ARMORED CORE 3 Replay ~ Stray Crow~ 作:神父三号
ゲーム本編では、クリアするだけなら楽なミッションでした。でも熱い。
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FROM:ユニオン
TITLE:同志達へ
残念な報告だ。
レイヤード中枢へ至る経路の情報は、入手できなかった。
作戦は失敗だ。
君達による一次作戦の成功後、我々は計画どおり中央データバンク最深部へと侵入した。
だが、援軍として施設を挟撃するはずだった、ミラージュの部隊が現れなかったのだ。
結果的に、クレストが増援に雇ったレイヴン達によって押し返され、管理者の所在は掴めなかった。
だが、我々は諦めたわけではない。
どんな手段をとろうと、管理者の真意を暴いてみせるつもりだ。
また連絡する。
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FROM:ロイヤルミスト
TITLE:くだらねえ
くだらなさすぎる。
茶番だったな。
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………
……
…
中央データバンクでの戦いの翌日、ソラがガレージに顔を出したのは昼過ぎだった。
昨日の戦闘で大きく消耗したストレイクロウはまだ整備の途中だったが今は休憩時間のようで、ハンガーの前では整備班が固まって食事を取っている。
頭部も腕部も脚部もコアから取り外され、さながらオーバーホールを受けているような有様だった。
メカニックチーフのアンドレイも休憩の最中らしく、コーヒーカップを片手に備え付け端末の前でくつろいでいた。
「おー、おはようさん我らがレイヴン。珍しく遅起きじゃな?」
「いつも通りの時間に起きてたよ。けど……はぁ、色々とあってな。ガレージに来るのが遅れた。すまない」
「分かっとるわい。皆まで言うな。クレストのニュース見たぞ」
アンドレイが端末を弄り、クレストの報道チャンネルに接続した。
不愉快な大音量と共に、モニターに剣呑な映像が映る。
揺れるカメラ。吹き飛ぶMT。煙を上げてへし折れる高層ビル。
テロップのタイトルは"ユニオンの暴虐、ここに極まる"だ。
《各地で破壊工作を続ける非合法組織"ユニオン"の魔の手が、ついに第二層環境制御区にまで及びました。ご存じの通り、環境制御区はレイヤードの急所とも言える非常に重要な階層であり、これほどのテロ行為は過去に前例がなく、クレスト当局は……》
《えーこちら、第二都市区セクション303中央通りより中継です。今私の目の前では一連のユニオンの非道に対して、市民による大規模な抗議デモが行われています。このセクション303ではつい先日も、ユニオンの工作によって市街全域が長時間停電するという事態に見舞われており……》
《ユニオン反対!ユニオンを潰せ!俺達のレイヤードを返せ!》
《入院していた息子が死んだのよ!停電のせいで生命維持装置が止まって!こんなことって、こんなことって!!》
《いや、本当に怖すぎですよ。レイヤードに何の恨みがあるんでしょうね。こういう連中が暴れて一番困るのって、やっぱり私達一般市民ですよ。本当にね》
《クレスト代表は今回の環境制御区へのテロ攻撃に関して、本日18時より緊急記者会見を行う模様です。なお、クレスト本社によれば、本襲撃事件にはキサラギの関与があるのではという疑惑があり、ユニオンとキサラギの関係性についても、続報が待たれるところです》
クレスト系の報道はどれも、今回の事件一色である。
ソラが専用住居のリビングで朝見ていた内容が、そのまま延々と繰り返されているようだ。
「整備の合間にちびちび見とったがな。ずーーーっとこれよ。クレストのチャンネルはバラエティのバの字もないわい」
「ユニオン批判の一点張りか。まあ、環境制御区にまで攻撃をしかけたんだ。クレストの怒りはもっともだ」
攻撃を受けたクレストの反応は、おおかたの予想通りだった。
むしろこういう状況において気にするべきは、キサラギとミラージュの反応である。
