ARMORED CORE 3 Replay ~ Stray Crow~ 作:神父三号
四脚の空中での挙動が面白そうなのと、タンクがどこか軽快な動きをしていたのが個人的な注目ポイントでした。あとマルチプルパルスの実弾版みたいなのと主人公の識別名がレイヴンなところと壁越えさんのかっこいい軽量機とそれとそれと……
前回登場しなかったあのランカーが登場。それとフロート脚部で防衛任務です。
ゲーム本編だとキサラギの依頼ですが、クレストの依頼に改変しています。
今回はレーザーライフルとブレード装備です。
フレーバー程度ですので、武器と脚部以外は一切気にしなくても大丈夫です。
右腕部武装:MWG-XCB/75(75発レーザーライフル)
左腕部武装:CLB-LS-2551(緑ブレード)
右肩部武装:MRL-RE/111(多機能型肩レーダー)
左肩部武装:CWM-S60-10(10連小型ミサイル)
エクステンション:MWEM-R/24(2発発射連動ミサイル)
頭部:CHD-02-TIE
コア:CCM-00-STO
腕部:CAL-MARTE
脚部:MLR-SS/REM
ジェネレーター:CGP-ROZ
ラジエーター:RMR-SA77
ブースタ:脚部に内蔵
FCS:AOX-F/ST-6
オプショナルパーツ:OP-S-SCR(実弾防御上昇)、OP-E/SCR(EN防御上昇)、OP-E/CND(ジェネ容量増設)、OP-L-AXL(ロックオン時間短縮)、SP/E++(EN武器威力上昇)
コーテックス本社ビル18階のカフェテリアで、レジーナと一服した後のことだった。
エレベーターホールの方へと去っていった赤毛の少女を見送り、ソラは娯楽施設の通路を引き返した。
特に行き先や待ち合わせがある訳ではない。
ただ、何となくだった。
何となく1人でいる時間が欲しかった。
「コーテックスの"新体制"、か……」
ソラが俯き気味に歩いていても、すれ違う歩行者はいない。
娯楽施設に人通りはなく、営業している店舗もごく僅かだった。
新体制の移行に伴い、大幅な人事異動が実施されるためだろうか。
少なくとも、アリーナやレイヴン試験に関わっていた職員は配置転換を余儀なくされるに違いない。
もしかしたら自分の専属補佐官も、レインから別の担当者に変わるかもしれない。
専属の整備班も、メンバーが入れ替わる可能性もある。
明日からどうなるのか。自分を取り巻く環境は、どの程度変わるのだろうか。
そんなことを考えながら店で飲んだコーヒーは、よく味も分からなかった。
レジーナもそれは同様らしく、人を得意げに誘ってきた割に普段のような活気はなく、何か物思いにふけるように窓の外を眺めてはため息をついていた。
「……ん。こいつは……この階にもあるのか」
無意識に足を動かし続けてたどり着いた広場。
そこでソラは視線を上げ、独り呟いた。
広場の中央には、見覚えのある巨大モニュメントが飾られていた。
以前ファナティックと出会った場所にもあった、天井まで届く銀色の芸術的なオブジェだ。
幾何学的な図形を一件無秩序に組み合わせて形作られたそれは、通路のガラス張りから差し込む偽物の空の淡い陽光に照らされ、ぼんやりとした輝きを放ち続けている。
ふと気になり、ソラはそのモニュメントの傍近くへと歩み寄っていった。
備え付けられたプレートに、作品の名が刻まれている。
『管理者の威光』
ソラはもう一度、視線を上げた。
モニュメントは、得体のしれない不気味さを纏っている。
ずっと見つめていると、不思議な感覚が広がっていく。
あの時と同じだ。どこか見透かされるような、銀色の輝きの中に引きずり込まれるような、あるいは、胸がざわめくような――
「あまり見つめるな。呑まれるぞ」
不意に背中にかけられた声に、ソラは驚いて振り返った。
背の曲がった白髪の老人が、ベンチに座って杖に体重を預けていた。
「儂が若かった頃から、ずっとある物だ。誰が作ったのかは知らんが、悪趣味な作品だ」
レイヴンだと、ソラの直感が告げた。
落ち着き払った口調と裏腹に、その眼差しにはただならぬ威圧感がある。
獲物を品定めするような、猛禽のごとき瞳だ。
加齢でしわくちゃになって窪んだ目元に似つかわしくない、煌々と輝く眼光。
それが発する鋭さは、多くの人の死を力づくで踏み越えてきた者が持つものだった。
「……あんたは?」
「不勉強だな、若造。儂を知らんのか」
「あいにく、顔見て名前が分かるような超能力は持ってない。……ただ、レイヴンだってのは分かる」
「ならば、勘で当ててみればどうだ?知ってる名前を適当に言えば、当たるかもしれんぞ」
