ARMORED CORE 3 Replay ~ Stray Crow~ 作:神父三号
今回はレーザーライフルとブレード装備です。
フレーバー程度ですので、武器以外は一切気にしなくても大丈夫です。
右腕部武装:MWG-XCB/75(75発レーザーライフル)
左腕部武装:CLB-LS-2551(緑ブレード)
右肩部武装:MRL-RE/111(多機能型肩レーダー)
左肩部武装:CWM-S60-10(10連小型ミサイル)
エクステンション:CWEM-R20(4発発射連動ミサイル)
頭部:CHD-02-TIE
コア:CCM-00-STO
腕部:CAL-MARTE
脚部:CLM-03-SRVT
ジェネレーター:CGP-ROZ
ラジエーター:RMR-SA44
ブースタ:MBT-OX/002
FCS:AOX-F/ST-6
オプショナルパーツ:OP-S-SCR(実弾防御上昇)、OP-E/SCR(EN防御上昇)、OP-E/CND(ジェネ容量増設)、OP-L-AXL(ロックオン時間短縮)、SP/E++(EN武器威力上昇)
溶鉱炉の防衛から数日が経ち、ソラの専用住居に併設されたガレージにはクレストとの約束通り、特別報酬のパーツコンテナが運び込まれてきた。
「"XCB/75"……ほう、ミラージュの最新型試作レーザーライフルかい。クレストめ、どのルートでぶんどったのやら。しかしこりゃぁ……」
ソラのすぐ隣でマニュアルを眺めていたメカニックチーフのアンドレイが、神妙そうに顔を上げて呟いた。
整備班が運搬車両を使って、コンテナからその黒い砲身を引っ張り出す。
ソラにとっては戦場で、アンドレイにとっては戦闘ログで、それぞれ見覚えがある兵装だ。
「ああそうだ、チーフ。俺がクレストのルグレン研究所で戦った、所属不明ACが持ってたライフルだ」
「むぅ。奴が肩に積んでいたオービットキャノンはあれからほどなくしてミラージュに正規開発され、僅かだが市場に出回り始めとる。こいつも……ようやく企業の技術が追いついたってとこか」
ソラはアンドレイからライフルのマニュアルを受け取り、ぺらぺらとめくって各項目の数値を確認した。
数値を睨みつつも、ソラの脳裏にあの日のルグレン研究所での激戦が思い起こされる。
通常では考えられない性能を有したMT部隊。
そして、グローバルコーテックスに登録のないAC。
友軍のレイヴンは軒並み撃破され、あの戦闘を辛くも生き延びたのはソラとレジーナだけだった。
もう数ヶ月前のことで怪我も完治しているのに、あの戦いで感じた死の恐怖は、まだ忘れていない。
そして、あれからだ。
都市部の停電、セクションの封鎖、生態系の異常、気象変動、相次ぐ市民の暴動――地下世界がこんなにも騒がしくなったのは。
「……カタログスペックは既存の"XCW/90"の威力とEN消費を増して、その分弾数を減らしただけって感じだ。確かに良い武器だけど、あのACが使ってた奴は……特にリロード間隔が確実にこの数値より短かった」
「現行のミラージュの技術力ではこの性能が限界ってことだの。"XCW/90"は傑作じゃ。あれを完全に上回るレーザーライフルはそう簡単に作れん。必然的に、各パラメータの長短を調節しただけのような物になるわけだ」
「まあ、それでも最新鋭の試作品であることは間違いないか。コーテックスのパーツカタログにも載ってないしな。……クレストの野郎、随分と厄介な代物を送ってくれたな」
カタログに記載されていないパーツを企業から供与されるのは、これが初めてのことではない。
大半は売却して金に換えてきたが、依頼の特別報酬として提供された物の中には特注品もいくつかあった。
だがこの黒いレーザーライフルは、ユニオンが管理者の"実働部隊"と断言したACが装備していたものである。
