストリカ"の探索のため、自然区のアビア湾セクション711に向かってもらいたい。
報道を伏せていたが、先日からこのセクションの海域では温度管理システムの異常により大量の氷塊が発生しつつあった。
このままではオストリカの運用にも影響が出ると判断したため、同船は隣接セクションへの避難を図ったのだが、航行中に氷塊と接触し、半壊した状態で座礁してしまっている。
海面が凍りつくなどまったく予測がつかなかったとはいえ、ひどい失態だ。
船員はどうにか退避したものの、船内には研究物資が大量に残っている。
その中でも特に重要なのは、最深部にある機密カプセルだ。
我々も回収部隊を向かわせたが、船内の防衛システムが暴走して制御不能に陥り、大量の新型ガードメカが稼働している。
半端な戦力ではカプセルの持ち出しどころか、近づくことすらままならない状況だ。
依頼の目的は、もちろん機密カプセルの回収だ。
何が起ころうとも、このカプセルだけは回収してもらう。
また、可能であれば他の研究物資も破壊しておいてくれ。こちらは追加報酬の対象とする。
なお、カプセルの回収を確実なものとするため、今回の依頼に関しては特殊工作傭兵を同時に雇用する。
特殊任務のスペシャリストだ。彼女と協働し、必ず成功させてくれ。
船は損傷しており、いつ沈むかわからん。
失敗は許されないと思え。
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テスト場内のブリーフィングルームで、ソラは企業からの緊急依頼を確認していた。
買い直したレーザーブレードと新しい腕部"MARTE"のマッチングテストをしていたところだった。
《依頼主はミラージュ社。作戦区域は、第一層自然区アビア湾のセクション711区域です。成功報酬は31,000Cに加えて45,000C相当のACパーツ、研究物資の破壊数に応じて追加報酬もあり。予測戦力は、新型ガードメカが多数ですね》
「テスト中に依頼が来るのにも、もう慣れたな。それにしても……海に氷だって?そんなことありえるのかよ……レイン、画像はあるのか?」
《はい、現場の空撮写真でよければ》
備え付け端末に送られてきた画像を見て、ソラは言葉を失った。
以前ビルバオからの依頼で初めて見たアビア湾に大量の白い氷が浮いていて、そこに巨大な船が引っかかって傾いている。
この世の物とは思えない、非現実的な光景だった。
思わず眉間を揉み、まじまじと画像を見つめ直してしまう。
「……すごいな。何だこれは」
《私も、こんなアビア湾は初めて見ました。しかしこの依頼、もし探索中に船が沈没したら……》
「確かに"失敗は許されない"な。今回ばかりは、ミラージュの常套句ってだけでもないらしい。その証拠に、報酬を相当手厚くしてきてる。危険度の表れだろう」
ブリーフィングルームに重たい空気が満ちる。
携帯端末の向こう側で、レインが息を潜めてソラの回答を待っていた。
「…………受ける。輸送機の用意だ、レイン」
《よろしいのですか?座礁船の探索任務というのは私の知る限り前例が無く、不確定要素が多過ぎます。オペレートも外観把握とACのデータ越しにしかできません。もし失敗すれば……》
「失敗すれば死ぬ、なんてのはどんな依頼でも言えることだ。不確定要素云々もな。それに特殊工作傭兵の女……多分"デュミナス"だ。アレグロやバレルダムの件で腕は知ってる。こいつとの協働なら、そこまで危ない橋でもないだろう」
《……分かりました。すぐに手配を》
「悪いな、レイン」
《いえ……ですが……レイヴンに提案があります》
「提案?」
基本的に依頼遂行に口を挟まないレインにしては、珍しい言葉だった。
《できればフロート脚部で依頼に臨んでください。船体の沈み方やACの損傷次第では、作戦終了後の回収が海上になる可能性があります。輸送機も通常の輸送機ではなく、ACの吊り上げ回収が可能な戦略輸送ヘリを使用します》
「……確かに、氷の上に乗って回収を受けるわけにもいかないな。今回はフロートが適任か……テストはしてあるから実戦投入は可能だ」
レインの提案には、確かな説得力があった。
