ARMORED CORE 3 Replay ~ Stray Crow~   作:神父三号

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元祖ダブルトリガーと戦闘です。
武装は500マシと投擲銃になります。


VS C-5トラファルガー

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

FROM:リップハンター

TITLE:よろしく

 

お久しぶりです。グラン採掘所争奪戦以来ね。

先日レイヴン試験をパスしました。

 

これからはレイヴン同士ということになります。

敵か味方かいずれにせよ、戦場で会うことがあれば、その時はよろしく。

 

それでは。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「ほー。リップハンターがついにレイヴンにねぇ……」

「俺のMT乗り時代の先輩も大騒ぎしてたよ。ミラージュ派閥のMT傭兵ではトップだった奴だし」

「知ってらぁな。ワシも古巣はミラージュじゃ。ツテから有力者の情報は入ってくる。これでミラージュはあのB-2ランカー"ファンファーレ"に並ぶ看板を手に入れたわけだ」

 

ガレージのハンガーでコクピットの調整をしながら、ソラはチーフのアンドレイと雑談をしていた。

過去に協働したこともある、MT乗りの傭兵からのレイヴン就任のメール。

リップハンターはミラージュ寄りで知られる、腕利きの傭兵だ。

クレスト寄りのスパルタンと同様に、MT乗りの間では強者として名高い。

 

「とは言っても、いきなりバリバリやるのは無理だろ。初期配備ACからパーツを入れ替えていこうとしたら、いくつ依頼こなさないといけないかって話だ」

「ふっ、甘いの若造。このレベルの有名どころになると、違うんだわ」

「へ?それってどういう……」

「リップハンターの開示情報見てみ」

 

ソラはアンドレイに促されるままに、携帯端末でリップハンターの情報を検索する。

レイヴンになれば、機体の名前からアセンブリ、依頼遂行率その他に至るまで、多くの情報がレイヤード中に常時開示されるのである。

リップハンターのACの名前は"ルージュ"。カラーリングは白色と桃色を基調にした機体だった。

そして、その構成は当然初期配備品――

ではなかった。

 

「……なんだこれ。メールが来たのは昨日だぞ。なんでもうこんなにアセンが完成してるんだ?」

「わはは、やっぱりな。片っ端からミラージュ製じゃ」

 

ルージュのアセンブリには、初期配備ACの面影は既に微塵もない。

レーザーライフル、ブレード、最高位レーダー、イクシードオービット内蔵コア。

そしてルグレン研究所で暴れた謎のACが使っていた肩武装、オービットキャノン。

病院でのレインの話によれば、開発が成功したばかりの最新鋭の品だったはずだ。

 

「リップハンターと言えば、ほぼミラージュ専属。当然、レイヴンになればミラージュは手厚く支援する。それだけのことよ」

「企業に近い傭兵の強みってわけか……なんかズルいな。いきなりこんな機体に乗れるなんて」

「まあ、渡り鴉としてのレイヴンの理想からは外れとるかもな。だが、お前さんも企業からの恩恵は一定受けとるがの」

「?」

「アリーナの特別褒賞よ。あれはコーテックスの厚意100%で配られとるわけじゃない。企業のレイヴンへの媚び売りの意味もある。コーテックスは企業とレイヴンの仲介をする都合上、両者にある程度の距離は置かせるが、支援を受けることについてはとやかく言わんからの」

「ああ……なるほど」

 

そう言われて、ソラもこれまで多くのパーツの供与を各企業から受けてきたことを思い出した。

だいたいのパーツは売るなどして早々と手元から手放したが、肩部ミサイルユニットと高出力ジェネレーターについては今でも愛用している。

ソラ自身、リップハンターの優遇を咎められるほどに企業の思惑から潔白というわけではないのである。

 