クレストとしては既にデータを取り終えており、レイヴンに譲渡しても問題ないと判断した製品なのだろう。
もう少し時間が経てば、正式に販売され始めるかもしれない。
それでも、あれだけの死闘を演じた敵が引っ提げていた武器だと考えると、ソラの心は穏やかでなかった。
クレストの礼状を信じるならば、この"XCB/75"は先日ミラージュで開発されたばかりの試作品。
そのマニュアルに記された性能は、自分が戦場で体験したものに及ばない。
それは即ち、あの時戦ったACがまぎれもなく通常の機体でなかったことの追認である。
やはり、ユニオンの言う通り実在しているのだ。
管理者の"実働部隊"は。
「ほんでお前さん、これをどうする気だ?」
「……使うよ。性能は良いんだ。上がったEN消費も、この前買った高出力ジェネレーターの"ROZ"なら問題なさそうだし、重量も脚部を"SRVT"にすれば十分余裕がある。テストして使い心地が悪くなければ、"XCW/90"の代わりに常用してもいい」
「……ええのか?」
アンドレイはしわくちゃ顔をさらにしわくちゃにして、渋い表情をソラに向けていた。
伊達に歳と経験を重ねてきた大ベテランではないらしく、ソラの複雑な内心を見透かしているようだった。
「大丈夫だってば、チーフ。今度奴らが出てきたら、逆にこいつで撃ち抜いてやるよ。大丈夫、大丈夫」
ソラは歯を見せて笑った。
ぎこちない笑い方だと、我ながら思うのだった。
………
……
…
3日後。
いつものごとく、ソラはブリーフィングルームで端末のモニターに向き合っていた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
クレストの重要施設である"ガルナット軍事工場"を襲撃して欲しい。
ガルナット軍事工場は新型MT開発も実施されている、クレストの一大拠点だ。
これを徹底的に破壊し、奴らの兵器開発能力を大きく削ぐことが今回の作戦目的となる。
この工場は、最深部に置かれている制御装置で内部のセキュリティを集中制御しており、この装置さえ破壊すれば全体の機能を麻痺させることが可能だ。
最近のユニオンの騒ぎから、クレストは各地へ部隊を分散させている。
当軍事工場についても警備が手薄になっており、今ならその隙を突くことが出来るはずだ。
我々が秘密裏に入手したコードキーを使用して工場内部へ侵入し、制御装置を破壊した後は、設備を可能な限り破壊して脱出してくれ。
破壊活動には当然、遂行率に応じて相応の追加報酬を出す。
なお、今回の作戦はお前の他にもう1名レイヴンを雇用し、工場周辺からの部隊集結を妨害させる。
協働するレイヴンは、我々ミラージュにとっては失うことのできない人材だ。
現場の指揮は彼女に一任するため、その指示には必ず従ってもらう。
以上だ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
《依頼主はミラージュ社。作戦区域は、第三層産業区セクション582のガルナット軍事工場です。成功報酬は42,000Cですが、工場設備の破壊に応じて増額。予測戦力は、ガードメカ及び少数のMT部隊ですね》
「ガルナット軍事工場……以前アップルボーイと新型MTの試験に付き合った場所だな。兵器試験場も併設された、相当大きな工場だった。単純に破壊活動といっても、かなり大変そうだ」
《ええ。加えて、セクション582は完全なクレストの直轄地区です。ACの輸送機が区画に侵入した時点で、防衛部隊に察知されると思われます》
「必然的に工場周辺で注意を引きつけるレイヴンが重要になってくるが……まあ、あいつだろ」
《協働するレイヴンは、D-1ランカー"リップハンター"です》