作戦が成功しても脱出がギリギリになった場合、二脚では思うように回収作業ができない場合がある。
迅速な作戦遂行が求められるのもあって、レインの言う通りに、機動力と浮遊機能を持つフロートが適任な任務に思えた。
しかしそれと同時に、いつものレインらしくないともソラは思った。
専属補佐官として、彼女が直接的にソラのアセンブリに助言を出すのはこれが初めてだった。
極めて特殊な状況下の危険な作戦に、思わず意見を出してしまったのか。
「……もしかして、心配してくれてるのか?」
《……いえ、レイヴンの腕は信頼しています。ですが、万が一ということがありますので……》
「そうか……分かった」
レインの言葉に、ソラは神妙に頷いた。
現場で命を賭けるのは、確かに自分だ。
だが、その命を賭ける自分のことを、心配してくれる人がいる。
傭兵にとってそれは、得難い物だった。
「レイン」
《……はい》
「ありがとう。きっちり稼いで戻ってくる」
《……了解です、レイヴン》
下手をすれば海中から帰ってこれないかもしれない。
砲弾をくらってコクピットを吹き飛ばされるより、辛い死に方をするかもしれない。
それが分かっていてもなお、ソラは携帯端末から響く綺麗な声に笑みをこぼした。
レインの心遣いが、嬉しかった。
………
……
…
グローバルコーテックスの戦略輸送ヘリは、ACを2機までそのまま懸架して運ぶことができる、ヘリとしてはかなり大型のものだ。
いつも使っている双発式戦略輸送機のようなきちんとした格納庫はないものの、ジェット機では対応できない局面でもACを投下、回収できる優れものである。
夕暮れのアビア湾を――"海"をソラが直に見るのは、これで2度目だった。
だがビルバオの依頼で来た時と違い、今の海には大量の異物が浮いていた。
水温管理システムの異常の結果発生した、夥しい数の氷塊。
そして、その氷塊に引っかかって傾く巨大な船舶。
コクピットモニターの温度計も、氷点下を指している。
これもまた、前例の無い管理者のシステム異常によるものだろう。
《レイヴン、ミラージュの研究船"オストリカ"まであと500です。降下準備に入ってください》
「ああ。降下は、オストリカ手前の水上だ。特殊工作傭兵と合流しないとな」
《……接近する輸送ヘリを確認。通信がありました。作戦を開始するとのことです》
「了解、行ってくる」
《……船内の状況は不明です。くれぐれも注意してください》
肩部を固定していた器具が外れ、ACが海面へと降下した。
ストレイクロウのフロート脚部"SS/REM"の内蔵ブースタが緩やかに噴射を開始し、そのまま水中へ没するのを防いで、浮遊状態に入る。
フロート脚部の最大の特徴だ。
常時起動する小型ブースタ群がジェネレータ出力を一部占有することで、常に浮遊することができる。
フットペダルを踏み込んでわざわざブースタを吹かさずとも重量級AC程度の機動性は発揮することができる上、走破性能にも優れた特殊な脚部である。
ソラにとってフロート脚部は、初めての実戦投入でもあった。
隣の輸送ヘリからも、白銀色のフロートMT"カバルリー"が降下してくる。
《こちらデュミナスだ。レイヴン、君とはバレルダム以来だね。よろしく頼むよ》
「こちらストレイクロウ。やっぱりあんただったな。こっちこそ、頼りにしてるぞ」
《レイヴン、輸送ヘリは2機とも船体外観の監視をさせます。異常があれば伝達します。……甲板上の管制パネルを破壊してください。中へ侵入できるはずです。侵入後は、ミラージュのマップデータ通りに進行を》
レインがソラのコクピットに、侵入口のスポットとマップデータを送ってくれた。
奥まで行って、カプセルを取って帰ってくるだけの任務だ。
だが、いつ訪れるともしれない制限時間との勝負でもある。
「了解。行くぞデュミナス」
《待って。その前に、お互いの意識共有をしておきたい。2つだけ、確認しよう》
「意識共有?」
《1つ。戦闘は基本的にレイヴンが先行して行うこと。私のカバルリーは今回、回収作業やゲートアクセスに備えた特殊装備を搭載している。申し訳ないけど、戦力のあてにしないでほしいんだ。2つ。カプセルを回収後、格納はACにすること。防御スクリーンの堅牢さを考えればその方が確実だ。万が一を考えて、ね》