「同じような例だと、ビルバオの奴も最初からアセンを弄り倒してたな。あれは富裕層の支援らしいが」

「根無し草よりも、何らかのコネクションがある方が有利。どんな業界でも当たり前の話じゃな。ぽっと出なんぞ、そう簡単には信用されん。そもそも、傭兵のキャリアでいえば20そこらのアンタよりリップハンターの方が遥かに上だろうしの」

「俺も一応MT乗り時代はクレスト寄りだったんだが……そういや、リップハンターっていくつなんだ?」

「レディの歳を気にするのは野暮よ。ほれほれ、それより機体の調整の続きをせい」

「……おう」

 

アンドレイに促されて、ソラはコクピットモニターに視線を戻した。

機体構成変更後のテストや依頼遂行中で気になった箇所を、メカニックの助言の下でコンソールを使って修正していく。

もうすっかり日課となった、いつもの調整である。

こうしてアセンブリごとに微調整した数値の数々を記録しておけば、緊急で出撃する場合でも即座に違和感のないパーツ変更ができるようになる。

 

「しかし……あのリップハンターがレイヴン、か。スパルタンの旦那も、もうじき本当にお声がかかるかもな……」

 

ピー。ピー。

 

携帯端末が着信音を響かせた。メールである。

片手でコンソールを叩きながら、その内容を確認する。

 

「ん?……もう次?」

 

ソラは思わず声をあげた。

携帯端末には、管理者からメールが届いていた。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

FROM:管理者

TITLE:アリーナ参加要請

 

C-9ランカー"ソラ"に、アリーナにおけるオーダーマッチへの参加を要請します。

対戦相手は、C-5ランカー"トラファルガー"となります。

 

勝利報酬:128,000C(別途褒賞あり)

 

参加手続きを専属補佐官に確認し、指定の日時にアリーナ用調整ガレージA-2へ出頭してください。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

………

……

 

 

ソラは機体の調整を終えてレインに連絡を取った後、ブリーフィングルームに入って備え付け端末を起動した。

レインがブリーフィングに指定した時間は珍しく、夜遅くだった。

 

《今回の対戦相手は、C-5ランカー"トラファルガー"です》

「前に立体駐車場で協働したレイヴンだな。ステルスMTに完璧に対処していたから、覚えている」

《機体は重量二脚AC"ダブルトリガー"。武器の構成は……イクシードオービット内蔵コアに、2丁拳銃を装備することがほとんどですね》

「その言い方だと、決まりきった構成はないタイプなのか?」

《はい》

 

レインがソラの目の前の端末にデータを送信してくる。

対戦相手であるトラファルガーの過去10戦ほどの対戦記録のようだ。

 

《トラファルガーはAC本体のパーツ構成こそ大きく変更しませんが、その代わり頻繁に武装を変えるレイヴンのようです。過去のアリーナにおいても使用した武装は数多く、ライフル、ショットガン、バズーカ、パルスライフル、プラズマライフルなど多岐に渡ります。肩武装についても同様で、各種ミサイルとロケットを巧みに使い分けています。開示情報の履歴を見ていくと、依頼についても同じ傾向が見られるようですね》

「多様な任務や相手に上手く対応する、レイヴンらしいレイヴンって感じだな。俺も武装は結構変えるタイプだが、今までのアリーナで事前情報から武装を変えてきたのは案外EランカーのツインヘッドWくらいしかいなかった」

《依頼遂行数、遂行率共にCランクの中でも非常に優秀なレイヴンです。現場重視、とでもいうべきでしょうか。どの企業にも特別加担せずに、満遍なく依頼をこなしています。このCランクアリーナについても、勝率は比較的高いですね》

 

ソラは手元の携帯端末でもトラファルガーの開示情報を調べた。

現在の武装は対ACライフルと拡散投擲銃、そして垂直ミサイルだ。

だが、レインの話を聞く限りではこの情報は参考にならない可能性が高いだろう。

 