やっぱりな、とソラはレインの送ってきたデータを一瞥して呟いた。
"リップハンター"。ミラージュ派閥の最有力傭兵であり、少し前にレイヴン試験をパスした腕利きの女性である。
現在D-1ランクということは、レイヴンになってごく短期間にアリーナを駆け上がり、既にレジーナも蹴落としたらしい。
ソラの師にあたる"スパルタン"と同様にMT乗りとして広く名を馳せた存在だったが、ACに乗り換えてもその腕前は健在のようだ。
「B-2の"ファンファーレ"がミラージュの最高戦力だって話だが、リップハンターも案の定実績を上げてきてるな。このまま2枚看板体制になるのか」
《攻撃対象のクレストからは先日、ユニオンに関連して溶鉱炉防衛作戦を受けたばかりですが……》
「別にユニオンの犬じゃないってことは示したんだ。遠慮してやる義理はない。依頼を受けるぞ、レイン。手配頼む」
《了解です》
「まあ、気になることがなくはないけどな……」
ソラはレインに依頼受諾の意志を示した後、手持ちの携帯端末に視線を落とした。
表示されているニュース記事は、ミラージュの施設に関連するものだった。
《……今朝報道されていた、ユニオンの細菌テロ未遂の件ですか?》
「ああ」
レインもソラと同じ記事を読んだようだ。
ミラージュ系の報道によれば、ミラージュ管轄の生化学工場において、ユニオンに加担する反乱分子が細菌兵器を極秘開発していたらしい。
実際のテロに及ぶ前に本社がこれを察知し、レイヴンを雇って工場ごと破壊することで最悪の事態を免れた――そう報道されていたが、ソラは素直に受け取れなかった。
そもそも、ミラージュはユニオンに対して高級MTを含む兵器支援を行っていて、確かな繋がりがあったはずなのだ。
それはユニオンが以前のクレスト中央データバンク侵入作戦において、ミラージュの部隊と協力するつもりだったことからも分かる。
「ミラージュは、ユニオンとがっつり繋がってたはずだ。なのにあの時、データバンク侵入作戦の土壇場で、ミラージュは現れなかった。むしろあの一件では、環境制御区を襲撃したユニオンを報道で批判してさえいた」
《そして、今朝になってこの細菌兵器に関するニュース……ですか》
ミラージュが何らかの理由で、確実に繋がっていたユニオンとのパイプを今さら切ろうとしているのは確かだった。
クレストに繋がりが露見するのを恐れたのか。
それとも、もっと別の理由があるのか。
いずれにせよ、ミラージュは既にユニオンの味方をしているとは言えなかった。
「細菌テロ未遂は、今回の軍事工場襲撃の依頼とは無関係だろうけど……それでも今朝のことだ。クレストが対ユニオンに本腰を入れ始めているのは誰が見ても明らかだが、ミラージュはユニオンを見放すのか」
《……あのデータバンク事件を受けて、地下世界の市民の間では、ユニオン排斥の熱狂が大きく高まっています。私の調べた限りでは、どの企業の管轄都市区でも大なり小なりの暴動やデモが確認されていますし……クレストが過剰に煽っているとはいえ、少し異様にも思えますね》
「気持ちは……分かる。レイヤードの異常は、まだ全然収まってないからな。昨日も第一都市区で数か所のセクションが停電、ミラージュ産業区のセクションが封鎖で労働者の大量解雇……もう市民も限界だろ」
つまり、誰もが捌け口を求めているのだ。
レイヤードに蔓延する混乱や閉塞感、不信感の捌け口を。
それがユニオンへの憎悪となって、噴出している。
《クレストは盛んに本格的な掃討作戦の決行を匂わせています。……実際のところ、ユニオンがキサラギの支援を受けていても、総力戦となればクレストに軍配が上がるでしょう》