「……了解した。こういう任務はあんたの方が専門だ。できる限り、指示には従おう」
《よし、じゃあ始めるとしようか》
ソラはレーザーライフルで甲板の管制パネルを破壊して、オストリカ内部へデュミナスと共に侵入した。
縦に長い通路内をひたすら降下していく。
「マップデータ表示……最深部がカプセルか。脇道のTARGETマークは……」
《依頼メッセージにあった、その他の研究物資です。可能であれば破壊するようにとのことでした》
《どれほどの時間的猶予があるかもわからない。行きは全て無視した方がいいね。帰りに時間の余裕がありそうなら、破壊しよう》
「そうだな。それがいい……ん?」
作業MT用に広く造られた通路、その曲がり角を曲がった時だった。
ローターと砲口を2つずつ装備した浮遊型ガードメカがレーザーを飛ばしてきた。
1発貰ったが、即座に反撃のレーザーライフルで撃ち落とす。
メッセージにあった新型ガードメカらしい。
確かに、従来の浮遊型に比べれば重武装に見えるが、それでも所詮はガードメカである。
ACにとっては、なんら脅威にはなりえない。
「この程度のガードメカなら、問題じゃないな」
《それはどうかな》
「何?」
《レーダー表示を最大範囲にしてみると分かる》
「ん……これは」
デュミナスの言う通りにレーダー範囲を広げると、数十ではきかない数の敵影が表示された。
さすがに数が多過ぎる。全て先ほどのガードメカと同じとすると、厄介だった。
《とはいえ、基本的にはルート上の目についた敵をしとめていけばいいだけだよ。急ごう》
「……了解」
その後、ソラとデュミナスは部屋を3つ4つ通り過ぎ、そのたびに沸いてくるガードメカを撃墜しながら、さらに奥深くへと進んだ。
外観からもこの船が巨大であることは分かっていたが、それでも予想以上の広さがあった。
通路も区画も、数が尋常ではない。
「こんなデカい船で、一体何を研究してたんだ?この鬱陶しいガードメカだけか?」
《何だ。一介の傭兵なのに、そんなことを気にしているのかい?》
「……悪いかよ。ちょっと気になっただけだ」
《まあ、着眼点は悪くないね。わざわざガードメカを作るのに、こんな大がかりな研究船をこしらえる必要はないだろうし。産業区に研究所を作ればいいだけだから》
「じゃあ、何で?」
《……おそらくその答えが、今回の作戦目標である機密カプセルということさ》
デュミナスは、今回ミラージュが回収を命じてきたカプセルについて、何か察しがついているようだった。
だが、ソラには皆目見当もつかなかった。
ミラージュが自然区のアビア湾にわざわざ大型船舶を建造してまで研究するものなど、まったく予想もつかない。
そんなやり取りをしている間に、また開けた区画に入った。
大量のコンテナが散乱している。どうやら、研究物資の格納庫らしい。
そして例の如く、新型ガードメカがローター音を響かせつつわらわらと寄ってくる。
レーザーとロケットの嵐が、先に部屋に突入したソラのストレイクロウに降りかかってくる。
だが、フロート脚部の機動性にはそうそう当たるものではない。
軽く機体を左右に揺らしているだけでメカ達は挙動を追いきれず、当たらない虚しい射撃を飛ばしてくる。
「数だけ多くてもな」
レーザーライフルによる、一射一殺。
ローターや胴体部を撃ち抜くたびに、装甲らしい装甲を持たないガードメカは簡単に爆散して地に落ちていく。
やがて、また1つの部屋が静かになった。
「よし、クリア。進むぞ……ん?」
《ゲートチェック。防衛システム作動中。ロック解除できません》
奥へと続くゲートの機械音声が、ソラのACの頭部COMに拒絶反応を返してきた。
何度アクセスを繰り返しても、結果は同じだった。
《私の出番だね。任せてもらうよ》
デュミナスがそう言ってカバルリーからワイヤーを伸ばし、ゲート横の管制パネルに取りつけた。
待つこと30秒。管制パネルが物言わずに、ゲートを開き始めた。
「さすがだ」