老人は首を軽くかしげて口角を吊り上げた。
たったそれだけのしぐさで、威圧がさらにぐっと強まったように感じる。
その老人と向かい合うこのひと時は、ロイヤルミストと初めて睨み合った時をソラに彷彿とさせた。
類稀な強者と相対した時の、纏う雰囲気に気圧されるような感覚だ。
「……A-2ランカーの"BB"」
「フフフ……ハハハ。やればできるじゃないか。C-1ストレイクロウ」
肩を小さく揺らして老人は、ソラを機体名で呼んで満足げに笑った。
A-2ランカー"BB"。
かつて、レインに聞いたことがあった。
ロイヤルミストと共にアリーナを仕切る、レイヴンの宿老だと。
「あんたはどうして俺を知ってる?」
「知らないわけがあると思うか?アリーナが機能不全に陥り始めてからも、お前のマッチだけは正常に組まれ続けた。協働したカイザーやグナーからも、活躍は聞いている。近いうちにBランクに上がってくると思っていた。その前に、アリーナは止まってしまったがな」
「……そりゃどうも」
「座りなさい」
穏やかな言葉だが、それは命令に等しかった。
ソラは大人しく、BBの隣に腰掛けた。
BBはソラに杖を預け、懷から何かのカプセル薬剤を取り出して、喉に流し込んだ。
「非常招集に来てなかったな、あんた。何でだ」
「……我々Aランカーには、新体制に関する話は予め通達されていた。アリーナとレイヴン試験の停止、依頼仲介の続行。不愉快な話を繰り返し聞くだけだというに、わざわざあんな大げさな場所に集まる気になどなれん」
「エースもロイヤルミストも来てたぞ」
「ならばなおのこと、儂は必要あるまい。もうアリーナの仕切りは、カイザーに大半を引き継いであるのだ。レイヴン達の動揺を抑えるのも、トップランカーであるアルカディアが適任だろう?」
「隠居してるってことか?それで、非常招集の日もこんな広場でボーっとしてたって?レイヴンの頂点のAランカーじゃないのかよ、あんた」
「ハハハ……中々言いたいことを言ってくれるな、若造。お前も、こんな日に娯楽施設にいるくせにな」
ソラが杖を返すと、BBは杖の先で床をトンと突いた。
「……コア構想を取り入れた次世代型MT"アーマードコア"。それが生まれ、"グローバルコーテックス"が結成されて数十年。儂はミラージュのMT乗りからレイヴンの第1期生として管理者に選ばれ、ずっと戦い続けてきた。もうあの頃のレイヴンは、儂しか生き残っておらん」
「……急になんだよ」
「ずっと向こう見ずにやってきた。報酬額のみで受ける依頼を決め、あらゆる者を踏み潰し、蹴落とし、時には苦い敗北を味わい、大怪我をして病院に叩き込まれ、だがまた復帰し、そんなことを繰り返しては繰り返し、やがて大きな力と名声を得ていった。まさにレイヴンらしく、ひたすら高みへと飛び上がる日々だった。……儂は特に、アリーナが好きでな。同じレイヴン達と鎬を削り合う高揚と興奮、勝利した時の感動と優越感はそれは格別なものだった」
「…………」
「数多の戦いを勝ち抜き、ついにトップランカーとなった日の喜びは、今でも忘れられん。5年前……アルカディアの若造に蹴落とされた日の屈辱もな。そうしてカイザーまでもが足元に駆け上がってきた時、儂はとうとうアリーナに秩序を敷くことを決めた」
「知ってるよ、八百長だろ」
「違うな。力あるレイヴンの選別と管理だ」
「元BランカーのフィクサーにDランクの門番をさせたり、ロイヤルミストに脅迫メールを出させていたことがか?」
「結果的に、気骨と実力のあるものしかアリーナを上ってこれなくなった。そぐわない者が、身の丈に合わない高みに上がることを防いだ。高く飛ぶレイヴン達が、高く飛び続けられる環境を作った」
「ものは言いようだな。そこまでして執着する価値があるのかよ、上位ランカーってのは」
「あるとも」
BBは言いきった。
「アリーナのランクはレイヴンにとって、自分が高く飛んでいる名誉の証だ。違うか?」
「…………」
「儂はどんな手段を使っても、人生をかけて勝ち取ったAランカーの称号を守り抜きたかった。アリーナというレイヴンが最も輝く舞台で、その頂点で飛び続けていたかった」
「……じゃあロイヤルミストとあんた、戦ったらどっちが勝つ?」
「本気でやり合えば十中八九、カイザーだろう。だが、あれは存外、目上を立てる男でな。……そういうことだ」
「恥ずかしい爺さんだな、あんたは」
「ハハハ、間違いない。失望したか?儂のような男が、A-2であることに」
「失望した。けど、心のどこかでもうそれでもいいかって思ってる自分もいる」