「報道で完全に無視を決め込んでいる辺り、キサラギはキサラギでユニオンを切り捨てる気はなさそうだ。あとはミラージュがどうするかなんだが……今の動きを見るにユニオンに味方することはないだろうな。この依頼だって、別にユニオンの援護とかそういうのじゃないだろう」
《……レイヴン、あの》
通信機の向こうで、レインが言葉を濁した。
付き合いを重ねる中で、何となく分かってきた。
利発で真面目な彼女がそうやって言い淀む時は、何かしら本心を伝えたい時である。
ソラは、彼女が言葉を繋げるのを静かに待った。
《ユニオンは本当に、このまま解体されていいのでしょうか?彼らの主張や行動が受け入れがたいのは分かります。ですが、レイヤードの現状を考えれば……もしも、真実が彼らの方にあるのだとすれば……》
「…………」
ソラは腕を組み、目を閉じた。
レイヤード中枢を探る、データバンク侵入作戦。
あの時もしも作戦が成功し、管理者の所在が分かっていれば。
管理者に現状の真意を問いただすことができていれば。
何かが変わったかもしれない。
だが、結局現状は何も変わらなかった。
レイヤードは今も混乱の渦中にあり、ユニオンの言うように"管理者が狂った"のかどうかすら分からない。
そんな中で、少なくとも管理者の行動に疑問を投げかけているユニオンが、よく分からない熱狂の中で潰されようとしている。
もしもユニオンが消えたとして、レイヤードは何かが変わるのだろうか。改善するのだろうか。
もしも今より事態が悪化すれば。
そうなればレイヤードはいつか、偽物の空を天井に映し出すことすら、やめてしまうかもしれない。
そんな中にあって、自分は――
「……分からない。分からないことが多過ぎる。でも、歩みは止めたくない。何かしていないと、気が変になりそうだ」
《レイヴン……》
「レイン、今は依頼に集中しよう。俺はレイヴンで、あんたはオペレーターだろう」
《……分かりました》
そう言いつつも、レインは納得したという様子ではなかった。
ソラ自身もそうだ。
本当は何も分かっていない中で、何とか前に進もうともがいていた。
………
……
…
《レイヴン、クレストのセクション管理局より停止要請が入っています》
「止まるなら最初から侵入してない。このままギリギリまで工場に近づくぞ」
《分かりました》
コーテックスの双発式戦略輸送機に搭載された望遠カメラから、ソラが座るACのコクピットにセクション582の市街地の様子が送られてくる。
現在21時前、偽物の空に"天体"と呼ばれる照明が灯っている時間だ。
夜の暗闇に包まれたビル街から幾筋ものライトが上空へ向けられ、市街地が警戒態勢に入っていることが窺えた。
眼下に望む夜景の奥、襲撃目標のガルナット軍事工場は特に明るく照らされている。
「レイン、リップハンターのAC"ルージュ"はもう来てるのか?」
《こちらルージュ。呼んだかしら》
「呼んだ。ストレイクロウは現在輸送機内にて待機中、ガルナット軍事工場まで1500の距離だ。あまり接近すれば、輸送機を潰しに航空戦力が上がってくるぞ」
《分かってるわ、こちらは距離1300。……多分ここが限界ね。じゃあ、作戦を始めましょう。通信はコーテックス専用緊急チャンネルの11番を使用、設定お願い》
「……待てよ、緊急チャンネルは」
《ええ、便利よねこれ。傍受も妨害もされないなんてね。レイヴンってズルいお仕事だわ。特権がいっぱいあるんだから》
飄々とした態度で言い放つ元MT傭兵の手練れ。
自分もかつて同じようなことを言っていたな、と思いながらソラは緊急チャンネルを通信機に設定した。
通常の作戦行動では使用を許されていない、緊急事態専用の強固な回線である。
物々しい警告文を見るのは、これで2度目だ。
ただでさえアリーナで悪目立ちしている上に、ユニオンの一件でクレストに踏み絵を踏まされたばかりだというのに、短期間でこんな違反を繰り返していると思うと自分の今後が危ぶまれる。