《いや、そうでもない。さすがなのは、この船の方だよ》
「は?何が……」
ソラが聞き返した瞬間だった。
天井の照明が一斉に赤く点灯し、船内に警報音が鳴り響いた。
《侵入者発見、戦闘態勢に移行。侵入者発見、戦闘態勢に移行。ゲートセキュリティ、S-1へシフト。ガードメカ全機発進。乗組員は所定のエリアに退避してください。侵入者発見、戦闘態勢に移行。ガードメカ全機発進。乗組員は所定のエリアに退避してください》
「おいおい」
《どうやら一定以上のセキュリティレベルを持った管制パネルをハッキングすると、自動的に防衛システムが激化するらしい。よく出来ているね》
「感心してる場合かよ……来るぞ!」
レーダーに表示されていた敵影が一気に2倍近くに膨れ上がった。
静かになったばかりのこの部屋にも、天井近くのハッチから新手のガードメカが沸き出してくる。
ソラはある程度のガードメカを叩き落とした後、らちが明かないと見て肩ミサイルを起動し、各ハッチを吹き飛ばした。
「急ぐぞ!あんたを護衛しながらだとジリ貧だ!」
《それがいい。迅速に進もう》
通路へと入り、出迎えの自律砲台を破壊して、さらに次の部屋に進む。
その区画でも、ガードメカが大量に待ち構えていた。
立ち入った直後のストレイクロウに向けて、容赦のない弾幕が見舞われる。
1発1発は大した威力ではないものの、集中砲火を受け続ければ、フロート装備のACではAPが心配になってくる。
ソラはフットペダルと操縦桿を巧みに操り、広くはない区画を縦横無尽にフロートで駆け抜けた。
旋回性能の低いガードメカは、ストレイクロウが大きく移動すると追いきれず、射撃を止めてしまう。
そこを狙って、1機ずつ確実にしとめていく。
ブースタを吹かしたフロート脚部の機動性は、中量二脚のそれとは比べものにならない。
止まりさえしなければ、自律制御メカ程度ではまともに捕捉することすら困難だった。
そうこうしている内に、部屋の敵の数が減ってくる。
頃合いを見計らって、ソラはまた天井付近の出撃ハッチをミサイルのマニュアル射撃で潰した。
これでもう、増援が現れることはない。あとは、残敵を片づける。
「……終わったぞ、デュミナス!次のゲートを開けてくれ!」
《了解。……セキュリティレベルが上がっているね。ミラージュの責任者コードを要求するようになっている。だが、抜け道はあるものさ…………よし、開いた》
2つ目のゲートをくぐり、3つ目のゲートもくぐり、さらに奥へ奥へと進んでいく2人。
もう目標は目と鼻の先だった。
「マップデータだと、この通路を行けば最深部だ。何とかなっ……っ!?」
ソラとデュミナスが最深部へと続く通路を駆けている時だった。
急に通路に亀裂が入り、ブシャーと猛烈な勢いで海水が流入し始めた。
《レイヴン、船体の傾きが徐々に大きくなっています!目標の回収を急いでください!》
「ミサイルを撃ち過ぎたか……だけどもう最深部まで来てる!すぐに帰れる!デュミナス、最後のゲートだ!」
《分かっている。焦っちゃだめだレイヴン、こういう時こそ落ち着いて行動するものだよ》
「あのな……」
マイペースに冷静に、デュミナスは最後のゲートを開いた。
最深部には、カプセルがいかにも厳重に保管されていた。
デュミナスがカバルリーから飛び降りて、カプセルが保管されている装置へと向かう。
「無理やり取り出して大丈夫なのか?」
《大丈夫なわけないね。だが、ミラージュから提供されているシークレットコードがある。…………クリア。レイヴン、これが目標の機密カプセルだよ。腕部インサイドに格納しよう。防御スクリーンを切ってくれ》
「分かった。作業を手伝う」
《いや、いい。こういう時のための特殊装備だ。私の愛機に任せてもらう。フロートの浮遊機能を一時中断、接地してくれ》
「了解」
デュミナスがカバルリーに戻り、ワイヤーをソラのストレイクロウの腕部に引っかけて、特殊装備を起動する。
カプセルは人間と同じくらいの大きさだった。
それがカバルリーからゆっくりと、ストレイクロウの腕部インサイドへと運搬されていく。
その時。
ゴゴンッと、船内に鈍く嫌な音が響いた。