《しかし左腕武装については、理由は不明ですが拡散投擲銃で常に固定しています。よって、必然的に右腕の武装は投擲銃のレンジに合った、近~中距離型になると予測しています》

「重量二脚で近距離戦狙いか……なら、こっちは思いきって旋回戦に持ち込んだ方がいいな。機体構成は機動力重視にして、武装はマシンガンと投擲銃……接近までの牽制は、連動ミサイルで……」

《…………》

 

ソラが頭の中で機体構成を練る間、レインは静かに口を閉ざしていた。

 

「よし、だいたい方針は決まった。レイン、他に補足情報はあるか?」

《……いえ。特には…………すいません、1つだけあります。実は……前回のOX戦以来、Cランク以上でオーダーマッチが組まれるのは今回が初めてになります》

「……何だって?」

《以前、上位ランクレイヴン達のマッチが組まれなくなったという話をしたのは覚えていますか?》

 

もちろん覚えていた。

オーダーマッチの開催傾向が変わってきているという件だ。

頻度こそ変わらないものの、Cランク以下でしかアリーナが開催されなくなり、Bランク以上はマッチングがなくなったとレインから聞いていた。

 

《あれから2週間ほど経過しますが、レイヴンが前回OXと戦って以降、Cランクのオーダーマッチも皆無になっていました。この期間でオーダーマッチが組まれたのは全て、DランクとEランクになります》

「……MT乗りのリップハンターがレイヴンになったという知らせは受けた。今、そんなに新人レイヴンが頻繁に補充されているのか?」

《上位ランクでも依頼で死亡するケースが以前より起こり始めているのは確かです。ですが、やはりオーダーマッチを不自然に偏らせる必要があるほどとは思えません。それも、B以上のみならずCまでも……》

「なのに、俺はCランカーと連戦。つまり、今Cランク以上でアリーナをやっているのは、俺とその対戦相手だけか」

《……はい》

 

レインが沈んだ声音で応答する。

ソラは腕を組み、俯いた。

アリーナにおけるオーダーマッチの組み合わせは、管理者が決めている。

ならばこういった異常な状態になっているのは、管理者の意思によるものだということだ。

 

《……本件に関連して、コーテックス上層部から諮問を受けました》

「レインが?」

《ええ。あなたの周辺について、最近何か変わったことはなかったかと》

「…………」

《もっとも、管理者に選ばれてあなたの専属補佐官になった私には、諮問に対する一定の拒否権があります。直近で受けた依頼の概要しか……データベースで調べれば誰でも把握できる内容しか話していません。……例のユニオンから送られてきたメールについては、伏せました》

「……悪いな、レイン。俺が迷惑をかけてるみたいだ」

《いえ、私は構いません。それより、レイヴンの方です。正直に話しますと、コーテックス内であなたは今……上手く言えませんが、良くない目立ち方をしつつあります》

「管理者が、俺だけに配慮したようなオーダーマッチを組んでいるように見えるからか。しかも飛び級のマッチだから、余計に目立つ」

《アリーナに注目しているレイヴンはかなりの数います。特にCランク以上は、この異変の当事者です。気付いている可能性は高いでしょう。各企業もアリーナの対戦結果は欠かさずチェックしています。……それらを踏まえて、補佐官の立場からの意見を言いますが……》

「…………」

《アリーナの棄権を……考えてもいいのではないでしょうか》

 

ミラージュのファルナ研究所でのモノレール防衛。

クレストのルグレン研究所での所属不明ACとの戦闘。

それらで起こった謎の通信。ユニオンからのメール。"実働部隊"の存在の示唆。

レイヤードにおける異常事態の頻発。

そして、現在のアリーナにおけるオーダーマッチの不自然な偏り。

管理者からソラに向けられた、視線――

 