ソラはアンドレイに席を譲ってもらい、端末の報道チャンネルをいくつか切り替えていった。
「……やっぱりだ。キサラギはこの件に触れる気が無いみたいだな。朝からチェックしてたけど、いっこうに報道がない」
「ユニオンの作戦行動にはキサラギの支援があったんだってな?当然だわな。やぶ蛇つつくより、無視した方が賢明だ」
「ああ。けど、それより気になるのは……」
ソラは言葉を濁し、モニターに映した報道番組を見つめた。
今朝から特に注目して見ていた、ミラージュ系の報道である。
ミラージュは無視を決め込むキサラギと異なり、今回のユニオンのデータバンク襲撃を取り上げていた。
クレストほど市民感情を煽るような過激なニュースは流していないが、この襲撃は非合法組織"ユニオン"によるテロリズムだと、レイヤードの秩序を乱す重大事件だと、確かに断言している。
それだけでなく、クレストと同様に本件へのキサラギの関与をほのめかしてもいた。
「ミラージュ……何を考えてんだ……」
ユニオンはデータバンク侵入作戦の後半において、ミラージュと合流する予定だった。
そしてユニオンから作戦終了後に送られてきたメールの通り、ミラージュの部隊は結局データバンクに現れず、レイヤード中枢の情報入手は失敗している。
もしも、ミラージュがユニオン側として参戦してきていれば、結果は違ったものになったかもしれない。
作戦に従事したソラ達6人のレイヴンの苦労も、無駄にならずに済んだかもしれない。
管理者の不調についても、何か対策ができたかもしれない。
そう考えると、今回のミラージュの態度には納得できないところがあった。
ミラージュも管理者の改善については、前向きな姿勢を見せていたはずなのに。
「…………」
「…………」
「……うむ、そろそろ危ないかの」
「……え?何か言ったかチーフ?」
「お前さん、まただいぶ金が溜まってきたろ?」
「ああ……まあ、そこそこかな」
「何か買う予定のパーツは?」
「なんだよ、すげえ急な話だな……あー……もう一段階上のジェネ買おうかと思ってる。"ROZ"だったか。あと前から興味があったインサイドのデコイとオプショナルパーツと、肩武器の選択肢として中型か大型のロケットを……それくらいかな。というか、もう手持ちのパーツでほぼやりくりできるようになってるから、そっから先は考えてない」
「よし分かった。買うもんは早めに買っとけ。んで、それを買ったら、今度はよく使うパーツの予備を買っていくようにするんじゃ。理想は、全ての主力パーツが複数あることだの」
「は?何でだよ、どうしてそんなこと……」
「老いぼれの勘よ」
「どういうことだ?」
アンドレイはしわくちゃの顔をソラに近づけ、声をひそめた。
「クレストは今回の一件でカンカン。キサラギはユニオンとの癒着を疑われて針のむしろ。ミラージュも動きが怪しいとお前さんは感じとる。そうだろ?じゃが、レイヴンである以上、ACのパーツは企業から買う。買わざるをえん。……そういうことだ」
「……、……っ!それって……いや、そんなことがありえるのか?」
ソラもまた、アンドレイに合わせて声を低く抑えた。
このベテランメカニックが遠回しに言わんとしていることが、なんとなく理解できたからだ。
レイヤード第2位の企業であるクレストの怒りを買ったという、確かな実感もある。
しかしそれでもそれは、ソラにとって少なからず自分の足元を揺るがされるような、ある種の不安を煽る提案だった。
「……企業がいずれ俺にパーツを売らなくなる。チーフはそう考えてるのか?いくらなんでも……」
「分からん。少なくとも、ワシの知る限りでは無いことじゃ。だから勘と言った。……アンタはもうどの企業にとっても、凡百のレイヴンではない。良くも悪くもな。ストレイクロウの戦闘ログを一番見とるのはワシだ。ワシにはよく分かっとる。……まあ、どうするかは任せる。ちびちび保険をかけていくのも良し、老いぼれの妄言だと思うなら無視してもええ」
「…………」
「ぃよーし、休憩終わりっ!テメェら、気張ってけよぉ!日が傾くまでには完璧に仕上げっぞぉ!!」
おおっ、と野太い応答がガレージ中に響き渡り、整備班は慌ただしく動き始めた。
白髪の眩しい高齢ながら、背筋がまっすぐ伸びたアンドレイの後ろ姿を、ソラは黙って見つめていた。