そして、ほんの少しずつだが、船内の傾きがソラ達の居場所にも影響を与え始める。
視界が、斜めになりつつあった。
「やべぇ……!デュミナス!」
《格納完了。さあ……ここからは、時間との勝負だ》
「分かってるよ!行くぞ!」
来た道を、ストレイクロウとカバルリーは全力で引き返した。
ハッチを潰した部屋には新手のガードメカはおらず、素通りできたが、通路にはどこからか大量のガードメカが沸いていた。
船体の傾きが激しくなってきている。
「デュミナス、全機撃破は無理だぞ!大丈夫か?」
《問題ない。数を減らしてくれれば、かわすくらいは出来るから》
カバルリーの盾となりながら、レーザーライフルのトリガーを引きっぱなしにして、ストレイクロウは通路を突っ走った。
そして、研究物資の格納庫に入った時。
先ほどまでのガードメカとは違う、見慣れないメカがこちらに向かってきた。
そして、何やら卵のような物を大量に発射し始める。
「……!?」
《機雷だ!飛べ!》
デュミナスの声で、ソラは反射的にフットペダルを踏み込んだ。
瞬間、床で爆発が連鎖し、研究物資のコンテナが木っ端微塵に吹き飛ぶ。
「ふざけたもん作りやがってミラージュ!」
ソラは毒を吐き、レーザーライフルで機雷散布メカを次々と落とす。
爆発する機雷とレーザーの応酬で、格納庫の研究物資が次々に消し飛んでいった。
それだけではない。機雷の数と威力故か、格納庫でも浸水が目に見えて起き始めた。
《キリがないね……レイヴン、突っ切ろう!》
「そうするか、クソっ!」
《船体が折れ曲がっていきます!レイヴン、もう時間がありません!早く!!》
レインの切羽詰まった通信。
襲い来るガードメカを無視して、ソラとデュミナスはひたすら素早く戻った。
通路を曲がる度に、船体の傾きが激しくなっていくのが分かる。
もはや、機体が斜め45度で走っているほどだった。
そして、最初に下りた縦に長い通路。
既に縦の通路ではない。横向きになっている。
船体がVの字に割れて沈み始めているのだ。
通路の先に見える夕焼け空が、下がっていくのが分かる。
まずい。このままだと間に合わない。
ソラはそう思った瞬間、デュミナスに通信を入れた。
「デュミナス!防御スクリーンを切る!ACのコアにワイヤーをかけろ!」
《何だって!?》
「オーバードブーストだ!早く!」
《なるほど……いいよ、頼んだ!》
「行けえっ!!」
操縦桿横のレバーを握りしめて、オーバードブーストを起動。
さらにフットペダルを踏み込んで通常ブースタも動かし、加速力を増加。
カバルリーを引っ張りながら、ソラのストレイクロウは出口に向けて猛進した。
そして2機が外に飛び出した瞬間、侵入口には水が激しい勢いで流入し、オストリカの沈没が早まった。
《レイヴン、無事ですか!?》
「ああ、なんとかな。死ぬかと思ったけど……」
間一髪の脱出劇に、思わずコクピットシートに背をもたれて息を吐くソラ。
そんなソラに、デュミナスが通信を繋いできた。
《レイヴン……最後、私を助けようとしなければもっと確実に脱出できたはずだ》
「え?」
《カプセルは君に預けてあった。私のMTを牽引して、もし脱出できなかったらどうするつもりだったんだ?》
「……あー。そうだな、デュミナスの言う通りだ。でも、あんただって、ワイヤーを俺に繋いできただろ。結果的に、俺は助けた。あんたは助かった。作戦も成功した。だからそれで終わりの話だ」
《……ふっ、なるほど。それもそうだ、一本取られたね。確かに、私も死にたくなかった。海に呑まれて死ぬなんてごめんだったよ》
「だろ?だから、いいじゃねえか。両方助かったんだから」
《まあ、そういうことにしておこうか。……礼を言うよ、レイヴン》
「ん」
巨大船オストリカは、真っ二つに割れて折れ曲がり、そのままみるみるうちに海の中へと消えていった。
ソラはその様子を眺めながら、海に想いを馳せた。
凍り付いた海。その下にこれほどの巨体が沈めば今の技術力ではもう二度と、引き上げることはできないだろう。
そう考えると、海は怖い物だと思った。
雄大であるが故に、底知れない怖さがある。