ソラは頭を抱えた。

レインの言うことも、もっともだった。

管理者の異常なのかあるいは作為なのか分からないが、自分が悪目立ちをしているのは確かである。

アリーナは制度上、棄権が認められている。

棄権による不戦敗は、通常の敗北よりも大きくランクが低下する。

今Cランクの下位にいるソラは、棄権すればDランクに下がる可能性が高い。

そうなれば確かに、悪目立ちの状況はマシになるだろう。

Dランク以下のオーダーマッチは正常に行われているのだ。

棄権して、その中に入ってしまえば。

 

だが、ソラの中で"何か"が囁いた。

ここで棄権することは、逃げではないのか。

管理者に背を向けて、逃げることになりはしないか。

そもそも、このレイヤードの偽物の空の下で、管理者から逃げられるものなのか。

逃げて、何になるのか。

ひたすら目指してきた本物の空から、遠ざかることにならないか。

根拠も具体性もない"何か"が、ソラに逃げるなと告げていた。

 

「レイン、俺は……」

 

 

………

……

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

FROM:トラファルガー

TITLE:どうする

 

アリーナの異常は、気づいているな?

 

お前はどうする気だ。

俺はどちらでも構わない。

向かってくれば、叩き潰す。棄権しても、咎めはしない。

 

どちらかを選べ。レイヴンならば、己の意志でな。

 

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TO:トラファルガー

TITLE:逃げない

 

キサラギの依頼では世話になった。

あんたを倒して、俺は上に行く。

 

勝負だ。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

………

……

 

 

アリーナ当日。

調整用ガレージからアリーナへと、ソラを乗せたAC"ストレイクロウ"が搬入された。

戦場へと繋がるゲートの前で、恒例の耳障りな警報音が響き始める。

 

ビー、ビー。

ビー、ビー。

ビー、ビー。

 

「……誰が逃げるかよ。見てるなら見てろ、管理者」

 

ソラはゲートを睨みつけて呟き、操縦桿を強く握りしめた。

 

ビーーーーーーー。

 

開いたゲートから、ストレイクロウがブースタを吹かして勢いよく駆け出す。

最高速度に達する前に、ロケット砲弾が正面から飛来してきた。

軽く操縦桿を傾けるだけで躱せる程度のそれは、しかし3発ずつが散らばりつつ間断なく撃ち込まれてくる。

トラファルガーの黒い愛機"ダブルトリガー"の肩に搭載された、3連小型ロケットだ。

当てるつもりで撃ってはいまい。接近するまでの間、少しでもこちらの動きを鈍らせればいいという意図によるものだろう。

 

「なら、こっちもだ!」

 

ソラは肩部ミサイルユニットと4連動ミサイルを起動し、距離を詰めてくるダブルトリガーをロックをかけていく。

敵は多重ロックにも臆することなく、正面から突っ込んできた。

重量二脚の運動性では、ロックを振り切ることは困難と諦めたのか、あるいは。

ロケットのお返しにと引き金が引かれ、ミサイルが束になって飛び出した。

しかし同時に、ダブルトリガーのエクステンションがミサイルを吐く。

迎撃ミサイルだ。爆発力の強いそれにミサイル弾幕が吸い込まれ、空中で虚しく爆炎を撒き散らす。

さらにもうもうとわき上がった煙を貫くようにロケットがばら撒かれてはストレイクロウの肩口に、足元に、着弾した。

お前の狙いなど分かっている。そう言わんばかりの激しい牽制。

そして煙を抜けて、ダブルトリガーがその重量級のボディを現した。

構えた2丁拳銃は、ショットガンと拡散投擲銃。

散弾の嵐が、ストレイクロウに襲いかかった。

 

「………っ!」

 

