ARMORED CORE 3 Replay ~ Stray Crow~ 作:神父三号
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FROM:管理者
TITLE:0824-FK3203号
0824-FK3203号をレイヴンとして承認。
以降、グローバルコーテックス登録下での活動に限り、ACの使用を許可します。
今後は、自己の有する影響力に十分配慮し、レイヤードの一員として遵守すべき規範を逸することなく、行動することを希望します。
なお、著しい逸脱行為があった場合、実力をもってこれを排除することを、あらかじめ警告しておきます。
では、今後の活躍に期待します。
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携帯端末にメールの着信があったことに気付いたのは、試験終了後の更衣室でのことだった。
アップルボーイも同じメールが届いていたようで、感極まって泣き出してしまった。
初めての命のやり取りも合わさって、緊張の糸が切れたのだろう。
ソラもまた、何もする気が起きず、届いた管理者からのメールをぼうっと眺めながら、アップルボーイが泣き止むまで黙っていた。
《レイヴンネーム"ソラ"。38階の第2会議室までお越しください。レイヴンネーム"アップルボーイ"。45階の第3会議室までお越しください》
「ぐすっ……な、なんの呼び出しでしょうか?まだ試験の続きが……」
「ないだろ。きっと、今後の手続きの説明か何かだ」
「で、ですよね。ははは、はぁぁ……」
涙で濡れた目を擦り、アップルボーイは笑った。
やはり顔は真っ赤なままだった。
「あの、ソラさん」
「ん?」
「試験では助けてくれて、ありがとうございました。本当に、ありがとうございます」
「……気にするな。孤立したら集中砲火受けるからな、弾避けが欲しかっただけだ」
「はい。でも、ありがとうございます。本当に、本当に……このお礼は絶対に……」
「いいってもう。さっさと行けよ。45階だってよ」
「はい……でも、あの……」
「行けって」
ソラが背中を押してあっちへ行けと手を振ると、アップルボーイは一礼してようやく更衣室を出ていった。
背中と頭が痒い。あれほど素直に感謝されるのは、あまり慣れていなかった。
「はぁ……38階の第2会議室、だったか?」
レンタルのパイロットスーツを乱暴にクリーニングボックスに突っ込み、ソラは呼び出しのあった場所へと向かった。
ソラは38階でエレベーターを降りた。
グローバルコーテックスの内部は、階数表示がなければ全く区別がつかないほどにどの階も構造が似通っていた。
民間の企業にはある乱雑なもの、余計なものが、一切通路に存在しないのだ。
注意喚起の張り紙1枚存在しない無機質さは、やはり管理者の直属組織故なのだろうか。
「第2会議室、ここか」
チャイムを鳴らすと、生体認証を求められた。
試験前にホールでそうしたように手をかざすと、ドアロックが解除される。
中で待っていたのは、試験の前に案内役兼説明役を務めた女性だった。
金髪を結い上げ、シワ1つないスーツに身を包んだ、怜悧な顔立ちの美人である。
「初めまして、レイヴン」
そう言って女性は行儀よく頭を下げた。
「はじめまして?あんたとは試験の前に会ったろ」
「あの時、あなたはレイヴンではありませんでした。レイヴンとして会うのはこれが初めてになります」
「……ああ、そういうことか」
短いやりとりだけで、女性の真面目さが伝わってきた。
発する声にも、緊張しているのか警戒しているのか、堅苦しさが目立つ。
「私は、この度あなたの補佐官として管理者に任命されました、レイン・マイヤーズと申します。よろしくお願いします」
「補佐官……専属オペレーターってことか?」
「はい。レイヴンはその性質上、企業のオペレーションとは一定の距離を置いていただくことになります。そのため、今後の任務遂行においては、私が専属でオペレーターを務めることになります」
「傭兵としての独立性を守るため、か」
「そうです。また、ひいてはグローバルコーテックスの中立を確保するためでもあります。……お好きな席にどうぞ」
ソラが適当な席につくと会議室の照明が落とされ、スクリーンに映像が投影された。
6つの角柱が重なり合い、「The Nest for Ravens」の文字が浮かび上がる。
グローバルコーテックスのシンボルエンブレムだ。
「ご存知の通り、我がグローバルコーテックスはこの地下世界"レイヤード"で発生する様々な紛争をレイヴンの派遣によって解決し、利益を得ている団体です」
エンブレムの上に、いくつかの依頼遂行現場と思しきスライドが表示された。
「あなた方レイヴンには、依頼の提供は勿論のこと、依頼遂行に必要な多くの事項に関して、可能な限りの協力をお約束します」
レインの説明に合わせてスライドが切り替わり、ACのパーツや武器、弾薬、アリーナの画像が表示されていく。
「なお、依頼の受諾・内容に関しては、依頼主とあなたの自由意思を尊重し、基本的には干渉しません」
続けて、3つの企業のエンブレムが表示された。
地下世界最大の企業ミラージュ。
第2位の企業であり、管理者への帰属意識が強いクレスト。
近年、勢力拡大の著しい第3位の新興企業キサラギ。
レイヤードに住む誰もが知る、巨大企業だ。
そして、グローバルコーテックスはソラの知る限り、どこの企業にも特別な肩入れはしていない。
「また、依頼遂行に伴い、当事者間で何らかのトラブルが発生した場合にも、我々は関知しません。ご了承ください」
最後にスクリーンに映されたのは、"DOVE"のマーク。
管理者のエンブレムだった。