《ふふっ、心配しないで。警告を受ける分、きっちり稼がせてあげるから》
「対ユニオンで兵力を割いてるとはいえ、クレストの大規模拠点だぞ。油断するなよ」
《問題ないわ。私が有名人になった理由、知ってるでしょう?……ルージュ出撃するわ!》
リップハンターがそう言い放って間もなくして、市街地から砲声が轟き始めた。
爆発と思しき光が連続して夜の高層ビル群を照らし、彼女の愛機"ルージュ"が暴れ出したのが分かる。
MT乗りとして腕っぷし1つで、抜群の名声を誇った傭兵だ。
自信を支える確かな実力が伴っているのは、ソラも知っている。
《ストレイクロウも距離1300で出撃、迎撃は無視して工場に突っ込んで。進捗報告はこまめにお願い》
「……了解」
ストレイクロウを載せた輸送機が投下ポイントに到達し、旋回を始める。
開いたハッチから、ACの頭部カメラが軍事工場を捉えた。
「輸送機はこのまま後退だ!ストレイクロウ、出るぞ!」
オーバードブースト起動。
莫大な加速を得た黒い迷い烏が、偽物の夜空に飛んだ。
………
……
…
レーザーライフル"XCB/75"の銃口が輝き、今さら逃げようとあがいた逆脚MTの横腹に風穴を空ける。
最新型の性能をオプショナルパーツでさらに補強しているだけはあり、威力は申し分ない。
これで工場のメインゲート防衛に出てきた10機のMT達は全滅。
敵は全て、モアやエピオルニスといった安価な普及型MTである。
各地へ部隊を分散させ、工場の警備が手薄になっているというミラージュの読みは、やはり正しかったようだ。
《コードキー入力完了。ゲートが開放されます》
「フィーンドどころか、スクータムもいないのか。クレストはユニオンにムキになりすぎてるな」
《ミラージュの情報によれば、2つ先のフロアのエレベーターから工場の地下に降りられます。制御装置はその一番奥です》
「分かった。ルージュへ通信、こちらストレイクロウ。工場に突入する」
《こちらルージュ。市街地は問題なしよ。ゆっくりしてくるといいわ》
「随分と余裕そうだな?」
《慢心じゃないわよ。腕利きは全部ユニオンの相手に回されてるみたい。残飯を漁ってる気分だわ》
リップハンターは通信機の向こうでつまらなさそうに呟く。
それと同時にメインゲートが開放され、待ち構えていたエピオルニス5機がガトリングを撃ち鳴らしてきた。
しかし、元々AC相手には火力不足な上に捕捉も稚拙で、不規則に機体を左右に揺らすだけでほとんどの弾幕を回避できてしまう。
肩のミサイルユニットを起こしてマルチロックをかけても、敵部隊は満足な回避行動も見せずに密集したままだ。
ロック完了と共に斉射、それで最初のフロアはすぐに決着がついた。
「レイン、次のフロアだな?」
《はい》
次のフロアも、迎撃はまばらだった。
1機だけ混じっていたスクータムが少し粘ったものの、精鋭と呼ぶには程遠い技量でしかなく、さほどもたずに沈黙する。
重要拠点を巡る攻防としては物足りないという気持ちは、確かにソラにも若干あった。
だが、ソラの仕事はここからだ。
レイヴンが防衛に雇われる可能性もある以上、気は引き締めておく必要がある。
エレベーターにACを乗せて、制御装置のある地下へと下っていく。
《リップハンターよ、市街地西部はほぼ制圧完了。あとは東部と……ヘリ部隊ね。帰る時に邪魔されないようにしておこうかしら》
リップハンターは迅速に仕事をこなしていく。
負けじと、ソラもエレベーターからブースタを吹かして駆け出した。
通路に出た瞬間、複数のガードメカと天井の自律砲台が一斉に豆鉄砲を吐き出してくる。
パトライトが真っ赤に明滅し、非常事態を知らせるアラートが鳴りっぱなしになっている。