「だろうな。儂も、今日出会ったばかりのお前にこんな惨めな話をするとは思っていなかった」
2人はしばし沈黙した。
ベンチに並んで座ったまま、広場の中央の『管理者の威光』をぼんやりと眺め続けていた。
「……アリーナが止まったから」
「そうだ。管理者から送られてきたあのメールを、儂はお前たちに先立ってコーテックス上層部に見せられた。無感情で、無機質で、無慈悲な文面だった。管理者め、儂が長年かけて積み上げてきたものを、一体何だと思っている?」
歴戦の古強者は、腹の底から呻くようにして声を発した。
鋭い眼光は、眼前のモニュメントをまるで仇のように睨みつけていた。
この老人にとって、管理者があらゆる管理を停止したことが、そしてコーテックスが"新体制"への移行を決定したことが、どれだけ腹立たしく、自分の人生を否定されるようなものであったか。
すぐ傍で震える肩が、ソラにそれをはっきりと物語っていた。
「……別にアリーナだけがレイヴンの全てじゃないだろ」
「お前のような若造にとってはな。困難な依頼に臨み、名声と経験を得る。それもまた、レイヴンとして高く飛ぶということだ」
「あんたはもう依頼を受けてないのか?」
「依頼とも呼べないような依頼を回してもらって、機械的にこなすだけだ。アリーナの出場権を失わないように」
「……やっぱり恥ずかしいよ、あんた。聞いてて、悲しくなる」
「ハハハ、そうか、そうか……お前は非常招集に出たのだろう?アルカディアの若造はどうだった?」
「立派な人だったよ。俺達に戦おうって、高く飛ぼうって言ってくれた」
「カイザーは?」
「怒ってた。あんたみたく、管理者の無茶苦茶なメールに。だけど、これで終わりだとは思ってなさそうだった。前を向いていた」
「……さすがだ。2人ともそれでこそ、Aランカーだ」
BBはどこか羨ましそうに、あるいは憧れるように、ポツリとそう呟いた。
「……いい機会だろ。あんたはもう引退すればいいんじゃないのか」
「それはできん」
「生き甲斐だったアリーナが無くなって、まだ何かしがみつくものがあるのかよ」
「ある。まだしがみつくべきものが」
老人はベンチから立ち上がった。
しかしその背は、真っ直ぐに胸を張って伸びていた。
「レイヴンとして生きた証を、儂はまだ残していない」
しっかりとした足取りで杖を突かず、BBは広場を去っていった。
鋭さを保った眼差しとは真逆に、BBの背中は小さかった。
かつてはとても大きかったのかもしれない。
だが今となってはそれは、小さく縮んだ背中だった。
ソラはその背中が通路の曲がり角に消えていくのを、ただ黙って見ていた。
………
……
…
―――――――――――――――――――――――――――――――――
セクション714にある我がクレストの水浄化施設群が例の所属不明部隊の襲撃を受け、次々に破壊されています。
すでに多くの施設が攻撃を受けて大破しており、これ以上の損害を出せば、多数の市民の生活のみならず、レイヤードにおけるクレストの地位にも影響を与えかねません。
まだ襲撃を受けていない施設には、護衛部隊の配備を進めていますが、我が社の戦力だけでは到底手が回りきらないのが実情です。
そこで、レイヴンの出番というわけです。
水浄化施設のうち、特に大規模な主要施設の防衛をお願いします。
なお、所属不明部隊は通常では考えられないほどの高性能MTによって構成されている上、海上と陸地の両方から攻撃をしかけています。
貴方のような実力あるレイヴンといえど単機では苦戦は免れないでしょう。
僚機が務まるであろうレイヴン達をピックアップしたため、そちらの判断で同行させてください。
では、よろしくお願いします。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
《依頼主はクレスト社。作戦区域は第一層自然区セクション714のアビア湾沿岸部に存在する、水浄化施設となっています。成功報酬は48,000C。敵戦力はカバルリー及びスクータム。いずれも通常の仕様とは異なる高性能タイプと報告されています》
「メッセージの書き方からして、まず間違いなくユニオン防衛に乱入してきた管理者の"実働部隊"だな……管理者崇拝意識の強いクレストの重要施設でも、お構いなしか」
《はい。管理者の部隊が企業や市民を無差別に攻撃しているのは各地の被害で明らかです。クレストといえど、決して例外ではないようですね。それでも、まさか水浄化施設を狙うなんて……》
オペレーターのレインが言葉を詰まらせた。
アビア湾の水浄化施設といえば、莫大な海水を生活用水に変換する、レイヤード市民にとっての最重要施設の1つだ。