「試験でお疲れのことと思います。とりあえず本日は、簡単な説明とご挨拶まで。ようこそグローバルコーテックスへ。私たちはあなたを歓迎します」
会議室の照明が再び灯り、レイン・マイヤーズがまたソラに頭を下げた。
「……つまり、コーテックスは俺がレイヴンとして活動していくためのあらゆるサポートをしてくれるってことで、合ってるか?」
「はい。著しい逸脱が無い限りは、という注釈がつきますが。それと住居に関しても、このコーテックスと同じセクション301内に構えていただくことになります」
「……自腹で?」
「いえ、コーテックスが用意したACガレージ付きの住居を無償で供給します」
「ということは、レイヴンは皆このセクションに住んでいるのか?」
「ええ。もっとも、レイヴン間の紛争を防止するため、各住居間はかなりの物理的距離があり、レイヴン同士の直接的な接触にも制限がありますが」
ソラはエレベーターでこのコーテックス本社の上層に上がってきた時に眺めた景色を思い出した。
広大な平野に点在するガレージと思しき建物は、レイヴン達の住居だったのだ。
通常、レイヤードの居住用区画がこれほど贅沢な土地の使い方をすることはない。
巨大企業の上層部ですら、もっと人口が密集するセクションに住んでいるはずだ。
「まあ……常識外れすぎて驚くよ。コーテックス所属は特権階級、だなんて巷で言われる理由がよく分かった。レイヴンがこれほど優遇されてるなんてな」
「……そうでしょうか?」
事務的に話を進めていたレインが、そこで初めて首をかしげた。
「レイヴンとしての活動は、企業から個人まで極めて多くの人間の不満不興、そして怨恨や憎悪の対象となります」
「そんなのはレイヴン以外の傭兵でも同じだろ」
「あなたの経歴は調べさせていただいています。MT乗りの傭兵でしたね。それも、実名で活動されていた。ですが、あなたの名前を今ご自身の携帯端末で検索して、果たして情報が表示されますか?」
「……何が言いたい?」
「レイヴンは表示されます。容姿や実名、住所といったクリティカルなプライバシーは秘匿されますが、レイヴンネーム、ACネーム、ACのアセンブリ、依頼の遂行率や受注傾向、アリーナでの勝敗、簡単な略歴等、傭兵としての情報は全て、レイヤード全市民に常時開示されるのです」
「…………」
「それだけではありません。管理者からのメールにありませんでしたか?レイヴンは自己の影響力を考慮し、レイヤードの一員として行動することを希望すると」
「…………」
「だからこそコーテックスは、いえ、管理者はレイヴンに相応の便宜を図ります。この便宜は選民主義的な特権ではなく、あくまで影響力への配慮です。それは円滑な任務遂行のためであり、地下世界の秩序維持のためであり、何よりあなた自身を保護するためでもあります。なぜならあなたは……」
レインは一度言葉を切った。
冷たささえ感じる美貌に、少しだけ躊躇の影が差す。
言うべきか言わざるべきか、迷っているようにも見えた。
「望んでレイヴンになったわけでは、ないでしょうから」
沈黙が会議室を支配した。
ソラは、自身に向けられたレインの目を見続けた。
レインの目は真っ直ぐだが、少し押すだけでどこか崩れてしまいそうな、そんな弱さも垣間見せている――気がした。
「……1つ、質問してもいいか?」
「はい。どうぞ」
「あんたは、新人か?」
「…………はい。あなたが、私にとっての初めてのオペレーションとなります。……もっとも、コーテックスに所属したのは2年前ですが」
「じゃあもう1つ、質問させてくれ。さっきの発言は、管理者の言葉か?あんたの言葉か?」
「……それは……」
再びの沈黙。
だが今度のそれは長く続かず、ソラが席を立ったことで破られた。
「ACの調整がしたい。俺に割り当てられた場所を教えてくれるか」
「……よろしいのですか?今日はもう遅いですし、当施設内に部屋を取っていますが……」
「いや、大丈夫だ。住む家とガレージがセットなんだろ?なら今日の実戦の感覚が残っている内に、少しだけでも自分の機体に触っておきたい。休むのは、その後だ」
「……分かりました。でしたら、整備班も招集します」
「整備も専属なのか?」
「ほぼ専属です。レイヴンは定員制となっていて、整備班は複数のレイヴンを兼任しませんので」
「なるほど」
「移動手段の手配をしますので、1階のロビーでお待ちください」
「分かった……なあ。レインさん、だったか」
会議室を出る直前で、ソラはレインへと振り返った。
「……レインで構いません。何か?」
「俺は望んでレイヴンになったわけじゃない。あんたの言う通りだよ。昨日仕事中に管理者からメールが来て、今日試験を受けて、わけもわからずレイヴンになった」
「…………」
「だが、なった以上は上を目指す。半端では終わりたくないし、何より死にたくない。そのつもりで、今後はよろしく頼む」
「……はい、レイヴン」
「あとその、あれだ……あんたは……信用できる人間だと思っておくよ」
「……!はい、こちらこそ。よろしくお願いします」
レインはソラに向かって、今までで一番深く頭を下げた。
声音も、少しだけ和らいだ気がした。
レイン・マイヤーズ。
生真面目さの下に善良さが見え隠れする女性だと、ソラは感じた。
つい口走る言葉に、事務的態度に徹しきれない感情が乗っていた。
ソラが割り当てられた専用のガレージに行くと、既に先の試験で使用したACが搬入されていた。
整備班が集まって順番に自己紹介してくる。
十数人にも及ぶ自己紹介を聞き流しながら、ソラは自分のACを見上げていた。
それは、翼だった。
レイヴンとして高く飛ぶための、翼。
どこまで飛んでいけるのか。
高く飛んでいけば、偽物の空を越えて、本物の空に辿り着けるのか。
それは自分次第なのか、それとも管理者次第なのか。
ソラ自身にも、まだ分からなかった。