………
……
…
数日後。
新たに買い込んだパーツを検品していたソラの元に、レインから依頼の連絡が入った。
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報道は把握済みかと思います。
地下組織"ユニオン"は、ついに環境制御区にまで攻撃を始めました。
各地で頻発している様々なトラブルも、全てはユニオンの仕業です。
彼らは『管理者が狂った』と支離滅裂な主張をして、自分達で各地の騒動を引き起こしているのです。
中央データバンクでの戦闘で、彼らの活動を裏で支えていたのがキサラギだという事実も証明されました。
キサラギはユニオンと結託して我々を落とし入れ、勢力拡大を図ったのでしょう。
討伐を繰り返しても活動を続けるユニオンの粘り強さについても、これで説明がつきます。
そして、我々クレストは彼らの次の行動について情報を得ました。
狙いは再び、クレスト管轄の環境制御区です。
今度はレイヤードの各都市区と通じている廃棄物処理施設群に、爆弾を仕掛ける計画のようです。
各施設に対して部隊を派遣する予定ですが、レイヴンにも協力を依頼します。
作戦区域は各地の産業廃棄物が最後に流れ着く、中央溶鉱炉です。
ユニオンの襲撃を待ち構え、施設が破壊される前に排除してください。
クレストは管理者を冒涜する者を、決して許しません。
レイヤードの秩序を正しく維持するために、協力をお願いします。
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《依頼主はクレスト社となります。作戦区域は第二層環境制御区、クレスト管轄の中央溶鉱炉内部。成功報酬は基本額を30,000Cとして、戦果に応じて増額するとのことです》
「ユニオンが廃棄物処理施設を襲撃?レイン、裏付けはあるのか?」
《……クレストからの情報は、施設内部の見取り図だけです。襲撃が無かった場合も、報酬は支払うとのことですが》
ブリーフィングルームでソラが首をかしげて睨みつける、備え付け端末。
そのモニターに表示されているのは、クレストからの依頼メッセージと作戦区域のデータだ。
環境制御区の処理施設といえばクレストの言う通り、多数の都市区で発生した廃棄物を集約して処分するための、市民の生活にとって極めて重要な場所である。
レイヤード市民の多くを害するような無法なテロリズムの標的としては、確かに相応しい。
しかし。
「分からないな。管理者へのアクセスを狙ってるはずのユニオンが、どうしてゴミ捨て場を襲うんだ?」
《再度のデータバンク侵入を前提に、クレストの注意を引きつけるため……厳しいでしょうか?》
「……厳しい、と思う。そもそも、あれからまだ1週間と経ってない。データバンクでの戦闘はかなりの規模で、双方被害も大きかった。こんなすぐに次の手を打つなんて、ユニオンにまだやる気があってもキサラギが支援を躊躇うんじゃないか?それに、ミラージュの真意も不鮮明なままだ」
《…………》
「もっと言えば、クレストがこれをわざわざ俺に依頼するのも……」
環境制御区はレイヤードの大動脈であり、各企業の最重要施設が置かれているのは周知の事実だ。
そこでの作戦行動となれば当然、企業にとって信頼がおけるレイヴンに任せるものだろう。
だがソラはつい先日、ユニオンのデータバンク襲撃という逸脱極まる行為に協力して、多大な損害をクレストに与えている。
そんなレイヴンに、このような重大任務を依頼するだろうか。
所詮は傭兵、金を積めば動く駒でしかないという判断によるものかもしれないが――ソラはなんとなくそれ以上の意味合いを、依頼のメッセージから感じ取っていた。
「……踏み絵、かもな」
《踏み絵?》
「俺がユニオンの忠実な犬か、そうじゃないか。きっとクレストが知りたいのはそこなんだろう。なんとなく、そんな気がする」
《そのために、環境制御区での依頼遂行を?》
「迎撃なら施設の外でやらせればいいのに、わざわざ溶鉱炉内部で待機するようになってる。これで妙な動きを見せれば上位ランクのレイヴンを雇って消すとか、外から鍵をかけるとかな」