自分やデュミナスも、あと一歩遅ければ、その海に引きずり込まれていたのだ。
《レイヴン、作戦は終了です。お疲れ様でした》
「ああ。レインもお疲れ様。今回フロートにしてよかったよ。レインさまさまだな」
《いえ、私は……とにかく、無事で何よりでした》
「おう。それじゃ、帰ろうか」
その後、ソラはデュミナスに機密カプセルを渡し、輸送ヘリに吊り上げられて帰還した。
………
……
…
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FROM:ミラージュ
TITLE:礼状
レイヴン、オストリカでの働きは見事だった。
礼を言おう。
今回回収してもらった機密カプセルは、我が社にとって決して失うことができないものだった。
中身を明かすわけにはいかないが、これの回収に成功したのはお前の評価を大きく高めたと言っていい。
オストリカを襲った大量の氷塊といい、昨今の停電やセクション封鎖といい、管理者はその管理能力を急速に衰えさせているように思える。
そしてその結果は、知っての通り、我々企業やレイヤードに住む市民への被害に直結する。
やはり、この地下世界の全てを管理者に依存する体制は間違いなのだ。
管理者が不要と言うわけでは、決してない。
しかし、管理者をよりよく活用するための方策を、我々は考えなければならない時期に来ていると言えよう。
なお、今回の成功報酬として、パーツをガレージに送っておいた。
AC用右腕武装パーツ"SBZ/24"だ。好きに使うがいい。
お前の数々の働きには、我々としても目を見張るものがある。
今後とも、我が社への貢献を期待する。
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………
……
…
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FROM:デュミナス
TITLE:レイヤード
座礁船の探索では世話になったな。
今回の機密カプセル、あれはおそらくこの世界そのものに影響を与える代物だと私は見ている。
でなければ、ミラージュがわざわざ自然区に船を浮かべて極秘の研究などするわけもない。
あれが何なのかはいずれ分かることだろう。
その時にはおそらく、また私か君か、あるいはその両方が関わることになるはずだ。
あくまで、私の直感だが。
レイヴン、君は気づいているか。
自分達が徐々に、レイヤードの未来と関わり始めていることを。
最近の異常事態の頻発。
このレイヤードはもはや、適切に管理されつくした世界ではなくなりつつある。
ただの傭兵――もうそういう風には生きられない時代がそこまで来ているかもしれない。
傭兵としての評価が良くも悪くも高まれば高まるほど、私達はこの世界の困難に直面するのだから。
身の振り方には、十分気を付けることだ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
「……俺が、レイヤードの未来と……」
深夜2時。
特殊工作傭兵から突如送られてきたメールに、ソラはベッドの上で首をかしげた。
寝ぼけ眼を擦って欠伸を噛みしめながら、デュミナスのメールを咀嚼しようとする。
だが、抽象的なその内容は、眠気に脅かされるソラにはあまり深く理解できないものだった。
元々、デュミナスは謎めいた女性だった。
特殊工作傭兵で、特殊任務を専門に受ける凄腕ということ以外、ソラはよく知らない。
どんな思想や過去があって、そんな危ないことをしているのかも知りはしないのだ。
知らないことは分からない。眠たい今、考えてもしかたがない。
というよりも、考え込んだら眠れなくなりそうだと直感した。
睡眠は、取れる時に取らなければならない。
思考を巡らせるのは、起きてからでいい。少なくとも、今この瞬間は。
ソラは携帯端末を枕元に放り、また目を閉じて、寝息を立て始めるのだった。
実はゲーム本編では、フロートで行くと色々なところに引っかかって逆にしんどいミッションです。
あと、どうみてもこの船雪山に埋まっています。座礁とは一体。