被害が出れば市民生活への悪影響が計り知れないものになるため、企業同士の経済戦争でも標的とされることがない場所である。
こんな場所に攻め込むのは、よほどのアナーキストか破滅主義者くらいのもの、と言っていい場所だった。
もっとも、ソラは環境保護団体"グリーンウィッチ"のビルバオに依頼されて襲撃したことがあるが、それにしても施設そのものの破壊が目的ではなかった。
そんな施設を、よりにもよって管理者の部隊と思しき勢力が攻撃するとは。
とはいえ、直近でもバレルダムが襲撃された前例がある。
レイヤード市民の生活を大きく脅かす暴挙を実働部隊が行うのは、これが初めてではないのだ。
「だけど、俺は過去2回の大規模戦闘でユニオン側についてクレストと敵対した。クレストからすれば、相当心象が悪いはずだ。そんな俺に依頼を回してくるなんてな」
《実働部隊の襲撃活動は同時多発的に行われています。都市区を直接狙ったような攻撃も見られる上、他の重要施設の防衛依頼もコーテックスには入っていました。遂行率の高いレイヴンを確保するためにはなりふり構っていられない、ということでしょうね……》
「今後はあのイカれた性能の連中をしょっちゅう相手にしていくのかと思うと、ゾっとするな」
《……ええ》
ソラはこれまで以上の困難が予測される今後の活動を想い、大きくため息をついた。
不幸中の幸いは、グローバルコーテックス新体制の影響が、ソラ自身に対しては最小限で済んだことだ。
専属補佐官はレインのままであり、ACを任せる整備班も気心の知れたメンバーがそのまま続投することになっている。
レイヴンとして活動していくための環境は、ありがたいことにこれまでと変わらない。
あとは、この厳しい現状に順応していくだけだ。
「……依頼を受ける。レイン、僚機のリストを」
《了解です。DとEランクのレイヴンが選抜されていますが……》
レインから送信されてきたリストを眺めるソラ。
知らない名前ばかりだった。
だが、海上と陸地の両方に対処することを考えれば、僚機はフロート乗りのレイヴンが適任に思える。
以前依頼に付き合わされたビルバオの緊張感のない声が一瞬頭をよぎったが、当然のようにクレストの上げてきたリストにはない。
水浄化施設を襲撃した前科があるため、除外されたのだろう。
となれば、可能な限り高いランクのレイヴンを選ぶべきだった。
「……D-8のアスターに協働要請をしてくれ」
《分かりました。レイヴンはガレージにて待機をお願いします。すぐに輸送機の手配をしますので》
「頼む」
フェーズ3。
あの時、"雨"と"雷"の中で聞いた言葉。
やはりあれは、管理者の発した言葉だったと、ソラは心のどこかで確信していた。
なぜそれを自分に告げたのかは分からない。
だが、地下世界はあの宣言の通りに、新たな段階に進もうとしていた。
ついに明確に牙を剥き始めた、管理者の部隊。
その目的も分からないまま、今はただ、戦うしかなかった。
………
……
…
第一層自然区セクション714。時刻は18時25分。
その空はユニオン防衛の時とは違い、雨粒1つ降っていなかった。
ただいつもと同じ、傾く人工太陽で薄明るく照らされた偽物の曇り空が広がっているだけだ。
《作戦領域到達まで、距離2000です。レイヴン、降下準備をお願いします》
「分かった。レイン、強化型カバルリーの超長距離射撃が来る可能性がある。降下は1500でやる。輸送機は投下後に旋回。作戦領域から出来るだけ距離を取らせてくれ」
《了解しました》
「……"メガラオ"、いけるか?」
各計器の最終確認をしつつ、ソラは愛機ストレイクロウのコクピットから僚機へと呼びかけた。
《こちらアスター。AC"メガラオ"だ。問題無し。だが……》
「どうした?」
《俺は管理者の"実働部隊"と交戦したことがない。通常とは違う高性能とは聞いている。今回の敵はカバルリーとスクータムらしいが、実際どの程度なんだ?》
「カバルリーは超高出力レーザー。スクータムはバズーカが3点バーストになってる。あと、機動性がそれぞれ倍以上ってところか」
《何だって……そんな化物共とやり合うのか》
「メガラオ、さっきクレストから通信があった。カバルリーは海上を移動、スクータムは陸地を移動して作戦領域に向かってきてるらしい……あんたの方が俺よりランクは下だ。どっちを相手する方が良いか、選んでくれ」
我ながらランクを笠に着たような無礼な物言いだとソラは思った。
だが、C-1の自分とD-8の僚機ではやはり、考慮せざるをえない実力差がある。