《……まさかそんな》
どうだかな、とぼやいてソラはブリーフィングルームの天井を仰いだ。
アンドレイの懸念は、考えすぎというわけでもなかったらしい。
実力をつけ、功績を上げ、名声を高めていけば、否が応にも企業に対しての立ち位置を問われるということだ。
リップハンターのように、特定企業と接近して分厚い支援を受ける者。
ロイヤルミストのように、アリーナに傾倒して最低限しか依頼を受けなくなる者。
"ただの傭兵"をやるのも、並大抵のことではなくなっていくのだ。
明確な敵対者ではなく、金で素直に雇われて仕事をこなす都合がいい存在なのか。
クレストが知りたいのは結局、そこに違いない。
「……レイン、この依頼を受けるぞ。すぐに必要な手配と……それとクレストに1つ注文を頼む。もし敵戦力にレイヴンがいた場合、撃破すれば特別報酬としてACパーツを寄越すように言ってくれ」
《特別報酬、ですか?》
「まあ、やる気のアピールみたいなもんだ。環境制御区での重要任務なんだ。誰が30,000Cで受けてやるかよ」
《……そうですね。確かに、Cランク上位のレイヴンに対する報酬としては低いように感じますが》
そう言いつつ、レインは少し意外そうに反応した。
まるでユニオンに対するロイヤルミストみたいだ、とソラも我ながら思った。
今考えてみれば彼のあの横暴な態度は、自身の立ち位置を明確にするためのものだったのかもしれない。
誰にでも簡単に尻尾を振るわけではない。迎合もしない。
しかし依頼主が誠意を見せれば、それに見合った仕事は確実にこなす。
それは決して傲慢ではなく、プロフェッショナルが独立と信頼を保っていくために必要なものである。
「悪いな、面倒かけて」
《いえ。報酬の上乗せは約束させます。では、ガレージで準備をお願いします》
「了解」
通信が切れ、レインが各手配に動き始める。
彼女の仕事ぶりはソラが一番よく知っている。
特別報酬の件も、きっちりクレストに呑ませるだろう。
あとはソラが現場でそれに応えるだけだ。
「難しいよなぁ……」
ソラは溶鉱炉の見取り図を眺めながら、しみじみ呟いた。
ユニオンの作戦に期待していたものが無かったかと言えば、嘘になる。
あのデータバンク攻防戦で、管理者の何かが変わることを、世界の何かが変わることを願っていたのは確かだ。
だけど、別にユニオンの"脱管理者"思想に同調したわけではない。
一方で、クレストの管理者崇拝におもねるわけでもない。
ならばどうしたいのか。どうするのか。
「それでも俺は、レイヴンだ」
発した言葉は、何の答えにもなっていなかった。
それでも、どれだけ迷おうとも、目指すのは遥かな高み。そして、その先――
レイヴンとして羽ばたき始めた時から、その気持ちだけは変わっていなかった。
………
……
…
廃棄物処理施設の内部を、マシンガンと投擲銃を携えた黒いAC"ストレイクロウ"が走行する。
特にレーダーが敵影を感知することもなく、ストレイクロウは作戦区域に指定された溶鉱炉に辿り着いた。
分厚く重たそうな隔壁へ近づき、頭部COMからコードキーを入力する。
《溶鉱炉内部への隔壁を開放。レイヴン、あとはユニオンの襲撃まで待機してください》
「了解……機体温度370℃、外気温620℃か。まだ熱暴走はしてないが……」
ACの頭部カメラが赤熱して煮えたぎる溶鉄を捉えて、ソラが見つめるコクピットモニターに表示してくる。
中央溶鉱炉は各都市区で生じた産業廃棄物の中でも特に金属類を集約し、高熱で溶かしてリサイクルするための施設だ。
ベルトコンベアは非常事態ということで停止しており、新たな廃棄物が送り込まれてくることはない。
しかし、炉の機能を完全に停止させれば再稼働に長い時間と手間がかかるため、溶解処理自体は継続したままになっていた。
《最下層は溶鉄で満たされており、非常に高温です。ACの防御スクリーンでも接触すれば長くはもちません。落ちないように注意を》
「分かってる」
ソラはモニター上部に表示された温度計に目をやりながら、フットペダルを踏み込んだ。
ブースタが点火され、機体温度が若干ながら上昇する。
ストレイクロウは施設上部に設置されたバーナーが吐き出す炎に接触しないように飛行しながら、停止中のベルトコンベアの上に着地した。