応戦のマシンガンを放ちつつ、突進してきたダブルトリガーの側面に回り込もうと、ソラがフットペダルを踏み込みブースタを全開にする。

ばらけた榴弾が、加速するストレイクロウの周囲で爆発し、さらにショットガンが火を噴いて機体を揺らしてきた。

今回装備している中量脚部"MX/066"は、機動性を高めるために軽量化されており、その分被弾時の安定性が高くない。

つまり当てさえすれば、小口径の散弾と拡散榴弾のストッピングパワーだけでも十分に旋回戦法を妨げることが出来る。

機動性重視とはいえ中量脚部相手ならば、旋回性に劣っていても広範囲射撃で命中が見込めると言う判断だろう。

遠距離では3連ロケット、近距離では散弾で敵の足を止めて、徐々に削る。

トラファルガーの戦い方は理に適った、そしてソラのアセンブリと戦法を見透かしたものだった。

まさに、実戦重視の傭兵と呼ぶに相応しい勝負勘。

 

「……おもしれぇ!」

 

ソラは格上の相手の力量に奮い立ちながら、左腕の投擲銃を放った。

頭部付近への直撃によって、ダブルトリガーの弾幕が一瞬だが途切れる。

その隙を突こうと大きく回り込むストレイクロウ。

だが、トラファルガーは自機を旋回させつつ後ろに下がらせて、回り込みを制してきた。

必然的に正面から撃ち合う形になり、ソラは舌打ちしつつ操縦桿の引き金を引き絞る。

ダブルトリガーはさらにイクシードオービットを展開、低出力レーザーが高速で連射され始めた。

マシンガンと投擲銃、ショットガンと拡散投擲銃とレーザーが至近距離で撃ち交わされ、互いのAPを激しく削っていく。

だが、中量ACと重量ACが馬鹿正直な撃ち合いを続ければ、装甲で勝る重量ACの有利は否めない。

削れていくAP表示に一瞬目をやるソラ。

残り6200。敵は7300。やはり、ダブルトリガーが優勢だ。

こうなったら。

操縦桿からソラの手が離れ、操縦桿横のレバーを掴んだ。

 

「……行くぞ!」

 

オーバードブースト起動。

コア背部からせり上がった高出力ブースタがチャージ音を響かせ、急加速を開始する。

向かう方向は、斜め前方。トラファルガーのサイティングを振り切るように、突っ込んだ。

半ばすれ違う直前でブーストを切り、機動型脚部の旋回性能を活かして敵をロックし、素早くマシンガンを撃ち込む。

ダブルトリガーはロックサイトから逃れたストレイクロウを追おうと、細かく位置を調整しつつ旋回してくる。

そうして再びショットガンを突きつけられた瞬間、ソラはまたしてもオーバードブーストを使った。

瞬間的な加速によってまたもストレイクロウが敵の視界から姿を消し、ロックが追いついてくるまでに可能な限り攻撃をぶち当て、捕捉された瞬間にまたオーバードブーストで逃げる。

にわか仕込みの高機動戦法は幸運にも功を奏し、敵ACの翻弄に成功した。

咄嗟の閃きで編み出した、新しい旋回戦の形だった。

 

「……くっ、レッドゾーン……!」

 

APを逆転して圧倒し、そのまま3000近い差をつけた頃。

緊急加速の連続使用のせいでラジエータが悲鳴を上げ、ジェネレータの出力が低下して、思わずACの動きが鈍った。

ダブルトリガーが好機とばかりにこちらを正面に捉え、イクシードオービットを展開しつつ2丁拳銃で激しい反撃を見舞ってくる。

ストレイクロウも脚をばたばたと走らせながら、両腕の火器を撃ち鳴らした。

激しい被弾でコクピットが揺れる。ラジエーターは先ほどから警報を鳴らしっぱなしだ。

だが、ジェネレーターのエネルギー容量はじわじわと回復していく。

半分近くに戻ったところで、ソラは再度オーバードブーストに火を入れた。

 

「これで決めてやる!」

 