さすがにクレストの主要な軍事工場だけあり、セキュリティシステムの歓迎は手荒だった。
ソラはモニターを揺らすロケット砲や機銃にうろたえずに、確実に1機ずつ迎撃を排除していった。
威力重視のレーザーライフルは、大半の目標を一撃で戦闘不能にするだけの火力がある。
無駄弾を撃たないように慎重に射撃しつつも通路を通り過ぎ、地下最初のフロアに向かう。
レーダーに敵影が6機、進行方向に密集して映っている。ソラは操縦桿横のレバーを握った。
《く、クソっ……ACめ!》
フロアのゲートを開いた瞬間、頭部COMが敵の音声を傍受して、ロケット砲とガトリングの斉射が浴びせかけられた。
待ち伏せを受けるなど当然想定内、一瞬吹かしたオーバードブーストで敵のFCSによる捕捉を振りきり、素早く状況確認に努める。
モア3、エピオルニス2。
そして天井付近で滞空する、新型高機動MTのフィーンドが1。
「1機だけか」
ならば無視していい。
ソラはそう判断し、素早く地上の始末に取りかかる。
ブースタで接近しつつ右端のモアのコクピットをレーザーで撃ち抜いて、続けてFCSがロックする通りにトリガーを引き、エピオルニス2機を沈黙させる。
残るモア達があたふたと散らばり始め、上方からフィーンドのパルスが降り注いだ。
さらに接近して、1機をレーザーブレードで両断。
最後のモアは恐怖からか、もうこちらを向いてすらいない。
手早く撃ち殺して、そのままストレイクロウを飛翔させた。
《ひぃっ……!》
ひきつった敵パイロットの声。
ソラは空中でACにブレードを振らせて、高出力ブースタごとフィーンドを真っ二つに斬り裂いた。
「クリアだ。このまま進行する」
次の通路も、次のフロアも、そしてその次のフロアも、クレストの反撃の手は変わり映えしなかった。
ガードメカと自律砲台、そしてMT部隊の待ち伏せ。
特に苦戦することもなく、ソラは最深部の制御装置へと辿り着き、破壊した。
目障りに輝いていたパトライトが停止し、アラートも止んで、施設が静寂に包まれる。
「リップハンターへ、こちらストレイクロウだ。最深部の制御装置は潰した。あとは可能な限り工場設備を破壊して脱出する」
《こちらリップハンター、敵ACと交戦開始。……D-12"アインハンダー"……ああ、"フィクサー"じゃない。ちゃんと戦場に出る男だったのね、驚きだわ》
「フィクサー?そいつは元Bランカーだ。合流するか?」
《必要ないわよ。今はDランカーでしかないもの。じゃあ、設備はしっかりと破壊するようにね》
フィクサーはソラもアリーナでやり合ったことがある。
Dランクの門番といっていい、元上位ランクのレイヴンだ。
しかし、リップハンターはそんな難敵の増援に焦った様子も無かった。
ソラは念のためレインにリップハンターの戦況を逐一報告するように伝え、フロアのクレーン装置にブレードで斬りかかった。
支柱を超高熱で焼き斬られた巨大な機械が、ソラの眼前でゆっくりと倒れていく。
これでこの工場は長期間閉鎖されて、クレストのMT開発能力は大打撃を受け、市民にも大量の失業者が出ることだろう。
ソラは保ったままの集中の片隅で一瞬そんなことを考えながら、資機材の詰まったコンテナにブレードを振るった。
ボンッ。バチバチ。ギギギ。
レーザーブレードを振り回す度に、工場の悲惨な断末魔がフロアに響き渡る。
傍受した通信が、接近する機影が、クレスト警備部隊の抵抗を伝えてくる。
やがてソラは、最後の力を振り絞ったMT部隊残党も始末して、ズタボロになった工場を後にした。
リップハンターは回収ポイントに先んじて到着しており、ソラに労いの言葉を投げかけてきた。
………
……
…
《やるわね、ストレイクロウ。もう少しかかると思ってたわ。ガルナットはクレストの中でも屈指の大工場だから》