それに、今回のアセンブリはストレイクロウもフロート脚部"SS/REM"を採用してきている。
陸戦も海戦も対応は可能だ。
ならば、出来るだけ下位ランクのメガラオが自信を持って挑めるような状況を整えてやるべきだと考えていた。
《……海上だ。アビア湾での任務は、これが初めてじゃない。フロートの機動性が制限無く活かせる分、海上の方が俺には都合がいい》
「分かった。じゃあ、海上のカバルリーは任せるぞ。施設に接近されないよう、かなり手前で撃破してくれ」
《了解した……お互い、生き残ろう》
「……ああ。よろしく頼むぜ」
メガラオのレイヴン"アスター"は、ソラと同じくらいの年頃の青年に思えた。
だが、ソラより遥かに緊張しているようで、声が少し震えている。
仕方がないことだ。
グローバルコーテックスの非常招集でも今回の依頼メッセージでも散々実働部隊の猛威を聞かされて、ここに来ているのだ。
しかし、レイヴンとして依頼を受けて戦場にやってきた以上は全力で戦ってもらうしかない。
《作戦領域まで距離1500!レイヴン、降下してください!》
「よし、ストレイクロウ出るぞ!」
《メガラオもだ!発進する!》
2機のフロートACが自然区の荒れ地に舞い降り、そして内蔵ブースタを吹かして水浄化施設とアビア湾へ近づいていった。
浄化施設の周囲では数機の戦闘機が絶え間なく旋回し、普及型の戦闘MT達が落ち着かない様子でバタバタと脚部を動かしている。
《れ、レイヴン達か!?よく来てくれた!》
「施設の管制室だな?状況は?」
《すぐ東の浄化施設ともついに連絡が取れなくなった!襲撃を受けたという報告があって10分と経たずだ。お、おそらくこちらにもじきにやってくる……!》
「……了解。メガラオ、浜辺から海に出ろ。気をつけろよ、奴らは普通のカバルリーよりも遥かに射程が長い」
《分かっている。……最善を尽くす》
「その意気だ。……管制室!配備されている防衛戦力の内訳を教えてくれ」
《スクータムが10、エピオルニスが15、航空戦力がおよそ20だ》
海面を滑っていく僚機の青いフロートを視界の端に捉えながら、ソラは管制室と情報を共有した。
以前ソラが襲撃した時よりは戦力が充実しているのは幸いだった。
《レイヴン、少しよろしいか。私はこの施設の施設長だ。……知っての通り水浄化施設群は企業戦争の戦火に晒されることなくやってきた施設だ。駐屯部隊の練度はあてにできないと思ってほしい。さらにクレスト本社の派遣した救援部隊も既にそのほとんどが撃破され、すぐそこまで正体不明部隊が来ている。もう周辺の関連施設群は軒並み破壊されてしまった。我々にとっては、ここが最後の砦だ。……恥を偲んで頼むが、レイヴンに部隊の指揮を頼みたい》
施設長からの通信は、声が震えていた。
僚機のメガラオと同じだ。
MT部隊も、動きの落ち着きのなさから怯えが目に見えて伝わってくる。
この場で最も戦闘の経験値が高いのは、C-1ランカーであるソラだった。
「……了解した。なら指示を出すからその通りにしてくれ。まず前提として、敵高性能MTは通常戦力じゃ歯が立たない。駐屯部隊は、あくまで施設防衛とACの支援に集中してほしい」
ソラは通信機に向けて言葉を発しながら、コクピットコンソールを叩いて、肩の多機能型レーダーの表示範囲を最大に設定した。
幸いながら、まだ敵影は現れていない。
「スクータム、エピオルニスは全機、地上から迫る敵に対応。最前線の俺が撃ち漏らした敵機の足止めだ。無理に狙って当てる必要はない。ただ撃ちまくれ。航空戦力は5機が施設の東方……先に襲撃された近隣施設の方面を偵察、敵地上部隊の接近を知らせるように。……あとの航空戦力は海側の偵察と援護だ。メガラオに敵の攻撃が集中しすぎないように、周辺を飛び回ってとりあえずミサイルなりロケットなりをばら撒いてくれ」
《承知した。部隊は全てレイヴンの指示通りに動かす。……この施設までもが破壊されれば、都市区の市民は干上がってしまう。絶対に守り抜いてほしい》
「……了解」
ソラの指示通りにクレストのMT部隊が忙しなく防衛ラインを形成し始め、待機していた戦闘機や戦闘ヘリも次々に空へと上がり始めた。
作戦領域内しか捕捉しきれないレーダーよりも、上空からの報告の方が正確で早い。
ソラはストレイクロウを浄化施設近くの高台に上げ、頭部カメラをセクションの東方に向けた。
海の発する波の音を聞きながら、ソラはじっと待ち構えた。
人工太陽がさらに傾き始め、明るく照り輝いていた薄雲がどんよりと暗みを帯び始める。
ACの機体各部に装備された投光器をつけた。