「……ふう」
戦闘機動を取りやすい位置に軽く移動しただけだというのに、ソラは思わず息を吐いた。
ACの表面に展開された防御スクリーンのおかげで、コクピットの中は別に暑くない。
だが、ブースタを吹かした際の機体温度は400℃弱、熱暴走しない限界ギリギリと言った数値であった。
装備しているラジエータ"SA77"は、被弾時の緊急冷却に優れたタイプだ。
通常時の性能は標準的なため、これ以上の冷却は望めそうもない。
緊急冷却重視といってもこれほどの高温環境では、戦闘中の熱暴走による出力低下は避けられないだろう。
もっと高性能なラジエーターを買えば良かったかとも思ったが、今回の脚部は中量二脚の中でも高機動型な"MX/066"である。
それほど積載に余裕はなく、結局いつもの慣れたラジエータを使っていた。
「ユニオンは……本当にこんな場所へのこのこ来るのか?」
ソラは頭に浮かんだ疑問を言葉にする。
溶鉱炉内部は、ACをもってしても劣悪な環境である。
こんな場所では戦闘どころか、破壊工作の遂行すら危ういはずだ。
おそらくそれをなし得るとすれば、特殊装備を施した企業の高級MTか、あるいはACだろう。
そもそも、少し前に多大な被害を受けたばかりのユニオンが、またキサラギと組んで行動できるかはやはり疑問だった。
操縦桿から手を離して額の汗を拭い、ソラはひたすら待った。
外気温は一応安定しているが、やはり不意の熱暴走が怖い。
あまり長時間待機したくはなかった。
《……クレストより緊急通信です。先ほど処理施設のメインゲートをACが奇襲。突破されたとのことです》
「来たか……やっぱりレイヴンか。レイン、ACの侵攻ルートをできるだけクレストに追跡させてくれ。溶鉱炉以外で破壊工作をするようなら、作戦区域の変更が必要になる」
《分かりました》
ソラはレインに指示を出した後、深呼吸して落ち着こうとした。
いつもより少しだけ、心臓の鼓動が早い。
これほど息が詰まる空間で戦闘するのは、今まで経験を積み重ねてきたソラといえど初めてなのだ。
《レイヴン、やはり敵ACの目標は中央溶鉱炉です。ストレイクロウと反対側の隔壁から来ます》
「ああ、レーダーの端に見えた。ここへの侵入はコードキーが要求されるはずだが……これもユニオンお得意の特殊なコネクション……っっ!?」
ガコン。
突如モニターが振動し、ストレイクロウが勝手に前方へ動き出す。
ソラはブースタも脚部も動かしていない。
動いているのは、足元のベルトコンベアだった。
ソラは突然のことに一瞬動揺したが、すぐさま機体を走らせて溶鉱炉への落下を防いだ。
だが、そこへさらにコンベア奥のシャッターが開放、産業廃棄物がバラバラと送り込まれてきた。
「レイン、ベルトコンベアが作動し始めた!クレストに確認させろ!」
《作戦中は停止させるはずでは……!?すぐに確認します!》
「くっ、どうなってるんだ……っ!?敵AC……来たのか!?」
コンベアを必死に逆送しているストレイクロウの後ろで、溶鉱炉の隔壁が開いた。
乗り込んできたのは、赤いフロート型ACだ。
《……E-7ランカーAC"ボルケイノ"です!》
「Eランク……今はコンベアの停止が最優先だ!」
《はい!》
大小様々な廃棄物を蹴り飛ばしながら、流れるベルトコンベアの上であがくストレイクロウ。
しかし敵AC"ボルケイノ"はそんなソラの苦境をこれ幸いとばかりに、右腕のマシンガンと連射型イクシードオービットを放ってきた。
《はははっ!無様だな、Cランカー!溶鉱炉に沈んでもらうぜ!》
敵のフロート型ACは、この特殊な戦場に相性がよかった。
ボルケイノはこちらを狙いやすいように別のベルトコンベアの上に移動するも、低空を常に浮遊するフロート脚部の特性によって足を取られることなく、安定した攻撃を繰り出してくる。
ソラは舌打ちしつつもフットペダルを強く踏み締め、ブースタでコンベア上に何とか踏みとどまりながら、マシンガンと投擲銃を撃ち返した。
しかしそれも足場が悪すぎて射線がぶれ、満足に当てられない。