「そっちこそ、あのフィクサーをあっさり仕留めるなんてな。ミラージュ御用達の凄腕なだけはある」
《はぁ……またそういうこと言うのね?まあ、もうはぐらかさなくていいわね。そうよ、私はミラージュ専属。でも、あくまで傭兵よ。別にミラージュ精鋭部隊出身とかそんなお洒落な過去はないわ》
グローバルコーテックスの拠点があるセクション301へ向けて、並んで飛行する2機の輸送機。
ソラは緊急チャンネルを閉じ、通常回線でリップハンターと言葉を交わしていた。
《……フィクサーはくだらない男だったわ。アリーナでずっとルーキーいじめをしていればいいのに、わざわざこんな所に出てきて》
「…………」
《通信でも延々と威勢のいい言葉を吐いて、その癖負けると分かったら言い訳をして逃げようとする。格好の悪い男》
「……生き延びて経験を積み重ねるのも、レイヴンの力だ。前に上位ランカーに、そう言われたことがあった」
《それは向上心があればの話よ。本質的にはもう前を向いてないから、腐って自分から落ちていく。そうして下に見ていたはずの奴らに追いつかれて、追い抜かれて、気づけばどうしようもなくなって死ぬ。何人も見てきたわ、そういう連中は》
リップハンターの言葉は、重たかった。
ソラの恩師であるスパルタンがしみじみと真剣に語る時と、同じ雰囲気があった。
腕っぷし1つで多くの死線と屍を踏み越えてきた者が持つ、独特の重さだ。
《……なんてね。私もあまり人のこと言えないんだけど》
「何でだ?あんたは名声を積み重ねてレイヴンになって、あっという間にD-1まで上がっただろ?」
《そう。いつか管理者に認められてレイヴンになるのが、1つの目標だった。そして念願がかなって、ついにレイヴンになった。アリーナで切磋琢磨して、ガレージで整備班と打ち合わせて、ミラージュはこれまで以上に重要な案件をどんどん任せてくれる。やりがいのある毎日で、とても充実してるわ》
「いいことだ」
《……でもね、これはやり直してるだけよ》
「え?」
通信機から、リップハンターが息を吐く音が聞こえてきた。
《MT乗りとして成り上がっていった頃の充実感を、もう一度味わい直しているだけ。それだけでしかない》
「……よく分からないけど。そう思うのは、ミラージュの依頼ばっか受けてるからじゃないのか?」
《かもしれないわね。だって私は"ミラージュ専属のリップハンター"だもの》
「その現状が不服なら、今からでも変えればいいだけだ。レイヴンになったことを理由に、もうミラージュから適当に距離を置けばいい」
《できないわ。もう、そうなってしまっているから。もうそういう存在として世界の枠組みの中に、自分を置いてしまった。だから私は結局、あの格好の悪いフィクサーと同じ》
自分は一体、この傭兵と何の話をしているんだろう。
ソラは通信機に耳を傾ける自分自身を、背中の後ろから見つめてそう思った。
「さっきから何が言いたいんだよ、あんたは。そんな話を俺にして、何の意味がある?」
《……意味なら、あなたにもいつか分かるわ。だって、あなたは高く飛んでいるから。戦場で見かける度に腕を上げている。だから、いつかきっと分かる》
「だから何を言って……」
《ねえ、ミラージュはどうしてユニオンを切ったと思う?》
突然の問いかけに、ソラは思わず息を止めた。
そして、リップハンターの次の言葉に備えた。
しかし、彼女はそれ以上何も言おうとしなかった。
ソラはもやもやした気分を抱えたまま、帰還した。
作中ではこんな扱いになりましたが、フィクサーはとても良いレイヴンです。
マルチミサイルと地上魚雷にハンドガンを組み合わせるコンセプトで、アリーナの登竜門をやっているのは結構渋いなと思います。
重EOをもっと活用するロジックだったらより強かったはず。