波の音が、止んだ気がした。
《イーグル1よりレイヴンへ!地上部隊の接近を捕捉!スクータムが15!は、速すぎる……あれが普及型MTの速度なのか!?》
《こちらホーク3!海上からもカバルリーが接近!数は約10機……っ!?うぁぁっ、こんな距離から砲撃!?》
「来たか…メガラオ!」
《施設からできるだけ離れて交戦する!航空部隊は全機続け!》
「MT部隊は防衛ラインを維持だ!射程に入った敵だけに砲撃しろよ!……行くぞ!」
気炎を吐き、ソラは操縦桿横のレバーを引き上げた。
コアから高出力の大型ブースタがせり上がり、一気に機体を加速させて、荒野を疾走する。
上空で小さな爆発が起きた。
どうやら先ほど報告を入れてきた偵察機が、撃ち落とされたらしい。
薄暮の暗がりの先で、スクータム達のカメラアイが妖しく赤い輝きを放っていた。
最大範囲のレーダー表示に、敵影が一気に移り始める。
2機、4機、6機――そこでソラは数えるのをやめた。
「かかってこい、実働部隊共!」
ソラはオーバードブーストを止め、莫大な慣性でフロート脚部を滑らせながら、先頭のスクータムに向けて右手のトリガーを引き絞った。
携行武装としては比較的長射程を誇る試作型レーザーライフルが甲高い射撃音と共に、熱線を撃ち出す。
強化オプションによって出力が増強された青白いレーザーは、最初の敵機の胸部装甲を容易く貫いて、爆散させた。
まだ敵の反撃はない。バーストバズーカは、瞬間火力こそ高いものの、射程が長いわけではないらしかった。
「っ!」
撃破されたスクータムから噴き上がる爆煙を回り込むようにして、残りのスクータム達が疾走してくる。
やはり速い。まだ600はあったはずの距離を瞬く間に詰めてくる。
だが、まだ撃ってこない。
歯を食いしばり、ソラはロックサイトを睨みつけながら、3度トリガーを引いた。
1発躱されたが、2発は命中し、1機が沈黙。もう1機は脚に被弾したようで、倒れ込んでそのまま後続を巻き込みながら爆発した。
距離450。前衛の敵は7。さらに後ろに5。
ソラはフットペダルを踏み締め、フロートを素早く滑走させた。
直前までストレイクロウがいた場所に十数発のバズーカ砲弾が着弾して大爆発を起こす。
躱せたと安堵している暇などない。
高出力なフロートの内蔵ブースタで絶え間なく機動しながら、ソラは何度もレーザーライフルを放った。
回避行動を見せたスクータムは僅か3機。残りは全てACの砲撃を無視するように、まとまって浄化施設へと向かおうとする。
「MT部隊撃て!当てなくていい!足を止めろ!!」
吠えたソラに呼応し、防衛ラインを敷いていたMT部隊25機が一斉に発砲し始めた。
バズーカ、ガトリング、ミサイル。
大量の弾幕がまるで無秩序に降り注ぎ、ストレイクロウにも流れ弾が命中する。
だが激しい迎撃は功を奏し、実働部隊の侵攻速度を大幅に鈍らせた。
ソラは動きの止まった敵機を横合いから1機、2機、3機と確実に片づけていった。
そのまま殲滅――というわけにはいかず、実働部隊の高性能スクータムは素早く散り散りに散開し、大きく弧を描くように防衛ラインを左右から回り込もうとし始めた。
右に4、左に5。
《レイヴンどうすればいい!?》
「左の5機に撃ちまくれ!」
一瞬の判断で叫ぶように指示を出し、ソラは右方の部隊を追った。
2機のスクータムが高速移動しながらも器用に上半身をひねり、ストレイクロウにバズーカとシールドを向ける。
ソラは空気をかっ食らうように息を吸い込み、肩部ミサイルと連動ミサイルを起こした。
大量の大口径砲弾が飛来する。躱す余裕はない。被弾で揺れるモニター。
お返しにと、マルチロックをかけたミサイル群を放った。
殺到する誘導弾がスクータムを2機まとめて吹き飛ばす。
右は残り2。先頭の機体が、前方にバズーカを向けた。
施設狙いだ。オーバードブーストとフロートの内蔵ブースタを同時に起動。
放たれた矢のような速度でストレイクロウは2機の敵に突っ込んだ。
フロート脚部"SS/REM"の尖った先端で1機を後ろから乱暴に轢き飛ばし、そのままギャリギャリと引きずりながら、今にもバズーカを放たんとするもう1機のスクータムの、その砲身をレーザーで撃ち抜いた。
右腕ごと大爆発を起こして倒れ伏すMT。
轢き潰したスクータムが、ギギギと振り向いてバズーカを向けてくる。
「消えろ!」
左腕のレーザーブレードを振り抜いて、両断した。
だがまだだ、まだ終わっていない。
「MT部隊!左はあと何機残ってる!?」
《残り4だ!なんとかもちこたえ……いやダメだっ、相手にならない!レイヴン早く来てくれえっ!!》