AP残り4000。敵は2000。

ソラは旋回戦を再開した。

先ほどのやり取りで新しい戦術の感覚は把握できた。

今度はオーバードブーストの噴射時間を必要最低限にして、慣性による移動を織り交ぜつつ、より効率的な動きを目指す。

ダブルトリガーはそれに対抗するように大きく後方へと下がった。

アリーナ場の壁際まで一気に後退し、ソラのオーバードブーストによる斜め前方への加速を阻止してくる。

再び、向かい合っての乱射戦になった。

だが、もう遅い。彼我のAP差が大きいのだ。

ダブルトリガーの旋回封じは一定の効果を上げたものの、一方で自分自身の逃げ場まで奪ってしまっている。

旋回性能で勝る相手に重量機が壁を背にすればもう、回避行動をとることは困難だった。

それでも、ダブルトリガーは両腕の火器とイクシードオービットを唸らせ、泥沼の撃ち合いをしかけてくる。

ソラはその撃ち合いに真っ向から応えつつも、敵の拡散弾頭が効果を発揮しきれない距離感を巧みに維持し続けた。

集弾性は、相手のショットガンよりもこちらのマシンガンの方が勝る。

イクシードオービットの連射力は凄まじいが、やはり精度が甘く、動き回っていれば連続で当たりはしない。

AP差が縮まりきらないまま、じわじわと状況は決着へと向かっていった。

 

「いける……勝てる……!」

 

トラファルガーは最後にはあがくようにショットガンから3連ロケットに武器を切り替え、拡散投擲銃と共に遮二無二ばら撒いてきたが、それも大して意味をなさなかった。

ソラは冷静にエネルギー管理をしながら、マシンガンと投擲銃をロックした敵ACに撃ち込み続けた。

敵AP残り800、600、400、200――

 

ブォーーーーーーー。

 

決着はついた。

C-5ランクの歴戦の傭兵"トラファルガー"を下し、勝利をこの手に掴んだ。

ソラは戦闘の高揚で上がった体温を冷まそうとパイロットスーツの襟を着崩し、大きく息を吐いた。

膝を折った敵ACから噴き上がる黒煙。モニターに踊る"WIN"の文字。

 

「……よっしゃあっ!」

 

ぎゅっと拳を握り、勝利の余韻を噛みしめるように、吼えた。

今この瞬間だけは、ソラは純粋に1人の戦士としてアリーナに立っていた。

 

 

………

……

 

 

その日の午後、ソラは整備班がいつもの大騒ぎを繰り広げるガレージから離れて、ブリーフィングルームに1人で入った。

 

「……もしもし、レインか?今、大丈夫か?」

《ええ、試合見ていました。勝利おめでとうございます、レイヴン》

「ああ、ありがとう。おかげさまで今回も何とかなった。ガレージじゃ、いつも通りのどんちゃん騒ぎやってるよ」

《でしょうね……ですがその祝勝会の最中に、何かあったのですか?》

「宴会は抜けてきた。……ちょっと酔いも冷めるメールが来てな」

《メール?》

「"ユニオン"からだ。あいつら、ついに大きく動くらしい。依頼があったら、すぐに教えてくれ」

《……了解しました》

 

通話を終えた携帯端末を操作し、先ほど届いたメールを睨みつける。

ガレージで大笑いするアンドレイのしわがれた声が、ブリーフィングルームにまで響いてきた。

だが、もう宴を楽しむ気分ではなかった。

 

「……管理者」

 

ソラはぽつりと呟く。

地下世界レイヤードの、神の名前を。

その呟きに応える者は、誰もいなかった。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

FROM:ユニオン

TITLE:管理者の真実

 

突然の電力供給の停止、セクションの強制封鎖。

生態系の暴走、自然環境の激変。

 

レイヤード各地では、次々と多くの異常が発生し、今この時にも被害が広がっている。

この世界は、もはや管理者による理想郷ではない。

 

我々はここに管理者の真実を明らかにする。

ついに、本格的な行動を開始する時が来た。

 

レイヴン――力を持つ者たちよ。

協力を頼む。

 

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