相手の攻撃はEランクの中でも下位のレイヴンらしく、ただ機体を左右へ適当に揺らしてはマシンガンとイクシードオービットを垂れ流すだけの雑な射撃だ。
だが、身動きが取りづらいこの状況にあっては、被弾は避けられない。
ストレイクロウのAPが削れ、機体温度が上昇し、何とか堪えていたラジエータが悲鳴を上げ始める。
《へへっ……苦労してんなぁ、おい!けどよ、こちとらデカい報酬積まれてんだ!ここでなら俺だってやれるんだよ!》
ボルケイノのレイヴンが噛みつくように吠え散らし、ひたすら武装を乱れ撃つ。
パーツカタログで見たことがある、携行弾数特化型マシンガンだ。イクシードオービットも時間が経てば弾数が自動回復していく。
弾切れまで粘るのは現実的ではない。
何とかして撃ち合いに競り勝つしかないのか。それとも、場所を変えるか。
ソラは乗機が溶鉱炉に落ちないように悪戦苦闘しながらも敵ACから一瞬視線を切り、上部を見上げた。
青い炎を噴き出す天井のバーナーの横に、なんとか破壊して通過できそうな金網がある。
《レイヴン、クレストから返答です!現在、ユニオンのハッキングによって施設の制御権を喪失中!コンベアの停止は不可能なようです!》
「そうかよ!なら、場所変えだ!」
ソラはACを空中に踊らせて、肩部ミサイルと連動ミサイルを起動した。
狙うのは敵ACではなく、天井の金網。その先には、少しだけ開けた空間があるはずだった。
そこでなら、EランクのAC相手に後れを取りはしない。
《さすかぁ!》
こちらの狙いを察したボルケイノが、肩のデュアルミサイルを放ってくる。
挟み込むように迫る2発のミサイルがストレイクロウの脚部を捉えて、大きく揺らした。
ソラがマニュアル照準で放ったミサイル群はその衝撃で金網を外れ、バーナーを1本爆風で吹き飛ばすだけに終わる。
さらに被弾によって機体温度が急上昇、出力低下の警告が表示され、EN残量がレッドゾーンに近づいた。
ここで万が一チャージングを起こせば、防御スクリーンがパワーダウンした状態で溶鉄の中に叩き落とされ、取り返しのつかないことになる。
ソラは歯を食いしばって、動き続けるベルトコンベアの上に再び着地せざるをえなかった。
そこへボルケイノがまたもマシンガンを撃ちっ放す。
ストレイクロウのAPが徐々に削れていく。残り、6000。
《レイヴン!炉への廃棄物投入で室内温度が上昇しています!熱暴走に気を付けてください!》
「くそっ、クソが……!」
なんとか撃ち返しつつも、思わず悪態がソラの口から漏れる。
悪い流れだった。完全にペースを握られている。
ボルケイノはろくな回避行動も見せずに稚拙な乱射一辺倒だが、状況を味方につけ、格上のソラに対して優位に立っていた。
フロート脚部で足場の悪影響を遮断し、勢い任せに攻める。
それだけの攻撃が、今のソラにとってはとんでもなく厄介だった。
《ははは、大人しく死ね!お前を潰せば、俺も一気にのし上がれる!》
焦る。
熱暴走が止まらない。
焦ってしまう。
削れるAP表示。高まる温度。
鳴り響く警告音。飛来する弾幕。
焦りに、思考が蝕まれていく――
「……駄目だ。馬鹿になってる」
ソラはそう呟き、操縦桿から離した手を握り拳に固めて、自分の頬を強く殴った。
口の中で広がる鉄分の味。血が上った頭を、無理やり緊急冷却する。
思考回路を冷やすのだ。彼我の力量差を考えれば、置かれた状況が悪くても十二分に勝てる相手だ。
敵の赤いフロートはやはり、まともな戦闘機動も取らずにマシンガンとイクシードオービットを撃ってくるだけにすぎない。
そんな稚拙な攻撃は、雑兵の乗るMTとさほど変わらない。
これまで多くの手練れを倒してきた自分にとっては、どうってことのない相手だ。
「……おい、やるぞ」
《ああっ!?やるのは俺の方だ!とっととやられろ!》
ソラはブースタであがくのをしばしやめ、被弾に任せた。
APが5000を切る。だが、完全に動きを停止したことで、ジェネレータの容量が回復していく。
ベルトコンベアが産業廃棄物もろとも、ストレイクロウを空中に放り出した。
そこでようやく、ソラは動き始めた。
機体が落下する前にブースタを吹かして上昇し、高高度からボルケイノ側のベルトコンベアへ突っ込む。
《なっ、来るんじゃねえ!》