絶叫のような通信を聞きながら、激しい爆発が連続している左方の戦場に、ソラは脚部を向けた。
しかし。
《……く、しょうっ……ここまでかっ!!ぐわぁぁあぁっ!!!!》
断末魔が通信機から響き渡った。
「レイン、状況は!?」
《メガラオ撃破されました!航空戦力も被害甚大です!カバルリーは……残り4!》
超高出力のレーザーキャノンを有するカバルリーが、まだ4機も。
メガラオはよく数を減らしたが、施設の防衛はこれでほぼ絶望的になった。
今から地上のスクータムをどれだけ素早く片づけても、高速移動と長距離射撃を兼ね備えた実働部隊のカバルリーの迎撃にはほぼ間に合わない。
この最後の水浄化施設は青白い極太の熱線に焼き消され、大爆発を起こしてレイヤード市民の生活を脅かすことだろう。
ここまでか。作戦は、失敗――
ソラがトリガーを握る手を無意識に緩めたその時。
《こちらビルバオ!AC"グリーンウィッチ"です!救援に参りました!》
「!?ビルバ……何でお前が!?」
《ソラさん、海上の敵は私が食い止めます!今の内に!》
突如現れた予期せぬ援軍に混乱したのも一瞬、ソラはすぐに頭を切り替えた。
オーバードブーストで一気に残りの地上部隊の元に向かう。
防衛ラインは激しい応酬によって、もはやズタズタだった。
動いているMTより、物言わぬ鉄塊になったMTの方が見るからに多いくらいだ。
だが、ギリギリ踏みとどまっていた。
実働部隊のスクータム4機を相手に必死に応戦し、なんとか施設への攻撃をすんでのところで食い止めている。
《レイヴン、来てくれたか!》
「よく守った!あとは任せろ!」
彼らの奮戦に応えなければ、最強の機動兵器と渡り鴉の名が泣く。
ソラはACの肩からミサイルをぶっ放した。
敵のスクータム達は時速300㎞に迫る機動力と急制動の連発でミサイル群をすり抜け、MT部隊の残骸を蹴飛ばしながら一斉にストレイクロウへと向かってくる。
先ほどの右の4機より明らかに動きの質が良かった。
1機だけ、ブレードアンテナのような物を頭部に装着した機体がいる。
指揮官機だろうか。動きが良い原因は、こいつか。
3点バーストが間断なく轟く。被弾が相次ぎ、APがガンガン削れていく。
だが、ACがMTに負けるはずがない。負けてたまるか。
ソラは揺れるモニターのロックサイトに意識を集中し、指揮官機と思しき機体に狙いを澄ました。
ストレイクロウが突き出した試作型レーザーライフルがビィっと甲高い音を上げ、熱線を放つ。
射撃は寸分違わず、指揮官機の顔面をぶち抜いた――
………
……
…
15分後。
ソラのストレイクロウは、海岸近くの高台に佇んでいた。
隣では、緑色のフロートACが機体の各所から火花を噴き上げながら接地している。
ソラにとっては因縁ある環境活動家のEランカー"ビルバオ"のAC"グリーンウィッチ"だった。
《はぁ……さすがは管理者様の直属部隊、とんでもない相手でしたね。まさかMTたったの4機相手に、私のグリーンウィッチが……》
「ビルバオ……どうしてあんたがここに?クレストの依頼か?」
《いいえ。隣のセクション715のリゾートで出資者の方達とささやかなパーティを催していたのですが、水浄化施設群が攻撃を受けていると小耳に挟んで、つい居ても立っても居られなくなってしまいまして……》
「パーティって、このご時世になにやってんだ……いや、というかレイヴンってそういうもんじゃないだろ。依頼も無しに戦場に乗り込んでくるなんてよ」
《ふふ、そうですね。ですが、来てよかったと思います。この水浄化施設は、レイヤード市民の宝。環境保護の観点から、欠かすことのできない施設ですから》
防衛が成功した浄化施設周辺では、大打撃を負った駐屯部隊員達の救出・救護活動が慌ただしく行われていた。
人工太陽が沈んだ夜の海はとても黒く不気味で、波の音もどこか不安を煽ってくるように感じた。
そんな中にあって、ビルバオは以前と変わらず、超然としているというか異常にマイペースというか、ソラを不思議な気分にさせる存在だった。
「……まあ、いいや。色々言いたいことはあるけど、今はとにかく礼を言わせてくれ。あんたが来てくれたおかげで、依頼は無事成功した。施設の防衛は、何とかなった。……ありがとう」
《お礼なんて構いませんよ。我々環境保護団体"グリーンウィッチ"は、レイヤードの環境を守るのが使命なのですから。……多くの施設は破壊されてしまったようですが、ここだけでも守りきれて、本当に良かったです》
「……ボロボロになったACの修理費は、オペレーターを通して俺に請求してくれ。そのくらいはさせて貰うつもりだ」
《そんなことよりもソラさん……その素敵なレーザーライフルといい、今回の防衛任務といい、あなたはやはり環境のことを大切に思ってくれていたのですね……ぐすっ、う、う……》
通信機の向こうで、ビルバオが突如涙ぐみ始めた。
「えっ!?い、いや別に俺は……!なんていうか管理者の部隊に好き勝手されるのが嫌なだっただけで、別に環境がどうとか、それにこのレーザーライフルは一撃で確実に仕留められる手持ちの長射程武装としてだな」
《ぐすっ……ふふふ、分かっていますよ。ソラさんがとてもお優しい方なのは。また私の団体の会報をお送りしますね》
「……いらないですが」
《まあそう言わずに。ふふふ……》
「……またコーテックス本社に通報するぞ」
《まあ、それは困りましたね……では、また何かEN兵器をお送りしましょうか?そうですね……パルスキャノンなどどうでしょうか?》
「いらねえって!これ以上妙な恩を着せてくれるな!」
2人のやりとりをじっと聞いていたレインが、声を殺して少しだけ笑った。
ソラはペースを乱されながらも、今日も困難な依頼をこなしたという達成感と、管理者の実働部隊を退けた勝利の余韻に浸るのだった。
寄せては返す波の音は、いつしか心地よい物に変わっていた。
そうしてソラとビルバオは他愛ないやりとりを繰り返し、夜の海を見つめながら、輸送機の回収を待った。
その見つめる海の、遥か沖合。
静かな波の下で黒い海をさらにどす黒く染めている影の存在に、気づかないまま。
………
……
…
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FROM:レイン・マイヤーズ
TITLE:緊急連絡
依頼終了直後でお疲れのところ、申し訳ありません。
緊急の連絡事項が2点あります。
まず1点目ですが、先ほどの防衛作戦が終了し、レイヴンがコーテックスに帰還した直後、水浄化施設が突如消滅したそうです。
施設の駐屯部隊は念のため周辺に偵察機を出していたそうですが、まとまった数の敵増援も特に確認されないまま、施設が完全に破壊されたという報告を受けています。
管制室からの最後の通信によれば、海中から何らかの攻撃を受けたようですが、詳細は不明です。
また今回の被害により、第一都市区及び第二都市区、中でも特にクレスト管轄セクションへの生活用水の供給量が大幅に低下する見込みです。
各地で続く管理者の部隊の襲撃によって都市区での支援活動も厳しく、多数の市民の生活が危ぶまれています。
2点目です。
水浄化施設の消滅とほぼ時を同じくして、産業区のキサラギ本社が管理者の大部隊に襲撃されました。
この襲撃によって本社機能は壊滅し、多数の社員や派遣されたレイヴンが死亡、キサラギ代表の生死も不明であるとコーテックスには情報が入っています。
これは私見ですが、防衛部隊の一部が戦闘中に現場を放棄して撤退したそうですから、おそらく代表は彼らに保護されたものと思われます。
現在は情報が錯綜しており、正確な状況はつかめていませんが、以前クレストのルグレン研究所に現れた未登録機体の同型機と思しきACも確認されたようです。
このたった一夜の間に、クレストもキサラギも致命的と言えるほどの大きな被害を受けています。
これは、今後の彼らの動向にも深く関わってくるでしょう。
しかし、管理者が急にこれほどの攻勢を始めたのは、一体どうしてでしょうか?
企業が、いえ、私達レイヤード市民が、何か管理者の逆鱗に触れるようなことをしたのでしょうか?
それとも一連の襲撃には管理者なりの、何か深い理由があるのでしょうか?
レイヤードは一体どうなってしまうのでしょうか?
私にはまったく、見当もつきません。
今はただ事態を見守り、依頼を待つしかない状況です。
夜中に失礼しました。
レイヴンは休める内に、しっかりと休んでください。
おやすみなさい。
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このペースだと多分6発売までに終わらない気がします。
でも6が発売されても最後まで書きますので、よろしくお願いします。
反省文
当初のプロットでは前回の非常招集でBBを顔見せする予定でしたが、筆の勢いに任せて書いてる内に出すのを忘れてしまって、投稿後に感想のご指摘を見て気づきました。
ご指摘ありがとうございました。すいませんでした。でもAランカー3人もあの場にいたらごちゃつくし、これはこれで結果オーライだったんじゃないかと思ったり……。