機体を不規則に揺らしながら、弾幕の真上をすり抜けるのは比較的容易だった。
上下のサイティングが左右のそれより難しいのは、自分もよく知っている。
そうしてボルケイノの頭上を通り過ぎて、180度旋回しつつベルトコンベアの上部へと着地する。
ちょうど、敵の背中を取る位置だ。
《クソっ、後ろか……!》
ボルケイノは棒立ちのまま、その場でだらだらと旋回を始めた。
ソラはその大きな隙に、両腕のマシンガンと投擲銃を叩き込む。
同じコンベアの上ならば、足場の悪さもさほど影響しない。
投擲榴弾が命中する度に、相手のフロート脚部はガクガクと揺れて動きを止めた。
フロートは常時浮遊しているが故に、被弾時の安定性能に難があるのだ。
操縦者の技量の低さもあって、こちらに向き直るまでボルケイノはほぼ無防備も同然だった。
《やってくれたな、もう観念し……えっ!?》
ボルケイノがこちらを捉えた瞬間、ソラは機体を飛翔させた。
もう一度敵ACの頭上を抜け、空中で旋回しながら別のベルトコンベアに移る。
これで再度、ボルケイノの死角を取った。
今度は肩のミサイルユニットで多重ロックをかけ、連動ミサイルと共に発射。
ボルケイノは旋回に集中していたせいでせっかくのフロートの高機動をまったく活かせず、ミサイルの全弾直撃を浴びた。
《えっ、は?くっ、あ、っっ……!?》
敵レイヴンは先ほどまでの威勢が失せ、動揺が隠せなくなった。
それでも何とか旋回してこちらにマシンガンを向けてくる、そのタイミングを見計らって三度、ソラはベルトコンベアから飛んだ。
稚拙な捕捉を巧みに振り切って敵機を飛び越え、その後方に降り立つ。
《……ひ、卑怯だぞてめぇ!正々堂々と勝負しろ!》
ソラは通信を聞き流し、冷静に引き金を引き続けた。
あとは数分とかからなかった。
産業廃棄物に混じり、鉄屑となったフロートが溶鉱炉の底に落ちていった。
《敵AC撃破。……レイヴン、クレストから通信です。増援の気配も無いため、作戦は終了するとのことです》
「了解。何とかなったな。相手がEランカーでよかった」
《…………》
最初に通ってきた隔壁を抜け、ソラは施設の通路を引き返した。
鳴り続けていた熱暴走のアラートは止まり、機体温度は通常の値に戻りつつある。
「レイン、ハッキングによる施設への影響はどうなった?」
《……先ほど復旧したそうです》
「そうか。良かったな」
《……そうですね》
ソラはそれ以上、何も言わなかった。
残りAPは4000。
極限状況で高めた集中は、まだ途切れてはいない。
仮に"何か"があっても、何とかできる自信はあった。
幸いなことに何も起きず、ソラはクレスト本社に礼を言われて、無事に環境制御区を後にした。
………
……
…
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FROM:クレスト
TITLE:礼状
この度はご協力、感謝します。
非合法組織"ユニオン"による環境制御区への新たな破壊工作は、未然に防ぐことができました。
しかしながら、ユニオンは今もなお各地で騒乱を起こし続けており、レイヤードの安寧を妨げています。
市民感情も悪化の一途を辿り、都市区では大規模な暴動も頻繁に行われるようになってきました。
我々クレストはユニオン撲滅に向けて、よりいっそうの戦力の強化を図るつもりです。
また、彼らの本拠地の所在についても、物資の流れからおおよその見当がつきつつあります。
来たるべき時には、再び協力を依頼するでしょう。
その際は、どうぞよろしくお願いします。
なお、今回の貴方の貢献に対し、約束通り特別報酬を用意しました。
AC用右腕武装パーツ"XCB/75"です。
これはミラージュが先日開発した試作品ですが、とある事情から今はクレストが所有しています。
ガレージに届けておきますので、ご自由にお使いください。
貴方がレイヴンの中でも特に力ある人材であることは、我が社も承知しています。
優れた力は正しく発揮されてこそ意義があるのだということを、くれぐれもご理解ください。
では。
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